

固形分測定で「105℃・60分」以外の温度を使うと、同じ塗料でも数値が最大4%ずれて合否判定が逆転します。
固形分測定の正式な規格は「JIS K5601-1-2:2008 塗料成分試験方法−第1部:通則−第2節:加熱残分」です。この規格は、塗料・ワニス・塗料用バインダ・ポリマーディスパージョン・液状フェノール樹脂について、規定条件下で蒸発によって得られる残さの質量分率(つまり固形分の割合)を求める方法を定めています。
「固形分」という言葉は現場でよく使われますが、正確には「加熱残分(non-volatile matter content)」と呼ばれ、揮発分が飛んだ後に残る成分のことです。建築の塗料・防水材に置き換えると、乾燥後に塗膜として残る樹脂・顔料・添加剤の割合がこれに当たります。
この規格はISO 3251:2003をベースに技術的内容を変更して作成されており、2019年7月の法改正以降は「日本産業規格(JIS)」として位置付けられています。建築工事に直結するJIS A6021(建築用塗膜防水材)の固形分試験も、この規格の手順を準用しています。
建築現場の担当者が特に押さえておくべき「適用可能な塗料の種類」には以下があります。
- JIS A6021対応の建築用塗膜防水材(アクリルゴム系・ウレタンゴム系など):固形分試験条件は加熱時間60分・温度105℃±2℃
- 一般建築塗料(自然乾燥型):同じく105℃・60分が標準
- ポリマーディスパージョン(水系塗料):試験方法A~Dがあり、材料に応じて80℃・120分~140℃・30分と幅がある
- 焼付塗料・アクリル樹脂系:125℃または150℃で60分という条件が設定されている
つまり「固形分測定はどの塗料も105℃・60分」ではありません。これが原則です。
なお、JIS A6021の2022年改正では固形分試験の温度表記が「105℃」から「105℃±2℃」に変更されました。これは許容差を明示したもので、精度管理の観点から重要です。乾燥器の温度管理が±2℃以内に収まっていないと、固形分の測定値が実態とずれてしまう可能性があります。
JIS K5601-1-2:2008 塗料成分試験方法 加熱残分の全文(日本語)- kikakurui.com
JIS A6021:2011 建築用塗膜防水材の固形分試験条件の詳細 - kikakurui.com
JIS K5601-1-2が規定する測定の手順は、大きく4つのステップで構成されています。①皿の調整とひょう量→②試料のひょう量・均一展開→③乾燥器による加熱→④冷却・再ひょう量、という流れです。計算式は以下のとおりです。
$$NV = \frac{m_2 - m_0}{m_1 - m_0} \times 100$$
- NV:加熱残分(%)
- m₀:空の皿の質量(g)
- m₁:試料+皿の質量(g)
- m₂:残さ+皿の質量(g)
この計算自体はシンプルですが、現場や試験室で測定ミスが生じやすいポイントがあります。規格の注記には「皿に試料が短時間で均一に広げられるかどうかで、測定値が大きく影響を受ける」と明記されています。高粘度の塗料を均一に広げられなかった場合、見かけの加熱残分が実際より高く出るという重要な落とし穴があります。
これは意外ですね。「厚く塗ってしまった試料」が、揮発分の蒸発を妨げるために固形分が高めに算出されてしまうのです。測定精度を上げるには、高粘度の塗料・バインダに対しては適切な高揮発性溶剤を2ml加えてから展開することが推奨されています。
その他、建築現場や試験室で見落とされやすい主な注意点を整理します。
- 2回繰り返し測定が必須:塗料・ワニス・バインダの場合、2回の結果の差が質量分率2%を超えたら再試験が必要
- デシケータの使用:加熱後の皿はデシケータで冷却するのが原則。デシケータなしでの冷却は精度に影響が出る
- 化学はかりは0.1mgまで読み取れるもの:安価なはかりでは精度が不足するケースがある
- 乾燥器の温度管理:150℃未満では±2℃以内の保持が必要。強制排気装置が必須(一部例外あり)
再現精度(R)については、異なる試験室・試験者間での測定値の差は95%の確率で質量分率4%以内に収まると規格に規定されています。逆に言えば、試験室や担当者が違うと4%程度のブレが生じることが許容されているわけです。これが原則です。発注者と施工者で別々に測定した場合に数値が食い違っても、規格の許容範囲内である可能性があることを覚えておくと役立ちます。
なお、加熱残分の値は「絶対的な値ではなく、試験温度・加熱時間によって決まる相対的なもの」と規格に注記されています。つまり同じ塗料でも条件が違えば数値が変わります。この規格は、同一タイプの製品の異なるバッチ間の比較を目的として設計されています。
固形分の数値は、施工管理の核心である「塗膜厚の確保」と直結しています。固形分が高いほど、同じ量の塗料を塗布したときに形成される乾燥塗膜が厚くなります。これが基本です。
理論塗付量の計算式は次のとおりです。
$$理論塗付量(kg/m^2)= \frac{乾燥膜厚(\mu m)\times 比重(g/cm^3)}{固形分(\%)\times 10}$$
たとえば、乾燥膜厚100μm・比重2.2・固形分75%のジンク塗料の場合、理論塗付量は約0.29kg/m²となります。同じ条件で固形分が60%の塗料に変わると、約0.37kg/m²が必要になります。面積100m²の現場で比べると、差額は8kgにのぼります。これは使えそうです。
国土交通省の公共建築工事標準仕様書には「固形分60%(質量)である材料の場合を示しており、固形分がこれ以外の場合は、所定の塗膜厚を確保するように使用量を換算する」と明記されています。固形分60%を前提として設計された仕様書に対し、固形分80%の高固形分塗料に変更した場合は使用量が少なくなる代わりに、計算を誤ると塗布量不足になるリスクがあります。現場での塗布量換算は必ず実施が条件です。
一方、固形分70%以上の塗料は「ハイソリッド塗料(高固形分塗料)」と呼ばれ、揮発有機化合物(VOC)排出量を大幅に抑えられる環境対応型塗料として注目されています。従来型の固形分40%の塗料から80%に切り替えた場合、揮発する溶剤量は60%から20%に減少します。建築現場のVOC管理強化の流れの中で、ハイソリッド塗料の採用は今後増加傾向にあります。
固形分の数値は製品仕様書やカタログに記載されていますが、現場での品質確認として受入れ時に固形分測定を実施することも、特に公共工事では求められる場合があります。首都高速道路の土木工事標準仕様書では「加熱温度105±2℃、加熱時間1時間」という条件でJIS K5601-1-2に基づく加熱残分試験を行う旨が規定されています。
理論塗付量と標準塗付量の計算方法(日本ペイント技術資料)- nipponpaint.co.jp
建築防水分野では、JIS A6021(建築用塗膜防水材)に基づく固形分試験が重要な品質管理項目の一つです。防水材の固形分が規定値を下回っていた場合、形成される防水塗膜の厚みが不足し、防水性能が発揮されないリスクが生じます。
JIS A6021の固形分試験は次の手順で行われます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験方法 | JIS K5601-1-2の箇条6(測定の手順)に準拠 |
| 加熱時間 | 60分 |
| 加熱温度 | 105℃±2℃(2022年改正で許容差が明確化) |
| 計算方法 | JIS K5601-1-2の箇条8(結果の表し方)に準拠 |
試料には薄め液を加えてはならないことも規格で明示されています。薄め液を加えた状態で測定すると、固形分が実際より低く算出されてしまうためです。
過剰希釈による固形分低下は実務上の重大なリスクです。ウレタン系塗膜防水材の施工要領書には「塗料の過剰希釈は硬化不良・硬度低下・仕上がり不良などが発生しやすく、防水性能に悪影響を与える」と明記しているメーカーもあります。厳しいところですね。
具体的なリスクを整理すると次のようになります。
- 🚫 硬化不良:固形分の低下により、硬化剤との反応バランスが崩れる
- 🚫 塗膜厚不足:規定塗布量を塗っても、実際に形成される塗膜が薄くなる
- 🚫 防水性能の低下:防水層が薄いと、ひび割れ追従性や耐水性が低下する
- 🚫 JIS規格値不適合:固形分の規格値に対して実測値が下回ると、JIS不適合品となる
施工現場での実務的な確認方法として、材料の受入れ検査時に製品規格証明書を確認し、JIS K5601-1-2に基づく固形分の測定値が規格値の範囲内であることを確認することが基本です。公共工事では品質管理要領に従い、試験成績表の提出が求められるケースが多くあります。
なお、JISマーク表示のある塗膜防水材であれば、第三者認証機関(日本塗料検査協会など)による型式認証を受けた製品であり、固形分を含む各性能値が規格に適合していることが保証されています。JISマーク品の採用は、品質確認の手間を大幅に軽減できる有効な手段です。
JIS A6021改正概要(固形分試験の温度許容差の変更など)- 日本塗料検査協会(JPIA)
一般的な固形分(加熱残分)の値は「質量分率(%)」で表されますが、建築塗装の現場設計では「体積固形分(%)」を使った計算のほうが実態に即しているという点は、現場担当者にあまり知られていません。これは意外ですね。
質量固形分と体積固形分は別物です。質量固形分は「加熱後の残さの質量÷元の質量×100」で求めますが、体積固形分は「乾燥塗膜の体積÷湿塗膜の体積×100」で求めます。同じ塗料でも、顔料など比重の重い成分が多ければ質量固形分は高く見えても、体積固形分は相対的に低くなる場合があります。
実務的な膜厚計算では体積固形分を用いることが国際的なスタンダードです。ISO 3233では「乾燥塗膜の体積を測定する試験方法」が規定されており、JIS K5601-1-2の注記にも参考として挙げられています。たとえば体積固形分50%・比重1.3の塗料で乾燥膜厚80μmを得るには次のように計算できます。
$$塗料使用量(L/m^2)= \frac{乾燥膜厚(mm)}{体積固形分} = \frac{0.08mm}{0.50} = 0.16L/m^2$$
これを面積100m²に適用すると16L、重量換算で約20.8kgの塗料が必要という計算になります。
なぜこれが重要かというと、製品仕様書の固形分が「質量%」で書かれているのか「体積%」で書かれているのかによって、計算結果が異なってくるからです。仕様書の記載内容を確認せずに計算すると、塗料の発注量が不足したり、逆に過剰発注になったりするリスクがあります。これが条件です。
高固形分塗料(ハイソリッド塗料)の採用時は特に注意が必要です。固形分が70%以上になると、同じ面積を塗装するのに必要な塗料量が従来品より少なくなります。コスト削減効果がある一方で、塗布量計算の基準として「どの規格の固形分値を使うか」を明確にしておかないと、施工管理上の混乱につながります。
建築現場でこうした計算の手間を省くには、塗料メーカーが提供する「塗布量計算ツール」や「施工要領書に記載の規定塗布量」を優先的に参照することをお勧めします。規定塗布量は理論値に塗装ロスを含めた実用値になっているため、固形分の種類(質量・体積)を意識せずに使用できます。
塗料の固形分とは何か・計算方法の解説 - AP ONLINE(アステックペイント)
「JIS規格の固形分値は書類上の話で、現場では関係ない」と思っている方がいるとすれば、それは大きな誤解です。固形分をはじめとするJIS規格値の不適切な扱いは、製品認証の取り消しや企業の信頼失墜に直結した実例があります。
2024年に報道された大日本塗料の子会社による不適切行為の事例では、JISマーク表示に関する規格値の管理において問題が発覚し、一時的にJISマーク表示の停止処分を受けた事案が確認されています。最終的には規格値の変更申請と承認によって対策が完了していますが、JIS認証に関わる品質管理の重要性を示すケースです。
建築業従事者として特に理解しておきたいのは「JIS規格値を満たしている材料を使う義務」です。公共建築工事では標準仕様書によって使用材料の品質基準が定められており、固形分を含む性能値がその基準の一部になっています。以下のリスクを認識しておきましょう。
- ⚠️ 材料受入れ検査の不備:固形分の確認を怠って規格値外の材料を使用した場合、工事完成後に瑕疵担保責任を問われるリスクがある
- ⚠️ 試験成績表の偽造・改ざん:固形分の測定値を虚偽記載することは、公共工事では官公庁との取引停止処分につながる重大な不正行為
- ⚠️ 再施工コストの発生:固形分不足の塗料を使って塗膜が剥離した場合、再施工費用は施工業者の負担になり得る
施工品質の証明という観点では、固形分の数値は単なる材料スペックにとどまらず、「この現場で適切な膜厚を確保できる材料を使った」という証拠になります。写真記録・使用缶数の保管・試験成績表の保存を組み合わせることで、施工後のトラブル発生時に対応できる証拠書類が揃います。これが基本です。
最後に、固形分測定の精度管理のために役立つ実務的なポイントをまとめます。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 試験温度 | 塗料種類に合った温度か(105℃/125℃/150℃等) |
| 乾燥器の温度管理 | ±2℃以内の精度を保てているか |
| はかりの精度 | 0.1mg単位まで読み取れるか |
| 試料の展開状態 | 皿上に均一に広がっているか |
| 2回測定の差 | 質量分率2%以内に収まっているか |
| デシケータの使用 | 加熱後の冷却に使っているか |
固形分測定はシンプルな試験ですが、手順の一つひとつが測定精度に影響します。JIS規格の条件を守ることが、現場品質管理の信頼性を支える基盤です。
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)塗装工事における固形分規定 - 国土交通省