

「塗膜が健全なら、アスベスト入りでも改修工事に事前調査は不要」は間違いで、無調査で着工すると30万円以下の罰金リスクがあります。
「現代の防水工事にアスベストは関係ない」と思っている建築業従事者は少なくありません。しかし、改修や解体の現場で実際に向き合うのは、現在施工されたものではなく、数十年前の既存の防水層です。この点を見落とすと、法的リスクと健康リスクの両方を抱えることになります。
建築用塗膜防水材にアスベスト(石綿)が使われていた時代は、大きく分けると1970年代から1990年代前半にかけてです。工法ごとに使用期間は異なります。
- アスファルト防水:防水層のルーフィング・断熱材・接着剤に石綿が使用。防水層については昭和62年(1987年)以降、断熱材については平成3年(1991年)以降の施工であれば石綿を含まないとされています。
- ウレタン塗膜防水:断熱材の表裏面に、石綿シートにアスファルトを含浸させた面材を貼り合わせる工法が1990年代まで主流でした。断熱工法ウレタン防水の石綿シートは、1990年代初頭頃を境に使用されなくなったと言われています。
- FRP防水:強化プラスチックに石綿を混ぜて接着性を高めていた時期があり、一部製品に含有事例があります。
- シート防水(塩ビ・ゴム系):シート自体にはアスベストが使用されていないとされていますが、下地調整材や接着剤の層に含まれる事例には注意が必要です。
つまり、1990年代前半以前に施工された防水層が残っているケースが要注意ということですね。学校・病院・団地など大型の公共建築物ほど、アスファルト防水が多用されていたため、対象になるケースが多い傾向があります。
特にウレタン防水の場合、防水塗膜そのものではなく、その下の断熱材層にアスベストが使われているケースが多いという点は、見落としやすいポイントです。トップコートの張り替え程度と思っていても、既存層をはつる作業が伴う場合には石綿飛散リスクが生じます。見た目での判断には限界があります。
防水工事のアスベストに関する注意事項(防水マイスター):ウレタン防水・アスファルト防水・FRP防水各工法の石綿使用年代をまとめた解説ページ
アスベストが含まれていると聞くと、今すぐ危険な状態にあるかのように感じる方もいます。しかし、石綿含有塗膜防水材の場合、塗膜が健全な状態を保っている限りは石綿が外部に発散するおそれはほとんどないとされています。これは国土技術政策総合研究所の指針にも示されており、通常の使用・管理環境においては、直ちに健康リスクにつながるわけではありません。
問題が発生するのは、改修工事や解体のタイミングです。
既存の防水塗膜を剥がす、はつる、電動工具で削るといった作業を行うと、塗膜が物理的に破壊されて石綿繊維が空気中に飛散します。石綿繊維は直径0.02〜0.3マイクロメートルと、人の髪の毛の直径(約70マイクロメートル)と比べてもはるかに細く、目視での確認は不可能です。呼吸によって気づかないうちに吸引してしまう危険があります。
肺に吸い込まれた石綿繊維は体外に排出されにくく、長期間にわたって肺組織に滞留します。潜伏期間は20〜40年と非常に長く、中皮腫や肺がん、石綿肺などの深刻な疾患につながるリスクがあります。これが原則です。
さらに注意が必要なのは、既存塗膜の高圧洗浄です。防水塗装の下地処理として行うことが多い高圧洗浄も、石綿含有塗膜に対して行った場合には石綿を飛散させる引き金になります。「塗り重ねるだけだから調査は省いても大丈夫」という判断が、実際の現場でのアスベスト飛散につながってしまうケースがあるため注意が必要です。
現場監督・職人の双方が石綿飛散のリスクを正確に把握しておくことが、安全な作業と法令遵守の両立につながります。
国土技術政策総合研究所「建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿飛散防止対策指針」(PDF):塗膜が健全な状態と改修時の飛散リスクについての公的指針
建築業従事者にとって、特に知っておくべきなのが法改正による義務強化の流れです。これを把握していないまま工事を進めると、法的ペナルティを受けるリスクが現実にあります。
法改正は段階的に進んでいます。
- 2021年4月:大気汚染防止法改正により、規制対象が「吹付けアスベスト」だけでなく「すべての石綿含有建材(レベル3含む)」に拡大。防水塗膜などの仕上塗材も対象に加わりました。
- 2022年4月:解体・改修工事の元請業者に対し、事前調査結果の都道府県等への報告が義務化されました。
- 2023年10月:建築物の石綿事前調査は、「建築物石綿含有建材調査者」等の有資格者が実施することが義務化されました。
義務化が義務です。事前調査を怠った場合や虚偽報告を行った場合、大気汚染防止法に基づき30万円以下の罰金が科せられます。石綿除去等の措置義務に違反した場合は、3か月以下の懲役または30万円以下の罰金が設けられています。
「防水の改修工事でアスベスト調査が必要になるとは思わなかった」では済まされないのが現状です。なお、例外として工事費が100万円以下の小規模工事や、木材・金属・ガラスのみの建材を扱う工事など、明らかにアスベストと無関係な作業については報告が不要な場合があります。ただし、事前調査そのものは義務であるため、省略できるのは報告義務の一部に限られます。
また、2026年1月1日からは工場・プラント・インフラ設備などの「工作物」についても石綿事前調査が義務化されました。工場施設の防水改修なども対象に含まれます。法改正の対象範囲が広がっていることに注意が必要ですね。
環境省「大気汚染防止法が改正されました」(PDF):石綿含有建材の規制対象拡大と事前調査義務化の詳細
実際に事前調査を進めるにあたって、どのような方法があり、どれくらいの費用がかかるのかを把握しておくことが現場管理の第一歩です。
調査方法には主に2つのアプローチがあります。
① 書面調査・目視調査
設計図書や建材リスト、施工記録などを確認し、石綿含有建材の使用が疑われる年代・工法かどうかを判断します。2006年9月(平成18年8月末)以前に着工された建物は、石綿含有の可能性がある対象として扱われます。この書面・目視調査だけで判断できるケースもあれば、結果が不明確な場合は分析調査が必要になります。
② 分析調査(サンプリング・機関分析)
現場から建材サンプルを採取し、分析機関でX線回折法や位相差顕微鏡法などによりアスベストの有無を確認します。費用の目安は、1検体あたり約1万5,000円〜3万円程度が相場です。複数の検体が必要な場合、建物全体では8万〜35万円程度になるケースもあります。
防水塗膜の場合、下地調整材・仕上塗材・防水材の各層が積み重なっているため、層別に採取・分析することが重要です。仕上塗材だけ調べて「陰性」だった場合でも、下地層にアスベストが含まれているケースがあります。層別分析を省くことで後から追加費用が発生する事態は避けたいところですね。
なお、調査費用は建物規模や検体数によって大きく変わります。事前調査費用の勘定科目については「一般管理費」として扱われるのが一般的で、除去工事費用は「修繕費」に分類できます。建物の所有者・管理者と費用負担の整理を事前に行っておくことも実務上のポイントです。
アルフレッド株式会社「仕上塗材と下地調整材のアスベスト調査には層別分析が不可欠」:防水・仕上塗材の層別調査の重要性を解説した専門記事
事前調査でアスベストの含有が確認された場合、改修・解体に際してどのような対処をするかを決める必要があります。石綿含有防水塗膜は「レベル3建材(非飛散性建材)」に分類されるのが原則ですが、適用される作業基準を正確に理解することが不可欠です。
レベル3とレベル1の違いを把握する
防水材料の石綿含有建材はレベル3(非飛散性)に分類されますが、一部例外があります。吹付け工法によって施工されたことが明らかな石綿含有仕上塗材(吹付けパーライト・吹付けバーミキュライト等)は、レベル1(高飛散性)の規制を受けます。防水塗膜の施工工法の確認も調査の段階で行っておくことが条件です。
レベル3建材の主な除去方法
| 工法 | 概要 | 特徴 |
|------|------|------|
| 剥離剤工法 | 剥離剤を塗布し塗膜を軟化させてから除去 | 湿潤状態での作業が可能で石綿飛散リスクが低い |
| 手ケレン工法 | 人力で塗膜を剥がす工法 | 電動工具不使用のため飛散が比較的少ない |
| 電動工具工法 | グラインダーなどの電動工具で除去 | 作業効率は高いが養生が必須 |
| 封じ込め・固化工法 | 塗膜の上から固化材を塗布して飛散を抑制 | 除去しない改修に最適で低コスト |
電動工具を使用する場合は、集じん機付きの除じん性能を持つ工具の使用や、作業場所の養生が義務付けられています。これは使えそうです。
費用の目安
レベル3建材の除去費用は、1㎡あたり約2,000円〜10,000円が相場です。手ケレン工法では4,000〜5,000円/㎡、グラインダー工法では5,000〜8,000円/㎡程度が目安とされています。例えば、屋上防水の面積が300㎡の改修工事であれば、除去費用だけで60万〜300万円の幅が出ることになります。これは規模感をつかむ上で重要な数字です。
なお、除去作業にあたっては、作業前の湿潤化(散水)が原則として義務付けられています。また、作業終了後には廃棄物を石綿含有廃棄物として適切に処理する必要があり、通常の産業廃棄物とは分けて管理・運搬しなければなりません。廃棄処理を軽く見ると、後から追加コストが発生することがあるため注意が必要です。
環境省「特定建築材料以外の石綿含有建材(レベル3建材)除去等作業時のガイドライン」(PDF):レベル3建材の除去作業基準と行政の独自規制の詳細
ここまで見てきたような法的義務や除去方法は、比較的広く情報が出回っています。一方で、実務上の落とし穴として見落とされがちな視点がいくつかあります。それらを整理しておきます。
「ウレタン防水の上塗りだけ」という認識の危険性
既存の防水塗膜の上に、新たなウレタン防水層を塗り重ねる「かぶせ改修」を行う場合、既存層に触れないように見えても、下地処理として行うケレン作業や部分補修が既存層に損傷を与えることがあります。改修工事の範囲を慎重に確認しないと、実際には石綿含有層に機械的ストレスをかけてしまうケースがあります。
下地調整材の見落とし
防水塗膜の分析調査では「仕上塗材」だけを採取するケースが多いのですが、下地調整材(シーラー・プライマー層)にも石綿が含まれている例があります。日本建築仕上材工業会の情報によれば、外壁用の下地調整塗材にも過去にアスベストが配合されていたケースがあります。これが条件です。防水塗膜の調査では、複数層を層別に採取・分析することで見落としを防ぎます。
「どうせ外観で分からないから適当でいい」という誤解
石綿含有の有無は外観では判別できません。外壁・屋上の塗膜を目視確認して「問題なさそう」と判断することは、法的には無効です。目視調査は事前調査の一部ではありますが、年代が不明な場合や設計図書がない場合は必ず分析調査が必要です。見た目では判断できないということですね。
産業廃棄物の処理ミスによる追加コスト
石綿含有廃棄物は「特別管理産業廃棄物」として処理する義務があります。しかし現場では、剥がした塗膜が少量だった場合に一般廃棄物と混合してしまうトラブルが起きることがあります。石綿含有廃棄物の処理費用は通常の産業廃棄物より高く、1㎡あたりの除去・処理費用は2,000〜10,000円の幅があります。事前に廃棄物の分量を見積もり、処理業者への依頼を段階的に確認しておくことが実務上のコスト管理につながります。
封じ込め処理の選択肢を知っておく
除去するのではなく、アスベストを含む防水塗膜の上から固化材・封じ込め材を塗布することで飛散を防ぐ「封じ込め工法」は、法的に認められた処理方法の一つです。改修工事の内容によっては、除去より低コストで対応できる場合があります。ただし封じ込め工法でも、作業前に事前調査は必要であり、処理後の管理記録の保存が求められます。改修工事の選択肢を広げる意味でも、施主との打ち合わせ時に封じ込め工法の可能性を提示しておくと有用です。
日本建築仕上材工業会「アスベスト含有仕上塗材情報」:会員各社の過去のアスベスト使用状況と対応状況を公表しているデータベース
厚生労働省「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」(PDF):改修・解体時の石綿飛散防止に関する実務マニュアル(作業手順・養生方法の詳細を含む)

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