
モーメント接続は、構造工学において柱と梁の間で曲げモーメントを伝達する接合方法として定義されます。この接合方式の最大の特徴は、部材が回転を拘束され、固定接合に近い挙動を示す点にあります。構造解析では固定コードFFFFFで表現され、すべての並進および回転方向で拘束された状態を意味します。
参考)モーメント接続: それとは何ですか?
鋼構造におけるモーメント接続は、梁のフランジ部分を強化することで実現されます。せん断接続がウェブ部分に主に依存するのに対し、モーメント接続ではプレート補強材、溶接、ボルト等を組み合わせて部材間の接続剛性を高めます。この構造により、梁に作用する曲げモーメントが確実に柱へ伝達され、建築物全体の耐震性能が向上します。
参考)モーメント接続
実際の設計では、モーメント接続は曲げモーメントがゼロでない領域での接合や、高度な構造不静定性が必要な場合に採用されます。ラーメン構造などでは、この接合方法によって柱と梁を一体化し、斜め部材を使わずに広々とした空間を実現できるため、現代のマンションや公共建築物の多くで採用されています。
参考)モーメント接続がいつどのように使用されるか?
モーメント接続には複数の施工方法が存在し、それぞれ構造特性と施工性が異なります。フランジプレート接続は、柱のフランジと梁のウェブをプレートで接続する方式で、プレートをボルト締めまたは溶接で固定します。梁が曲げを受けると、接続メンバーを通じてモーメントが伝達される仕組みです。
スループレート接続は、部材にボルト締めまたは溶接された剛性プレートを使用してモーメントを伝達します。HSS柱に曲げ力がかかると、プレートを介して直感的に梁へ移動する構造となっています。一方、カラー付きプレートはスループレートと類似していますが、プレートがHSSセクションを貫通しない点で異なります。
現場施工では、工場でブラケット(短い持ち出し梁)を柱に溶接しておき、現場で梁を高力ボルトで接合する方法が一般的です。梁の長さの約1/4程度の位置は曲げモーメントが小さく、トレーラー輸送も考慮した適切な長さのブラケットとします。別の方法として、柱にガセットプレートを溶接しておき、現場で梁のウェブをボルト接合した後、フランジを溶接する手順もあります。この場合、溶接の熱変形を避けるため、必ず高力ボルト接合を先に行います。
参考)S造柱梁接合部2種 href="https://mikao-investor.com/2020/04/23/joint_method_of_steel_structure/" target="_blank">https://mikao-investor.com/2020/04/23/joint_method_of_steel_structure/amp;#8211; ミカオ建築館
鉄骨構造の接合部に関する技術資料(川田工業技報)
接合部の構造詳細と設計時の留意点が解説されており、モーメント接続の実務設計に有用です。
モーメント接続とピン接合の根本的な違いは、回転の拘束度と曲げモーメントの伝達能力にあります。下表で両者の特性を比較します。
項目 | モーメント接続 | ピン接合 |
---|---|---|
力の伝達 | せん断力と曲げモーメント | せん断力のみ |
別名 | 剛接合、固定接合 | ヒンジ接合 |
回転の自由度 | 回転を拘束 | 自由に回転可能 |
構造解析コード | FFFFFF | FFFFR |
変形量 | 小さい | 大きい |
施工コスト | 高い | 低い |
適用構造 | ラーメン構造 | トラス構造、ブレース構造 |
ピン接合は接合部が蝶番のように回転するため、曲げモーメントを伝達しません。この特性により構造設計は簡潔になりますが、建物全体の剛性確保にはブレース等の追加が必要です。
参考)剛接合とピン接合の違いとは!?それぞれの特徴を知ろう - コ…
モーメント接合を採用する場合、せん断接合と比較して追加の架設コストが発生しますが、風や地震力に対する抵抗を提供するブレース部材の削減につながり、全体としては材料費の節約が可能となるケースもあります。構造の不確定性が高まることで、荷重分散が効率化される利点もあります。
モーメント接続の設計では、接合部に作用する曲げモーメントとせん断力を正確に算定する必要があります。梁端部では降伏曲げモーメントに基づいて短期設計用せん断力を定め、部材が万一破壊する際には曲げで破壊するように設計するのが原則です。日本建築学会の規準では、曲げ耐力を上回るせん断耐力を部材に与える設計法が示されています。
参考)http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s22/public/080331-0411/15.pdf
フランジプレートの寸法は曲げモーメントによって決定します。梁の全長で曲げモーメントが変化するため、それに合わせて板厚を継ぎ足すこともあります。この場合、断面形状の急激な変化を避けるため、厚い板の端部を1/5以下の勾配に削る処理が必要です。ウェブプレートはせん断力によって断面を決めますが、座屈防止や施工中の損傷、腐食の影響を考慮して理論上必要な厚さより厚めにし、最小限6mm以上とします。
参考)https://wwwra.meijo-u.ac.jp/labs/ra007/murata/pdf/textbook/gairon_2005-10.pdf
応力集中への対策として、急激な断面変化を避け滑らかな形状にすることが基本です。具体的には以下の対策が効果的です。
✅ ボルト穴周りにフィレット(丸み)を設け、応力の分散を図る
参考)【剛性】結合部の応力集中の注意点と対策【振動】 href="https://mecha-basic.com/gousei2/" target="_blank">https://mecha-basic.com/gousei2/amp;#8211…
✅ 接合部分のエッジを丸めたり、滑らかな曲線で設計する
✅ 溶接部には適切なスチフナーを配置し、局部座屈を防止する
✅ ボルトの締め付けトルクを適切に管理し、過剰な応力を避ける
ストップホール部の応力集中低減効果に関する研究論文(構造工学論文集)
当て板補強による応力集中の低減メカニズムが詳述されており、モーメント接続部の補強設計の参考になります。
耐震設計において、モーメント接続は建築物の靱性と復元力を確保する重要な役割を果たします。近年では、形状記憶合金(SMA)を用いた自己復元型モーメント接続の研究が進んでおり、地震後の残留変形を最小化する技術が開発されています。SMAボルトエンドプレート接続は、大地震時にも復元力を発揮し、構造物を初期位置に戻す特性を持ちます。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/eqe.4098
鉄筋コンクリート造のモーメント接続では、柱梁接合部は接続する部材端から入力されるモーメントにより内部にせん断力が生じます。日本建築学会の設計規準では、この接合部のせん断強度とモーメント伝達能力を適切に評価する算定法が提示されており、終局モーメントの算定には部材の降伏曲げモーメントを基準とします。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/78/693/78_1949/_pdf
施工品質管理では、以下のポイントが重要です。
🔧 溶接品質の確保:完全溶け込み突合せ溶接を使用する場合、注意深い検査が必要なため、ほとんどの溶接接続は工場で構築されます。
🔧 高力ボルトの施工順序:現場で高力ボルトと溶接を併用する場合、必ずボルト接合を先に行い、その後溶接します。順序を逆にすると熱変形により摩擦力が得られなくなります。
🔧 すべり係数の管理:F8T(溶融亜鉛めっき高力ボルト)のすべり係数は0.4、F10Tは0.45として設計し、許容耐力を適切に評価します。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/products/building/assets/pdf/binran/binran_chapter06.pdf
🔧 接合部変形の監視:繰り返し荷重によるボルトの緩み、アバットメントの変形、接合部の密着不良などを定期的に検査します。
参考)https://www.mdpi.com/1660-4601/17/22/8685/pdf
モジュール建築における革新的なモーメント接続として、十字型プラグインコネクターを用いた接合システムも提案されています。この方式は施工が容易で、コア領域のせん断抵抗を改善できる特徴があり、将来的な普及が期待されています。
参考)https://www.mdpi.com/2075-5309/13/9/2382/pdf?version=1695123450
モーメント抵抗接合部の実験と解析の比較(日本建築学会論文)
実験データと解析結果の比較により、モーメント接続の実挙動を把握でき、設計精度向上に役立ちます。