

作業員が19人でも、選任義務が生じて罰則を受けた現場があります。
店社安全衛生管理者は、労働安全衛生法第15条の3に基づいて設けられた制度です。建設業において元方事業者が設ける安全衛生管理体制の一部であり、特定の条件下では規模が小さな現場でも選任が必要になります。
まず「店社」とは、建設会社の本社・支社・営業所など現場を管理する上位組織を指します。現場そのものに統括安全衛生責任者を置く規模ではないものの、ある程度の規模感がある工事を請け負っている場合に、その店社(上位組織)から安全衛生管理者を選任・派遣する仕組みです。
つまり現場常駐ではなく、店社側から工事を管轄する形の役割です。
この制度が特に重要になるのが、「常時20人以上50人未満の労働者が従事する建設工事」のケースです。この規模帯では統括安全衛生責任者の選任義務はありませんが、その代わりに店社安全衛生管理者の選任が求められます。
「20人未満なら何もしなくていい」と思っている方も多いですが、それは条件次第で正確ではありません。
後述するように、工事の種類・内容によっては20人を下回る現場でも義務が発生します。建設業に携わる方は、人数だけで判断せず、工事の種別と現場の状況を合わせて確認する必要があります。
制度の根拠となる法令は以下で確認できます。
「20人未満だから店社安全衛生管理者は不要」という認識は、実は一定の例外があります。
労働安全衛生法施行令第7条の3に基づき、店社安全衛生管理者の選任が必要とされるのは「ずい道等の建設」「橋梁の建設」「圧気工法による作業」に係る仕事です。これらの工事では、従事労働者が20人未満であっても選任義務が生じる場合があります。具体的には、ずい道建設・橋梁建設・圧気工法は高度なリスクを伴うため、規模よりも工事の性質が優先されます。
これが原則です。
一般的な建築工事・土木工事(通常の掘削・躯体工事・仕上げ工事など)では、従事労働者が常時20人以上50人未満になって初めて選任義務が発生します。しかしずい道・橋梁・圧気工法の3種類はこの「20人以上」という下限条件に縛られません。
実際に「20人を超えていないから大丈夫」と判断して選任を怠り、労働基準監督署の調査で違反を指摘されたケースが報告されています。ずい道工事などは中小規模の建設会社でも受注することがあるため、注意が必要です。
工事種別ごとの選任基準を以下に整理します。
| 工事の種類 | 選任が必要な労働者数の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般建設工事(建築・土木など) | 常時20人以上50人未満 | 統括安責者不要の規模帯 |
| ずい道等の建設工事 | 人数にかかわらず義務が生じるケースあり | 施行令第7条の3による |
| 橋梁の建設工事 | 同上 | |
| 圧気工法による作業 | 同上 |
自社が受注している工事の種類を確認することが最初の一歩です。
厚生労働省が公表している関連通達・解釈例規も合わせて参照してください。
厚生労働省:安全衛生関係法令(元方事業者・店社安全衛生管理者の選任義務に関する情報を含む)
選任義務があることはわかったとして、では誰を選任すればよいのでしょうか?
労働安全衛生規則第18条の4に基づき、店社安全衛生管理者になるためには一定の資格・経験が必要です。大学・高専卒であれば3年以上の実務経験、高卒の場合は5年以上、中卒の場合は7年以上の建設工事に係る安全衛生の実務経験が求められます。資格要件は厳格です。
また「店社の労働安全衛生業務を担当する者」でなければならないため、現場の作業員を兼任させることは基本的にできません。
兼任できないケースは見落とされがちです。
中小建設業者でよく見られる誤りが、「現場代理人に兼務させる」「施工管理技士の資格があるから大丈夫」という思い込みです。施工管理技士の資格は、安全衛生管理者の要件には直接結びつきません。安全衛生法規で定める資格・経験要件をクリアした人物を正式に選任する必要があります。
さらに、選任したうえで労働基準監督署への届け出が必要な点も確認が必要です。選任だけして届け出を怠った場合も違反となります。
届け出先は所轄の労働基準監督署で、選任後遅滞なく提出することが求められています。「選任したつもり」で書類が未提出という状況が現場では起こりやすいため、選任と届け出はセットで管理しましょう。
厚生労働省:安全衛生管理体制に関する参考資料(選任要件・届出に関する記載あり)
選任するだけでは義務を果たしたことになりません。店社安全衛生管理者には具体的な職務が法令で定められています。
職務の中核は「工事現場の巡視」です。労働安全衛生規則第18条の6により、店社安全衛生管理者は毎月1回以上、担当する建設工事現場を巡視しなければなりません。月1回の巡視が最低ラインです。
この巡視で確認すべき事項は以下のとおりです。
巡視後には、問題点があれば現場の関係請負人(下請け業者)に対して安全衛生上の指導・助言を行うことも職務に含まれます。指導の記録を残すことが大切です。
実務上、この巡視記録が労働災害発生時に重要な証拠資料となります。「巡視した」という事実だけでなく、何を確認し、どのような指摘をしたかを文書化しておくことで、万が一の際に事業者としての責任の範囲を明確にできます。
巡視記録様式については、建設業労働災害防止協会(建災防)が作成・公表しているひな形が参考になります。
建設業労働災害防止協会(建災防):安全衛生管理体制・巡視記録に関する情報
法的に店社安全衛生管理者の選任義務がない「常時20人未満の現場」であっても、安全衛生管理を放置してよいわけではありません。これは見落とされがちな点です。
労働安全衛生法は、規模に関わらず「事業者が労働者の安全と健康を守る」という基本義務を定めています。20人未満だから義務なし、ではなく、「選任義務はないが、安全配慮義務は常に存在する」という整理が正確です。
安全配慮義務は規模を問いません。
実務的には、常時20人未満の現場でも以下の取り組みが求められます。
特に小規模現場で見落とされやすいのが「特別教育」です。ローラーや小型車両系建設機械などの特定機械を使用する場合、従事労働者に特別教育を受けさせる義務があります。人数が少ないからといって省略できるものではありません。
特別教育が未実施のまま作業させると、労災発生時に事業者責任が大きく問われます。1件の労働災害で数百万円規模の補償・訴訟コストが発生したケースもあり、事前の教育投資の方がはるかにコストは低く抑えられます。
建設現場の安全衛生教育については、建災防やJASHA(日本産業安全健康協会)が提供している研修プログラムを活用することも実務上の選択肢です。
中央労働災害防止協会(JISHA):安全衛生教育・研修プログラム一覧