

無線通信技術には、用途や通信距離に応じて多様な種類が存在します。代表的な規格として、Wi-Fi(IEEE 802.11シリーズ)、Bluetooth、5G/4G LTE、LPWAなどが挙げられ、それぞれ異なる周波数帯域と通信速度を持っています。Wi-Fiは2.4GHz、5GHz、最新では6GHz帯を使用し、最大9.6Gbps(Wi-Fi 6)の高速通信が可能です。Bluetoothは2.4GHz帯で動作し、最大3Mbps(Bluetooth 5.0)の通信速度でワイヤレス機器の接続に適しています。
参考)https://www.oki.com/jp/showroom/virtual/column/c-41.html
5G通信は3.5GHz〜6GHz(Sub-6)と24GHz以上(ミリ波)の周波数帯を使用し、最大20Gbpsの超高速通信を実現します。一方、4G LTEは700MHz〜3.5GHzの周波数帯で最大1Gbpsの通信速度を提供しています。LPWAは低消費電力広域ネットワークの略で、200/400/800/900MHz帯を使用し、2〜15kmの長距離通信が可能です。
参考)https://wirelessdesign.jp/column/musen/
これらの無線通信規格は、通信速度と通信距離のトレードオフ関係にあります。Wi-FiやBluetoothは高速通信が可能ですが通信範囲は数十メートル程度、LPWAは通信速度が遅い代わりに数キロメートル以上の広域通信が可能という特性を持っています。不動産業界では、これらの特性を理解し、建物の規模や用途に応じて最適な無線通信規格を選択することが重要です。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001058.000098811.html
無線通信で使用される周波数帯域は、電波の伝搬特性に大きく影響します。2.4GHz帯は電波が遠くまで届き、壁や床などの障害物にも強く広範囲に電波を届けることができる特徴があります。ただし、電子レンジやテレビ、Bluetooth機器など多くの製品が同じ周波数帯を使用するため、電波干渉が起きやすく通信が不安定になることがあります。集合住宅では他の部屋の電波の影響を受けることもあるため注意が必要です。
参考)https://www.elecom.co.jp/pickup/column/wifi_column/vol42/
5GHz帯はWi-Fiでしか利用できない周波数帯のため、電波干渉を受けにくく通信が安定しています。2.4GHz帯と比較すると伝送容量が大きいため通信速度が速い点もメリットです。しかし、5GHz帯は障害物や遮蔽物に弱く、通信距離が長くなると電波が弱くなり通信が不安定になる場合があります。また、デバイスによっては5GHzに対応していない可能性があるため、接続機器の対応状況を確認する必要があります。
参考)https://flets-w.com/chienetta/pc_mobile/cb_other59.html
5G通信では、ミリ波(30GHz〜300GHz)、Sub6(6GHz未満)、NR化(4G/LTE周波数帯の5G利用)という3種類の周波数帯が使われます。ミリ波は非常に高速な通信が可能ですが、直進性が高く障害物に弱く、エリアも限定的です。Sub6は4Gと近い性質を持ち、エリアが広く屋内にも届きやすい特徴がありますが、通信速度はミリ波に比べるとやや劣ります。LPWAでは920MHz帯が主に使用され、低周波数帯の特性により建物内部への浸透性が高く、長距離通信が可能です。
参考)https://www.nexty-ele.com/technical-column/4g_02/
集合住宅における無線通信の接続方式には、光配線方式、VDSL方式、LAN方式という3つの主要な種類があります。光配線方式は、通信基地局から各住戸まですべて光ファイバーケーブルで接続され、最大1Gbpsから10Gbpsの高速通信が可能です。この方式は戸建てや一部の集合住宅で採用され、通信速度が落ちることがない最も高速な接続方式です。
参考)https://www.ur-net.go.jp/chintai/college/202201/000809.html
VDSL方式は、マンションやアパートなどの集合住宅で広く採用されている接続方式です。建物の共用部分まで光ファイバーケーブルが設置され、そこから各住戸までは既存の電話回線を使ってデータ通信を行います。通信速度は上り50〜100Mbps、下り100Mbps程度が最大値となるため、光配線方式と比較すると速度が遅くなります。既存の電話回線を活用できるため導入コストが抑えられるメリットがあります。
参考)https://www.commufa.jp/article/0035
LAN方式は、共用部分まで光ファイバーケーブルを引き込み、各住戸までLANケーブルで配線する方式です。通信速度はVDSL方式より速く、比較的安定した通信環境を提供できます。無線回線を使う方法としては、共有部にWi-Fiルーターを設置して各部屋に電波を飛ばす「共有部設置型」と、各部屋にWi-Fiルーター一体型コンセントを埋め込む「埋込み型」があります。共有部設置型は基本的に共有部だけの工事で済むため、最短1日でインターネットが利用可能になります。ただし、有線接続と比較して回線が不安定で、大容量データの転送やダウンロードに時間がかかる場合があります。
参考)https://ainet.life/blog/apartment_wifi_cost
LPWAには複数の規格が存在し、それぞれ異なる特性を持っています。代表的なLPWA規格として、LoRa(LoRaWAN)、SIGFOX、NB-IoT、ZigBee、Wi-SUN、Wi-Fi HaLowなどがあります。これらはライセンスバンド(無線局の免許・登録が必要)とアンライセンスバンド(免許不要)に分類されます。
参考)https://www.sbbit.jp/article/cont1/33292
LoRa(LoRaWAN)は、日本では920MHz帯のSub-GHz帯を使用し、通信速度は約250kbps、通信距離は最大約10〜15kmです。パブリックとプライベート両方のシステムで利用でき、企業が小規模なプライベートネットワークを構築する用途にも適しています。SIGFOXは920MHz帯を使用し、通信速度は100bps、通信距離は最大約50kmと非常に広範囲をカバーできます。低速ながら長距離通信が可能で、センサーデータの収集などに適しています。
NB-IoTは700MHz〜3.5GHzのライセンスバンドを使用し、通信速度は27k〜63kbps、通信距離は約30kmです。携帯電話網を利用するセルラー型LPWAのため、既存のインフラを活用できる利点があります。ZigBeeは2.4GHz帯で動作し、通信速度は250kbps、通信距離は10〜75m程度で、最大65,000台の同時接続が可能です。メッシュネットワークを構築できるため、センサーネットワークやスマートホーム制御に適しています。
参考)https://wirelessdesign.jp/column/musen-gijutsu/
Wi-Fi HaLow(IEEE 802.11ah)は、920MHz帯を使用する新しいWi-Fi規格で、通信速度は700kbps、通信範囲は約1km程度です。従来のLPWAでは送受信データ容量が大きく活用できなかったカメラなどの機器が利用でき、画像や映像の送受信が可能です。不動産業界では、この特性を活かして物件管理業務の効率化や遠隔監視への活用が進んでいます。
参考)https://businessnetwork.jp/article/23856/
建設現場や不動産管理における無線通信の活用は、業務効率化と安全性向上に大きく貢献しています。超高層ビルの建設現場では、地下4階から地上38階、高さ約212mの全フロアに「ウェーブガイドLAN」を導入し、わずか5台のアクセスポイントでWi-Fi環境を構築した事例があります。最上階でも通信速度が劣ることなくWeb会議ツールの利用が可能になり、どの階でもタブレット端末でクラウド上の図面データを閲覧できるようになりました。従来は通信可能な低層階への移動に毎日3時間程度を要していましたが、全フロアWi-Fi化により労働生産性が大幅に向上しました。
参考)https://www.furuno.com/special/jp/waveguidelan/case/
現場事務所とマンションが100m以上離れた建設現場では、長距離通信が可能な「ホップワイドLAN」を使用し、回線工事が困難な状況でも高層階にWi-Fi環境を構築しました。設置作業時間はわずか1時間程度で、工事費のコストを大幅に削減できました。また、タブレットアプリを活用した施工管理ツールの導入が可能となり、コミュニケーション改善だけでなく業務効率も向上しました。トンネル掘削工事の現場では、電波伝搬の障害物となる台車や重機が多い環境でも、長距離通信可能な無線LANシステムを導入して通信課題を解決しています。
不動産管理業界では、広域Wi-Fi「IEEE 802.11ah」を活用した管理業務の効率化と物件価値向上に向けた実証実験が開始されています。人口減少や少子高齢化に伴う労働人口の減少、管理物件の増加を背景に、従業員の働き方改革と業務効率化のニーズが高まっています。11ah規格は、従来のLPWAでは活用できなかったカメラなどの機器が使用でき、既存の2.4GHz/5GHz帯Wi-Fiと比べて広域なエリアでも利用できる特長があります。画像や映像の送受信が可能なため、遠隔から現地の状況を確認するユースケースに適しており、物件管理の効率化や入居者の安心安全な暮らしのニーズに応えることができます。NTT西日本と竹中工務店の共同トライアルでは、3次元建物モデル(BIMデータ)と無線電波伝搬シミュレーション技術を活用し、建物完成後の無線環境を正確かつ効率的に推定することに成功しました。BIMデータを利用することで現地での計測作業を省略でき、より簡易に室内の無線環境を正確に推定できるようになっています。
参考)https://www.ntt-west.co.jp/news/2404/240424a.html