熱橋 線熱貫流率 計算方法と断熱外皮性能への影響

熱橋 線熱貫流率 計算方法と断熱外皮性能への影響

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熱橋と線熱貫流率

熱橋の線熱貫流率とは
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熱橋の定義

断熱層を貫通する構造部材など、周囲より熱伝導率が高い部分

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線熱貫流率の意味

熱橋長さ1mあたりの熱損失を表す数値(単位:W/mK)

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外皮性能への影響

熱橋による熱損失は建物全体の断熱性能を大きく低下させる

熱橋の基本概念と建築物への影響

熱橋(ヒートブリッジ)とは、建築物の外皮において周囲の材料よりも熱伝導率が高く、熱が伝わりやすい部分を指します。鉄筋コンクリート造の柱や梁、木造住宅の構造材など、断熱層を貫通する構造部材がこれに該当します。線熱貫流率(Ψ値)は、この熱橋部分を通じて失われる熱量を、熱橋の長さ1メートルあたりで表した値です。
参考)https://www.kenken.go.jp/becc/documents/house/3-3_220401_v18.pdf

熱橋が建築物に与える影響は深刻です。断熱性能の低下により、冬季は室内の熱が外部へ逃げ、夏季は外気の熱が室内に侵入しやすくなります。さらに、熱橋部分では温度差により結露が発生しやすく、構造材の腐食や劣化を招く可能性があります。木造住宅では、長期間にわたる熱の伝導による収縮と膨張の繰り返しで、構造の変形や構造用金物の劣化が進行し、耐震性の低下にもつながります。
参考)https://www.daitojyutaku.co.jp/blog/2540/

省エネルギー基準における外皮平均熱貫流率(UA値)の計算では、熱橋による熱損失を適切に考慮する必要があります。熱橋の影響を無視すると、実際の建物性能は計算値よりも大幅に低下する可能性があり、研究によれば熱橋による追加の熱損失は最大30%に達する場合もあります。
参考)https://www.kenken.go.jp/becc/documents/house/3-3_240401_v22.pdf

熱橋の線熱貫流率の計算方法

線熱貫流率の計算方法は、建物の構造種別によって異なります。木造の場合、熱橋の線熱貫流率Ψjは基本的に0 W/mKとされますが、直交集成板(CLTパネル)同士の取り合い部で断熱層を貫通する場合は0.36 W/mKとなります。これは木材の熱伝導率が比較的低いためです。
参考)https://www.kenken.go.jp/becc/documents/house/3-3_241202_v23.pdf

鉄筋コンクリート造等における線熱貫流率は、熱橋の断熱補強の有無、形状、室の配置などに応じて決定されます。例えば、外気3・室内1の境界で内断熱面同士の壁式構造の場合、断熱補強仕様1で0.80 W/mK、断熱補強なしで1.20 W/mKとなります。鉄筋コンクリート造等では構造熱橋部の線熱貫流率を3.35 W/mKとすることもできます。
参考)http://aba-shimane.or.jp/info/hourei/240730a-6.pdf

鉄骨造の場合、柱や梁の見付寸法と「外装材+断熱補強材」の熱抵抗に応じて線熱貫流率が定められています。例えば、柱見付寸法300mm以上で外装材+断熱補強材の熱抵抗が1.7 m²K/W以上の場合、線熱貫流率は0となります。より詳細な計算が必要な場合は、定常2次元伝熱計算プログラムを用いて算出することも可能です。
参考)https://www.hyoukakyoukai.or.jp/download/pdf/guide_rc_keisan.pdf

熱橋の種類と構造別の線熱貫流率特性

建築物における熱橋は、その形状と発生位置によって複数の種類に分類されます。鉄筋コンクリート造では、外壁と床スラブの取り合い部、外壁と界壁の接合部などで熱橋が発生します。熱橋の形状は、熱的境界の内外に十字型に突出する場合、熱的境界の内側に突出する場合、外側に突出する場合などがあり、それぞれで線熱貫流率の値が異なります。​
木造住宅の場合、軸組構法や枠組壁工法によって熱橋部分の面積比率が定められています。外壁では軸組構法が熱橋部17%・断熱部83%、枠組壁工法が熱橋部23%・断熱部77%の面積比率となります。床や天井、屋根についても同様に面積比率が規定されており、これらを用いて実質的な熱貫流率を計算します。
参考)https://manabou.homeskun.com/syouene/syouenehou/h28kijun-uchi/

土間床等の外周部も重要な熱橋部位です。基礎形状によらない値を用いる方法では、土間床上端が地盤面と同じか高い場合は0.99 W/mK、地盤面より低い場合は土間床上端と地盤面の高さの差に応じて0.98~3.24 W/mKの値が適用されます。基礎の断熱仕様や形状を考慮した詳細な計算方法も規定されており、より正確な評価が可能です。
参考)https://www.ecojuken.co.jp/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9/%E7%9C%81%E3%82%A8%E3%83%8D%E6%B3%95%E4%BB%A3%E8%A1%8C%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88/%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E6%96%AD%E7%86%B1%E5%9C%9F%E9%96%93%E5%BA%8A%E3%81%AE%E7%B7%9A%E7%86%B1%E8%B2%AB%E6%B5%81%E7%8E%87%E8%A8%88%E7%AE%97

熱橋対策と断熱補強の実務

熱橋対策の基本的な手法は大きく分けて二つあります。一つ目は、断熱境界の内側に露出される熱橋を断熱材でシャットアウトする方法です。例えば、木造建築で梁を貫通するボルトなどは断熱境界の内側に露出されてしまうため、発泡ウレタン断熱材を局所的に充填して対策します。二つ目は、熱橋の外側(外気側)に断熱材を施工し、そもそも熱橋に熱を伝えない方法です。
参考)https://www.yamatakekensetu.co.jp/blog/blog-106/

鉄筋コンクリート造等では、断熱補強の仕様が地域の区分によって定められています。内断熱の場合、地域1・2では断熱補強の範囲が900mm、熱抵抗の基準値が0.6 m²K/W以上必要です。外断熱の場合は地域1・2で450mm、0.6 m²K/W以上となります。RC造の熱橋部の断熱補強には専用断熱材「アキレス折返しボード」などの製品も開発されており、コンクリート同時打込みによる効率的な施工が可能です。
参考)https://www.achilles-dannetu.jp/product/orikaeshi/

外断熱工法は、熱橋対策として最も効果的な方法の一つです。構造体を丸ごと断熱材で囲むことで、柱も熱橋にならず、壁体内での結露リスクが大幅に低減されます。一方、内断熱(充填断熱)では構造部分が非断熱部分となり、熱橋の影響が大きくなりますが、気密性を高めることでその影響を減らすことができます。施工現場では赤外線カメラを用いた温度測定により、熱橋部分を可視化して対策の効果を確認することも行われています。
参考)https://www.sankohousing.co.jp/info/?blog=%E5%85%85%E5%A1%AB%E6%96%AD%E7%86%B1%E3%81%A8%E5%A4%96%E5%BC%B5%E3%82%8A%E6%96%AD%E7%86%B1%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%80%90%E8%A8%AD%E8%A8%88%E3%81%8A%E5%BD%B9%E7%AB%8B%E3%81%A1%E6%83%85%E5%A0%B1

熱橋計算の実務における留意点

外皮性能計算において熱橋の線熱貫流率を正しく評価するためには、いくつかの重要な留意点があります。まず、共同住宅等における外気に接する熱橋の線熱貫流率は、当該熱橋に隣接する住戸等の数に応じて按分する必要があります。また、基礎断熱の場合の木造および鉄骨造戸建て住宅の基礎に係る熱橋は0 W/mKとして計算できます。​
RC造の線熱貫流率の適用において、表1の数値が厳しくなるケースでは、より有利な数値を選択できる場合があります。具体的には、「断熱補強なし」欄が1近辺以下の場合は、異なる表の数値を用いた方が有利になることがあります。複数の土間床等の外周部があり、基礎の仕様等がそれぞれ異なる場合は、すべてを計算の対象とする必要があります。
参考)https://www.show3.jp/post/rc%E9%80%A0%E3%81%AE%E7%B7%9A%E7%86%B1%E8%B2%AB%E6%B5%81%E7%8E%87%E3%81%AE%E9%81%A9%E7%94%A8

定常二次元伝熱計算により線熱貫流率を求める場合、計算精度が重要です。使用するプログラムはISO 10211:2007の例題について、温度差0.1℃以内、熱流量の差0.1W/m以内となる計算精度が確保されている必要があります。計算モデルは構造熱橋部から1000mm以上の寸法とし、隅角部などの温度変化が大きい部分では計算格子の寸法をできるだけ小さく(約1mm)することが推奨されます。計算に用いる材料の熱伝導率はJIS規格に定める値、試験値、または省エネ基準技術情報で定める値を使用します。​