

日影規制は建築基準法第56条の2に基づき、中高層建築物が周辺に落とす日影を制限する規定です。1970年代のマンション建設ブームにより日照問題が頻発したことを背景に、1976年の建築基準法改正で制定されました。この規制は冬至日(12月22日頃)の真太陽時における午前8時から午後4時まで(北海道では午前9時から午後3時まで)を基準として、建築物が生じさせる日影時間を制限することで、周辺の居住環境を保護しています。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/sun-shadow-regulation
日影規制の目的は、住宅地における近隣の日照を確保し、居住環境の質を維持することにあります。規制値は地方公共団体の条例により対象区域と規制内容が決定され、敷地境界線から一定の範囲に一定時間以上の日影を生じさせないよう制限されています。建築実務においては、確認申請時に日影図を提出し、法適合性を証明する必要があります。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/toushi/20180322/180322toushi02.pdf
日影規制の対象となる建築物は、用途地域によって明確に区分されています。第一種・第二種低層住居専用地域および田園住居地域では、軒の高さが7mを超える建築物または地階を除く階数が3以上の建築物が対象です。一方、第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、準工業地域では、高さが10mを超える建築物が規制対象となります。
参考)https://www.city.kobe.lg.jp/a81042/business/todokede/jutakutoshikyoku/building/procedure/hikage.html
商業地域、工業地域、工業専用地域は原則として日影規制の適用対象外です。ただし、これらの区域外にある建築物でも、高さが10mを超えており、日影規制対象区域内に日影を生じさせる場合は「適用対象区域内にある建築物」とみなされ、規制の対象となる点に注意が必要です。用途地域の指定のない区域についても、地方公共団体の条例により規制が適用される場合があります。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/cmsfiles/contents/0000244/244711/yokuarusitumonn.pdf
日影規制の測定は、平均地盤面からの高さ1.5m、4m、または6.5mのいずれかの水平面で行われます。測定高1.5mは1階の窓中央、4mは2階の窓中央、6.5mは3階の窓中央を想定した高さです。第一種・第二種低層住居専用地域および用途地域の指定のない区域では測定高1.5mが適用され、その他の地域では4mまたは6.5mが適用されます。
参考)https://www.pivot.co.jp/post/regulation-sunshadow-keyword.html
日影時間の制限は、敷地境界線から5m超10m以内の範囲と、10m超の範囲で異なる規制値が設定されています。例えば「5-3h/4m」という表記は、測定面の高さ4mにおいて、敷地境界線から5m超10m以内で5時間以内、10m超で3時間以内の日影時間に制限することを意味します。日影図の作成には日影倍率と方位角を用いた計算が必要で、実務では専用ソフトウェアを活用することが一般的です。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-scope
日影計算の詳細な技術基準と計算方法について
日影規制には一定の緩和措置が設けられており、特定行政庁の許可により規制が緩和される場合があります。敷地が道路や河川に接している場合には、これらの規制において一定の緩和が認められます。また、建築基準法第3条に該当する既存不適格建築物や特定の用途・構造を持つ建築物については、適用が除外される限定的なケースが存在します。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-exemption
同じ敷地内に2つ以上の建築物がある場合は「1つの建築物」とみなして規制が適用され、建物が異なる用途区域にまたがる場合は最も厳しい制限を受けます。増築や用途変更に伴い、規制対象となる高さや階数の基準を超える場合には、日影規制適用の再判定が必要となるため注意が必要です。都市再生特別地区においても地区外に対する日影規制は原則適用されますが、一部条件下では例外が認められる場合があります。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/toushi/20170210/170210toushi03.pdf
日影規制は建築設計の初期段階から考慮すべき重要な要素であり、基本設計段階でボリュームスタディを行い、規制内に収まる建物形状を検討する必要があります。実施設計では、正式な日影図(時刻日影図と等時間日影図)を作成し、規制内容に適合しているかをミリ単位で厳密にチェックします。確認申請時には、これらの図面を添付し法適合性を証明しなければならず、不備があると確認済証が交付されません。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/architecture-shadow-regulation
建物の高さや配置計画は日影規制によって大きく制約を受けるため、敷地の形状や周辺環境を十分に調査することが重要です。特に計画地から約50m圏内の用途地域と日影規制を調査し、東側・北側・西側の規制が計画地より厳しい場合には、影が落ちる可能性を考慮した設計が求められます。近年では、土地情報を入力するだけで日影規制も考慮した消化容積を自動計算できるシステムも普及しており、設計効率の向上に貢献しています。
参考)https://a-kamioka.com/column/sky-factor/sunshade-calculation/
実務で役立つ日影計算の基本と確認申請の進め方
一般的な木造2階建て住宅は高さ10m未満に収まることが多く、日影規制の対象外となるケースが多いものの、3階建て住宅では規制対象となる可能性があります。第一種・第二種低層住居専用地域や田園住居地域では、3階建て以上または軒高7m超で規制対象となるため、設計時の注意が必要です。また、5m以内にある隣地の日照は考慮されない点も重要なポイントです。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-target-buildings
日影規制が適用外の場合でも、近隣への日照配慮は民事上の問題として残ります。日照権は法律に明文化されているわけではなく、慣習として判例で認められているため、規制をクリアしても近隣トラブルに発展する可能性があります。複数の日影規制の制限がある場合は最も厳しい制限を受けることになるため、用途地域の境界に近い敷地では特に慎重な検討が必要です。
参考)https://sell.yeay.jp/reading/knowledge/10075/
建築実務における日影規制の確認は、地方公共団体の建築指導課(建築審査課)の窓口でヒアリングするか、「◯◯市 日影規制」とインターネット検索することで確認できます。条例による規制内容は自治体ごとに異なるため、計画地を管轄する特定行政庁への確認を徹底することが、トラブルを回避する最も確実な方法です。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-types
神戸市における日影規制の詳細な運用基準
日照権問題解決の理論と実務―法律・評価・税務から日影規制・日影図の知識まで (1980年)