

南面の窓に日射遮蔽型ガラスを使うと、冬の暖房費が取得型に比べて年間で数万円規模の損失につながることがあります。
建築の現場では「Low-Eガラスを入れれば省エネになる」という認識が広まっています。ただ、Low-Eガラスにはまったく異なる性格を持つ2種類があり、使い分けを間違えると逆効果になります。その2種類とは「日射遮蔽型」と「日射取得型」です。
日射遮蔽型は、太陽の熱線を室内に入れにくくするガラスです。Low-E金属膜が室外側のガラス面にコーティングされており、日射熱取得率(η値)は概ね0.49以下に設定されています。夏場の室温上昇を抑えたい窓、とくに東面・西面の開口部に使うことで冷房負荷を減らす効果があります。
一方の日射取得型は、太陽の熱を積極的に室内へ取り込むことを目的としたガラスです。Low-E金属膜が室内側にコーティングされており、η値は0.50以上になります。冬に南側の窓から太陽熱を室内へ届け、暖房エネルギーの消費を自然に抑える役割を持ちます。
つまり「遮蔽型=夏向き・東西向き」「取得型=冬向き・南向き」が基本原則です。
重要なのは、日射取得型・遮蔽型の区分は「Low-Eコーティング面が室内側か室外側か」という位置だけで決まるわけではないという点です。板ガラス協会の見解によれば、正式な区分はJIS R3106に基づく日射熱取得率の数値で判断され、0.50以上が取得型、0.49以下が遮蔽型とされています。サッシ業者でさえコーティング位置だけで判断してしまい、搬入間違いが起きた事例も報告されています。
現場では品番・刻印・仕様書の3つを必ず確認することが原則です。
| 種類 | コーティング位置 | η値(目安) | 適した方位 |
|---|---|---|---|
| 日射取得型 | 室内側(断熱タイプ) | 0.50以上 | 南面 |
| 日射遮蔽型(断熱タイプ) | 室内側 | 0.49以下 | 東・西・北面 |
| 日射遮蔽型(遮熱タイプ) | 室外側 | 0.49以下 | 東・西面(西日対策) |
日射遮蔽型には「断熱タイプ(室内側コーティング)」と「遮熱タイプ(室外側コーティング)」の2種類が存在します。ここが混乱を生む最大のポイントです。日射取得型は断熱タイプしかないという点も覚えておきましょう。
板ガラス協会の日射熱取得率に関する技術解説はこちらが参考になります。
「省エネ住宅にするなら全窓をハイグレードな遮蔽型にすればいい」と考える設計者は少なくありません。しかしこの判断が、冬の暖房費を大幅に押し上げる結果につながることがあります。
南面の窓に日射遮蔽型ガラスを使った場合、冬の太陽熱のほとんどが室内に入ってきません。日射熱取得率がたとえば0.30のブルーガラス系と0.57の取得型では、取得できる日射量が約2倍近く変わります。松尾設計室の解説によれば、1間幅(約1.8m)高さ2mの掃き出し窓1枚で、晴天時に約600Wの日射熱が室内に入ります。電気ストーブ1台分に相当する無料の熱エネルギーを、ガラス選定ミスで遮断してしまうことになります。
暖房費への影響は、地域と窓面積によっては年間数万円規模の差が出るケースもあります。
南面は日射取得型(または断熱Low-E型)が基本です。
東面・西面は話が逆になります。東面は朝の直射日光が室内に差し込み、夏場に室温を急上昇させます。西面は午後から夕方にかけて水平に近い角度で強烈な日差しが入り込むため、冷房負荷への影響が最も大きい方位です。これらの面には日射遮蔽型ガラス(遮熱タイプ)を使うのが適切です。
北面については、日射熱取得・遮蔽の効果よりも断熱性(熱貫流率=U値)と採光の確保を優先して選ぶのが一般的です。ただし、松尾設計室の指摘によれば「北面でも夏の午後3時以降に西日が回り込む場合があるため、遮熱Low-Eを採用する合理性がある」とされています。
結論はシンプルです。ガラス種類と方位の組み合わせが、省エネ設計の出来を左右します。
方位別のガラス選定と省エネ基準の関係について、LIXILのプロ向け資料が詳細に解説しています。
LIXIL ビジネス情報:ガラス・建具ごとの日射熱取得率(PDF)
2025年4月の改正建築物省エネ法施行により、原則としてすべての新築住宅・非住宅で「省エネ基準適合」が義務化されました。これは設計・施工に関わる建築業従事者にとって、ガラス選定のミスが確認申請の通過にも直結する時代が来たことを意味します。
省エネ基準では、日射に関する評価指標として「冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)」と「暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)」が使われます。これらは窓のガラスだけでなく、サッシフレームの面積や庇・外付け遮蔽部材の有無も加味して計算されます。
ηAC値は小さいほど夏の日射を遮る性能が高く、ηAH値は大きいほど冬の日射を取り込みやすいことを示します。この2つが相反する性格を持つことが、設計の難しさであり面白さでもあります。
住宅省エネ基準でのガラスの日射区分は、JIS R3106に基づくガラス単体の日射熱取得率が0.50以上なら「日射取得型」、0.49以下なら「日射遮蔽型」と分類されます。この数値は計算ルート選択にも使われます。
計算ルートは主に以下の3つがあります。
ルート2・3を使う場合は、メーカーが提供する製品ごとのη値データが必要です。YKK APやLIXILなどのサッシメーカーは省エネ基準対応の製品性能一覧を公開しているため、設計段階でダウンロードして活用するのが効率的です。
省エネ性能が基準を満たさない設計のまま確認申請を出せば、不適合として差し戻されます。ガラス選定と計算根拠のダブルチェックは、設計完了前の必須工程です。
国土交通省が公表している省エネ基準の公式解説資料です。計算方法の詳細が確認できます。
国土交通省:住宅の省エネルギー基準と評価方法2023(PDF)
ガラスの種類を正しく選んでも、それだけで日射制御が完結するわけではありません。これが多くの設計者が見落としがちな盲点です。
夏の強い日射を「ガラスの性能だけ」で遮ろうとすると、どうしても限界があります。たとえば遮熱Low-E(η値0.30程度)であっても、日射を30%は室内に通してしまいます。特に西面や南面の大開口部では、このわずかな透過熱でも室温への影響は無視できません。
日射遮蔽の基本は「外で遮る」ことです。
庇(ひさし)はその代表的な手段で、窓の高さの1/3程度の出幅が一般的な目安とされています。高さ2mの掃き出し窓であれば、約60cmの庇出幅が夏至の太陽高度(約78度)に対して有効です。ただし残暑が続く9月中旬は太陽高度が約55度まで下がるため、セオリー通りの庇では遮り切れないケースもあります。庇を深めに設計するか、外付けの可動式遮蔽と組み合わせることで対応できます。
外付けブラインドはガラス面に日射が到達する前に遮断できるため、室内側カーテンより効果が高いとされています。三和シャッターの「マドモアF」やドイツ製の「Warema(ヴァレーマ)」などが実務での採用例として知られています。
注意が必要なのは、庇の出幅が1mを超える場合は建築面積に算入されることです。設計段階で法規チェックが必要になります。
日射遮蔽と取得のバランスを整理すると、以下の組み合わせが実務での基本形になります。
複合的な対策がなければ、高性能ガラスの効果は半減します。これは設計の基本原則です。
庇・外付けブラインドの設計基準について、松尾設計室による実務向けガイドラインが参考になります。
これは検索上位の記事ではあまり掘り下げられていない論点ですが、実務上の影響は大きいテーマです。
「省エネ仕様=全窓を遮蔽型に統一」という思い込みは、街中の住宅でも見られます。南側の窓ガラスがグリーンや青みがかった色をしていれば、ほぼ確実に遮蔽型が入っています。一見すると省エネへの意識が高く見えますが、冬の暖房費という観点では大きな損失を生んでいる可能性があります。
遮蔽型と取得型の日射熱取得率の差は数値で見ると明確です。YKK AP APW430(トリプルガラス)の場合、日射取得型ニュートラルのη値が57%、日射遮蔽型ニュートラルが47%、日射遮蔽型ブルーが30%です。南面に遮蔽型ブルーを全窓に採用してしまうと、取得型と比べて取り込める日射量がおよそ半分以下になります。
これは暖房費に直結します。
松尾設計室の解説によれば、晴れた日に南面の1間幅×高さ2mの掃き出し窓1枚から600Wの日射熱が入ります。この熱は「無料の暖房」として機能するため、遮蔽型ガラスでこれを遮断してしまうことは、本来得られたエネルギーを無駄にしていることになります。
一方でオーバーヒートのリスクも考慮が必要です。エスネルデザインの事例では、日射取得量が最大化された設計の住宅では、住まい手がシェードや外付けブラインドをこまめに操作しないと夏も冬もオーバーヒートしやすいという問題が報告されています。「計算上の省エネ」と「実際の快適性」が乖離するケースです。
この問題を解消するために注目されているのが「日射遮蔽型ニュートラルガラス」という選択です。
「日射取得を最大化すれば省エネ」という一本道の発想から離れ、住まい手の手間・快適性・熱収支のバランスを総合的に考えた設計が求められます。これが本当の意味での「ガラスの使い分け」です。設計者の判断が、住まい手の毎月の光熱費と生活の快適さに直接影響することを忘れないようにしたいところです。
オーバーヒートリスクと窓設計の判断基準について、エスネルデザインの詳細な検証記事が参考になります。
エスネルデザイン:窓設計『日射遮蔽・取得のバランス。ガラス種と窓量』

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