

解体が始まった今、リングの木材は新品の10分の1の価格で手に入ります。
2025年10月の大阪・関西万博閉幕後も、「大屋根リング」を海上から鑑賞できるクルーズが運航されています。ユニバーサルシティポートを発着点とし、夢洲を一周しながら大屋根リングや大阪湾を巡る約60分の特別航路です。
チケット料金は3,300円(税込)。所要時間は約60分で、乗船は出航30分前から開始されます。実際に参加した方の声によれば、開始1時間前には並んでいる人がいるほど人気があります。席は自由席ですが、ABC三班に分かれた入れ替え制でデッキに上がれる仕組みになっており、座席に関係なく全員が大屋根リングを正面から眺められるよう工夫されています。
建築業に従事する方がこのクルーズに乗る意義は大きいです。陸上では構造の細部まで近づいて確認できますが、海上からは全長2kmにわたるリング全体のフォルムを一望でき、スケール感を体感できます。地上では気づきにくい「リングが護岸からどれだけせり出しているか」「屋根の勾配がどのように見えるか」という建築的視点での観察が可能です。
建物の全体像を「引き」で見る機会は、現場作業中にはほとんどありません。クルーズはその貴重な視点を与えてくれます。
予約はWATER CITY PORTAL(ウォーターシティポータル)またはユニバーサルクルーズの公式サイトから行えます。2026年2月現在も運航が継続されているため、解体が本格化する前に乗船するなら早めの予約がおすすめです。
参考リンク(大屋根リングクルーズの運航情報・予約先)。
ユニバーサルクルーズ公式サイト|大屋根リングクルーズ予約・運航スケジュール
大屋根リングとは、大阪・関西万博会場(夢洲)を囲む一周約2kmの円形木造建築物です。2025年3月4日に「最大の木造建築物(The largest wooden architectural structure)」としてギネス世界記録に認定されました。建設費はおよそ350億円にのぼります。
スペックを数字で整理すると、内径約615m・外径約675m・幅約30m・高さ最大約20m・延床面積61,035㎡となっています。延床面積の61,035㎡は東京ドームのグラウンド面積(約13,000㎡)の約4.7倍に相当します。つまり東京ドームのグラウンドがほぼ5個分入る木造回廊が夢洲の海沿いに浮かんでいる、そういうイメージです。
109個の木架構ユニットを円形につなぎ合わせた構造で、全体を3工区に分けて竹中工務店・大林組・清水建設の大手ゼネコン3社が分担して建設しました。各工区で貫接合の工法が微妙に異なり、工区境目を歩いて比べることで3社の技術的個性を確認できるのも建築好きにとっては面白いポイントです。
設計は会場デザインプロデューサーの藤本壮介氏が担当し、基本設計は東畑・梓設計共同企業体が手がけました。世界最大であるというだけでなく、伝統と現代技術の融合という建築的テーマを備えた構造物であることが、この建物を単なる「万博施設」以上の存在にしています。
つまり、建築史に残る実験場だったということですね。
大阪・関西万博公式サイト|大屋根リングの構造・ギネス認定情報
大屋根リングに採用された「貫接合(ぬきせつごう)」は、清水寺の舞台や神社仏閣の柱組みにも使われてきた日本の伝統的な木造接合技術です。柱に穴を開けて横木(梁・貫材)を差し込み、木製の楔(くさび)で締め固めるというシンプルな構造で、釘やボルトに頼らず木材同士を噛み合わせます。
ところが、この伝統工法をそのまま高さ最大20m(5階建てビル相当)の現代建築に転用すると、現行の耐震基準を満たせません。大地震の際に楔が梁にめり込み、接合部が緩むリスクがあるためです。
竹中工務店(西工区)の技術チームはこの課題に正面から向き合い、①柱と梁の接触面積を拡大して応力集中を緩和、②鉄製楔を採用して木製楔より確実な締め付けを実現、③梁内部にラグスクリューボルト(鋼棒)を突っ張り棒として設置してめり込みを抑制、④貫内部に鋼板を挿入してせん断変形を抑制——という4段階の補強を施しました。
その結果、開発した3タイプの貫接合は、伝統的な貫接合に比べて回転剛性が最大で約6倍に向上しました。目標としていた「5倍向上」をも超える数字です。
それでも外部にボルトを露出させず、柱・梁・楔だけが見える伝統美を維持しています。これは使えそうです。
建築業に従事する方がこのデータから学べることは、「伝統工法=性能が低い」という思い込みの誤りです。適切な構造解析と補強設計を組み合わせれば、古来の工法が現代の高性能建築の核となり得ることを、世界最大の木造建築が証明しました。
竹中工務店|大屋根リング(西工区)貫接合の継承と進化(構造設計の詳細)
大阪・関西万博は2025年10月13日に閉幕し、大屋根リングの解体作業は同年12月1日から本格化しました。建設を担った大林組・竹中工務店・清水建設の大手ゼネコン3社を中心とした共同企業体が解体も担当しており、保存が決定している北東部分の約200mを除き、2027年8月までに撤去が完了する予定です。
解体後の木材再利用については、いくつかの注目すべき事実があります。まず、木材の量は約27,000m³(25mプール約70杯分)ありますが、再利用の見通しは全体の「8分の1」程度にとどまっています。当初の想定「4分の1」から半減した形です。木材価格の下落が需要減の一因とされています。
さらに、日本国際博覧会協会は再利用木材の出品単価を新品の10分の1程度の廉価に設定し、解体費用も協会側が負担するという方針を示しました。建設費350億円をかけた世界最大の木造建築の木材が、新品の10分の1で手に入る。厳しいところですね。
一方でポジティブな動きもあります。愛媛県は大屋根リングの木材(県産材が約8割を占める部分)を無償で譲り受け、2026年開催の第76回全国植樹祭の歩道として再利用することを決定しました。また、鹿島建設は解体木材の一部(全体の約3%分)を、横浜で開催予定の2027年国際園芸博覧会に出展する高さ約60mの木造タワー「KAJIMA TREE(仮称)」の部材として再生する計画を発表しています。
建築業の視点でいえば、解体木材の調達機会は今後限られた期間にしか存在しません。竹中工務店が西工区で実現した「楔を外すだけで梁を抜き取れる解体設計」は、リユースを前提とした構造エンジニアリングの先進例として注目に値します。
全長2kmのうち北東部分の約200m(全体の約1割)は、万博の記憶を伝えるランドマークとして保存される方針が固まっています。大阪府・市と万博協会の議論の末に決まったこの保存計画は、1970年大阪万博後の「太陽の塔」に続くレガシー継承の流れを汲むものです。
保存される約200mは、来場者が上がって歩ける形での活用が検討されています。ただし改修費用は最大76億円にのぼるとの報道もあり、費用対効果の検証が続いています。
注目すべきは、夢洲そのものの今後の開発計画です。万博会場跡地は2028年2月までに大阪市へ返還される予定で、その後はIR(統合型リゾート)事業の第2期区域工事が本格化します。大林組と竹中工務店がすでに第2期区域での受注活動を進めており、夢洲は今後数年にわたる大規模建設需要の発生地となります。
大屋根リングの保存区画は、こうした夢洲の再開発の中で新しいシンボルになることが期待されています。建設業界にとって夢洲は「万博が終わった場所」ではなく、「次のプロジェクトが集まる場所」として捉えるべきエリアです。建築業の仕事は大屋根リングで終わりではありません。これが原則です。
解体から保存・再開発という一連の流れを把握しておくことは、今後の受注機会をつかむうえで建築業従事者にとって欠かせない情報です。夢洲の最新動向については日経アーキテクチュアなどの建設専門メディアで継続的に報じられているため、定期的な確認を習慣にしておくと見落としがありません。
日経クロステック|大屋根リング200m残置と夢洲の記念公園・IR開発の最新動向(2026年2月)