
2025年4月施行の建築基準法改正では、木造住宅の耐震基準が大幅に見直されました。最大の変更点は、壁量計算における必要壁量の算定方法です。従来の「軽い屋根」「重い屋根」という単純な区分を廃止し、屋根・外壁・太陽光パネルの仕様、階高、床面積比など建築物の荷重の実態に応じて算定する方式へ移行しました。
参考)[2025年法改正] 4号特例見直し、構造基準の改正
この改正の背景には、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化による住宅の重量増加があります。高性能断熱材、樹脂サッシやLow-E複層ガラスなどの高性能窓、太陽光パネルの搭載により、従来の基準では耐震安全性を適切に評価できなくなったためです。
参考)【2025年】木造住宅の耐震基準はどう変わった?1981年2…
新基準では算定式による方法、早見表による簡易確認方法、許容応力度計算による方法の3つから選択できます。国土交通省は表計算ツールや早見表を提供しており、建築事業者はこれらを活用することで新基準への対応がスムーズになります。
参考)https://www.howtec.or.jp/smarts/index/441/
日本の耐震基準は大地震を契機に段階的に厳格化されてきました。1950年の建築基準法制定以降、1971年、1981年、2000年と3回の大改正が実施されています。
参考)耐震基準が改正されたのはいつ?耐震性と築年数は関係する?|栃…
1981年6月施行の新耐震基準では、1978年の宮城県沖地震を教訓に「震度5強程度の中規模地震で軽微な損傷」「震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊しない」という二段階の設計概念が導入されました。2000年の改正では、1995年の阪神淡路大震災を受け、木造住宅の地盤調査義務化、接合部金物の指定、耐力壁の配置バランス規定などが追加されました。
参考)旧耐震・新耐震基準とは?耐震基準の違いや見分け方を解説
2024年の能登半島地震では、旧耐震基準で約19%、新耐震基準で約5%、2000年基準でも0.5%の建物が倒壊・崩壊しました。この結果は建築年代が耐震性能に直結することを示しており、最新基準でも設計・施工の精度や維持管理の重要性が再認識されています。
参考)耐震等級3は必須なのか|「能登半島地震」クラスの地震に備える…
令和6年能登半島地震の建築物構造被害について(国土交通省)- 被害状況の詳細データと構造種別ごとの被害分析
長期優良住宅の耐震等級要件も2025年4月改正で変更されました。改正後は「壁量計算または許容応力度計算で耐震等級2以上」が条件となり、以前の「壁量計算の場合は耐震等級3」という要件が緩和されています。
参考)長期優良住宅認定に必要な耐震等級の新基準とは|2025年4月…
これは2025年4月の壁量基準見直しにより、新しい壁量計算自体が従来より厳格化されたためです。新基準の壁量計算による耐震等級2は、旧基準の耐震等級3に相当する安全性を確保できると評価されています。
参考)【2025最新】ZEH水準以上&耐震等級3取得が推奨?長期優…
ただし、建築事業者としては顧客への説明において、耐震等級3の取得を推奨すべきです。耐震等級3の住宅は地震保険料が50%割引となり、35年間で約35万円の差額が生じます。熊本地震や能登半島地震でも耐震等級3の建物は被害が少なく、実績面でも優位性があります。
参考)耐震等級3は地震保険料が50%割引となる|必要書類や注意点を…
2025年4月の改正では、4号特例の大幅な見直しも実施されました。従来の4号建築物は「新2号建築物」と「新3号建築物」に二分され、木造2階建て住宅や延べ面積200㎡超の木造平屋建ては新2号建築物として審査省略制度の対象外となりました。
参考)2025年建築基準法改正で家づくりはどう変わる?改正内容を解…
建築事業者にとって重要な実務対応は以下の通りです。
✅ 確認申請図書の拡充:構造関係規定図書と省エネ関連図書の提出が必須となり、従来省略できた図書も提出が必要です
参考)【2025年4月開始】4号特例の見直しとは?内容や影響、備え…
✅ 設計体制の見直し:壁量計算の算定式や表計算ツールの習熟、許容応力度計算への移行検討が求められます
参考)【2025年4月】施主への影響は?「建築基準法」の改正(4号…
✅ 工期管理の調整:確認申請の審査期間が延びる可能性があり、着工スケジュールの見直しが必要です
許容応力度計算を採用する場合、新基準による壁量計算の影響を受けないため、設計の自由度と安定性が確保できます。
4号特例が変わります(国土交通省)- 改正内容の公式説明資料
2025年改正の注目点の一つが、準耐力壁等の算入可能化です。従来は耐力壁のみで壁量計算を行っていましたが、新基準では準耐力壁等を必要壁量の1/2以下まで存在壁量に算入できるようになりました。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001753667.pdf
準耐力壁の壁倍率は、材料の基準倍率に面材高さの合計と横架材間内法寸法の比率を乗じて算出します。例えば構造用合板(基準倍率2.5)で面材高さ210cm、横架材間内法寸法260cmの場合、壁倍率は約1.2倍となります。
参考)【最新】2025年建築基準法の施行について|MDFとの関係も
また、壁倍率の上限が従来の5倍から7倍へ引き上げられ、高耐力壁の使用が可能になりました。構造用MDFは特殊な金物を使わずに大壁で4.3倍、真壁で4.0倍という高い壁倍率を実現できます。
この変更により設計の柔軟性が向上し、開口部の多い現代的なプランでも必要壁量を確保しやすくなりました。建築事業者は準耐力壁と高耐力壁を戦略的に組み合わせることで、コストと性能のバランスを最適化できます。
参考)2025年ZEH水準の構造基準改定!省エネ化に伴う住宅の重量…
既存建築物の耐震化も重要な課題です。2025年度も多くの自治体で耐震診断・耐震改修の補助制度が継続されています。昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた木造住宅が主な対象で、耐震診断の結果評点1.0未満の建物を1.0以上に改修する工事が補助対象となります。
参考)住まいの耐震診断・耐震補強/泉佐野市
補助金額の例として、大阪市では耐震改修工事に最大100万円(補助率1/2)、泉佐野市では耐震設計補助が上限10万円、耐震改修補助が上限70万円(所得制限により最大90万円)となっています。
参考)大阪市:民間戸建住宅等の耐震診断・改修等補助制度 (…href="https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000370839.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000370839.htmlgt;災害…
建築事業者が顧客に提案する際のポイントは以下の通りです。
📌 補助金申請のタイミング:工事着手前に交付決定を受ける必要があり、交付決定前の契約は補助対象外です
参考)住宅の耐震化に関するよくある問い合わせQhref="https://www.city.yokkaichi.lg.jp/www/contents/1735191248351/index.html" target="_blank">https://www.city.yokkaichi.lg.jp/www/contents/1735191248351/index.htmlamp;A
📌 耐震診断の段階的実施:一般診断から精密診断へ進め、補強工事のプランと概算費用を検討します
参考)工場・倉庫の耐震基準と耐震診断
📌 複合的な改修提案:耐震改修と省エネ改修を同時実施することで、総合的な住宅性能向上とコスト効率化を図れます
参考)https://www.mdpi.com/2071-1050/16/8/3465/pdf?version=1713688956
民間戸建住宅等の耐震診断・改修等補助制度(大阪市)- 令和7年度の補助内容と申請締切
2025年4月の建築基準法改正は、建築物省エネ法の省エネ基準適合義務化と密接に関連しています。すべての新築住宅に断熱等級4(UA値0.87以下)以上が義務付けられ、長期優良住宅では断熱等級5(ZEH水準相当、UA値0.60以下)と一次エネルギー消費量等級6が必要です。
省エネ化による重量増加が耐震基準改正の主要因です。高性能サッシ、厚い断熱材、太陽光パネルの搭載により建物重量が増加し、相対的な耐震性能が低下するリスクが指摘されていました。新基準では建築物の実荷重に応じた壁量算定により、省エネ性能と耐震性能の両立が図られています。
参考)【建築業界の2025年問題】2025年4月より施行される「改…
建築事業者は以下の統合的アプローチが求められます。
🏠 設計段階での最適化:省エネ性能向上による重量増を見込んだ構造設計の実施
参考)2025年建築基準法改正| 壁量計算・柱の小径の新基準を詳し…
🏠 コスト管理:断熱材・サッシのグレードアップと構造材の増加によるコスト上昇の見積もり
🏠 顧客への説明:省エネ基準と耐震基準の関係性、長期的なメリット(光熱費削減、地震保険料割引)の明確化
2030年には省エネ基準がさらにZEH基準レベルへ引き上げられる予定であり、建築事業者は継続的な技術習得と体制整備が必要です。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf
新耐震基準への対応は、建築事業者にとって差別化の機会でもあります。能登半島地震や熊本地震の被害状況から、顧客の耐震性能への関心は極めて高まっています。
参考)【暴露シリーズ】なぜ「新耐震基準」が倒壊?能登・熊本地震の被…
建築事業者が競争優位性を確保するための戦略として以下が有効です。
⭐ 耐震等級3の標準化:最低基準ではなく耐震等級3を標準仕様とすることで、安全性と保険料メリットを訴求
⭐ 許容応力度計算の採用:壁量計算より精密な構造計算により、設計の自由度と信頼性を向上
⭐ 構造見学会の実施:接合金物、耐力壁の配置、基礎構造などを施主に見せることで技術力をアピール
参考)新耐震基準はいつから?耐震等級との違いや旧耐震基準からの変化…
⭐ 長期保証の提供:構造性能への自信を示す長期保証制度の整備
参考)長期優良住宅の耐震等級は?基準や過去の改正ポイントを解説しま…
意外な視点として、旧耐震基準建物のリノベーション市場も注目すべき分野です。耐震改修補助金を活用した既存住宅の再生事業は、新築市場の縮小を補完する事業機会となります。中古住宅購入時の耐震診断サービスや、段階的な耐震改修プランの提案など、顧客のライフステージに応じた柔軟なサービス展開が可能です。
参考)耐震基準について|新耐震基準とは?
壁量等の基準(令和7年施行)設計支援ツール(一般財団法人日本建築防災協会)- 壁量計算や柱の小径等の設計支援ツールの使い方解説