
座屈拘束ブレースは、軸力を負担するH形断面の鉄骨芯材、座屈拘束材(鋼管)、および鉄骨芯材と座屈拘束材の間に充填されたモルタルで構成される革新的な構造部材です。
従来の鉄骨ブレースでは、圧縮力を受けた際に座屈現象が発生し、急激な耐力低下を引き起こします。座屈とは、柱や梁などの構造部材が外力を受けた時、ある力を超えると急激に曲がる現象で、建築物の崩壊につながる重大な問題です。
座屈拘束ブレースの効果メカニズムは以下の通りです。
鉄骨芯材は中央の塑性化部と両端の補強部に分けられ、補強部は鋼板によって補強されています。座屈拘束材内のモルタル充填部には鋼製型枠を用いて空洞が設けられ、鉄骨芯材が圧縮変形した時に補強部が充填モルタルに干渉することを防止する精巧な構造となっています。
座屈拘束効果を活用した建築物では、従来工法では達成困難な高い耐震性能を実現できます。特に鉄骨造建物において、その効果は顕著に現れます。
耐震性能向上の具体的効果
座屈拘束ブレースは圧縮軸力下において引張軸力時と同等の耐力及び塑性変形能力を発揮し、以下の性能を有します。
エネルギー吸収能力の優位性
実験結果から、座屈拘束ブレースは安定した履歴曲線を示し、圧縮方向及び引張方向に安定した高いエネルギー吸収能力を有することが立証されています。この特性により、地震時の建物に作用するエネルギーを効率的に吸収し、主要構造部材の損傷を防ぐことができます。
安藤ハザマの座屈拘束ブレース技術に関する詳細情報
https://www.ad-hzm.co.jp/solution/disaster/detail_10/
座屈拘束効果を構造計画に反映することで、比較的少ないブレース設置構面数で安全性を確保できる合理的な構造計画が可能となります。これにより「安全性」「機能性(空間デザイン性)」「経済性」の構造計画の3要素をバランスよく発揮できる範囲が広がります。
構造計画における具体的メリット
K型ブレース集中配置の効果
K型ブレース集中配置において座屈拘束ブレースを使用することで、特に効果的な構造計画が実現されます。研究結果によると、一般ブレースでは座屈を生じる比較的小さな断面でも座屈を生じないこと、降伏後も安定した繰り返し履歴を保持することなどの利点があります。
長期的な信頼性向上
静的な耐震性能評価では座屈拘束ブレースと一般ブレースに大差がない場合もありますが、繰り返しに対する安定挙動は、何度も繰り返される大地震に遭遇した場合の構造計画における安全性確保の信頼性向上につながります。
座屈拘束ブレースは耐震部材としてだけでなく、制振部材としても優れた性能を発揮します。制振システムとして活用する場合、塑性領域まで変形することにより建物に作用する地震エネルギーを吸収する仕組みです。
制振タイプの特徴と効果
制振タイプの座屈拘束ブレースは以下の特性を持ちます。
制振設計における材料選択
制振用途では建築構造用圧延鋼材および低降伏点鋼材が使用され、耐震用途では低降伏点鋼材が選択されます。この材料特性の違いにより、用途に応じた最適な性能を発揮できます。
BCP(事業継続計画)への貢献
制振構造の建物に使用された座屈拘束ブレースは、建物利用者の安全安心やBCPに大きく寄与します。大地震後も建物機能を維持し、事業継続を可能とする重要な技術です。
大成建設のH形断面座屈拘束ブレース開発に関する技術資料
https://www.taisei.co.jp/tact/tr/2022/paper/A055_027.pdf
座屈拘束ブレースの導入において、施工業者が注意すべき重要なポイントがあります。特に現場施工における品質管理と安全確保は、座屈拘束効果を最大限に発揮するための必須要件です。
製作・施工における品質管理
フジタ式座屈拘束ブレース(FIRSTブレース)は、製作工場のみならず建設現場でも組立可能な低コストで高性能な座屈拘束ブレースとして開発されています。現場施工時の品質管理ポイントは以下の通りです。
構面外変形への対策
座屈拘束ブレースは構面内方向の地震力に対して優れた性能を発揮しますが、構面外方向の変形に対する配慮も重要です。施工時には以下の点に注意が必要です。
安全管理と作業効率の両立
現場施工においては、座屈拘束ブレースの重量や寸法を考慮した安全管理体制の構築が不可欠です。また、工期短縮と品質確保を両立するための施工計画立案も重要な要素となります。
検査・試験項目の実施
建築技術性能証明に基づく検査項目の確実な実施により、設計性能の確保を図ります。特に繰り返し載荷に対する履歴特性の確認は、長期的な構造性能維持のために重要です。
千葉大学における座屈拘束ブレース研究の詳細
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/102166/TLA_0244.pdf
座屈拘束効果を活用した建築技術は、従来の構造設計概念を革新し、より安全で経済的な建築物の実現を可能とします。施工業者としては、この技術の特性を十分に理解し、適切な施工管理を行うことで、建築物の長期的な安全性と機能性を確保できます。特に大型物流施設やオフィスビル、研究施設等での採用実績が増加している現在、座屈拘束効果を正しく理解し活用することは、競争力強化につながる重要な技術といえるでしょう。