酢酸ブチルの沸点と引火点と性質と用途と有機溶剤情報

酢酸ブチルの沸点と引火点と性質と用途と有機溶剤情報

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酢酸ブチルの沸点

酢酸ブチルの沸点と建築現場のポイント
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物性値の押さえどころ

代表的な沸点126℃前後と蒸気圧、引火点22℃など、設計・施工計画で前提にすべき基礎データを整理します。

[1][2][3][4]
⚠️
火災・爆発リスク

消防法で第4類・第2石油類に区分される理由と、沸点だけでは読み取れない危険性を具体的な数値から読み解きます。

[5][6][7][8]
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建築従事者の実務視点

塗装・防水・接着など現場用途ごとに、乾燥性・臭気・換気設計・代替溶剤選定への影響を、沸点との関係から整理します。

[9][10][11][12][13]

酢酸ブチル 沸点と物性値の基礎データ

 

酢酸ブチル(n-ブチルアセテート)は常温常圧で果実様のにおいをもつ無色の液体で、有機溶剤として各種樹脂や塗料、接着剤などに広く用いられています。[10][9]
代表的な沸点は約126℃前後で、各種データベースではおおむね120〜126.5℃の範囲で記載されており、標準的な有機溶剤としては中程度の沸点領域に位置します。[2][3][4][1]
一方で、20℃付近の蒸気圧はおよそ1.2〜1.3 kPa(約11〜13 hPa)と、同程度の沸点をもつ溶剤の中では比較的高く、室温でも揮発しやすい性質があります。
参考)http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/02115250.pdf

水への溶解度は低く「微溶」レベルで、密度は20℃で約0.88 g/cm³と水より軽いため、漏えい時には水面に浮きやすい点にも注意が必要です。
参考)化学物質DB/Webkis-Plus 化学物質詳細情報

建築従事者が押さえておくべき代表的な物性値を表に整理します。
参考)https://www.merckmillipore.com/JP/ja/product/n-Butyl-acetate,MDA_CHEM-109652

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[10][2]

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[6][7][8][5]

[16][17][18]

項目 代表値 ポイント
沸点 約126℃ 乾燥性や溶剤残りの評価に重要。
融点 約-78〜-77.9℃ 通常の屋外施工温度では凍結の心配はほぼない。
蒸気圧(20℃) 約1.2〜1.3 kPa 室温でも蒸気が立ち上がりやすく、低所に滞留しやすい。
密度(20℃) 約0.88 g/cm³ 水より軽く、漏えい時は水面に浮く挙動をとる。
危険物区分 第4類・第2石油類(非水溶性) 消防法上は引火性液体として貯蔵量・設備基準の規制対象。
有機則区分 第2種有機溶剤 有機溶剤中毒予防規則の管理対象で、換気・保護具が必須。

意外に見落とされがちなのが、「沸点は高めだが蒸気圧もそこそこ高い」ため、常温でも長時間にわたって揮発が続き、床レベルやピットに可燃性蒸気がたまりやすいという点です。
参考)酢酸ブチル

同じ沸点帯の溶剤でも蒸気圧が低いものと比べると、臭気の立ち上がりやばく露濃度の立ち上がりが速く、局所排気の設計や作業時間の管理に差が出やすくなります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120815-01.pdf

酢酸ブチルの基本的な物性や法規制を一覧で確認できる公的データは以下が参考になります。
厚生労働省 職場のあんぜんサイト「酢酸ブチル」
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/123-86-4.html

酢酸ブチル 沸点と引火点・発火点の違い

酢酸ブチルは「沸点が高いから安全」と誤解されることがありますが、引火点は約22℃とかなり低く、室温域ですでに可燃性蒸気を形成しうる物質です。[21][22][3][1][5]
発火点(自然発火温度)はおおよそ370〜420℃とされ、溶剤自体が加熱されて高温になった場合や、金属の高温面に接触した場合には着火源なしでも燃え得る温度帯です。[22][15][3][14][5]
ここで混同されやすい3つの温度概念を整理しておきます。​

  • 沸点:液体が激しく沸騰し、液面全体から蒸気が発生し始める温度。酢酸ブチルの場合は約126℃。
  • [3][1][2]

  • 引火点:液面近くに蓄積した蒸気に火花などを近づけると「着火する最低温度」で、酢酸ブチルは約22℃とされる。
  • [21][22][5][3]

  • 発火点(自然発火点):外部からの火源がなくても物質自体が自然に発火する温度で、酢酸ブチルは概ね370〜420℃。
  • [15][22][14][5][3]

建築現場の体感温度と結びつけると、春〜秋の屋外や空調のない屋内では室温22℃以上となる状況が珍しくなく、その時点ですでに「引火点を超えている」ことになります。
参考)https://www.sankyo-chem.com/wp/wp-content/uploads/butylacetate.pdf

つまり、沸点が126℃と高くても、「沸騰していないから安全」ではなく、可燃性蒸気が作業空間に拡散しうる条件が日常的にそろっていると理解する必要があります。​
さらに、酢酸ブチルの爆発下限界は約1.2〜1.7 vol%、上限は約7.6 vol%とされ、狭い範囲ながらも濃度がこの間に入ると、わずかな火花で爆発的に燃焼し得ます。
参考)https://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/2169/code/130-10835j.pdf

蒸気が空気より重く低所にたまりやすいことを考えると、ピットや階段下、立ち上がりのある防水層の下部などで局所的に危険濃度に達しやすい点は、図面段階から想定しておく価値があります。
参考)酢酸ブチル(Butyl Acetate)

発火点が高温であることから「自然発火までは余裕がある」と感じるかもしれませんが、溶剤を含んだウエスの山積みや、狭い金属ダクト内での熱だまりなど、局所的な高温部では想定より早く温度が上がるケースもあり、廃棄方法や乾燥設備の設計も含めた見直しが重要です。
参考)https://www.resonac.com/sites/default/files/2023-05/pdf-sustainability-social-safety_chemistry-resonac_123-86-4_Acetic_acid__butyl_ester_rev2.pdf

酢酸ブチル 沸点と蒸気圧が塗装・防水工事に与える影響

酢酸ブチルは建築分野で、ウレタン塗膜防水材や各種樹脂塗料、シーリング材、接着剤などの溶剤・希釈剤として広く利用されています。[25][11][12][17][9][10]
中程度の沸点と比較的高い蒸気圧の組み合わせにより、「乾燥が早すぎず遅すぎない」バランスの良い溶剤として重宝されている一方、作業環境濃度が上がりやすい一面も持っています。[9][10][2][4]
塗装・防水工事の観点で、沸点と蒸気圧が効いてくるポイントを整理すると次のようになります。
参考)http://www.hamana-tokyo.co.jp/imgcgi/news/a_143.pdf

  • 乾燥・硬化速度:沸点が高いほど揮発が遅くなり、レベリングやつやの出方には有利だが、乾燥時間が延びる傾向がある。
  • [26][12][10]

  • 塗膜欠陥:蒸気圧が高い溶剤を高温環境で使うと、溶剤の吹き出しによるピンホールやブリスターが発生しやすくなる。
  • [26][10]

  • においと作業環境:蒸気圧が高いと低濃度でも臭気を感じやすく、居住者や周辺環境への配慮が必要になる。
  • [27][4][5]

特に、夏季の日中に屋上防水工事を行う場合、下地温度が40℃前後まで上がることもあり、この温度域では蒸気圧がさらに増加し、蒸気発生速度が常温時より大きくなります。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/report/h14-05/chap01/03/11.pdf

その結果、乾燥が速くなって施工性が低下したり、下地との付着不良・気泡混入などの不具合につながることがあり、希釈率や塗り重ね時間の見直しが必要です。​
一方、冬期の外装塗装では「沸点が高い溶剤だから乾かない」と一律に考えてしまいがちですが、酢酸ブチルは室温でも十分な蒸気圧を持つため、0〜10℃程度でも時間をかければ確実に揮発は進みます。​
むしろ、低温時には溶剤の揮発よりも樹脂の反応性や下地温度の方が支配的となるケースが多く、沸点だけを根拠に配合を変えると、かえって塗膜性能を落とすリスクがあります。
参考)酢酸ブチルとは?成分や用途を中心にわかりやすく説明します

VOC対策の観点では、酢酸ブチルは揮発性有機化合物(VOC)として各種環境資料に位置づけられており、塗装プロセス全体のVOC排出量を算定する際には、沸点だけでなく使用量と蒸気圧のバランスを踏まえて評価することが求められています。​
水系化や高固形分化によって「溶剤量を減らす」方向の対策と、酢酸ブチルのような中沸点溶剤をどう組み合わせるかが、仕上がりと環境負荷のバランスを決める実務的な鍵になります。
参考)https://www.env.go.jp/content/900404336.pdf

塗装・防水工事における有機溶剤リスクとその対策は、以下の建設業向け資料も参考になります。
建設業における化学物質管理のあり方(建設業労働災害防止協会)
参考)https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/a3f84ac5d1010416bf7f55d3d9037200731bbbb0.pdf

酢酸ブチル 沸点と換気・防爆設備の安全基準

酢酸ブチルは消防法上「第4類引火性液体・第2石油類(非水溶性液体)・危険等級Ⅲ」に区分され、貯蔵量や取扱設備について法令上の基準が設けられています。[7][8][6][5]
さらに、労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則では第2種有機溶剤等に分類されており、局所排気装置やプッシュプル型換気装置などの設置が義務づけられる作業もあります。[17][18][19][16]
SDSや法令解説資料では、酢酸ブチルを扱う設備について以下のような要求が繰り返し示されています。
参考)https://www.gen2.co.jp/wp/wp-content/uploads/2021/04/TU-11-P_%EF%BC%B3%EF%BC%A4%EF%BC%B3_%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%AC%AC5%E7%89%88.pdf

  • 蒸気の発生源をできる限り密閉する、または局所排気設備で直接吸引すること。
  • [31][19][29]

  • 防爆仕様の換気装置・電気・照明機器を使用し、静電気放電に対するアースを確実にとること。
  • [30][23][29][31]

  • 引火点以上の温度で取り扱う工程では、設備の密閉化と防爆型換気の両方を組み合わせること。
  • [29][30][31]

沸点126℃という数字だけを見ると、「施工温度はせいぜい40〜60℃だから余裕がある」と感じてしまいがちですが、実際の危険性に直結するのは引火点22℃と蒸気圧の高さです。​
建築現場では、シンナー類と同様に「常温でも可燃性蒸気が存在する前提」で換気量を見積もり、防爆仕様/非防爆仕様の機器を明確に区分して配線・設置する必要があります。​
意外な落とし穴として、仮設の送風機や工事用照明を流用してしまい、防爆性能のない機器を酢酸ブチル蒸気が滞留しやすい足場内や開口部近傍に設置しているケースが少なくありません。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei48/dl/anzeneisei48-08.pdf

SDSには「防爆の電気・換気・照明機器を使用すること」「蒸気が滞留しないよう局所排気または全体換気を行うこと」といった注意書きが明記されているため、機器選定の段階からSDSを設計図書に紐付けておくことが、実務的なリスク低減策になります。
参考)https://www.yone-yama.co.jp/shiyaku/msds/pdfdata/CA0116.pdf

また、酢酸ブチルは有機溶剤中毒予防規則の対象であり、換気設備だけでなく、作業主任者の選任や作業環境測定、保護具の着用、空容器の処理方法なども細かく定められています。
参考)https://kankyoanzen.adm.u-tokyo.ac.jp/pdf/admin/yukiyouzai_list.pdf

建築従事者としては、沸点や引火点の数値だけでなく、「どの法令のどの区分に入っているか」を把握し、計画書や安全書類に反映させる運用が求められます。
参考)酢酸ブチル 一級 (500mL) 林純薬工業-試薬ダイレクト…

有機溶剤全般の換気や設備要件については、以下の資料が体系的にまとまっています。
「有機溶剤を正しく使いましょう」(厚生労働省)

酢酸ブチル 沸点と代替有機溶剤選定の考え方

近年はVOC削減や悪臭対策、健康影響への配慮から、酢酸ブチルを含む従来型シンナーに代えて、低臭・低毒性の樹脂溶解剤や水系材料への切り替えが進んでいます。[13][32][12][27]
一方で、単純に「酢酸ブチルを別の溶剤に置き換える」と、沸点や蒸気圧の違いによって乾燥性・作業性・塗膜性能が大きく変化し、現場トラブルにつながるケースもあります。[13][12][10][26]
酢酸ブチルの代替として提案されることの多い溶剤には、酢酸エチルやメチルエチルケトン(MEK)、トルエンキシレン、専用設計の代替溶剤(ファインソルブシリーズなど)があります。
参考)樹脂洗浄剤・溶解剤 ファインソルブシリーズ

これらは乾燥性の向上や臭気低減、法規制(有機則・PRTR・消防法区分など)への適合を目的に設計されており、酢酸ブチルの使用量削減や完全代替の候補になり得ます。​
代替溶剤選定で、沸点とあわせて確認しておきたい観点は次のようなものです。
参考)洗浄剤における法令遵守(環境、安全対応) - 化研テック株式…

  • 沸点と蒸気圧のバランス:沸点が低い溶剤に切り替えると乾燥は速くなるが、臭気や爆発下限濃度への到達が早まり、換気負荷が増える。
  • [4][27][26]

  • 法規制の区分:消防法上の石油類区分や有機則の種別が変わると、貯蔵量制限や設備要件、教育義務が変化する。
  • [6][7][16][18][17]

  • 樹脂との相溶性:単に沸点が近いだけでは塗膜のレベリングや密着性が変わりうるため、樹脂メーカー推奨の溶剤系を優先する。
  • [12][13][10]

  • 環境負荷・VOC:高沸点・低蒸気圧の溶剤に変えることでVOC排出量が減ったように見えても、実際には総使用量が増加しトータル排出が増える場合もある。
  • [24][27][4]

建築現場では、「今使っているシンナーをそのまま別製品に置き換える」のではなく、狙いたい性能(乾燥時間、レベリング、臭気レベル、法規制対応など)を明確にした上で、沸点レンジの異なる溶剤を組み合わせた専用設計品を選定する方が、結果的にトラブルを減らせるケースが多く見られます。​
特に、居住者がいる建物での改修工事や、地下階・半地下での塗装・防水工事では、「酢酸ブチルを何%まで許容するか」「より高沸点の代替溶剤にどこまで置き換えるか」を、沸点・蒸気圧・引火点・法規制を並べて評価することが、今後のスタンダードになっていくと考えられます。​

 

 


ユニット 有機溶剤等使用の注意事項 「酢酸ノルマルーブチル」 390-30