

酸化マグネシウムは、腸に水分を集めて便を柔らかくすることで排便を促す「塩類下剤」と呼ばれる種類の薬です。多くの医療機関で処方され、市販薬としても広く利用されていますが、その作用メカニズムゆえに起こりやすい副作用が存在します。建設現場で働く皆さんにとって、体調管理は安全の要ですが、良かれと思って服用した便秘薬が思わぬ体調不良を招くことがあるため、詳細な症状を理解しておく必要があります 。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
最も頻繁に見られる副作用は、消化器系の症状です。
これらの症状は、服用量を調整することで改善されるケースが多いですが、無理に服用を続けると症状が悪化し、全身状態に影響を及ぼす可能性があります。特に夏場の暑い時期などは、下痢による水分喪失が熱中症のリスクを劇的に高めてしまうため、現場作業中は自身の便の状態をこまめにチェックすることが重要です。
酸化マグネシウムの効果・副作用を医師が解説【便秘薬】
記事の参考箇所:酸化マグネシウムの主な副作用として、下痢や軟便、腹痛が起こるメカニズムや頻度について解説されています。
酸化マグネシウムの副作用の中で、最も重篤であり、時には命に関わることもあるのが「高マグネシウム血症」です。これは血液中のマグネシウム濃度が異常に高くなってしまう状態を指します。通常、口から摂取されたマグネシウムは腸で吸収された後、余分な分は腎臓を通して尿として体外へ排出されます。健康な人であれば、この排出機能が正常に働くため、血中濃度が危険なレベルまで上がることはまれです 。
しかし、以下のような条件に当てはまる場合、腎臓からの排出が追いつかず、体内にマグネシウムが蓄積してしまうリスクが高まります。
高マグネシウム血症が怖いのは、初期症状が見過ごされやすい点です。初期には「なんとなく体がだるい」「眠気がある」といった、疲れや風邪と区別がつかない症状が現れます。しかし、進行すると以下のような危険な状態に陥ります。
現場仕事に従事する方にとって、「体がだるい」「眠い」といった症状は、単なる肉体疲労として片付けられがちです。しかし、それが便秘薬の副作用である可能性を疑わないと、重大な事故につながる恐れがあります。
酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について(厚生労働省)
記事の参考箇所:高マグネシウム血症の初期症状や、腎機能低下時のリスク、死亡例を含む重篤な副作用に関する注意喚起が記載されています。
酸化マグネシウムは単体では比較的安全な薬ですが、他の薬と一緒に飲む(併用する)際には、相互作用による副作用や効果の減弱に注意が必要です。現場で怪我をした際や、風邪をひいた際に処方される薬との相性が悪い場合があるため、お薬手帳の活用や医師への申告が欠かせません 。
参考)酸化マグネシウム(マグミットⓇ錠)には飲み合わせてはいけない…
特に注意が必要な飲み合わせには、以下のようなものがあります。
現場監督や同僚から「これ効くよ」と別の薬を渡されたり、市販の風邪薬やサプリメントを自己判断で追加したりすることは、思わぬ相互作用を招く原因となります。常用している薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に「酸化マグネシウムを飲んでいる」と伝えるようにしましょう。
酸化マグネシウムには飲み合わせてはいけないもの(禁忌)はありますか?
記事の参考箇所:抗生物質やビタミンD3製剤、牛乳など、酸化マグネシウムと併用注意な薬剤・食品の一覧と、その理由が詳細に解説されています。
建設現場や高所作業に従事する方々にとって、酸化マグネシウムの副作用は単なる健康問題を超え、労働災害に直結する深刻なリスクとなり得ます。ここでは、一般的な医療サイトではあまり触れられない、現場作業特有のリスクと「筋力低下」「めまい」の関係について深掘りします。
1. 筋力低下と転倒・落下リスク
高マグネシウム血症の初期症状の一つに「筋力低下」があります。これは、マグネシウムイオンが神経から筋肉への伝達を抑制する作用を持つためです。日常生活では「なんとなく力が入りにくい」程度で済むかもしれませんが、重量物を運搬したり、不安定な足場で体を支えたりする建設現場では致命的です。
例えば、足場の組立解体中に握力がふっと弱まる、ハシゴの上り下りで脚に力が入らなくなるといった事態が起これば、転落や資材の落下事故につながります。疲労による脱力と勘違いしやすいため、発見が遅れることもリスクを高めます 。
参考)https://medical.maruishi-pharm.co.jp/medical/media/magmitt_kanzya_202008.pdf
2. 立ちくらみ・めまいと起立性低血圧
酸化マグネシウムの血管拡張作用により、血圧が低下することがあります。また、副作用である徐脈(脈が遅くなる)も相まって、急に立ち上がったり、しゃがんだ状態から動き出したりした瞬間に強い「立ちくらみ」や「めまい」を覚えることがあります 。
高所作業中にめまいが起きれば、命綱(フルハーネス)があったとしても、構造物に体を打ち付けるなどの二次災害の危険があります。特に夏場は血管が拡張しやすく、リスクが増大します。
3. 脱水と電解質異常の悪循環
酸化マグネシウムは腸内に水分を引き寄せる薬です。つまり、体内の水分が腸へと移動します。一方、建設現場での激しい肉体労働は大量の発汗を伴います。
「薬による腸への水分移動」+「発汗による水分喪失」というダブルパンチにより、現場作業員は一般の人よりもはるかに脱水状態になりやすい環境にあります。脱水が進むと腎臓への血流が減少し、尿量が減ります。すると、マグネシウムの尿中への排泄が滞り、血中マグネシウム濃度がさらに上昇するという「負のスパイラル」に陥る危険性があります。
水分補給を水やお茶だけで済ませていると、体液のバランス(電解質)が崩れやすくなります。便秘薬を服用中の現場作業では、適切な塩分補給と、例年以上に意識的な水分管理が求められます。
このように、デスクワークの人には軽微な副作用であっても、肉体労働の現場では重大な事故の引き金になりかねません。「たかが便秘薬」と侮らず、作業中にふらつきや脱力感を感じたら、直ちに作業を中断し、高所から降りる勇気を持つことが、自分と仲間の命を守ることにつながります。
酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い(PMDA)
記事の参考箇所:めまい、ふらつき、筋力低下といった症状が副作用として現れること、これらが自動車運転や機械操作に影響を与える可能性について言及されています。
もし、「酸化マグネシウムを服用していて調子が悪い」と感じた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。最悪の事態を防ぐための具体的なアクションプランと、見逃してはいけない初期症状のサインを整理します。
絶対に見逃してはいけない初期症状(SOSサイン)
以下の症状が一つでも現れた場合は、高マグネシウム血症の可能性があります。すぐに服用を中止し、医療機関を受診してください 。
参考)https://med.mochida.co.jp/tekisei/mag2710.pdf
対処法とアクションプラン
現場で倒れた仲間への対応
もし、現場で同僚が倒れ、その人が酸化マグネシウムを服用していることを知っていた場合、救急隊員にその情報を伝えるだけで救命率が変わる可能性があります。便秘薬はプライベートなことなので他人に話しにくいものですが、命に関わる現場仕事だからこそ、互いの健康状態や服用薬について(少なくとも職長や安全衛生責任者は)把握できるような信頼関係や環境づくりも、副作用対策の重要な一環と言えるでしょう。
酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い(持田製薬)
記事の参考箇所:初期症状の具体的なリスト(吐き気、嘔吐、立ちくらみ、徐脈など)と、症状が現れた際の対処法(服用中止、医療機関受診)が簡潔にまとめられています。