皿ばね規格と設計ポイント
皿ばねの基本情報
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定義と構造
皿ばねは中心に孔の開いた円板を円すい状に加工した、圧縮方向にばね作用をする底のない皿形のばねです。
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主な規格
JIS B 2706、JSMA SA 001、DIN 2092/2093などの規格があり、用途に応じた選定が重要です。
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使用場面
締結用座金、クラッチの加圧バネ、振動緩和、緩み止めなど、狭小スペースで高荷重を必要とする場面で活躍します。
皿ばねは、その独特な形状と特性から、建築施工現場において重要な役割を果たす機械要素部品です。中心に孔の開いた円板を円すい状に加工した、圧縮方向にばね作用をする底のない皿形のばねとして定義されています。この特殊な形状により、小さなスペースで大きな荷重を支えることができ、様々な用途で活用されています。
皿ばねは、外部からの荷重を受けて変形し、その後に元の形状に戻る特性を持っています。この特性により、建築施工における締結部分の振動緩和や緩み止めなどの重要な機能を果たしています。
皿ばねのJIS規格と国際規格の比較
皿ばねに関する規格は国内外で整備されており、主な規格としては以下のものがあります。
- 日本産業規格(JIS)
- JIS B 2706:皿ばねの基本的な規格を定めています。寸法、材料、試験方法などが規定されています。
- 日本ばね工業会規格
- JSMA SA 001:皿ばねに関する業界団体の規格です。JIS規格を補完する形で、より詳細な仕様が定められています。
- ドイツ工業規格(DIN)
- DIN 2092:皿ばねの計算方法に関する規格
- DIN 2093:皿ばねの寸法や仕様に関する規格
DIN規格は国際的に広く採用されており、多くの日本メーカーもDIN規格に準拠した製品を製造しています。JIS規格とDIN規格には若干の違いがありますが、基本的な考え方は共通しています。
規格によって定められている主な項目は以下の通りです。
- 寸法許容差
- 材料の種類と特性
- 荷重特性の計算方法
- 試験方法
- 表面処理
建築施工においては、使用する環境や要求される性能に応じて、適切な規格の製品を選定することが重要です。特に、高い信頼性が求められる構造部材の締結には、JISやDIN規格に準拠した製品を使用することが推奨されます。
皿ばねの材質選定と締結用座金としての活用法
皿ばねの材質選定は、使用環境や要求特性によって大きく異なります。建築施工現場で使用される皿ばねには、以下のような材質が一般的に使用されています。
- 炭素鋼(ばね鋼)
- JIS G 4801に規定されるSUP材
- 一般的な環境での使用に適しています
- コストパフォーマンスに優れています
- ステンレス鋼
- SUS304、SUS631などの材質
- 耐食性に優れ、湿気の多い環境や屋外での使用に適しています
- 縦弾性係数は炭素鋼より若干低く(186×10³N/mm²程度)、同じ寸法では荷重特性が異なります
- 特殊合金
- インコネルやハステロイなどの特殊合金
- 極端な高温環境や腐食性の強い環境での使用に適しています
- コストは高いですが、特殊環境下での信頼性が高いです
締結用座金としての活用法。
皿ばねは「皿ばね座金」として、ボルト・ナット締結部に使用されることが多くあります。通常の平座金と異なり、以下のような特長があります。
- 振動吸収性: 機械的振動を吸収し、ボルトの緩みを防止します
- 荷重の均一化: 締結面に均一な圧力を与え、局所的な応力集中を防ぎます
- 熱膨張対応: 温度変化による部材の膨張・収縮に対応し、締結力を維持します
建築施工では、特に以下のような場面で皿ばね座金の使用が効果的です。
- 振動が発生する機械設備の固定部
- 温度変化の大きい屋外構造物の締結部
- 長期間のメンテナンスが困難な高所や狭隘部の締結
適切な皿ばね座金を選定するためには、必要な締結力、使用環境、スペース制約などを考慮し、規格に基づいた製品を選ぶことが重要です。
皿ばねの計算式と荷重特性の理解
皿ばねの設計や選定において、その荷重特性を正確に理解することは非常に重要です。皿ばねの荷重特性は、その形状と材質によって決まり、以下の計算式によって求めることができます。
基本的な記号と単位。
- D: 皿ばねの外径 (mm)
- d: 皿ばねの内径 (mm)
- t: 皿ばねの厚さ (mm)
- H₀: 皿ばねの自由高さ (mm)
- h₀: 皿ばねの全たわみ量 (H₀-t) (mm)
- E: 材料の縦弾性係数 (N/mm²)
- ばね鋼鋼材: 206×10³ N/mm²
- ステンレス鋼(SUS304): 186×10³ N/mm²
- v: 材料のポアソン比 (通常0.3)
- P: 皿ばねに負荷される荷重 (N)
- δ: 皿ばね単体のたわみ量 (mm)
荷重計算の基本式。
皿ばねの荷重Pは、たわみ量δと以下の関係があります。
P = (4E・t⁴/[12(1-v²)・K₁・D²])・[(h₀/t)-(δ/t)]・[1-(1/α)²・(h₀/t)/(h₀/t-δ/t)]
ここで、K₁は形状係数、αは外径と内径の比(D/d)です。
実際の設計では、このような複雑な計算式を直接使うよりも、メーカーが提供する荷重-たわみ線図や計算ツールを利用することが一般的です。
重要な特性。
- 非線形性: 皿ばねの荷重-たわみ特性は非線形であり、たわみ量が増加するにつれて荷重の増加率が変化します。
- 使用範囲: DIN規格では、安定した特性を得るために、使用最大たわみを全たわみ量の75%以下(δ≤0.75h₀)とすることを推奨しています。
- 実測値と計算値の差: 実際の皿ばねは、初期ひずみなどの影響により、全たわみ量の40%までは計算値より低い荷重を示し、75%を超えると急激に荷重が増加する傾向があります。
建築施工において皿ばねを使用する際は、この非線形特性を理解し、適切な使用範囲内で使用することが重要です。特に、締結部の設計では、ボルトの締付けトルクと皿ばねの荷重特性を考慮して、適切な締結力が得られるよう設計する必要があります。
東海バネ工業の皿ばね計算式と技術資料(詳細な計算式と使用上の注意点)
皿ばねの組合せ方法と荷重特性の調整
皿ばねの大きな特長の一つは、複数の皿ばねを組み合わせることで、様々な荷重特性を得られることです。建築施工において、限られたスペースで必要な荷重特性を実現するために、この組合せ方法を理解することは非常に重要です。
基本的な組合せ方法。
- 並列重ね(同じ向きに重ねる方法)
- 荷重:1枚当たりの荷重 × 並列枚数
- たわみ量:変化なし(1枚と同じ)
- 特徴:荷重容量を増加させたい場合に有効
- 使用例:高荷重が必要だが、たわみ量を制限したい場合
- 直列重ね(互い違いに重ねる方法)
- 荷重:変化なし(1枚と同じ)
- たわみ量:1枚あたりのたわみ量 × 直列枚数
- 特徴:たわみ量を増加させたい場合に有効
- 使用例:大きなたわみ量が必要だが、荷重は抑えたい場合
- 並列・直列の複合組合せ
- n枚を並列に重ね、それをm段直列に組み合わせる
- 荷重:1枚当たりの荷重 × n(並列枚数)
- たわみ量:1枚あたりのたわみ量 × m(直列段数)
- 特徴:荷重とたわみ量の両方を調整可能
- 使用例:特定の荷重-たわみ特性が必要な場合
組合せ使用時の注意点。
- ガイドの必要性。
皿ばねを組み合わせて使用する際は、内径側もしくは外径側にガイド(軸やケース等)が必要です。これは、圧縮時に皿ばねが安定した位置を保つために重要です。
- クリアランスの考慮。
皿ばねは圧縮により形状が変化します。圧縮するにつれて内径は大きくなり、外径は小さくなるため、ガイドとのクリアランスを適切に設定する必要があります。一般的なクリアランスは、皿ばねの外径や内径によって異なりますが、片側で0.2mm〜1.0mm程度が目安です。
- 摩擦の影響。
皿ばねを重ねて使用する場合、ばね同士の接触面で摩擦が生じます。この摩擦は荷重特性に影響を与えるため、実際の荷重は計算値と若干異なることがあります。特に多数のばねを組み合わせる場合は、この影響を考慮する必要があります。
- 熱処理と表面処理。
組合せ使用する皿ばねは、同一ロットの製品を使用することが望ましいです。熱処理や表面処理のばらつきが、荷重特性のばらつきにつながる可能性があります。
建築施工現場では、スペース制約や荷重要件に応じて、最適な皿ばねの組合せを選定することが重要です。特に振動が問題となる機械設備の設置や、熱膨張が考慮される構造部材の締結では、皿ばねの特性を活かした設計が効果的です。
皿ばねの施工現場での選定ポイントと使用上の注意点
建築施工現場で皿ばねを適切に選定し、効果的に使用するためには、いくつかの重要なポイントと注意点があります。これらを理解することで、皿ばねの性能を最大限に活かし、トラブルを防止することができます。
選定ポイント。
- 使用環境の考慮
- 温度条件:高温環境では耐熱性のある材質(特殊合金など)を選定
- 腐食環境:湿気や化学物質にさらされる場所ではステンレス鋼を選定
- 振動条件:振動が激しい環境では、疲労寿命を考慮した設計が必要
- 荷重要件の明確化
- 必要な荷重値:使用目的に応じた適切な荷重値を持つ皿ばねを選定
- 荷重の変動:変動荷重がある場合は、疲労特性を考慮
- 安全率:重要な用途では適切な安全率(通常1.2〜1.5倍)を考慮
- スペース制約の検討
- 取付スペース:利用可能なスペースに合わせた外径・内径の選定
- 高さ制限:自由高さと圧縮時の高さを考慮した選定
- 組合せ方法:スペースと荷重要件に応じた最適な組合せ方法の検討
- 規格品と特注品の選択
- 標準規格品:コスト面で有利、納期が短い
- 特注品:特殊な要件に対応可能だが、コストと納期に注意
使用上の注意点。
- 取付け時の注意
- 平行度:皿ばねの取付面は平行であることが重要
- 中心合わせ:偏心荷重を避けるため、正確な中心合わせが必要
- 締付けトルク:適切な締付けトルクで取り付け、過度な締付けを避ける
- 経年変化への対応
- 永久変形:長期使用による永久変形の可能性を考慮
- 定期点検:重要な用途では定期的な点検と必要に応じた交換
- 予備品の確保:特殊な皿ばねを使用する場合は予備品を確保
- 特殊環境での使用
- 高温環境:熱膨張による特性変化を考慮
- 低温環境:低温脆性に注意
- 腐食環境:適切な表面処理や材質選定
- 安全上の配慮
- 破損時のリスク:破損した場合の影響を考慮した設計
- 過負荷防止:過度な負荷がかからないような設計
- 適切な保護:必要に応じてカバーなどで保護
建築施工現場では、これらのポイントを踏まえて皿ばねを選定し、適切に使用することが重要です。特に、安全性が求められる構造部材や、長期間のメンテナンスが困難な場所での使用には、慎重な検討が必要です。また、不明点がある場合は、メーカーの技術サポートを活用することも有効です。
皿ばねメーカー一覧と製品情報(最新の製品情報と各社の特徴)
皿ばねは小さな部品ですが、建築施工において重要な役割を果たします。適切な規格の製品を選定し、正しく使用することで、構造物の安全性と耐久性の向上に貢献します。特に振動対策や緩み止めが重要な場面では、皿ばねの特性を理解し、最適な製品を選ぶことが成功の鍵となります。