製紙工場 臭い 健康への影響と対策

製紙工場 臭い 健康への影響と対策

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製紙工場 臭い 健康への影響

製紙工場の臭気が健康に与える主な影響
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呼吸器系への影響

硫化水素やメチルメルカプタンが気管支や肺に刺激を与え、咳や呼吸困難を引き起こす可能性があります

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急性症状の発生

頭痛、めまい、吐き気などの症状が現れ、作業効率や集中力の低下につながります

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長期的な健康リスク

継続的な暴露により慢性的な呼吸器疾患や嗅覚麻痺のリスクが高まります

製紙工場の臭いが引き起こす健康被害

製紙工場では、クラフトパルプの製造工程で硫化水素やメチルメルカプタンなどの硫黄系化合物が発生します。これらの悪臭物質は、人体に様々な健康被害をもたらす可能性があります。特に建設業従事者が製紙工場の建設や改修工事に携わる際、これらの臭気に暴露されるリスクがあります。
参考)工場における臭いの対策は必須!発生原因や臭気対策の事例を紹介…

工場内で発生した悪臭が原因で、作業員が吐き気やめまいなどの体調不良を起こす可能性があります。硫化水素濃度が20~30ppmになると肺に刺激的な症状が現れ、100ppmを超えた状態で連続暴露すると気管支炎や気管支肺炎、肺炎などに進行し、肺水腫を引き起こす危険性があります。肺水腫が発症すると肺でのガス交換が不能になり、窒息の危険があるため、特に注意が必要です。
参考)【第2章】 第2節 硫化水素中毒の病理と症状|(一財)中小建…

悪臭への暴露は、体調不良だけでなく集中力の低下を招いたり作業効率が低下したりするなど、作業員に知らない間に悪影響を与える可能性が高いのです。製紙工場で発生する臭いの臭気濃度は数十万~数百万レベル(臭気指数50~60程度)となっており、工場で発生する臭気の中でも比較的強い部類に入ります。​

製紙工場における硫化水素の健康リスク

硫化水素は特定悪臭物質22物質の1つに指定されており、製紙工場での悪臭問題の中でも特に強い臭いの原因物質です。硫化水素の嗅覚閾値は他の物質と比較して圧倒的に低く、わずかな濃度でも臭いとして感じやすい特徴があります。5~10ppmの濃度で悪臭を感じ始め、20~50ppmで目に炎症が起きます。
参考)硫化水素中毒の防止対策とは?発生原因から対処法まで詳しく解説

50~150ppmになると頭痛、めまい、吐き気が発生し、150~200ppmでは悪臭により嗅覚が麻痺して臭気を感じなくなります。この嗅覚麻痺は非常に危険で、臭いを感じなくなったからといって安全なわけではなく、むしろ高濃度の硫化水素に暴露されている可能性が高いのです。​
さらに、硫化水素は神経毒としての作用も持っており、無害化できる限界である700ppmを超えると神経毒作用が起こります。高濃度の場合は1~2回の呼吸で呼吸麻痺という致命的な症状が現れ、脳神経細胞の破壊による様々な後遺症が残ることがあります。製紙工場の建設や改修工事に従事する際は、このような硫化水素のリスクを十分に理解しておく必要があります。​

製紙工場の作業環境における慢性的な影響

製紙工場での長期的な作業は、慢性的な健康影響をもたらす可能性があります。海外の研究では、製紙工場の作業員における呼吸器系への影響が報告されており、軟質紙の粉塵への暴露が肺機能の低下と関連していることが示されています。スウェーデンの製紙工場労働者を対象とした研究では、高濃度の紙粉塵(5mg/m³以上)に5年以上暴露された労働者において、健康リスクが高まることが確認されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6989582/

エチオピアの製紙工場を対象とした調査では、紙粉塵への暴露と慢性呼吸器症状との間に関連性が認められています。製造部門で働く作業員、低所得者、呼吸器疾患の既往歴がある人、長年勤務している従業員、低学歴の従業員などで、慢性呼吸器症状のリスクが高いことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9890692/

製紙工場内は製造プロセスの特性上、高温多湿な環境となるため、通常以上の健康管理が求められます。建設業従事者が製紙工場での工事に携わる際は、これらの環境要因も考慮した安全対策が必要です。工場の悪臭が原因で衣服にまで臭いが付着すると、体や出勤用の車にまで臭いがついてしまい、従業員のストレス増加や士気、注意力の低下にもつながる可能性があります。
参考)製紙工場・大型プラント専門の電気工事業者が重視する品質管理

製紙工場における臭気発生のメカニズム

製紙工場で最も強い臭気が発生するのは、クラフトパルプの製造工程です。木材チップを苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)で煮て木材中の繊維を取り出す際、リグニンという成分を除去する必要があります。このリグニンを除去するために硫化ナトリウムなどの薬品が使用されますが、硫化ナトリウム(化学式:Na2S)には硫黄成分が含まれており、これが製紙工場の悪臭の主な原因となっています。
参考)製紙工場で発生する臭い対策とは?|脱臭設備導入GUIDE

硫化ナトリウムがセルロースなどの炭化水素と化学反応を起こすことで、メチルメルカプタン(腐った玉ねぎのような臭い)、硫化メチル(腐ったキャベツのような臭い)、二硫化メチルなどの硫黄系悪臭物質が形成されます。これらの硫黄化合物ガスは製造工程において必ず発生してしまうため、完全に臭いの元を断絶することは難しいのです。​
古紙から再生紙を作る場合、古紙のインクやごみを洗浄する工程で「白水」と呼ばれる白く濁った水が発生します。この水を微生物によって分解する過程でスライム(粘液状のバイオフィルム)が発生し、これも悪臭の原因となります。また、紙の表面にデンプンを塗布するサイズプレス工程でも、デンプンが腐敗すると微生物により悪臭が発生する場合があります。ペーパースラッジ(製紙工程の廃棄物)も、空気が届きにくいところに保管されると嫌気呼吸を行い腐敗するため、悪臭を放つことがあります。​

製紙工場の臭気対策と建設業への影響

製紙工場の臭気対策として、多くの工場では漏洩防止、補修、濃縮・焼却等の装置を設置し、定期的に工場構内の臭気発生設備周辺の臭気を測定しています。しかし、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどは、わずかな漏洩でも近隣への悪臭被害となる可能性があるため、充分な注意が必要です。​
建設業従事者が製紙工場の建設や改修工事に携わる際は、臭気対策設備の設置も重要な業務となります。薬液洗浄法、生物脱臭法、オゾン脱臭法など、様々な脱臭技術が導入されています。特に硫化水素などの硫黄系臭気に対しては、高性能なフィルターによる除去や省スペースで移動可能な脱臭装置が効果的とされています。
参考)硫化水素による臭気問題を解決!製紙工場向け脱臭装置の選び方 …

白水処理やサイズプレスの工程で発生する臭いに対しては、スライムコントロール剤や防腐剤の添加、休転時の工程洗浄などが有効です。排水処理による悪臭に対しては、ペーパースラッジの保管場所に注意して腐敗を防ぐほか、消臭剤を排水に混ぜたり散布したりする方法もあります。製紙工場での工事に従事する建設業者は、これらの臭気対策設備の特性を理解し、適切な施工管理を行うことが求められます。​
製紙工場周辺での建設工事は、地域産業との関係性が深く、工場の操業状況が建設業者の受注にも影響を与えます。日本製紙グループでは労働安全衛生マネジメントシステム(NPSS)を運用し、リスクアセスメントを実施するなど、安全衛生の確保に向けた活動を推進しています。建設業従事者も、製紙工場での作業において同様の安全衛生管理が必要です。
参考)日本製鉄・大王製紙・今治造船が生死を握る、中国・四国エリア建…

硫化水素の濃度別の健康影響と症状について - 特別民間法人労働安全衛生総合研究所
硫化水素中毒の病理と症状について、濃度別の詳細な健康影響が解説されています。

 

悪臭防止法に基づく臭気対策の具体的な指針 - 環境省
悪臭防止法における規制基準や臭気指数、特定悪臭物質22物質に関する行政ガイドブックです。

 

工場における臭気対策の失敗事例と成功事例 - カルモア
工場の臭気対策における具体的な対策方法やOER(臭気の影響力評価指標)について解説されています。