

JISの衝撃試験で「合格」していても、支持スパンを変えるだけで同じ材料が「不合格」相当の強度になることがあります。
建築現場で「この材料は衝撃に強い」という判断は、感覚ではなくJIS規格に基づく試験データが根拠になります。衝撃試験は、材料や部材に短時間で大きな力(衝撃荷重)を加え、破壊に至るまでのエネルギー量や破壊のしかたを測定する試験です。
試験でわかることは主に2つです。一つが「靭性(じんせい)」で、これは材料の「ねばり強さ」のことを指します。靭性の高い材料は、急に折れることなく徐々に変形しながらエネルギーを吸収します。もう一つが「脆性(ぜいせい)」です。脆性の高い材料は、変形をほとんど示さないまま突然割れます。窓ガラスが衝撃でパリッと砕ける一方、スチール製ドアがへこみながらも形を保つ違いが、まさに靭性と脆性の差です。
建築業に関わる素材では、この2つの性質が混在しています。窯業系サイディングは陶磁器系素材に近いため脆性が高く、鋼製ドアは靭性が高い傾向があります。つまり、同じ「衝撃試験に合格した材料」でも、破壊のしかたはまったく異なるわけです。
建築用ボード類の場合、日本産業規格の「JIS A 1408:2017 建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法」が基本となる規格です。この規格は一般財団法人建材試験センター(JTCCM)が原案を作成し、2017年に改正されました。試験の仕組みはシンプルで、鋼製のおもりを一定の高さから試験体の中央部に自然落下させ、落下後のへこみ・亀裂・割れ・貫通の有無を目視で観察・記録します。
おもりは大きく分けて「なす形おもり」と「球形おもり」の2種類があります。なす形おもりの質量は500g・1,000g・2,000gの3種類、球形おもりはJIS B 1501に規定する鋼球を使用し、重量は約286g・533g・1,042gの3種類です。どちらを使うかは試験対象の材料規格によって定められています。たとえば窯業系サイディングの耐衝撃性試験では、球形おもり(W2-500:約533g)を使うことが「JIS A 5422:2019」で規定されています。
試験体の支持方法は3種類あります。「砂上全面支持(S1)」は標準砂または川砂を容器に100mm以上敷き詰めた上に試験体を置く方法、「対辺単純支持(S2)」は試験体の2辺を支持棒で支える方法、「対辺固定支持(S3)」は試験体の端部を押さえ板で固定する方法です。この支持方法の選択が試験結果を大きく左右することが研究で確認されており、現場や納品仕様の確認時に重要な視点となります。
JIS A 1408:2017 建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法(全文)
JIS A 1408の規格全文。試験体の寸法、おもりの区分、支持方法、試験手順、記録事項が具体的な図・表付きで確認できます。
建築業で扱う材料は多岐にわたります。それぞれの用途・設置環境・破壊形態が異なるため、JISの衝撃試験規格も材料ごとに分かれています。これは重要な知識です。
まず外壁や内装に使われるボード類は、「JIS A 1408:2017 建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法」が適用されます。窯業系サイディング(JIS A 5422)、繊維強化セメント板(JIS A 5430)、せっこうボード(JIS A 6901)、パーティクルボード(JIS A 5908)など、さまざまな製品がこの試験方法を引用しています。試験の判定は「貫通する亀裂が生じないこと」が基本です。
次にドアセットには「JIS A 1518:1996 ドアセットの砂袋による耐衝撃性試験方法」が適用されます。直径約350mm、総質量30kgの砂袋を振り子状に落下させてドアに衝撃を与え、残留変形の有無と開閉機能への影響を確認します。落下高さ170mm・ロープの振り角65°以下という条件で試験を行い、「有害な変形がなく、開閉に異常がなく使用上支障がないこと」が合格基準です。この試験はJIS A 4702「ドアセット」規格にも組み込まれており、公共建築工事標準仕様書でも参照されています。
建築用ガラスについては2つの重要な規格があります。一つは「JIS R 3110:2021 建築用ガラスの振り子衝撃試験方法」で、人が窓ガラスに衝突するシナリオを模擬した試験です。45kgのショットバッグ(砂袋)を振り子状に落下させてガラスに当て、破壊性状を確認します。強化ガラス(JIS R 3206)や合わせガラス(JIS R 3205)の安全性確認に使用されます。
もう一つは「JIS R 3109:2018(2024年改正)建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」です。基本風速30m/s以上の台風等で生じる飛来物を想定し、鋼球と木片を加撃体(エアキャノン)で発射してガラス(900×1,100mm)に衝突させます。ガラスに貫通や一定の開口が生じるかどうかを評価し、4段階の防護レベルで判定します。台風被害の多い沖縄・九州エリアの建築物や、防災ガラスの採用判断で直接参照される重要な規格です。
建築業従事者として覚えておきたい対応関係を整理すると次のとおりです。
| 材料・部材の種類 | 適用されるJIS規格 | 試験の判定基準 |
|---|---|---|
| 建築用ボード類全般 | JIS A 1408:2017 | へこみ・亀裂・割れ・貫通の観察 |
| 窯業系サイディング | JIS A 5422:2019(A1408準拠) | 貫通する亀裂が生じないこと |
| ドアセット | JIS A 1518:1996 | 有害な変形なし・開閉異常なし |
| 建築用ガラス(人体衝突想定) | JIS R 3110:2021 | 破壊性状の確認(安全ガラス判定) |
| 建築用ガラス(台風飛来物想定) | JIS R 3109:2024 | 貫通・開口の有無(防護レベル判定) |
用途の異なる材料に同一の規格を当てはめてしまうと、試験条件が合わず正確な評価ができません。材料を選定する際や施工仕様書を確認する際は、どの規格を引用しているかを必ず確認することが基本です。
一般財団法人日本建築総合試験所「建築材料の衝撃試験」解説資料(PDF)
材料の種類ごとの支持装置・おもりの種類・観察事項の対応表が一覧でわかる実務向け解説資料です。
JIS衝撃試験において、見落とされがちな重要点があります。それは「試験条件」の設定です。規格で定められた範囲内であっても、支持スパンの違いだけで同じ材料の評価結果が大きく変わることが研究で実証されています。
日本大学生産工学部の研究(松井・湯浅ら)によると、JIS A 1408に規定する支持スパン300mm〜900mmの範囲で、スパンが長くなるほど衝撃破壊限界エネルギーが急激に大きくなることが確認されています。具体的には、支持スパン300mmでは衝撃エネルギー250N・cm(2kgのおもり×12.5cm落下相当)で亀裂が生じたのに対し、スパン700mmでは1,750N・cmまで破壊しなかったという結果が出ています。スパンが3倍になると、破壊に必要なエネルギーが7倍以上になる計算です。
これは実務上どういう意味を持つのでしょうか?仕様書や試験成績書を確認する際に、「どのスパン条件で試験されたか」が記載されていない場合、その合格値は実際の施工環境と一致していない可能性があります。たとえば、試験時のスパンが900mmで合格した材料を、実際の施工では支持間隔300mm程度で使う場合、現実の条件では必要以上に高い耐衝撃性が求められているか、逆に実使用の支持間隔が試験条件より厳しくなっている可能性も考えられます。
試験条件が変わります。具体的には次の3点が特に影響します。
| 試験条件の要素 | 変動による影響 |
|---|---|
| 支持スパン(mm) | スパンが長いほど破壊エネルギーが大きくなる(材料が「強く見える」) |
| 支持方法(S1/S2/S3) | 固定条件が変わると応力の伝わり方が変化する |
| 養生状態(気乾/乾燥/湿潤/飽水) | 含水状態でボードの強度特性が大きく変わる |
養生状態についても注意が必要です。JIS A 1408では、気乾状態・乾燥状態・湿潤状態・飽水状態の4種類の養生条件が規定されています。飽水状態(24時間以上清水中で吸水させた状態)とは、雨水に長時間さらされた状況を想定しています。気乾状態と飽水状態では、同じボードでも強度値が異なるのが一般的です。外壁材など雨掛かりになる部位に使用するボードの選定では、飽水状態での試験結果の確認が欠かせません。
また、おもりの選定も重要です。JIS A 1408に規定するなす形おもり(W1型)と球形おもり(W2型)では、衝撃の加わり方が異なります。球形おもりは接触面積が小さく局所的な衝撃になるため、貫通評価に向いています。なす形おもりは比較的広い面で衝撃を与えるため、全体的な変形評価に用いられます。どちらのおもりで試験されたかを確認せずに、単純に「衝撃試験合格」と判断するのは材料評価のリスクになります。
試験条件の詳細を確認する際は、試験機関が発行した試験成績書に必ず「支持方法の記号(S1/S2/S3)」「おもりの記号(W1-500など)」「落下高さ(cm)」「養生状態」が記載されているかを確認するのが原則です。
建材試験センター 建築用ボード類・屋根材 試験案内ページ
試験の依頼方法・対応規格・試験内容の概要が確認できる建材試験センターの公式ページです。試験成績書の確認時にも参考になります。
JIS衝撃試験の知識は、設計段階の材料選定だけでなく、施工管理・竣工後の品質確認にも直接役立ちます。建築業従事者が現場でこの知識をどう使うかを整理します。
まず材料選定の場面では、カタログに記載されている「耐衝撃性試験合格」という表記をそのまま鵜呑みにするのは避けるべきです。どの規格の・どの試験条件の・どの養生状態での合格なのかをメーカーに確認するのが正しい手順です。特に外壁材では、飽水状態での試験成績書の提示を求めることが実務上の安全策になります。
窯業系サイディングを例にとると、JIS A 5422:2019では厚さ14〜17mmの製品で「貫通する亀裂が生じないこと」が耐衝撃性の合格基準です。しかし同じ「貫通する亀裂なし」でも、試験体を500×400mmの3号試験体で評価した場合と、300×全幅の試験体で評価した場合では、試験体の固定条件や面積が異なります。これは設計時の施工スパン計画にも影響する話です。つまり、試験成績書の確認は材料選定の最低条件ということです。
次に施工管理の場面では、ドアセットの設置確認が特に重要です。JIS A 1518に基づく耐衝撃試験では、30kgの砂袋を落下高さ170mm・振り角65°以下で1回衝撃を加えた後に、有害な変形と開閉機能の異常がないことが求められます。現場では施工後のドアの建て付け確認を丁寧に行うことが、引渡し後のトラブル防止につながります。
アルミサッシや鋼製ドアの耐衝撃試験結果は、公共建築工事標準仕様書(国土交通省監修)にも参照規格として明記されています。公共建築の施工管理に携わる場合は、特に注意が必要です。
さらにガラス選定の場面では、振り子衝撃試験(JIS R 3110)と飛来物衝突試験(JIS R 3109)の2種類の試験があることを覚えておくと、仕様判断の精度が上がります。振り子衝撃試験は「安全ガラスかどうか」の判定に使われ、合わせガラスや強化ガラスが対象です。一方、飛来物衝突試験は台風などの暴風時に飛来物がガラスを貫通するかを評価する試験で、防護レベルが4段階で設定されています。
台風被害の多い地域や、学校・病院・避難所などの防災拠点建築物では、JIS R 3109に基づく防護レベルを設計仕様に盛り込むことが建築業従事者としての付加価値になります。特に沖縄・九州・四国の太平洋沿岸エリアでは、近年の台風強大化を踏まえて窓ガラスの飛来物対策が重視されています。
防災フィルム(JIS A 5759)の採用も選択肢の一つです。厚さ5mmのフロートガラスに350μm厚の防災フィルムを貼ることで、JIS R 3109の加撃体Cを使った衝撃試験に合格している製品があります。ガラス自体の交換コストと比較しながら検討するとよいでしょう。
日本建築総合試験所「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法(JIS R 3109)」解説(PDF)
JIS R 3109の制定背景・試験条件・防護レベルの判定基準がわかりやすく解説されている公的機関の資料です。
JIS衝撃試験に関して、建築業の現場でよく見落とされているポイントが3つあります。知っておくと品質トラブルを未然に防げる内容です。
1つ目は「JIS A 5422準拠」表示と実際の試験規格の違いです。
窯業系サイディングのカタログには「JIS A 5422準拠」と表示されていることが多いですが、JIS A 5422は「耐衝撃性試験はJIS A 1408による」と規定しており、試験方法そのものはJIS A 1408が本体です。つまり、JIS A 5422準拠の製品でも、実際の試験条件(スパン・おもり種類・落下高さ・養生状態)を確認しないと、どういう条件で合格したのかがわかりません。設計仕様書にJIS A 5422準拠と書くだけでは試験条件の担保にはならないわけです。これは大切なポイントです。
2つ目は「波板など凹凸のあるボードはJIS A 1408の適用外」という点です。
JIS A 1408の適用範囲には「平板の建築用ボード類について規定する。ただし、波板など凹凸をもつボードは除く」と明記されています。折板屋根材や波型スレートなど凹凸のある材料については、別途の試験方法や製品規格に基づく試験が必要です。「建築用ボード類だから全部JIS A 1408でOK」という思い込みは間違いです。
3つ目は「砂上全面支持(S1)の砂の種類と量にも規定がある」という点です。
JIS A 1408では砂上全面支持に使用する砂について「JIS R 5201に規定する標準砂、または豊浦産砂もしくは1.2mmふるいを通過した乾燥状態の川砂」と規定し、容器への充填厚さも100mm以上と定められています。砂の種類や充填量が異なると試験体の支持剛性が変化し、同じ落下高さでも試験結果に影響が出る可能性があります。試験機関に依頼する際や自社で試験する際、砂の条件は見落としやすい部分です。
では、こうした試験条件の確認をどこでするかというと、建材試験センター(JTCCM)の試験成績書が最も信頼性の高い情報源です。JIS A 1408・JIS A 1518をはじめとする建築材料の試験を公的機関として実施しており、試験成績書には試験条件がすべて記載されます。メーカーから試験成績書を入手する際は、試験機関名・規格番号・試験条件(支持方法・おもり種類・落下高さ・養生状態)の5点が記載されていることを確認するのが基本です。
また、JIS規格は定期的に改正されます。JIS A 1408は2017年に改正、JIS R 3110は2021年制定、JIS R 3109は2024年改正と、近年も動いています。古いカタログや古い試験成績書をそのまま使い続けていると、現行規格との乖離が生じることがあります。規格番号の後に記載されている年号(例:JIS A 1408:2017)を確認し、必要に応じてメーカーに最新の試験成績書の提出を求める習慣をつけましょう。
| 確認すべきポイント | チェック内容 |
|---|---|
| 試験規格と年号 | JIS A 1408:2017など年号付きで確認 |
| 支持方法 | S1(砂上)・S2(単純支持)・S3(固定支持)のどれか |
| 支持スパン | 実際の施工スパンと近い条件かを確認 |
| おもりの種類と質量 | W1-500など記号で確認 |
| 落下高さ(cm) | おもりの下端から試験体上面までの距離 |
| 養生状態 | 気乾・乾燥・湿潤・飽水のどの条件か |
| 試験機関名 | 第三者機関(JTCCM等)の試験かを確認 |
試験成績書の7項目が揃っていることが条件です。これだけ確認できれば、材料選定のトラブルを大幅に減らすことができます。
建材試験センター 構造・建具試験(振り子式衝撃試験装置の紹介)
JIS A 1518(ドアセット砂袋試験)・JIS A 5441(押出成形セメント板)などに対応した試験設備の詳細が確認できます。試験依頼の際の参考にも役立ちます。

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