
建築業界でステンレス材を適切に選定するためには、まずJIS規格体系を理解することが重要です。現在JISでは65種類のステンレスが規定されており、これらは大きく3つの系統に分類されています。
オーステナイト系ステンレスは、18クロム-8ニッケルのSUS304が代表格で、延性と靭性に富み、深絞りや曲げ加工などの冷間加工性に優れています。建築用途では最も汎用的で、耐食性、加工性、溶接性のバランスが良好です。
フェライト系のSUS430は、ニッケルをほとんど含まないため、コストメリットが大きい特徴があります。耐食性はSUS304に劣りますが、磁性を持つため特定の用途では有効です。
マルテンサイト系のSUS410やSUS420は、焼入れにより高硬度化が可能で、耐摩耗性が要求される部位に適用されます。工具や精密機械部品に多用されています。
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実際の設計・積算業務では、規格表から正確な寸法と重量を把握することが必須です。SUS304鋼板の規格重量表では、比重7.93を基準として計算されています。
標準的な板厚は、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.0mmから20mmまで段階的に設定されており、メーター板(1000×2000)や4'×8'(1219×2438)などの標準寸法が定められています。
丸棒材では、直径3mmから230mmまで豊富なサイズが用意されており、角鋼は5mmから60mmまで、六角鋼は対辺8mmから46mmまでの標準寸法が設定されています。
配管用ステンレス鋼管(JIS G 3459、JIS G 3468)では、呼び径6Aから各種厚さの組み合わせが規定されており、建築設備設計では重要な基準となります。
これらの寸法規格を正確に把握することで、材料歩留まりの改善と工期短縮が実現できます。
2000年の建築基準法改正により、建築構造用ステンレス鋼材(JIS G 4321)が制定され、一般構造用鋼材と同様の扱いが可能になりました。
建築構造用として使用可能なSUS304A、SUS316A、SUS304N2Aの機械的性質は、通常のステンレスとは異なる基準が設定されています。
これにより、SN400、SN490と同じ規準強度を有し、構造設計が容易になっています。降伏比は60%以下に制限されており、伸び率も厳格に管理されています。
建築構造用ステンレス鋼材の関連規格には、接合用高力ボルト(JIS B 1186)、溶接材料(JIS Z 3221、3323、3324)など、施工に必要な規格も整備されています。
特に意外な点として、建築用途では一般のステンレス鋼のJIS規格の0.2%耐力では不十分で、実験結果から0.1%耐力を設定していることが挙げられます。
建築用途でのステンレス選定では、使用環境に応じた適切な規格選択が重要です。海水や酸性環境にはSUS316系、一般的な屋外用途にはSUS304系が適しています。
表面仕上げも用途により規格化されており、2B仕上げは冷間圧延後の熱処理・酸洗いによる均一な表面で、工業分野のタンクや配管に広く使用されます。#400ミガキ材は鏡面に近い光沢があり、半導体製造装置や厨房器具に適用されています。
建築分野では以下の用途が一般的です。
磁性の有無も重要な選定要素で、マルテンサイト系とフェライト系は磁性あり、オーステナイト系は基本的に非磁性ですが、加工により磁性を帯びる場合があります。
愛知製鋼による建築構造用ステンレス詳細情報
近年の技術進歩により、従来の規格にない特殊な用途向けステンレス材質が開発されています。デュプレックス系ステンレス鋼は、オーステナイトとフェライトが約半分ずつの組織で、「リーン」「スタンダード」「スーパー」「ハイパー」の4つのグループに分類されます。
これらは高強度、良好な靭性、優れた耐食性、特に応力腐食割れに対する高い抵抗性を併せ持っています。1970年代のAOD(アルゴン酸素脱炭)製鋼プロセス導入と窒素添加により、より強く、溶接性と耐食性に優れた合金となりました。
エキスパンドメタルにおいても、SUS304材質での製品規格表が詳細に定められており、開口率や単位重量が明確に規定されています。メッシュサイズ3.1×6.0mmから34×135.4mmまで、用途に応じた豊富な選択肢があります。
建築業界では、これらの最新材質を活用することで、従来困難だった用途への適用や、ライフサイクルコストの大幅削減が可能になっています。特に海洋環境や化学プラント近辺の建築物では、これらの高耐食性材質の採用が急速に進んでいます。
意外な応用例として、ナノテクノロジー分野では、ステンレスのアノード酸化皮膜を利用した微細加工マスクとしての利用研究も進んでおり、将来的には建築分野への応用も期待されています。