耐電圧絶縁抵抗違いを測定方法と基準値で解説

耐電圧絶縁抵抗違いを測定方法と基準値で解説

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耐電圧と絶縁抵抗の違い

耐電圧試験と絶縁抵抗測定の3つの違い
試験の目的

耐電圧試験は高電圧への耐久力を確認し、絶縁抵抗測定は絶縁体の健全性を数値で評価します

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印加電圧の違い

耐電圧試験では通常の2~3倍の高電圧を、絶縁抵抗測定では250V~1000Vの低電圧を使用します

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評価方法

耐電圧試験は絶縁破壊の有無を、絶縁抵抗測定は抵抗値が基準値以上かを確認します

耐電圧試験の特徴と目的

耐電圧試験は、電気機器や部品が規定された高電圧に耐えられるかを確認する破壊試験です。通常使用時にはかからない非常に高い電圧を一定時間加えて、絶縁破壊を起こさないことを確認します。この試験は電気製品の安全性を確保するための基本となる試験であり、「絶縁耐力試験」や「Hi-Pot試験」とも呼ばれています。
参考)耐電圧試験と絶縁抵抗試験の違いとは? - 計測技術研究所

試験では通常取り扱う電圧の10倍から20倍の交流電圧または直流電圧を印加し、規定された時間内に絶縁破壊が起こらなければ、その絶縁物は十分な絶縁耐力を持つと判断されます。電気製品ごとに安全規格により試験箇所や印加電圧が定められており、製造工程で全数検査が義務付けられている規格も多く存在します。
参考)絶縁耐圧とは?絶縁抵抗との違いや重要性を説明

耐電圧試験は体力測定に例えられ、装置の耐久性を確認する重要な工程です。試験箇所は主に入力部とシャーシ間、入力部と二次回路間、二次回路とシャーシ間の3箇所で実施され、漏洩電流を測定します。
参考)耐電圧試験(絶縁耐力試験)とは?『試験方法』などを解説! -…

絶縁抵抗測定の特徴と目的

絶縁抵抗測定は、測定する部分を流れる電流が規定の値を上回っていないかを確認する作業です。絶縁体の抵抗値を測定することで、絶縁不良が起こっていないか、正しく絶縁できているか、電流が流れていないかを判断します。抵抗値が高いほど絶縁状態が良好であり、測定単位にはΩ(オーム)やMΩ(メガオーム)が使用されます。
参考)絶縁抵抗測定とは?基準値や測定方法・実施手順、注意点などをわ…

絶縁抵抗測定は健康診断に例えられ、装置がしっかり絶縁しているかを確認する日常的な点検です。測定には絶縁抵抗計(メガー)を使用し、比較的低い直流電圧(250V~1000V)をかけて抵抗値を測定します。測定された抵抗値が基準値以上であれば、絶縁性能が保たれていると判断されます。
参考)https://hiokisupport.zendesk.com/hc/ja/articles/11882913584527--%E5%AE%89%E5%85%A8%E8%A6%8F%E6%A0%BC%E8%A9%A6%E9%A8%93%E5%99%A8-%E7%B5%B6%E7%B8%81%E6%8A%B5%E6%8A%97%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%81%A8%E8%80%90%E9%9B%BB%E5%9C%A7%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84

絶縁抵抗は「印加する電圧÷流れる電流」の式で算出され、電気設備技術基準により使用電圧区分ごとに基準値が定められています。測定前には絶縁抵抗計のバッテリーチェックとゼロ確認を行い、必ず停電状態(無電圧状態)で実施する必要があります。
参考)絶縁抵抗測定とは?実施方法と基準値・抵抗測定計の種類も解説

耐電圧試験と絶縁抵抗測定の実施場面の違い

耐電圧試験と絶縁抵抗測定では、実施するタイミングや場面が大きく異なります。耐電圧試験は製品の最終確認や安全性試験として使用され、製造工程における品質保証の重要な工程です。高電圧を印加するため絶縁破壊の可能性があり、試験の安全レベルは高めのリスクを伴います。​
一方、絶縁抵抗測定は日常的な点検やメンテナンス時に実施される比較的安全な検査です。低めの電圧を使用するため通常動作条件での確認となり、既存の電気機器や回路の保守・維持管理の目的でも頻繁に実施されます。電路を停電することができない場合は、漏えい電流が1mA以下であれば絶縁性能が保たれているとみなされることもあります。
参考)電気設備技術基準・解釈の解説〔その2〕電路の絶縁と接地

高圧受電設備では、低圧回路であれば一般的に絶縁抵抗測定を実施しますが、竣工時や更新時などには絶縁耐力試験を行います。このように、両試験は目的と状況に応じて使い分けることが重要です。
参考)特別高圧、高圧受電設備の耐圧試験について解説

耐電圧試験における印加電圧と測定値の基準

耐電圧試験で印加する電圧は、通常使用電圧の2倍から3倍の高電圧が一般的です。例えば100V(商用電源)を使用する機器では、通常より高い1500Vを電極間に印加して確認します。試験時間は規定により1分間の電圧印加が基本ですが、実際には「1分間の試験で規定される電圧値の1.2倍の電圧を1秒間印加する」という簡易的な方法も認められています。
参考)耐電圧(耐圧)試験

高圧または特別高圧の設備では、試験電圧を対地間に連続して10分間加えた際に絶縁破壊を起こさない性能が求められます。試験電圧は最大使用電圧×倍数で計算され、例えば6.6kV回路の機器であれば「6,600V×1.15/1.1×1.5倍=10,350V」となります。ケーブルに関しては交流の試験電圧の2倍の直流電圧を10分間印加することでも絶縁性能の確認が可能です。​
評価結果は漏れ電流や絶縁破壊の有無で判断され、試験中にフラッシュオーバー(火花放電)などの異常が発生しなければ合格となります。耐電圧試験器には遮断電流(試験上限値)を設定し、この基準となる漏れ電流値を超えた場合に試験を自動停止させる機能が備わっています。​

絶縁抵抗測定における基準値と判定方法

絶縁抵抗測定の基準値は「電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)」第5条第2項により規定されています。電路の使用電圧区分に応じて、300V以下の対地電圧150V以下(100/200V)では0.1MΩ以上、300V以下の対地電圧150V超過(三相200V)では0.2MΩ以上、300V超過(三相400V)では0.4MΩ以上の絶縁抵抗値が求められます。​
測定時には絶縁抵抗計から充電電流が流れるため、測定直後は数値が小さめに表示される傾向があります。時間が経過すると充電電流が小さくなって安定し、絶縁抵抗値は一定の数値を示すようになるため、表示される数値が安定するまで待ってから読み取る必要があります。一般的に正常な回路であれば約100MΩ程度の値を示しますが、10MΩでも基準値を上回っているため異常なしと判断されます。
参考)【分かりやすく】絶縁抵抗測定(メガー)の測定方法と判定基準に…

ただし、他の回路より数値が低い場合は、配線の水濡れやケーブルの損傷など何らかの原因が潜んでいる可能性があるため、詳細な調査が推奨されます。絶縁抵抗値のバラつきから不具合を早期発見することで、絶縁破壊による漏電や火災などの重大事故を未然に防ぐことができます。
参考)絶縁抵抗値のバラつきから見つけた不具合 - ENETECH …

耐電圧試験の測定方法と安全対策の実務

耐電圧試験の測定手順は、まず対象の電気機器の2箇所に耐圧試験器のテストリードを接続することから始まります。次に遮断電流(試験合否の基準となる漏れ電流値)を設定し、電圧を印加する時間と印加電圧の数値を設定します。設定完了後に開始スイッチを入れ、試験結果を確認しながら絶縁破壊やフラッシュオーバーなどの異常が発生していないかを併せて確かめます。​
試験箇所は主に入力部のライブ(L)とニュートラル(N)をショートさせた後、入力部と試験物の露出している金属部(シャーシ)間、入力部と二次回路間、二次回路とシャーシ間の3箇所で実施されます。HIGHとLOW間にAC(交流)の高電圧を印加し、ACライン-シャーシに流れる漏れ電流を計測することで絶縁性を確認します。
参考)耐電圧試験/部分放電試験 href="https://kikusui.co.jp/kikusui-solutions/voltage-testers/" target="_blank">https://kikusui.co.jp/kikusui-solutions/voltage-testers/amp;#8211; 菊水電子工業株式会…

安全対策として、試験中は高電圧用ゴム手袋・ゴム長靴を着用し、試験物の下には絶縁マットを敷くことが必須です。試験中は火花が発生し火災になる可能性があるため、周りに可燃性のものを置かないよう注意が必要です。また、異常時には大きな音や破片が飛ぶ可能性があるため、保護メガネなどを着用し、周辺の人が試験物に触れることがないよう十分な配慮が求められます。高圧側の配線はできるだけ短くし、可能な限りどこにも触れないようにすることで漏洩対策を行います。youtube​
参考)https://hiokisupport.zendesk.com/hc/ja/articles/9370556299151--%E5%AE%89%E5%85%A8%E8%A6%8F%E6%A0%BC%E8%A9%A6%E9%A8%93%E5%99%A8-%E9%85%8D%E7%B7%9A%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9-%E6%BC%8F%E6%B4%A9%E5%AF%BE%E7%AD%96-%E8%80%90%E9%9B%BB%E5%9C%A7-%E7%B5%B6%E7%B8%81%E6%8A%B5%E6%8A%97

計測技術研究所 基礎講座「安全試験について」
試験中の高電圧注意や安全装置の設置について詳しく解説されています。

 

絶縁抵抗測定の実施手順と測定時の注意事項

絶縁抵抗測定の実施手順は、まず絶縁抵抗計のバッテリーが切れていないかを確認することから始まります。バッテリーチェックの方法は機種によって異なるため、取扱説明書をよく確認する必要があります。次にゼロ確認を行い、ラインテストリードとアーステストリードを短絡させた状態で0MΩと表示されることを確認します。​
測定対象は必ず停電状態(無電圧状態)で行い、ブレーカーを遮断した後は検電器ですべての電線の停電状態を確認します。測定時には回路の周辺から人払いを行い、高い直流電圧が掛かる間は作業者が回路に触れたり近づいたりしないよう注意喚起が必要です。測定対象にテストリードを当てた後、測定ボタンを押し続けることで設定したレンジの直流電圧が印加され、絶縁抵抗値が測定されます。​
一般的な絶縁抵抗計には測定ボタンを押した状態でキープできるロック機構が備わっており、HIOKIの場合はレバーを起こすことで、共立電気計器の場合は測定ボタンを回すことでキープ状態にできます。測定値は時間的に変化する性質を持つため、測定直後ではなく表示される数値が安定するまで待ってから読み取ることが重要です。測定前に対象をきれいに清掃しておくことで、ホコリや汚れによる測定誤差を防ぐことができます。​
なべちゃんワークス 絶縁抵抗測定(メガー)の測定方法と判定
HIOKI製絶縁抵抗計を使った測定手順と測定値の読み取り方が図解されています。

 

絶縁破壊の原因と絶縁抵抗低下のトラブル事例

絶縁破壊が発生する主な原因として、設計者の設計ミスが挙げられます。設計上想定していた電圧より実際に流れる電圧が大きく、絶縁体の限界値を超えてしまえば絶縁破壊が生じます。また、機器は使用するうちに必ず経年劣化していき絶縁抵抗が低くなり、電気が漏れやすくなります。経年劣化による絶縁破壊が生じると、想定外の場所に電気が流れて漏電し、機器の故障や感電、火災などの原因になります。
参考)絶縁破壊とは?その発生原因と予防策

作業中のミスによる物理的損傷も絶縁破壊の重要な原因です。配線工事時に無理な引き回しや固定ミスがあると、数年後にその箇所が絶縁劣化の原因となることがあります。ネズミなどの小動物による配線のかじりや、工具の置き忘れによる圧迫など、思わぬ要因が物理的損傷につながるケースも報告されています。​
実際のトラブル事例として、太陽光発電所で1回路だけ絶縁抵抗値が10MΩと他の回路より低い状態が発見されました。調査の結果、配線を保護している配管に水が溜まっており、複数回路のケーブルが水に浸かっている状態でした。水を抜くことで絶縁抵抗値は改善しましたが、絶縁不良のケーブルが水に浸かった状態は非常に危険であり、放置するとケーブルの被覆の劣化が早まり漏電や事故につながる恐れがあります。​

電圧測定における絶縁体の劣化要因と予防策

絶縁体の劣化は様々な環境要因によって引き起こされます。日光や蛍光灯の紫外線による経年劣化、温度・湿度による劣化、振動・衝撃などの機械的要因による劣化、過電流などの電気的要因、さらに埃・油による劣化など、複合的な要因が絶縁性能の低下を招きます。特に油や薬品が内部へ浸透すると材料の膨潤、機械的強度の低下、化学的分解などが生じ、絶縁抵抗の低下やtanδの増加をきたします。
参考)電力用CVケーブルの絶縁劣化原因と絶縁性能評価方法

系統に発生する持続性過電圧、開閉サージ、雷サージなどの異常電圧も劣化の要因となります。絶縁体中に異物やボイド、内外半導電層と絶縁体間の層ばなれによるギャップ、布設工事中に働くストレスによって生じたクラックなどがあると、低電圧でも部分放電(コロナ放電)が発生します。この放電の繰り返しにより徐々に絶縁体が侵食され、最終的に絶縁破壊に至ります。​
予防策として、配線・施工の品質管理だけでなく、運用中の機器に対する振動・熱・衝撃などのストレスを定期的にチェックすることが重要です。電流の異常値を監視する装置を導入すれば、過電流の兆候を早期に検出し、絶縁劣化を未然に防ぐことが可能になります。定期的な点検により小さな不具合を見つけて是正することが、電気設備の長期安定化実現に繋がります。​
リタール BLOG 絶縁破壊とは?その発生原因と予防策
設計ミス、経年劣化、物理的損傷など絶縁破壊の具体的な原因と対策が詳しく説明されています。

 

建築現場で活用できる耐電圧と絶縁抵抗の管理手法

建築事業者にとって、電気設備の安全性確保は施工品質と直結する重要課題です。耐電圧試験は竣工時や設備更新時に実施し、新設された電気機器が規定の電圧に耐えられることを確認します。一方、絶縁抵抗測定は日常的なメンテナンスとして定期的に実施し、経年劣化や環境変化による絶縁性能の低下を早期発見することが可能です。​
現場での管理手法として、絶縁抵抗測定では正しいレンジの絶縁抵抗計を使用することが大切です。電圧計の場合と同様に、100Vのレンジでは100V以上の電圧を測定できないため、実際の数値が500Vでも正確に測定できません。測定対象の電圧区分に応じて適切なレンジを選択し、250V~1000Vの範囲で測定を行います。​
絶縁抵抗値は単に基準値をクリアしているかだけでなく、同じ条件の回路間でバラつきがないかを確認することも重要です。数値上では異常ではなくても、他の回路より数値が低い場合は配線の状態や接続部の劣化など、潜在的な不具合の兆候である可能性があります。トレンド管理により経時変化を把握し、故障予防に繋げる常時監視システムの導入も効果的な管理手法として注目されています。​
建築現場では施工ミスや工具の置き忘れによる配線損傷、配管内への水の浸入など、様々なリスクが存在します。竣工前の最終確認として耐電圧試験を実施し、引き渡し後も定期的な絶縁抵抗測定を行うことで、長期にわたる電気設備の安全性を確保できます。​