
絶縁体は電気を通しにくい性質を持つ物質の総称で、電気設備の安全性確保に欠かせない材料です。絶縁体は主に気体、液体、固体の3種類に分類され、それぞれが異なる用途で使用されています。
参考)似ているようで全く違う絶縁体と誘電体|松定プレシジョン
気体絶縁材料には、空気、六ふっ化硫黄(SF6)ガス、水素ガス、窒素ガスなどがあります。気体絶縁材料の最大の特徴は、圧力を高くすると絶縁耐力が高くなることです。一般的に固体や液体の絶縁材料に比べて絶縁耐力は劣りますが、軽量で、熱的・化学的に安定度が高く、不燃性が高いという利点があります。
参考)絶縁材料
六ふっ化硫黄(SF6)ガスは、気体絶縁材料として最も使用されているもので、無色・無臭で空気より重い気体です。化学的に安定しており、絶縁耐力が空気と比較して高く、アークを消弧する能力に優れているため、ガス遮断器、ガス変圧器、ガス絶縁開閉装置(GIS)などの絶縁材料や消弧媒体として使われます。ただし、地球温暖化に及ぼす影響が大きいという問題点があります。
樹脂系の絶縁材料は、電気設備で広く使用されている固体絶縁材です。代表的な絶縁樹脂の種類と性能を以下に示します。
参考)絶縁樹脂の種類・特徴・主な用途を解説|絶縁性の一覧表も掲載
高性能絶縁樹脂
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、体積抵抗率が10^18Ω·cm以上、絶縁破壊強度が19-20kV/mm、誘電率が2.1と、最も優れた絶縁性能を持ちます。耐熱温度は約260℃で、ほとんど全ての化学薬品に不活性という特徴があります。
参考)電気絶縁
PEI(ポリエーテルイミド)は、体積抵抗率が10^18~10^19Ω·cm、絶縁破壊強度が24kV/mm、誘電率が3.1~3.7です。PC(ポリカーボネート)は、体積抵抗率が10^18~10^19Ω·cm、絶縁破壊強度が31~33kV/mmと高い値を示します。
汎用絶縁樹脂
エポキシ樹脂(EP)は、体積抵抗率が10^14~10^18Ω·cm、絶縁破壊強度が20~30kV/mm、誘電率が3.3~4.0で、耐熱温度は150~200℃です。シリコーン樹脂(SI)は、体積抵抗率が10^14Ω·cm、絶縁破壊強度が16~22kV/mm、誘電率が3.2~4.3で、耐熱温度は約250℃と高い耐熱性を持ちます。
参考)絶縁材料の耐熱クラス(A種、B種など)や材料の加工について解…
ポリエチレンは、絶縁破壊強度が40~50kV/mm、体積抵抗率が6×10^18Ω·cmと非常に高い絶縁性能を持ち、耐熱温度は70~110℃です。ポリプロピレン(PP)は、体積抵抗率が10^16Ω·cm以上、絶縁破壊強度が24kV/mmです。
セラミック系の絶縁材料は、高い耐熱性と優れた絶縁性能を持ちます。アルミナは、絶縁耐力が10kV/mm以上、体積抵抗率が10^14Ω·cm以上という高い絶縁性能を持ちます。窒化ケイ素は、絶縁耐力が14kV/mm以上、体積抵抗率が10^14Ω·cm以上です。
参考)絶縁耐力、体積抵抗率 - トップ精工
窒化アルミニウムは、絶縁耐力が15kV/mm以上、体積抵抗率が10^14Ω·cm以上と、セラミック材料の中でも特に優れた性能を持ちます。ステアタイトは、絶縁耐力が18kV/mm、体積抵抗率が10^14Ω·cmで、幅広い用途で使用されています。
マセライトSPは、絶縁耐力が10kV/mm以上、体積抵抗率が2×10^15Ω·cmで、マシナブルセラミックスとして加工性に優れています。石英は、絶縁耐力が10kV/mm以上、体積抵抗率が10^14Ω·cm以上という高い絶縁性能を持ち、高温環境での使用に適しています。
導体は電気を通しやすい物質で、金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの金属が代表的です。導体の電気抵抗率は10^-8~10^-4Ωcmと非常に小さい値です。一方、絶縁体は電気を通しにくい物質で、ガラス、ゴム、プラスチック、セラミックなどが該当し、電気抵抗率は10^8~10^18Ωcmと非常に大きな値を示します。
参考)1. 導体・半導体・絶縁体
半導体は導体と絶縁体の中間的な性質を持ち、電気抵抗率は10^-4~10^8Ωcmの範囲に分布しています。半導体の代表的な素材はシリコンやゲルマニウムで、温度や不純物の添加によって電気伝導性を制御できるという特徴があります。
参考)1. 半導体の性質 : 日立ハイテク
物質の電気伝導性の違いは、バンドギャップの大きさによって決まります。導体はバンドギャップがなく電子が自由に移動できるため、電気を通しやすくなります。絶縁体はバンドギャップが大きいため電子が移動できず、電気が流れません。半導体はバンドギャップが小さく、不純物を混ぜることで電子や空孔の流れを制御できます。
参考)半導体とは?
絶縁材料は、JISで定められている耐熱クラス(絶縁階級)によって分類されており、これは絶縁材料が安全に使用できる温度範囲を示しています。高温の環境下で耐熱温度を超えた絶縁材料を使用すると、部品の劣化・機械の故障の原因となってしまうため、絶縁材料を選ぶ際には耐熱クラスに適した材料を選択する必要があります。
参考)これだけ読めば絶縁材料マスターに!耐熱クラスや加工事例につい…
耐熱クラスは、Yクラス(最高許容温度90℃)、Aクラス(105℃)、Eクラス(120℃)、Bクラス(130℃)、Fクラス(155℃)、Hクラス(180℃)、Nクラス(200℃)、250クラス(250℃)に分類されています。最高許容温度250℃以降は、25℃間隔でクラス設定があります。
シリコーン樹脂は約250℃の耐熱温度を持ち、高温環境での使用に適しています。フッ素樹脂は約260℃の耐熱温度を持ち、最も高い耐熱性を誇る樹脂材料です。エポキシ樹脂は150~200℃、フェノール樹脂は150~180℃の耐熱温度を持ちます。
建築電気設備で絶縁材料を選定する際は、使用環境と用途を十分に考慮する必要があります。設置場所によって、必要な絶縁性能、耐熱性、耐候性、機械的強度が大きく異なるためです。
参考)電気工事に使う配管の種類と選び方・配管の必要性について解説
屋外や湿気の多い環境では、耐水性と耐候性に優れた材料を選ぶ必要があります。ビニール素材の絶縁体は水には強いため、電源タップや通常の電気器具コードに利用されていますが、高温の熱に弱いため電熱器具などのコードには使用できません。
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コンクリート埋設や地中配線では、CD管(合成樹脂可とう電線管)が一般的に使用されます。CD管は一度火がついてしまうと周辺に火の気がなくなっても燃え続けるという特性がありますが、埋設されるため問題となりません。一方、PF管は炎に当たると燃えますが、火がなくなれば自然に消火するという特性を持っており、露出配管に適しています。
高電圧機器の近くでは、感電リスクを低減するために、FRP素材などの高い絶縁性能を持つ材料を使用した絶縁梯子が必要です。変電所、送電施設、大型工場のプラントエリアなどの特殊現場では、通常よりも高リスクの感電環境となるため、専用の絶縁装備が求められます。
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絶縁テープがどれほどの電圧に耐えられるかの指標として、「絶縁破壊電圧」があり、それを超える電圧では通電してしまいます。絶縁する箇所の電圧がどれほどか、絶縁テープがどれほどの電圧に耐えられるかを確認して選ぶ必要があります。同じ素材のテープであれば、厚いほど絶縁性が高くなる傾向です。
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電路の絶縁は、「電気設備技術基準」によって規定されています。電気設備技術基準とは、発電所から使用する場所までの電気設備について、電気事業法に基づいて基準を定めたものです。
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絶縁抵抗値は、使用する電圧区分に応じて定められています。300V以下で対地電圧150V以下(100/200V)の場合は0.1MΩ以上、300V以下で対地電圧150V超過(三相200V)の場合は0.2MΩ以上、300V超過(三相400V)の場合は0.4MΩ以上という基準があります。
屋内の一般的な電気設備においては、絶縁抵抗値が0.1メガオーム以上であることが求められます。ただし、より高い安全性が求められる場合には、絶縁抵抗値がより高い値になることがあります。病院や高層ビル、工場などで使用される電気設備においては、絶縁抵抗値が1メガオーム以上であることが望ましいとされています。
参考)https://www.fa.omron.co.jp/product/special/maintenance-solution/column/column09/
絶縁不良の根本的な原因は、絶縁材の劣化です。絶縁材が劣化し、その性能が低下することで電気の漏えいやショートが生じ、場合によっては火災や機器故障に繋がる可能性があります。
参考)電気設備における絶縁不良とは?原因と対策を専門家が解説 - …
絶縁劣化が起こる要因には、環境的要因(温度、湿度、粉塵、オイルミストなど)、電気的要因(過電流、放電など)、機械的要因(振動、衝撃など)があります。温度上昇は絶縁油が劣化する一番の要因で、空調量不足、ケーブルに安全電流以上のものを流す過負荷、外部からの湿気やゴミ、ホコリが機器の内部に入りこむことなどが原因となります。
参考)絶縁劣化が起こる要因は?予防保全の見直しはいかがでしょうか
定期点検においては、各種機器ならびに電気配線を電気設備技術基準にしたがって毎年1回絶縁抵抗計(1000Vあるいは500Vメガー)で測定し、定められた値以上になっているかを調べます。変圧器、コンデンサ、遮断器など絶縁油を使用しているものについては、JIS規格に従って絶縁耐力試験で破壊試験を行い酸化度を測定し、問題があれば油ろ過や取り替えで対応します。
参考)絶縁劣化を検出する方法【電気設備】
絶縁不良を発見した際には、放置せずに速やかに対策を講じることが必要です。絶縁不良の対策は、主に「材料の交換・補修」「コーティングや乾燥処理」「オーバーホール」の3つに分類されます。劣化または損傷した絶縁材料の交換や補修が最も基本的な対策で、補修後には必ず絶縁抵抗の再測定を行い、法令基準値をクリアしているかを確認する必要があります。
参考)絶縁不良とは?原因・調べ方・対策をわかりやすく解説
電気工事で使用する電線は、特に絶縁電線は被覆が弱く、配管で保護して使うことが必要です。絶縁電線やケーブルを電線管の中に入れることで、直射日光による劣化や衝撃による断線などから電線を保護して、安全性の高い送電を行うことができます。
電気工事で使う配管には、CD管(合成樹脂可とう電線管)、PF管(合成樹脂可とう電線管)、VE管(硬質ビニル電線管)、HIVE管(耐衝撃性硬質ビニル管)、E管(ねじなし電線管)、C管(薄鋼電線管)、G管(厚鋼電線管)、PE管(ポリエチレン被覆鋼管)などの種類があります。
金属管は鋼製の電線管で硬度に優れており、耐久性があるため、工場や屋外でよく使用されます。一方で、曲げるなどの加工が難しく、重量もあるため扱うのがやや難しい素材です。
合成樹脂製の電線管は強度に優れていながらバーナーであぶって曲げることが可能です。RC建物で行う電気工事では、建込み配管やスラブ配管などの埋設配管が必要です。電気室、機械室、外部の露出配管などの電気工事の配管は、場所によって配管の種類も違うため、それぞれ材質や特徴を考えながら選ぶ必要があります。
がいし引き工事では、電線には絶縁電線を用い、人が触れないように施設する必要があります。がいしは、絶縁性、難燃性及び耐水性のものを使用し、一般にはノップがいしなどを用います。電線が造営材を貫通する場合は、その貫通する部分の電線を電線ごとにそれぞれ別個の難燃性及び耐水性のある絶縁管に収めることが規定されています。
参考)電気設備技術基準・解釈の解説〔その7〕電気使用場所の施設の規…