

低温試験で「室温に戻せばいい」と思っているなら、それだけで検査不合格になります。
低温試験とは、材料や製品を一定の低温環境下に置き、その状態での性能・物性の変化を確認する試験のことです。JIS(日本産業規格)では、材料ごとに試験温度・保持時間・評価方法が細かく規定されており、建築分野では特にシーリング材・防水材・ガスケット・接着剤・合成樹脂製品などに広く適用されています。
目的はシンプルです。冬季の低温環境下で材料が割れたり、ひび割れたり、変形したりしないかを事前に確認することです。日本の建築現場では、北海道など寒冷地で外気温がマイナス20℃前後に達することもあります。その条件下で性能を維持できない材料を使えば、施工後に深刻な不具合が生じます。つまり低温試験は、現場で起こりうるリスクを「事前に数値で可視化する」手段といえます。
建築材料に関わる代表的なJIS規格としては、JIS A 5758(建築用シーリング材)やJIS A 6021(屋根用防水シート)などが挙げられます。それぞれ低温試験の条件が異なるため、使用する材料に対応した規格を正確に確認することが基本です。
低温試験は必須です。
JIS規格の低温試験で最初につまずくのが、「試験温度と保持時間をどの規格から読み取るか」という点です。たとえばJIS A 5758に規定されるシーリング材の低温試験では、−20℃または−30℃の環境下に試験体を一定時間(通常は2時間以上)保持し、その後に屈曲・引張・圧縮などの評価を行います。温度条件は製品の種類や使用区分によって異なるため、規格表を一字一句確認することが条件です。
保持時間も見落としがちなポイントです。「とりあえず1時間冷やせばいいだろう」という判断は通用しません。規格が定める保持時間に満たない場合、材料の内部まで均一に冷却されていないため、試験結果の信頼性が失われます。2時間と3時間では、材料への影響が数値として明確に異なることが報告されています。厳しいところですね。
試験手順の基本的な流れは次の通りです。まず試験体を規定の寸法に作製し、温度が安定した低温槽に投入します。規定の保持時間が経過したら、槽内または槽外で速やかに評価操作(屈曲・折り曲げ・引張など)を実施します。この「速やかに」という部分が重要で、取り出してから時間をかけると室温の影響を受け、正確な評価ができなくなります。
つまり「取り出してから何秒以内に操作するか」まで、規格で確認が必要です。
日本産業標準調査会(JISC):JIS規格の番号検索・閲覧が無料で可能。A5758など建築関連規格の原文確認に活用できます。
建築現場でもっとも使用頻度が高い低温試験関連規格の一つが、JIS A 5758(建築用シーリング材)です。この規格では、低温時の性能確認として「低温屈曲性試験」が規定されています。試験温度はシーリング材の種類(1成分形・2成分形など)や使用区分によって異なりますが、代表的な条件は−20℃または−30℃です。
試験体の寸法も規格で定められており、幅・厚さ・長さが厳密に指定されています。たとえば試験体の厚さが数ミリ単位でずれると、試験結果が規格の合否ラインをまたぐケースがあります。現場でよくある失敗として「試験体を手で成形したために寸法が不均一になった」というものがあります。これは想像以上にリスクが高い話です。
低温屈曲性試験では、試験体を規定温度に保持した後、直径が規定された金属棒に沿って一定速度で折り曲げます。その際に割れ・亀裂・はがれなどの異常が生じないかを目視で評価します。これが基本です。
数値で整理すると、たとえばJIS A 5758の一部区分では「−20℃×2時間保持後、直径20mmの棒に180°屈曲」という条件が設定されています。180°というのは、試験体を完全に折り返すイメージです。コピー用紙を真っ二つに折り返すような動作を、マイナス20度の世界でシーリング材に対して行う、と考えるとイメージしやすいでしょう。
この試験に合格できない製品は、寒冷地での外壁目地や窓周りへの使用が事実上困難になります。
日本規格協会(JSA):JIS規格の正式な購入・閲覧窓口。JIS A 5758など建築用材料の規格原文を入手する際に参照できます。
シーリング材と同様に、防水分野でも低温試験は重要な位置を占めています。JIS A 6021(屋根用防水シート)では、低温折り曲げ試験が規定されており、試験温度はシートの種類によって−10℃から−20℃程度の範囲に設定されています。シーリング材よりも温度条件がやや緩い区分もありますが、それはシートの材質や施工部位の違いを考慮した設計です。
防水シートの低温試験では「折り曲げ後にシートが割れたり層間はがれが起きたりしないか」を確認します。防水シートは屋根面や地下外壁など、後から交換が困難な部位に使われることが多いため、低温下での柔軟性確保は特に重要です。意外ですね。
また、ウレタン防水材など塗膜系の防水材にも低温性能の規定があり、JIS A 6021とは別の規格(JIS A 6022など)で試験方法が定められています。複数の規格が並立しているため、どの材料にどの規格が適用されるかを事前に整理しておくことが現場担当者には欠かせません。
規格を横並びで比較するときは、以下の3点に注目すると整理しやすいです。
| 規格番号 | 対象材料 | 低温試験温度(代表例) | 評価方法 |
|---|---|---|---|
| JIS A 5758 | 建築用シーリング材 | −20℃〜−30℃ | 低温屈曲性試験 |
| JIS A 6021 | 屋根用防水シート | −10℃〜−20℃ | 低温折り曲げ試験 |
| JIS A 6909 | 建築用仕上塗材 | 条件は種類による | 耐凍害性試験(凍結融解) |
| JIS K 6251 | 加硫ゴム・合成ゴム | −25℃〜−55℃(種別による) | 低温脆化温度試験など |
この表のように、材料ごとに試験温度も評価方法も異なります。「防水材だから全部A 6021でいい」という考え方は通用しません。これが条件です。
低温試験の規格や手順を理解していても、現場判断の段階でミスが起きるケースがあります。特に頻度が高い3つを整理します。
① 試験成績書の温度条件を確認せずに使用する
メーカーから提出された試験成績書に「低温試験 合格」と記載されていても、その試験温度が現場の使用環境に対応しているかを確認しないまま採用するケースがあります。たとえば−10℃での合格品を、冬季に−20℃以下になる北海道の現場で使用すると、規格上の合格と実使用環境の間にギャップが生じます。
② 「合格=無条件で使用可」と判断する
JIS規格の低温試験は、あくまで規格が定める条件下での性能確認です。実際の施工条件(下地の状態・施工時の気温・乾燥・養生期間など)は試験条件と必ずしも一致しません。合格品であっても、施工条件が不適切であれば現場での性能が担保されないことがあります。これは使えそうな視点です。
③ 低温試験と凍結融解試験を混同する
低温試験は「低温状態での性能確認」ですが、凍結融解試験は「凍結と融解を繰り返したときの耐久性確認」です。この2つは似ているようで、目的も手順も別物です。たとえばコンクリートや仕上塗材では凍結融解試験が重要になりますが、シーリング材では低温屈曲性試験が主な評価手段となります。混同すると、必要な試験データが揃っていないまま施工判断をするリスクがあります。
現場でこうした判断ミスを防ぐための手段として、メーカーの技術サポート窓口への確認や、第三者試験機関の試験成績書の精査が有効です。特に寒冷地や特殊環境の施工では、試験成績書の温度条件の一致を確認する工程を、事前チェックリストに明示的に加えることをおすすめします。一つ確認を追加するだけで、後工程の手戻りリスクを大きく下げられます。
国土技術政策総合研究所(国総研):建築材料の性能評価・試験方法に関する技術資料が公開されており、低温環境下の材料性能に関する調査レポートも参照できます。
この視点は検索上位記事ではほとんど取り上げられていませんが、実務では非常に重要です。それは「試験に使う低温槽(恒温槽)の精度管理」です。
JIS規格の低温試験では、試験温度の精度として「設定温度±2℃以内」などの管理基準が求められることがあります。しかし現場や試験室で使用している低温槽の校正(キャリブレーション)が長期間行われていない場合、実際の槽内温度が設定値から外れていても気づかないまま試験を実施してしまうことがあります。
たとえば設定−20℃のつもりが実態は−16℃だった場合、その試験結果は規格の要求を満たしていない環境で取得されたことになります。合格判定を出していても、実際には試験が正しく行われていない可能性があります。痛いですね。
低温槽の校正頻度については、ISO/IEC 17025(試験所・校正機関の能力に関する一般要求事項)では定期的な校正が求められており、建築材料の試験を実施する機関はこの基準を参考にすることが推奨されています。自社で低温試験を行う場合は、以下のポイントを定期的に確認することが基本です。
- 低温槽の温度センサーを校正された温度計で定期的に検証する(年1回以上が目安)
- 槽内の温度分布(均一性)を複数点で確認する
- 校正記録を書面で保管し、試験成績書と紐付けて管理する
これらの管理を怠ると、社内での試験結果の信頼性が下がるだけでなく、発注者や第三者から試験の妥当性を問われたときに証拠を示せない事態になります。低温槽の精度管理は地味な作業ですが、試験結果の根拠を守る重要な工程です。
試験精度に不安がある場合は、JISマーク認定を受けた外部の第三者試験機関に依頼する方法もあります。費用はかかりますが、結果の信頼性・対外的な証明力は格段に高まります。
NITE(製品評価技術基盤機構):試験所認定制度(IAJapan)に関する情報が掲載されており、信頼性の高い試験機関を選ぶ際の参考になります。