日本鉄鋼連盟規格と建築構造用鋼材の品質基準

日本鉄鋼連盟規格と建築構造用鋼材の品質基準

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日本鉄鋼連盟規格の概要と役割

日本鉄鋼連盟規格の重要ポイント
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規格の歴史と体系

1996年制定以降、自動車用鋼板と建築構造用鋼材の品質基準として機能

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建築業界での位置付け

JIS規格を補完し、建設用鋼材の品質水準を向上させる自主規格

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最新の改訂動向

2025年版として5年ぶりに改訂、技術的規定を厳格化し国際競争力を強化

日本鉄鋼連盟規格(JFS)の基本構造

 

日本鉄鋼連盟規格は、一般社団法人日本鉄鋼連盟が制定・維持管理する自主規格で、主に自動車用鋼板の品質基準として広く使用されています。1996年の制定時には製品7規格、試験方法2規格で構成されていましたが、2023年の追補改訂時点では製品5規格に整理されています。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/standard/jfs/index.html

現在のJFS規格は、JFS A 1001(自動車用熱間圧延鋼板及び鋼帯)、JFS A 3011(自動車用合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)など、自動車製造用の薄板に必要な機械的性質、寸法、形状、取引情報などを規定しています。めっき鋼板にはめっきの付着量や化成処理などの特有項目も含まれており、多様化したユーザー規格及びメーカー規格を体系的に統一した実用的な規格として機能しています。​
2025年版として5年ぶりに改訂された最新版では、日本鉄鋼連盟と日本自動車工業会との共同委員会で2022年9月から2年間の審議を経て完成しました。最新の薄板・めっきJIS規格に倣い、機械的性質、形状、機械試験、検査及び注文者によって提示される情報の見直しなど、技術的な規定を改訂しています。
参考)https://www.jisf.or.jp/news/topics/20250829.html

日本規格協会のJSA Webdeskを通じて一般販売されており、PDF版と冊子版から選択できます。会員向けには特別価格も設定されており、日本語版と英語版が同時発行されています。​

日本鉄鋼連盟製品規定(建築構造用鋼材)との関係

日本鉄鋼連盟は自動車用鋼板のJFS規格とは別に、建築構造用鋼材に関する「日本鉄鋼連盟製品規定(MDCR)」も制定しています。これは建設用鋼材の自主規格・規準として、建築物の高層化・大規模化に対応するために開発されました。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/tech/seihinkitei/seihinkitei.html

主な製品規定として、MDCR 0001-2003(耐震建築溶接構造用圧延鋼材)、MDCR 0002-2017(建築構造用冷間ロール成形角形鋼管BCR295)、MDCR 0004-2015(建築構造用520N/mm²鋼材SM520B)、MDCR 0016-2016(建築構造用TMCP鋼材TMCP325、TMCP355)などがあります。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/tech/seihinkitei/documents/MDCR0004-2015_SM520B.pdf

これらの製品規定は、製造会社各社が個別に取得した国土交通大臣認定を基本としており、各認定範囲を包含するように設定されています。建築鉄骨の利用技術強化と鉄骨製作技術の競争力向上を目的としており、極厚材でありながら溶接性・施工性も良好な鋼材の共通規格として機能しています。
参考)https://www.jisf.or.jp/business/tech/seihinkitei/documents/MDCR0016-2016_TMCP325_355.pdf

建築構造用TMCP鋼材は、TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)による制御圧延と制御冷却を併用して製造され、結晶粒の微細化と組織制御により低Ceqで高強度と高靭性を確保できる点が特徴です。40mm超100mm以下の厚板でも耐力の低下がない鋼材として、大型建築構造物に広く採用されています。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/lecture_note/pdf/public/jissen/2-2.pdf

日本鉄鋼連盟製品規定の一覧と詳細
建築構造用鋼材の各種製品規定(MDCR)の種類と適用範囲を確認できます。

 

日本鉄鋼連盟規格とJIS規格の違いと補完関係

JIS規格(日本産業規格)は産業標準化法に基づき制定された国家規格であり、建築基準法第37条により指定建築材料として法的拘束力を持ちます。一方、日本鉄鋼連盟規格は業界の自主規格であり、JIS規格を補完する役割を果たしています。
参考)https://kenzai-chishiki.com/building-material-regulations/

建築構造用圧延鋼材の代表的なJIS規格として、JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材、通称SN材)があります。SN材は1994年に規格化され、従来使用されていた一般構造用圧延鋼材SS400(JIS G 3101)や溶接構造用圧延鋼材SM490A(JIS G 3106)よりも高い耐震性を持つ鋼材として制定されました。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0050020150

昭和56年6月の新耐震設計法施行により、鉄骨造建築物では鋼材の塑性変形能力を活用して地震入力エネルギーを吸収することが求められるようになりました。SN材には「降伏点または耐力・降伏比の上限、シャルピー吸収エネルギー値、板厚方向の絞り値」などが厳しく規定されており、建築特有の溶接性と耐震性を重視した規格となっています。
参考)https://kenchiku-kouzou.jp/material/sn/

日本鉄鋼連盟規格は、こうしたJIS規格の枠組みを前提としながら、より特化した用途(自動車用鋼板や特殊な建築構造用鋼材など)に対して、最新の技術開発成果を反映した規定を設けています。JIS規格の改訂を待たずに業界として迅速に品質向上を図れる柔軟性が強みです。
参考)https://www.japanmetaldaily.com/articles/-/244890

指定建築材料を構造耐力上主要な部分等に使用する場合、原則として指定のJIS/JASに適合するものか、国土交通大臣認定を受けたものが必要です。日本鉄鋼連盟製品規定の建築構造用鋼材も、各社が大臣認定を取得することで法的に使用可能となっています。
参考)https://f-kenkihou.com/archives/1

日本鉄鋼連盟規格の2025年改訂内容と業界への影響

2025年版として5年ぶりに改訂された日本鉄鋼連盟規格では、最新のJIS規格の水平展開を主体とした全面的な見直しが行われました。全規格において機械的性質、形状、機械試験、検査及び注文者によって提示される情報の見直しに加え、用語及び定義の追加など技術的な規定を改訂しています。​
具体的な改訂内容として、めっき浴成分の規定が追加され、冷延鋼板では製造方法の追加など多くの項目が見直されました。JFS A 1001では一部の種類の記号の適用厚さの上限値が拡大され、JFS A 3011にはパウダリング性の試験方法が標準化・追加されています。​
改訂により、生産者及び使用者がより使いやすい規格となり、高品質の鋼材供給が拡大することで製品の国際競争力向上が期待されています。前回の2020年改訂から5年間の自動車用鋼板の品質改善内容を取り込む形で審議されており、日本の自動車用鋼板の品質水準が一段と改善されることが見込まれています。​
不動産・建設業界への間接的な影響として、自動車産業で培われた高品質鋼材の製造技術が建築構造用鋼材にも応用され、建築物の安全性向上や施工効率化に貢献しています。また、環境負荷の低い鋼材への関心が高まる中、不動産業界や建設業界においてもビルやデータセンターなど国内不動産への投資を呼び込む際に、規格適合した高品質鋼材の使用が重要な要素となっています。
参考)https://www.nna.jp/news/2613877

日本鉄鋼連盟規格2025年版の改訂詳細
最新の改訂内容と技術的規定の変更点について公式発表を確認できます。

 

不動産従事者が知るべき日本鉄鋼連盟規格の活用ポイント

不動産従事者にとって、日本鉄鋼連盟規格は建築物の構造品質を評価する重要な指標となります。建築基準法第37条により、構造耐力上主要な部分に使用する鋼材は指定建築材料として、JIS規格適合品または国土交通大臣認定品の使用が義務付けられています。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230127/startup07_0202.pdf

建築構造用鋼材の選定では、JIS G 3136のSN材が基本となりますが、大型建築物や特殊用途では日本鉄鋼連盟製品規定(MDCR)による高性能鋼材も選択肢となります。例えば、40mm超の極厚材でも高強度・高靭性を実現するTMCP鋼材は、高層ビルや大規模商業施設の構造躯体に適しています。
参考)https://www.nikkenren.com/kenchiku/sekou/steel_frame_Qamp;A/pdf/a-all_2023.pdf

建築構造用520N/mm²鋼材(SM520B)や建築構造用高性能590N/mm²鋼材、建築構造用高性能780N/mm²鋼材など、強度レベルに応じた製品規定が整備されており、設計要求に応じた最適な鋼材選択が可能です。これらは国土交通大臣認定を取得しており、建築確認申請時の材料証明として使用できます。​
不動産開発プロジェクトでは、鉄鋼需要の見通しが市場動向を左右する要因となります。中国やベトナムなど海外では不動産市場の低迷が鉄鋼需要に直接影響を及ぼしており、建設用鋼材の需給バランスが不動産投資判断の重要な指標となっています。
参考)https://www.jisf.or.jp/about/gyomu/documents/jigyohokoku2024.pdf

環境配慮型建築の需要増加に伴い、グリーン鉄(低炭素鋼材)への関心も高まっています。日本鉄鋼連盟は製鉄所のCO₂排出効率評価手法の国際標準化にも取り組んでおり、環境性能の高い鋼材規格の整備が進んでいます。LEDなど環境認証建物では賃料が平均13%高い実績もあり、規格適合した環境配慮型鋼材の使用が不動産価値向上につながります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/29acb121594b14d7c5e77a3b73d8c9e98637ab26

日本鉄鋼連盟規格の品質保証体制と材料証明書の重要性

建築プロジェクトにおいて、使用する鋼材が規格に適合していることを証明する材料証明書(ミルシート)の取得は必須です。日本鉄鋼連盟規格適合品についても、製造会社から発行される材料証明書により、化学成分、機械的性質、寸法などが規格値を満たしていることを確認します。
参考)https://skettable.com/column/designated-building-materials

JIS規格適合品にはJISマークが記されますが、日本鉄鋼連盟製品規定の場合は大臣認定番号と認定内容の確認が重要です。建築確認申請時や工事監理時には、これらの証明書類が適切に揃っているか確認する必要があります。
参考)https://www.mizuho-re.co.jp/knowledge/dictionary/wordlist/description/?n=3420

品質管理体制として、ISO9001(品質マネジメントシステム)認証を取得している製造会社が多く、安定した品質の鋼材供給が保証されています。指定建築材料の大臣認定では、適切な製造体制により一定の品質が確保されているか審査されるため、認定品の使用により建築物の構造安全性が担保されます。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001267361.pdf

受入検査時には、材料証明書の記載内容と現物の照合、JISマークまたは認定マークの確認、寸法・外観検査などを実施します。特に溶接構造用鋼材では、溶接性を示すCeq(炭素当量)やPcm(溶接割れ感受性組成)の値が重要で、これらが規格値内であることを確認する必要があります。​
📊 主要鋼材規格の比較表

規格種別 代表規格 主な用途 法的位置付け
JIS規格 JIS G 3136(SN材) 建築構造用一般 国家規格(法的拘束力あり)
日本鉄鋼連盟規格(JFS) JFS A 1001など 自動車用鋼板 業界自主規格
日本鉄鋼連盟製品規定(MDCR) MDCR 0016(TMCP鋼材)など 建築構造用特殊鋼材 業界自主規格(大臣認定必要)

日本鉄鋼連盟が維持管理するJIS一覧
鉄鋼関連のJIS規格の最新情報と規格審議状況を確認できます。

 

不動産従事者として、建築物の構造躯体に使用される鋼材の規格体系を理解することは、建物の品質評価や投資判断において重要です。日本鉄鋼連盟規格とJIS規格の関係性を把握し、適切な材料選定と品質確認を行うことで、安全で高品質な不動産開発プロジェクトの実現につながります。