

塗装直後ではなく、塗布から30秒以上経過してから測定すると数値が最大15%低く出て、塗り直しの手間と材料費が無駄になります。
ウェット膜厚計は、塗料が乾燥する前の段階で湿潤膜厚(ウェット膜厚)を測定するための計測器具です。建築塗装・防食塗装・橋梁塗装など、あらゆる塗装現場で使われており、適正な膜厚を確保するために欠かせない道具です。乾いた後に測定するドライ膜厚計とは役割が異なります。
主な種類は2つです。
- くし歯型(コームゲージ):平面の塗装面に垂直に押し当てて使う。ノッチ(刻み)が等間隔に並んでおり、塗料に触れた最も高いノッチの目盛りを読み取ることで膜厚を判定する。価格は500〜2,000円程度の廉価品から、JIS規格準拠の精度品まで幅広い。
- 回転型(ホイールゲージ):円盤状のゲージを転がして使う。曲面や継ぎ目のある部位にも対応しやすく、比較的連続的な測定に向いている。
仕組みはシンプルです。くし歯型の場合、複数ある歯のうち「塗料に浸かっている最も高い歯」の目盛りが湿潤膜厚の下限、「塗料に浸かっていない最も低い歯」の目盛りが上限を示します。つまり両者の間に実際の膜厚があるということです。
これが基本です。
読み取りに迷うケースとして「ちょうど境目の歯がベタっと塗料を拾っている」という状況があります。この場合は、その1段上の目盛りを採用するのが現場での一般的な判断です。精度を重視するなら、同一箇所で3点測定して平均値を取る方法が推奨されており、JIS K 5600-1-7(塗料一般試験方法)でも複数点測定が前提とされています。
JIS K 5600-1-7 塗料一般試験方法(日本産業標準調査会)
こうした基礎を押さえると、現場での計測ミスが大幅に減ります。
測定手順を正しく踏むことが、品質管理の根幹です。以下が基本的なステップです。
- ステップ1:塗布直後に測定する 塗料を塗り終えた直後(目安は塗布後10〜15秒以内)に計測を始める。溶剤の揮発が始まると数値は急速に低下する。
- ステップ2:ゲージを塗面に垂直に当てる くし歯型の場合、歯が斜めに当たると短い歯しか塗料に浸からず、膜厚を低く誤測定する。90度を保つのが原則。
- ステップ3:ゆっくり引き抜く 素早く引き抜くと塗料が歯を引っ張り上げ、「塗料についている歯」の判定がずれる。ゆっくり垂直に引き抜く。
- ステップ4:目盛りを確認する 屋外作業では光の反射で見づらいことが多い。ルーペや白紙を背景に当てると目盛りが読みやすくなる。
- ステップ5:3点以上測定して平均をとる 1点だけでは下地の凹凸や塗りムラの影響を受けやすい。1m²あたり最低3点が現場の目安。
測定後は必ずゲージを清掃します。塗料が固まると次回の測定精度が落ちるため、使い終わったら溶剤系の場合はシンナーで、水性の場合は水で拭き取るのが原則です。清掃が原則です。
見落とされがちなポイントとして、「下地の素材が金属か木材かによって読み取り方が変わる」ということがあります。多孔質な素材(コンクリートや木材)では、塗料が下地に吸い込まれる分だけ実際の膜厚よりウェット値が高く出るケースがあります。この場合は塗料メーカーの吸込み補正係数を参照してください。
ウェット膜厚を測定しただけでは、仕様書に記載された「乾燥膜厚」を満たすかどうかは分かりません。乾燥膜厚(ドライ膜厚)への換算が必要です。
換算式はシンプルです。
$$\text{乾燥膜厚(μm)} = \text{ウェット膜厚(μm)} \times \frac{\text{体積固形分率(\%)}}{100}$$
たとえば、体積固形分率が60%の塗料をウェット膜厚150μmで塗布した場合、乾燥膜厚は90μmになります。仕様書が「乾燥膜厚100μm以上」を要求しているなら、この塗布量では不足ということになります。
体積固形分率が重要です。
塗料の体積固形分率は、製品ごとに大きく異なります。水性アクリル系では40〜55%程度、エポキシ系では60〜80%、無溶剤エポキシでは95%以上になるものもあります。塗料缶や製品技術資料(TDS:Technical Data Sheet)に必ず記載されているため、現場作業前に確認しておく必要があります。
この換算を行わずに「ウェット膜厚が規定値を超えていたからOK」と判断するのは危険です。乾燥後に膜厚不足が発覚すると、塗り直し工事が発生し、工期延長と追加材料費という二重のコストがかかります。金額で言えば、100m²規模の再塗装なら材料費と労務費を合わせて数十万円の損失になることも珍しくありません。
逆算も使えます。
「乾燥膜厚をX μm確保するには、ウェット膜厚をどのくらいにすればよいか?」という場面では、以下の式を使います。
$$\text{必要ウェット膜厚(μm)} = \frac{\text{目標乾燥膜厚(μm)}}{\text{体積固形分率(\%)} \div 100}$$
体積固形分率60%で乾燥膜厚100μmを確保したい場合、ウェット膜厚は約167μm以上が必要です。この逆算を塗装前に済ませておくと、塗布量の目安が明確になり、膜厚不足を防げます。
日本ペイント株式会社 製品技術資料(TDS)一覧:各塗料の体積固形分率を確認できる
現場で実際に起きやすい測定ミスを具体的に挙げます。知っているだけで防げるものばかりです。
ミス1:測定タイミングが遅い
塗布後30秒〜1分が経過すると、溶剤系塗料では揮発が進んで膜厚が実測値より5〜15%低く出ることが確認されています。「少し落ち着いてから測る」という習慣が誤差を生む典型例です。
ミス2:ゲージの当て方が斜め
くし歯を斜めに当てると、歯が斜めに刺さるため、実際より短い距離しか計測できません。測定誤差は角度10度の傾きで約2%、20度傾けると約6%生じるという報告があります。垂直に当てるのが原則です。
ミス3:端部や角部での測定
塗装面の端や角は塗料が溜まりやすく、中央部より膜厚が厚くなりがちです。端部だけで測定して「規定値を超えている」と判断するのは危険で、平面中央部を中心に測定点を分散させるべきです。
ミス4:ゲージの歯が消耗している
くし歯型ゲージは消耗品です。歯の先端が塗料で詰まったり、摩耗して丸くなっていると、塗料の接触判定がずれます。目視で歯の状態を確認し、変形・汚れがあれば交換が必要です。価格は1,000〜3,000円程度のため、惜しまず交換するのがコスト的にも正解です。
ミス5:素地の凹凸を無視している
コンクリートや錆面など凹凸が激しい素地では、凸部の膜厚と凹部の膜厚に差が出ます。くし歯が凸部に乗ってしまうと、凹部の薄い部分を見逃すことがあります。凹凸の激しい素地では「最低部に規定膜厚を確保する」という考え方が防食塗装では基本となります。
意外ですね。これほど小さな道具でも、使い方ひとつで品質管理の精度が大きく変わります。
測定するだけでは現場管理は完結しません。測定値を記録し、発注者や監督員への報告資料として整備することが品質保証につながります。
品質記録に最低限必要な情報は次の通りです。
- 測定日時・気温・湿度(乾燥条件の記録)
- 塗料名・製品番号・ロット番号
- 塗布場所(部位名・グリッド番号)
- 測定点の位置図(スケッチまたはCAD図に記入)
- ウェット膜厚の測定値(各測定点)
- 換算した乾燥膜厚の計算値
- 使用したゲージの型番・管理番号
これが最低ラインです。
公共工事や橋梁工事など、発注仕様書に品質管理計画書の提出が義務付けられている現場では、膜厚測定記録の頻度(塗布面積何m²につき何点)まで指定されることがあります。国土交通省の「塗装工事施工管理ガイドライン」では、100m²ごとに最低3点の測定記録を残すことが指針として示されています。
記録方法に関しては、スマートフォンのカメラで測定中の写真を撮る現場が増えています。測定結果を写真と一緒に記録できるアプリ(例:現場ノートや蔵衛門など)を活用すると、報告書作成の手間が大幅に削減できます。これは使えそうです。
また、第三者検査が入る現場では、検査官が独自にウェット膜厚を抜き打ち測定するケースがあります。その際、施工者側が事前に提出した記録と大きく乖離した値が出ると、塗装の信頼性全体が問われることになります。日頃から記録の整合性を保つことが、クレーム・やり直し防止の最短ルートです。
国土交通省 土木工事施工管理基準・規格値:塗装工事における品質管理基準を確認できる
膜厚不足はどれだけ注意していても、発生することがあります。発覚した後の対応を事前に知っておくと、損失を最小限に抑えられます。
対処の流れは次のとおりです。
- Step1:範囲の特定 膜厚不足が確認された測定点を起点に、周辺をグリッド状に追加測定して不足範囲を把握する。範囲が小さければ部分補修、広範囲なら全面補修の判断をする。
- Step2:塗料と乾燥状態の確認 追加塗装するには前塗膜がある程度乾燥していることが必要。乾燥不足のまま重ね塗りすると膨れ・剥離が起きる。塗料TDSに記載された「最低乾燥時間」を守ること。
- Step3:発注者への報告 公共工事では膜厚不足は施工不良に該当する可能性がある。隠蔽は絶対に避け、速やかに監督員へ報告して補修指示を受ける。報告を怠った場合、後日発覚すると契約解除・損害賠償に発展するリスクがある。
- Step4:補修後の再測定と記録更新 補修塗装後は改めてウェット膜厚を測定し、記録を更新する。補修箇所には日付と担当者名を記録に残す。
厳しいところですね。ただ、手順通りに動けば、大きなトラブルに発展するリスクは抑えられます。
特に注意が必要なのが、乾燥が不十分な状態での重ね塗りです。上から膜厚を足しても、下層が不安定な状態では付着力が出ません。重ね塗りの適正インターバルを守ることが条件です。塗料によっては「最長インターバル」も設定されており、時間を空け過ぎると旧塗膜に足付け処理が必要になる場合もあります。
こうした判断をするために、現場監督はウェット膜厚計の使い方だけでなく、使用塗料のTDS内容をしっかり把握しておく必要があります。TDSには塗布量・希釈率・乾燥条件・重ね塗りインターバルがすべて記載されており、現場判断の根拠になります。
一般社団法人 日本塗料工業会:塗装工事の技術指針・品質管理に関する情報が豊富
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