要配慮者利用施設避難確保計画ひな形の活用と作成手順

要配慮者利用施設避難確保計画ひな形の活用と作成手順

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要配慮者利用施設の避難確保計画ひな形の使い方と作成手順

避難確保計画を作成済みなら訓練を免除されると思っていませんか?実は計画を出しても訓練未実施だと市町村から勧告を受け、施設名が公表されるリスクがあります。


この記事でわかること
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対象施設と法的根拠

要配慮者利用施設とは何か、水防法・土砂災害防止法に基づく義務の対象範囲を具体的に解説します。

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ひな形の種類と入手方法

国土交通省公式ひな形(社会福祉施設・学校・医療施設の3種類)の構成と入手先をわかりやすく整理します。

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訓練報告と助言・勧告制度

令和3年法改正で義務化された訓練結果の市町村報告と、勧告・公表制度の実務上の注意点を解説します。


要配慮者利用施設の避難確保計画とは何か:法的根拠と義務化の経緯

要配慮者利用施設における避難確保計画の義務化は、平成28年8月の台風第10号をきっかけに大きく動きました。岩手県岩泉町の高齢者グループホームで入所者9名全員が犠牲になったことを受け、平成29年に水防法土砂災害防止法が改正され、浸水想定区域や土砂災害警戒区域内の対象施設における計画作成と避難訓練の実施が義務付けられました。


さらに令和2年7月豪雨では、熊本県球磨村の特別養護老人ホームで入居者13名・職員1名が犠牲となりました。この施設は避難確保計画を作成済みでしたが、避難の実効性が確保されていなかったという痛ましい事実が明らかになっています。これが契機となり、令和3年7月に水防法・土砂災害防止法が再改正され、避難訓練結果の市町村長への報告義務化と、市町村長による助言・勧告制度が新設されました。


「要配慮者利用施設」とは、社会福祉施設・学校・医療施設その他の主として防災上の配慮を要する方々が利用する施設を指します。具体的には老人福祉施設・有料老人ホーム・認知症対応型グループホーム・障害者支援施設・児童福祉施設・幼稚園・小中学校・特別支援学校・病院・診療所などが含まれます。計画作成義務が生じるのは、これらの施設のうち市町村地域防災計画にその名称・所在地が定められた施設に限られます。単に施設の種別に該当するだけでは義務は生じない点が重要です。


法的義務の根拠は3つの法律、つまり水防法(洪水・雨水出水・高潮)、土砂災害防止法(土砂災害)、津波防災地域づくり法(津波)です。対象となる自然災害リスクが異なるため、施設の立地条件に応じて参照する法律が変わります。建築業従事者として施設の新築・改修に関わる場合、施設所在地のハザードマップを確認し、どの法律に基づく計画が必要かを最初に把握しておくことが不可欠です。


▶ 国土交通省「自衛水防(企業防災)について(要配慮者利用施設の浸水対策)」:ひな形・手引き・eラーニング動画など作成支援資料が一括入手できる公式ページ


要配慮者利用施設の避難確保計画ひな形の種類と各項目の記載内容

国土交通省が公式に提供するひな形は、社会福祉施設・学校・医療施設の3種類に分かれており、いずれもExcel形式で入手できます。ひな形が施設の種別ごとに分かれているのは、利用者の特性や避難に要するリソースが大きく異なるためです。


各ひな形に共通して記載が必要な項目は以下のとおりです。







































記載項目 主なポイント
基本的事項 計画の目的・施設の概要・災害リスク ハザードマップで浸水深・土砂リスクを確認
防災体制 体制の種類・確立基準・役割分担・人員配置 総括指揮者・情報連絡班・避難誘導班・装備品等準備班を設定
避難の誘導 避難先・避難経路・避難方法・避難開始基準・緊急安全確保 施設外避難か屋内安全確保かの判断基準を明確化
施設の整備 必要な設備・装備品・備蓄品 担架や車椅子など移送に必要な物品の確認
防災教育・訓練 計画の周知・防災教育・避難訓練・訓練結果の振り返りと報告 訓練後1か月以内に市町村へ報告
自衛水防組織 組織の業務(努力義務) 設置した場合のみ記載が必要


注目すべきは、避難確保計画の「消防計画」「非常災害対策計画」「危機管理マニュアル」との一体化が認められている点です。社会福祉施設には厚生労働省令に基づく非常災害対策計画の作成義務があり、学校には文科省の危機管理マニュアルがあります。これらの既存計画に避難確保計画の項目を加えることで、書類を一本化することができます。つまり複数の計画をゼロから作る必要はなく、既存の計画に追記・修正する形での対応が可能です。これは建築業従事者が施設担当者に伝えるべき重要な情報の一つです。


ひな形はあくまで「型」です。施設ごとに立地条件・利用者の特性・職員数が異なるため、ひな形をそのまま提出するだけでは実効性がありません。令和2年7月豪雨の事例でも計画を持ちながら機能しなかった施設が多く存在しました。ひな形を起点に、施設独自の状況に合わせてカスタマイズすることが求められています。


▶ 厚生労働省「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き」:社会福祉施設向けの詳細解説と消防計画・非常災害対策計画との一体化の方法を確認できる


要配慮者利用施設の避難確保計画ひな形を使ったタイムラインの作成方法

避難確保計画には、タイムラインの作成が推奨されています。タイムラインとは、防災気象情報の発表段階に合わせて、誰が・何を・いつ行動するかを時系列で整理した一覧表です。計画本体が「何を備えるか」を示すものであるのに対し、タイムラインは「いつ・誰が動くか」を具体化するものといえます。


令和4年3月に改定された国土交通省の手引き(第10章)ではタイムライン作成の方法が詳述されており、ひな形も提供されています。避難確保計画の実効性を高めるうえで不可欠な要素として、明示的に位置づけられています。


タイムラインを作る際の主なステップは次のとおりです。



  • ⚠️ ステップ1:ハザード情報の把握 施設が立地する場所の洪水浸水想定深・土砂災害リスクを「ハザードマップポータルサイト」や「浸水ナビ」で確認する

  • 📡 ステップ2:情報収集ルートの設定 「川の防災情報(river.go.jp)」などからリアルタイムで水位・雨量情報を取得する方法を職員に周知する

  • ⏱️ ステップ3:避難開始タイミングの決定 警戒レベル3(高齢者等避難)または警戒レベル4(避難指示)など、施設として避難を開始する基準を明記する

  • 👥 ステップ4:役割と行動の割り付け 総括指揮者・情報連絡班・避難誘導班ごとに、各防災体制段階での具体的な行動を時系列で記入する

  • 🔄 ステップ5:訓練後の更新 年1回以上の避難訓練で得られた課題を反映し、タイムラインを継続的にブラッシュアップする


岡山県は社会福祉施設・病院施設等向けに「避難行動タイムライン」の専用フォーマットを公開しており、手書き入力版も用意しています。施設の種別やITリテラシーに応じたツールを選ぶと、作業負担を大幅に軽減できます。これは使えそうです。


建築業従事者として施設設計に携わる際、避難経路・避難先への動線・災害時の出口の確保などをハード面で担保することが、このタイムラインを実際に機能させる前提条件になります。計画書の記載内容と建物の実情が一致しているかどうか、竣工時や改修後のチェックが必要です。


▶ 岡山県「社会福祉施設・病院施設等で使える避難行動タイムラインフォーマット」:Excel・手書き版が無料ダウンロードでき、具体的な記載例も確認できる


要配慮者利用施設の避難確保計画ひな形を提出するだけでは不十分な理由

避難確保計画を作成して市町村に提出したら義務が完了すると思いがちですが、それだけでは不十分です。令和3年9月時点のデータでは、全国の対象施設における避難確保計画の作成率は約74%にとどまっており、義務化から5年が経過しても未作成施設が全体の約4分の1存在していました。さらに深刻なのが訓練実施率で、同時期の実施率は約26%に過ぎませんでした。


令和3年7月の水防法改正では、計画を作成した後の「訓練実施」と「訓練結果の市町村長への報告」が新たに義務化されました。訓練後は概ね1か月以内を目安に、訓練実施日・参加者数・想定した災害の種類・実施した訓練の種類・避難先や避難経路の安全性確認結果・明らかになった課題と改善方法などを報告書に記載して提出する必要があります。


また、報告を受けた市町村長は施設管理者等に対して必要な助言・勧告ができる制度が創設されました。計画の内容が不十分であったり、訓練が形骸化していると判断された場合、市町村から助言や勧告を受けることになります。勧告に従わない場合には施設名の公表に至ることもあります。厳しいところですね。


計画提出・訓練実施・結果報告というサイクルを継続的に回すことが、今まさに求められている実態です。建築業従事者として施設の新築や改修を担当する際は、施設管理者に対して計画書の作成だけでなく、訓練の実施・報告まで含めたサポートを視野に入れておくと、より実務的なパートナーとして信頼を得られます。


▶ 国際建設技術協会「要配慮者利用施設の避難の実効性確保に関する取組」(令和4年):令和3年改正の背景・助言勧告制度の詳細・全国の取組状況が体系的にまとめられている


建築業従事者だからこそ知っておきたい:設計・施工段階での避難確保計画との連携ポイント

これは検索上位記事にはあまり取り上げられていない視点ですが、建築業従事者が要配慮者利用施設に関わる際に避難確保計画を「施工後に施設が作るもの」と考えていると、後から大きな手戻りが発生するリスクがあります。


設計・施工段階から避難確保計画の内容と整合させておくべき主なポイントを整理します。



  • 🚪 避難経路の有効幅員と段差 計画書に記載される「避難経路」が実際の廊下・出口の幅員・段差と一致しているかを確認する。車椅子や担架での搬送を想定した場合、幅員は最低でも1.5m以上(できれば1.8m以上)が望ましい。

  • 🌧️ 浸水深と1階の利用想定 ハザードマップで浸水深が1mを超える区域の施設では、1階に要介護高齢者の居室を設けることの是非を設計段階で検討する必要がある。避難確保計画で「屋内安全確保(上階への移動)」を想定する場合は、移送ルート(階段・エレベーター)の確保が前提条件となる。

  • 📢 情報伝達手段の設備 計画書の「情報収集と情報伝達」項目には、施設が使用する通信手段(防災無線・施設内放送・携帯電話等)を記載する。設計時点でこれらの設備設置スペースや配線ルートを考慮しておくと、後の設備追加工事が不要になる。

  • 🔦 非常用電源と照明 停電時でも避難誘導が可能なよう、避難経路・出口への誘導灯・非常用照明の設置は法定最低基準を満たすだけでなく、施設の避難確保計画と照らし合わせて十分な照度が確保されているかを確認する。

  • 🗺️ 避難先への動線 計画書に記載される避難先(指定避難所・近隣の高台等)への屋外動線が、敷地の出入り口や外構の設計と整合しているかをチェックする。


令和2年7月豪雨の検討会では「避難先が災害リスクに対応していない」「利用者を実際に移動させる訓練まで実施している施設が少ない」という課題が挙がっています。これらの問題の一部は、設計段階での計画との不整合に起因しています。避難確保計画の基本構成が原則です。建築業として関わる際は、施工前の打ち合わせ段階で施設管理者と一度計画書の内容を共有することを強くお勧めします。


▶ 国土交通省「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き(令和4年3月全面改定版)」:設計・施工段階で参照すべき避難先の考え方・避難経路・緊急安全確保の方法が詳細に記載されている


まとめ:押さえるべき5つのポイント


要配慮者利用施設の避難確保計画について、今回解説した内容を整理します。


| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| ✅ 対象確認 | 市町村地域防災計画に記載された施設のみが義務対象 |
| ✅ ひな形の選択 | 社会福祉施設・学校・医療施設の3種類から施設に合ったものを選ぶ |
| ✅ 既存計画との一体化 | 消防計画・非常災害対策計画との一本化が可能 |
| ✅ 訓練と報告 | 年1回以上の訓練実施+1か月以内の市町村報告が義務 |
| ✅ 設計段階での連携 | 避難経路・浸水深・情報設備と計画書の整合確認が不可欠 |


計画書の提出のみで安心しないことが大切です。訓練実施・報告・見直しの継続サイクルを回すことが、法的リスクの回避だけでなく利用者の命を守ることに直結します。建築業従事者として施設に関わる際は、このサイクルを設計・施工段階から意識した提案ができると、施設管理者から長期的な信頼を得られるでしょう。