土砂災害警戒区域イエローゾーンの建築制限と実務の注意点

土砂災害警戒区域イエローゾーンの建築制限と実務の注意点

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土砂災害警戒区域・イエローゾーンの建築制限と知っておくべき法的ルール

イエローゾーンでも、市街化調整区域なら建築許可が下りず損失になります。


この記事のポイント3選
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イエローゾーンは「建築制限なし」が原則だが例外あり

土砂災害防止法上は建築物の構造規制は設けられていない。しかし令和4年4月施行の改正都市計画法により、市街化調整区域内のイエローゾーンでは原則として建築が認められなくなった。

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重要事項説明の不備は3年以下の懲役または300万円以下の罰金

宅建業者がイエローゾーン該当の旨を重要事項説明で告知しなかった場合、宅建業法79条の2により刑事罰の対象になる。業務停止処分との併科もあり得る。

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全国70万区域超・指定は増加中で他人事ではない

国土交通省によると、令和7年3月末時点で土砂災害警戒区域は全国約70万2千区域に及ぶ。今後も基礎調査の進展とともに指定区域は拡大する傾向にあり、建築計画前の確認が不可欠。


土砂災害警戒区域(イエローゾーン)とは何か・指定基準を建築士が押さえる

土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)とは、土砂災害防止法に基づき都道府県が指定する区域で、「急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命または身体に危害が生じるおそれがある土地」を指します。つまり、警戒避難体制を整備することが主目的であり、制度の設計段階から「建物を建てさせない」という規制とは一線を画しています。


指定の対象となる地形要件は、土砂災害の種類ごとに異なります。急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)については、傾斜度30度以上かつ高さ5m以上の急傾斜地、その上端から水平距離10m以内の区域、そして下端から高さの2倍(最大50m)以内の区域が対象です。土石流については、土石流の発生するおそれのある渓流において扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域が対象となります。地すべりについては、地すべり区域および下端から地すべり地塊の長さに相当する距離(最大250m)以内の区域が含まれます。


建築業に携わる方にとって重要なのは、「傾斜度30度」「高さ5m」「水平距離10m」「勾配2度」といった数値です。たとえば高さ5mとは2階建て住宅の1階床から軒くらいの高さ感覚、水平距離10mは一般的な乗用車2台分の長さに相当します。これらの数値が敷地のどこにかかるかを、計画の初期段階でハザードマップと照らし合わせることが基本です。


国土交通省の公表データ(令和7年3月末時点)によると、全国の土砂災害警戒区域は約70万2千区域に達しています。東京ドームのグラウンド面積(約1.3万㎡)に換算すると気が遠くなる規模ですが、重要なのは「自分の担当エリアにも当然含まれている可能性がある」という認識を持つことです。基礎調査は今も継続中であり、指定区域数はこれからも増加します。


つまり、あらかじめハザードマップを確認しておくことが条件です。



国土交通省が公表する土砂災害警戒区域の指定状況(最新データ)を確認できます:

国土交通省|土砂災害警戒区域等の指定状況等


土砂災害警戒区域イエローゾーンの建築制限・法的根拠と実務での落とし穴

「イエローゾーンは建築制限なし」という認識はある意味で正しく、ある意味で危険です。土砂災害防止法(第7条)の規定では、イエローゾーンにおける制限は「警戒避難体制の整備」が中心です。建築物の種類・規模・構造に関する直接的な規制は設けられていない。これが法律の原則的な立場です。


ところが、令和2年6月に改正された都市計画法(令和4年4月1日施行)により、状況は大きく変わりました。この改正により、市街化調整区域内にある「災害イエローゾーン」(土砂災害警戒区域・浸水想定区域)は、条例で定めた開発行為の許可区域から原則除外されました。つまり、市街化調整区域内のイエローゾーンでは、これまで許可が下りていた開発行為が原則として認められなくなったのです。


厳しいところですね。


この改正の影響が大きいのは、郊外の宅地造成や既存集落での建て替え案件です。たとえば宮崎市では、条例に基づく独自基準として市街化調整区域内のイエローゾーンを建築不可エリアとしており、既存宅地(昭和45年11月27日時点で住宅が建っていた土地)だけが例外的に許可申請できる扱いとなっています。この「昭和45年時点の状況」という判断基準を知らないまま仲介や設計を進めると、取り返しのつかないトラブルに発展します。


もう一つの落とし穴が「がけ条例」との関係です。静岡県をはじめ多くの都道府県では、建築基準法に基づく「がけ条例」を制定しており、イエローゾーンに建築する場合でも一定の安全対策擁壁設置・建築物の離隔距離確保など)が別途義務付けられています。土砂災害防止法上は制限がなくても、がけ条例によって設計の自由度が大きく制限されるケースがある点は見落とせません。


イエローゾーンだからといって制限なしと思い込むと、後から多額の対策費用が発生します。事前確認が不可欠なのです。



改正都市計画法に基づく市街化調整区域での開発許可の見直し内容を解説した資料です:


土砂災害警戒区域イエローゾーンで建築士が必ず確認すべき重要事項説明の義務

建築業に携わる方が直接関係するのが、宅地建物取引業法と連動した重要事項説明の義務です。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定された土地・建物の売買・賃貸に際して、宅建業者は重要事項説明書に「イエローゾーン該当」の旨を記載し、宅地建物取引士が口頭で説明することが義務付けられています。


この義務を怠った場合のリスクが想像以上に大きいです。宅建業法第47条1号の故意の不告知・不実告知に該当するケースでは、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(または併科)が科される可能性があります(法第79条の2)。さらに業務停止処分も重なれば、会社として受注機会を丸ごと失う事態になります。


「うちは建築会社で宅建業者ではない」と思う方もいるかもしれません。しかし、建築士や施工管理者が土地の調査段階でイエローゾーン指定を見落とし、仲介業者に情報を提供しなかった結果、重要事項説明が不十分になったとして後から責任を問われるケースがあります。これは損害賠償リスクに直結します。


🗒️ 実務でのチェックポイントをまとめました。


| 確認項目 | 確認先 | タイミング |
|---|---|---|
| ハザードマップ確認(イエロー・レッド) | 各市町村のWebサイト・国交省ポータル | 設計依頼受付時 |
| 市街化調整区域か否か | 都市計画図・市区町村窓口 | 設計依頼受付時 |
| がけ条例の適用有無 | 都道府県建築指導課 | 基本設計前 |
| 重要事項説明の記載確認 | 仲介業者との打ち合わせ | 売買・賃貸契約前 |
| 要配慮者利用施設の該当性 | 施設管理者・自治体 | 設計初期段階 |


さらに見落とされがちなのが「要配慮者利用施設」に関するルールです。イエローゾーン内に高齢者施設・保育園・障害者施設・学校・病院などの要配慮者利用施設を新築・改築する場合、施設管理者は避難確保計画の作成と避難訓練の実施が義務付けられています(土砂災害防止法第7条2項)。建築設計の段階でこの義務を施主に正確に説明できれば、プロとしての信頼が格段に高まります。


義務の有無を施主に説明できることが、建築士の付加価値です。



東京都建設局による土砂災害防止法のよくある質問。実務で参照できる信頼性の高い情報源です:

東京都建設局|土砂災害防止法 よくある質問と回答


土砂災害警戒区域イエローゾーンの指定解除・建築制限を回避する実務的アプローチ

「どうすればイエローゾーンの指定を解除できるか?」という問いは、建築業の現場でしばしば出てきます。結論から言うと、イエローゾーンの解除には地形そのものを変えることが必要です。


土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は地形要因に基づいて指定されるため、砂防施設の整備だけでは解除できません。急傾斜地の崩壊を対象とした区域では、傾斜度を30度以下または高さを5m以下に地形改変しなければ指定解除の申請ができないのです。これは砂防ダムや擁壁を設置しても「地形が変わった」とは認められないことを意味します。


これは意外ですね。


一方で、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)は砂防施設等の整備によって安全性が確保されれば解除が可能です。「レッドゾーンは工事で解除できるが、イエローゾーンは地形改変しないと解除できない」という逆転現象が起こる場合があることは、多くの建築業従事者に知られていません。


具体的な解除の検討フローとしては次のような手順になります。まず都道府県の砂防担当部署に相談し、現地の地形条件と指定根拠を確認します。次に、解除に必要な地形改変の規模と工事費用の見積もりを取ります。そのうえで、工事の経済的合理性と建築計画の採算性を比較検討します。地形改変工事の費用が数百万円から数千万円に及ぶケースもあるため、土地購入前に可能性を確認しておくことが重要です。


指定解除を目指す前に、解除条件を都道府県砂防担当部署に確認するのが先決です。


実際の現場では、解除よりも「イエローゾーン内で安全に建築する」選択を取るケースが多くなります。各都道府県のがけ条例に準拠した擁壁設置や、建物の配置を斜面から十分に離す設計など、個別対応が求められます。こうした複合的な法令確認には、砂防や防災分野に知見のある建築士・土地家屋調査士のサポートが有効です。



国土交通省による土砂災害警戒区域等の指定解除の要件と考え方のプレスリリースです:

国土交通省|土砂災害警戒区域等の指定解除の要件等を全国に発出


土砂災害警戒区域イエローゾーンと隣接するレッドゾーンの建築制限の違いを正確に理解する

建築実務においてイエローゾーンとレッドゾーンの違いを曖昧に把握したまま進めると、設計段階での大きな手戻りにつながります。両者の違いを法律ベースで整理しておきましょう。


🟡 イエローゾーン(土砂災害警戒区域) の法的位置づけ。


- 土砂災害防止法上の建築構造規制:なし
- 特定開発行為の許可制:なし(レッドゾーン内のみ)
- 宅建業者の重要事項説明義務:あり
- 要配慮者利用施設の避難確保計画作成義務:あり
- 市街化調整区域での開発:改正都市計画法により原則不可(令和4年4月以降)


🔴 レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域) の法的位置づけ。


- 建築物の構造規制(居室を有する建物):あり・建築確認申請が必要
- 特定開発行為(住宅分譲・社会福祉施設等の建築目的の開発)の許可制:あり・都道府県知事の許可が必要
- 建築物の移転勧告:都道府県知事が可能
- 2028年(令和10年)以降に入居する新築住宅:住宅ローン控除の対象外(2026年度税制改正大綱)
- 宅建業者の重要事項説明義務:あり


特に建築業従事者として見落としやすい点が、住宅ローン控除の改正です。2026年度税制改正大綱により、2028年(令和10年)以降に入居する新築住宅については、レッドゾーンに立地する場合は原則として住宅ローン控除の対象外となります。建替えや既存住宅・リフォームは対象のままですが、新築分譲・注文住宅の購入者にとっては年間最大35万円×13年=455万円相当の控除が受けられなくなります。施主へのヒアリング段階でこの点を伝えられるかどうかが、信頼される建築士かどうかを分けます。


また、レッドゾーンでは特定開発行為に都道府県知事の許可が必要で、未許可のまま宅地の広告や売買契約の締結を行うことは法律違反です。この違反に気づかず仲介や施工を進めてしまうと、建築業者も連帯責任を問われかねません。敷地がレッドゾーンにかかっているかどうかは、建築確認申請前の段階で必ず調べておく必要があります。


結論は、確認申請の前にハザードマップと都市計画図の両方を見ることです。



国土交通省による住宅ローン減税の延長・拡充(令和7年12月閣議決定)のプレスリリースです:

国土交通省|住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました