
塩化カルシウム(CaCl₂)は、冬季の建築現場で広く使用される融雪剤の代表的な成分です。塩化カルシウムが雪を溶かすメカニズムには、主に2つの作用があります。第一に、塩化カルシウムは空気中の水分を吸収する高い吸湿性を持ち、水と反応する際に発熱する特性があります。この反応熱により、雪や氷を速やかに溶かすことができるのです。第二に、凝固点降下作用により、水の凍結温度を下げる効果があります。これにより0℃以下でも水が凍りにくくなり、融雪効果が持続するとともに再凍結も防止できます。
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塩化カルシウムは「塩カル」とも呼ばれ、豪雪地帯では特に重宝されています。塩化ナトリウムと比較すると、融雪効果の速効性に優れている点が最大の長所です。凝固点を約-50℃まで下げることができるため、厳しい寒冷地でも効果を発揮します。ただし、融雪効果と凍結防止効果自体は塩化ナトリウムの6割程度とされています。また、塩化カルシウムは水と結びついてスピーディーに高い反応熱で雪を溶かすため、降雪後の対応に特に適しています。
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建築現場において塩化カルシウムを使用する際の実際的なメリットとして、短時間で雪を溶かす即効性があり、気温が氷点下であっても効果が持続するという点が挙げられます。さらに、適切に使用すれば人体や環境への影響は比較的少ないとされています。ホームセンターやドラッグストア、オンラインショップなどで手軽に購入でき、比較的安価で広範囲に散布できるため、コストパフォーマンスにも優れています。
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建築現場での塩化カルシウムの効果的な散布には、タイミングと方法が重要です。最も効果的なのは、水分により熱を発生させ雪を溶かす性質を活かすため、雪が降ってから散布することです。積雪後に散布する場合は、ある程度雪かきを行って雪や氷が薄い状態にしてから散布すると効果を発揮します。高い所から低い所に向かってムラなく均一に散布し、一度に多くを散布するのではなく、少量を複数回に分けて散布する方法が推奨されています。具体的には1時間おきに状況を見て散布するなど、こまめな対応が効果的です。
散布量の目安として、一握り(約100g程度)で約1㎡に散布できます。100円ショップの味噌汁のお椀などを使用すると広範囲に効率よく散布できます。ペットボトルを活用する場合、2Lペットボトル1本で約30㎡、幅3mで長さ10mの道路に散布可能です。25kgの袋入り製品であれば、約180㎡(コンビニ1軒分相当)に散布できる計算になります。長野県のある自治体の例では、少しの雪の場合は1㎡あたり20~50g、15mm以上の氷や5cm程度の圧雪を溶かす場合、また大雪のときなどは除雪後に1㎡あたり400g~1kgを散布するのが効果的とされています。
参考)https://www.town.nagatoro.saitama.jp/%E3%80%90%E5%9B%9E%E8%A6%A7%E3%80%91%E8%9E%8D%E9%9B%AA%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%94%AF%E7%B5%A6%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E8%AA%B2%EF%BC%89/
一方で、効果があまり期待できない散布方法もあります。降雪中や降り積もった雪の上への散布、シャーベット状の雪への散布は避けるべきです。これらの状況では塩化カルシウムの特性を十分に活かせず、無駄な使用につながります。建築現場では特に、坂道、交差点、橋梁部、日陰で凍結しやすい場所に優先的に散布することが効果的です。液体タイプを使用する場合は、使用量目安(液体1,000cc~3,000cc/㎡)の1/2~2/3を液状で散布し、10~14日経って残りを散布する方法もあります。
参考)塩化カルシウム散布マニュアル
建築業従事者にとって特に重要なのが、塩化カルシウムがコンクリート構造物に与える影響です。融雪剤による劣化・損傷が生じるコンクリート構造物としては、土木構造物では橋梁が最も多く、建築構造物では駐車場が多いとされています。融雪剤の散布によりコンクリート表面の温度が低下し、体積変化が起こり、ヒビが発生します。そこに水分が浸透し、凍結してクラックを拡大させ、最終的にはその部分が剥がれてしまうという劣化メカニズムがあります。
参考)https://xn--rms9i4ix79n.jp.net/column/24062.html
研究によると、3%濃度の融雪剤がコンクリートに対して最も大きな腐食性を示すことが明らかになっています。凍結融解サイクルが繰り返されることで、コンクリート表面の損傷が加速する傾向があります。特に5%濃度の塩化物系融雪剤溶液に浸した状態で150回の凍結融解サイクルを経ると、他の濃度(3%、20%)に浸した場合と比較して最も大きな損傷を受けることが実験で確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6471149/
コンクリート製の溝や蓋、縁石等への散布は劣化を招くため注意が必要です。対策としては、AEコンクリート(Air Entrained気泡入りコンクリート)の使用により、この問題はある程度解決されています。AEコンクリートは微細な気泡を含むことで、凍結融解に対する抵抗性を高めています。また、適切な量のシリカフュームと高性能AE剤を混合することで、塩害に対する抵抗性を効果的に向上させることができます。エントランスから玄関までコンクリートが敷設されている建築物では特に、冬季終了後に隅々まで点検することが推奨されます。鉄道駅のホームなど、長期にわたり塩化カルシウムへの耐腐食性が必要な場所では、特殊な補修材を使用した対策が行われています。
参考)http://www.town-online.co.jp/shop/cacl2how.htm
塩化カルシウムは金属に対して強い腐食性を持つため、建築現場での使用には細心の注意が必要です。塩化カルシウムは塩分の一種であり、海水や潮風が金属を錆びさせるのと同様のメカニズムで塩害を引き起こします。融雪剤が撒かれる道路に面した建物の金属部分は、気付かないうちに塩化カルシウムが付着し、錆や変色というトラブルにつながります。
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塩化カルシウムの吸湿性と腐食性により、金属のサビを加速させるという大きなデメリットがあります。特に車両や建築物の金属部位のサビを促進してしまうことが報告されています。メッキされた金属部分でも、ごくわずかな傷があれば、そこから塩化カルシウムが侵入してメッキの下の素材を腐食させ、変色や錆びを引き起こすリスクが高まります。鉄製品に対しては特に腐食性が高く、速やかに水で洗浄することが必要です。
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研究によると、塩化ナトリウムは最も一般的で効率的な凍結防止剤ですが、高い腐食性という欠点があり、金属ベースの輸送インフラの耐用年数を大幅に短縮します。金属腐食を定量化するための試験方法として、標準化された中性塩水噴霧試験(ISO 9227)、塩水浸漬試験(ASTM G31-72)、交互浸漬試験(ISO 11130)などがあります。防錆対策としては、金属類への直接散布を避け、もし金属類にかかった場合は水で洗浄することが基本です。建築現場では、金属製の遊具やフェンスなどに付着しないよう注意し、付着した場合は速やかに水で洗い流すことが推奨されます。また、機械式駐車場など金属を多用する施設では、定期的な点検と防錆処理が不可欠です。
参考)https://savepaint.net/wp/staff-blog/detail34552/
メッキ製品への塩化カルシウムの影響と変色防止対策の詳細
建築現場で塩化カルシウムを安全に取り扱うためには、適切な保護具の着用が必須です。素手で塩化カルシウムを撒くと皮膚炎の原因となるため、必ずゴム手袋を着けて作業を行います。作業の際は、保護手袋、保護衣、保護眼鏡、防塵マスクを着用して行うことが推奨されています。皮膚に触れないようゴム手袋などを使用し、万一皮膚に付着した場合は水で洗い流す必要があります。目に入らないよう保護眼鏡等を着用し、万一目に入った場合にはよく水で洗い流して、専門医の診察を受けることが重要です。
保管方法にも注意が必要で、直射日光の当たらない湿気の少ない場所に保管することが基本です。高温にならない場所や湿気の少ない場所を選び、小さな子どもの手の届かない所に保管してください。固形の融雪剤は開封してから放っておくと固まってしまうという保管の難しさがあるため、開封後は速やかに使用することが推奨されます。開封後、長時間保管をする場合は、包装容器を密閉して収納する必要があります。気密性がある樹脂製の包装容器に保管するのが理想的です。空のペットボトルに移し替えると散布を効果的に行うことができ、保管も容易になります。
作業時の安全対策として、取扱い後はよく手を洗い、製品を使用する時に飲食又は喫煙をしないことが求められます。屋外又は換気の良い区域でのみ使用し、粉じんや蒸気の吸入を避けることも重要です。環境への配慮として、河川等に多量に流れ込むと生態系に影響を与える可能性があるため注意が必要です。漏出時には、少量の場合は多量の水で希釈して廃棄するか、拭き取り、溶液がアルカリ性を示す場合は中和後に廃棄します。植物に直接塩化カルシウムを飛散しないよう十分配慮し、特に針葉樹の場合は注意が必要です。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10043-52-4.html
建築現場での環境負荷を軽減するため、塩化カルシウム以外の融雪剤の選択肢も検討する価値があります。塩化ナトリウム(NaCl)は塩化カルシウムと同様に反応熱と凝固点降下で雪を溶かす作用がありますが、長期間反応が持続し、雪の再凍結を防止する特性があります。高速道路で事前散布している融雪剤は、ほとんど塩化ナトリウムです。気温が下がる夜中から朝方にかけて散布すると効果的ですが、植物のある場所には使用できないという制限があります。
環境問題やエコに関心の高い場合は、酢酸カルシウム((CH₃COO)₂Ca)が選択肢となります。酢酸カルシウムはカルシウムの酢酸塩で、塩害を抑えながら凝固点降下の作用で雪を溶かします。食材としての廃棄物になるホタテと工業用酢酸から作る融雪剤もあり、環境配慮型として注目されています。酢酸マグネシウム(Mg(CH₃COO)₂)も塩化物イオンを避けて、植物や金属への塩害を気にせずに融雪剤として活用できます。研究によると、塩化マグネシウムと酢酸カルシウムマグネシウムは、すべての研究対象の融雪剤の中で植物への影響が最も少ないことが確認されています。
参考)https://www.mdpi.com/1996-1944/12/6/912/pdf
尿素(CH₄N₂O)を主成分とする無塩タイプの融雪剤は、金属を腐食させない特性があります。尿素は微生物によって分解できるため、植物や農作物への影響に配慮した商品なら家庭菜園などの融雪にも使えて便利です。ただし撒くとアンモニア臭がする場合もあるため、周りへの影響も考慮する必要があります。また、炭酸カルシウムなどに直径3~500nm程度の炭素の微粒子を混ぜた真っ黒のカーボン系融雪剤は、太陽の光を吸収して熱エネルギーで雪を溶かす画期的なものです。植物や人体への悪影響が少ないため、小さな子どものいる家庭の庭で使用できますが、太陽の光が届かない場所や夜間では効果がなく、雪が溶けた後も黒いカーボンが残るという特徴があります。最近の研究では、コアシェル構造の徐放性融雪剤も開発されており、塩化物塩の影響を減らす試みがなされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9269015/
環境配慮型融雪剤の選び方とおすすめ製品の比較情報