応力-ひずみ曲線とヤング率の基礎知識

応力-ひずみ曲線とヤング率の基礎知識

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応力-ひずみ曲線とヤング率

応力-ひずみ曲線とヤング率の重要性
📊
材料特性の可視化

材料に力を加えた時の変形挙動を図表化し、強度や変形性能を把握

🔧
構造設計への応用

建築物の安全性確保と最適な部材設計に欠かせない基礎データ

⚖️
品質管理の指標

材料の品質評価と性能確認における重要な判定基準

応力-ひずみ曲線の基本概念と読み方

応力-ひずみ曲線(S-S曲線とも呼ばれる)は、材料に引張荷重を加えていった際に生じる応力とひずみの関係をグラフ化したものです 。縦軸に応力(σ)、横軸にひずみ(ε)を取り、材料試験機で試験片が破断するまでのデータをプロットして作成されます 。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/50010/

 

この曲線を見ることで、材料がどのくらいの力でどのように変形し、最終的にどのように破壊されるのかがわかります 。荷重を加え始めた当初は直線的な線が引かれており、この部分では応力とひずみが比例していることを示しています 。
応力-ひずみ曲線から得られる主な材料特性には以下があります。

  • ヤング率(縦弾性係数):材料の変形しにくさ(剛性)を示す指標
  • 比例限度・弾性限界:応力とひずみが比例し、力を除けば変形が元に戻る限界点
  • 降伏点:材料が弾性変形から塑性変形へと移行し始める応力
  • 引張強さ(抗張力):材料が耐えうる最大の応力
  • 破断点と伸び:材料が最終的に破壊する点と、そこに至るまでの変形のしやすさ(延性)を示す指標

ヤング率の定義と計算方法

ヤング率(Young's Modulus)は、応力が材料に加えられた際、その材料がどの程度変形するかを示す弾性特性の一つです 。金属に力がかかったとき、力を取り除けば元に戻る「弾性変形」が発生しますが、ヤング率はこの弾性変形の度合いを数値化したものです 。
参考)熱処理における縦弾性係数(ヤング率)とは?

 

ヤング率の計算式は以下の通りです。
E = σ / ε
ここで。

この関係式により、ヤング率が高いほど変形が小さく、硬い材料であることがわかります 。応力-ひずみ曲線の弾性領域におけるグラフの傾きをヤング率(縦弾性係数)といい、ヤング率が大きいほど、材料をひずませるのに大きな応力が必要、つまり材料の剛性が高い(かたい)ことを意味します 。
参考)引張強さとは?引張試験や応力-ひずみ曲線(S-S曲線)の見方…

 

ヤング率は材質によって決まった定数であり、フックの法則の比例係数として機能します 。鋼鉄などはヤング率が非常に高く、約210 GPa(ギガパスカル)を持ちます 。
参考)応力とひずみの関係

 

応力-ひずみ曲線の測定と引張試験

材料の弾性率を測定する方法としてよく知られているのが引張試験です 。物体の弾性率を知るために(一般的に言えば材料強度を知るために)行われるこの試験は、材料が破断するまで張力(引っ張り荷重)を加え、材料の引張強度、降伏点(耐力)、伸び、絞りなどを求めるものです 。
参考)ヤング率【縦弾性係数】とは?意味や求め方をやさしく解説 - …

 

引張試験では以下の式で引張応力、引張ひずみを計算することができます。
σ = F/S(σ:引張応力[MPa]、F:荷重[N]、S:荷重を加える前の平行部断面積[mm²])
ε = ΔL/L(ε:ひずみ、ΔL:変形量[mm]、L₀:荷重を加える前の平行部長さ[mm])
ヤング率は一般的に引張試験や音速測定法を用いて測定されます 。引張試験では、材料に力を加えてその応力とひずみを計測することでヤング率が求められます 。音速測定法は、超音波を用いて材料内部の波動伝播速度を計測し、ヤング率を算出する方法で、非破壊での計測が可能です 。
測定結果から、ヤング率の変化が熱処理の影響であるかを判断でき、熱処理前後でのヤング率の比較により、処理が適切に行われたかを検証することが可能です 。

建築材料における応力-ひずみ曲線の応用

建築分野における応力-ひずみ曲線の応用は非常に幅広く、特に鉄筋コンクリート構造において重要な役割を果たします。高強度鉄筋の高層建築物における実用例が増えつつある現状を踏まえ、明瞭な降伏棚を示さない高強度鉄筋の応力-ひずみ関係をMenegotto-Pinto型関数を用いて定式化する研究が進められています 。
参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/26/026-01-2129.pdf

 

鉄筋コンクリート構造物の設計では、ヤング係数比という概念が重要になります。ヤング係数比とは、鋼材(鉄筋)のヤング係数をコンクリートのヤング係数で除した値で、計算式はn = Es / Ecとなります 。ここで、nはヤング係数比、Esは鋼材(鉄筋)のヤング係数、Ecはコンクリートのヤング係数です 。
参考)https://ce-note.com/young-modulus-ratio.html

 

一般的に、鋼材(鉄筋)のヤング係数はEs = 2.0 × 10⁵ N/mm²であり、コンクリートのヤング係数は設計基準強度で異なるもののEc = 2.5 × 10⁴ N/mm²程度となっています 。よって、計算値は概ねn = 8となりますが、鉄筋コンクリート構造物の断面決定や応力度計算では、これより大きい値を採用することがあります 。
建築構造設計においては、応力-ひずみ曲線から得られるデータを基に、構造物の安全性と経済性を両立させた設計が行われます。特に、材料の降伏点や引張強度などの特性値は、許容応力度の設定や構造計算に直接影響を与える重要な指標となります。

 

応力-ひずみ曲線から見える材料の特異な性質

応力-ひずみ曲線の形状は材料によって大きく異なり、その違いから材料固有の特異な性質を読み取ることができます。例えば、応力-ひずみ曲線には降伏点が明確に分かるものと、降伏点がないものがあり、材料によって様々な形をとります 。
興味深いことに、材料によっては比例しない場合もあります 。多くの鋼材では、応力-ひずみ曲線は降伏点までは直線となる線形弾性体ですが、降伏点に至る前に応力-ひずみ曲線が直線でなくなるときは、応力とひずみの比例限界までの勾配をヤング率とします 。
参考)ヤング率|CAE・Ansysの活用推進、解析に関するご相談な…

 

材料の異方性も応力-ひずみ曲線に現れる重要な特性です。鋼はそのミクロ組織に起因した応力-ひずみ曲線の異方性を有しており、鋼製品の性能に大きな影響を与えます 。異方性発現には種々の要因が考えられ、熱間圧延や冷間成形により、降伏応力や加工硬化の異方性が発現することが知られています 。
参考)フェライト鋼の加工硬化異方性に及ぼすひずみ負荷経路とひずみ時…

 

さらに、膜材料のような特殊な建築材料では、応力弛緩を考慮した応力-ひずみ曲線モデルが必要になります 。これは張力膜構造の応力弛緩に関する研究において重要な要素となり、膜構造建築物の応力緩和後およびクリープ後の応力やひずみ状態を弾性解析で予測する場合に適用されます 。
参考)膜材料の応力弛緩を考慮した応力-ひずみ曲線モデルを適用した構…

 

現代の材料科学では、デジタル画像相関法と高分解能電子線後方散乱回折法の併用により、微視的・局所的な応力-ひずみ曲線情報のマッピングが可能になっており 、材料の局所的な挙動をより詳細に理解できるようになっています。
参考)デジタル画像相関法と高分解能電子線後方散乱回折法の併用による…