
フックの法則とは、ばねの伸びは加えた力に比例するという物理法則です。17世紀のイギリスの科学者ロバート・フック(1635~1703)によって発見されたこの法則は、現代の建築構造計算の基礎となっています。
参考)https://d-engineer.com/dictionary/fukku.html
基本公式は F=kx で表され、Fは加えた力(単位:N)、xはばねの伸び量(単位:mm)、kはばね定数(単位:N/mm)を示します。例えば、1Nのおもりを吊るしたときにばねが50mm伸びる場合、2Nの重りを吊るすと100mm伸びるという比例関係が成立します。
参考)https://asistdl.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/asi.24057
この法則が成立するのは弾性限度以下の範囲に限られ、その境界点を超えると力と変形量の比例関係は崩れます。建築材料においても同様の原理が適用され、鉄骨や鉄筋コンクリートの構造設計において材料の弾性変形を予測する重要な指標となっています。
参考)「フックの法則」とは?ばね定数の求め方や基礎知識を簡単に解説…
ばねの伸び縮みとフックの法則の詳細な実験データと歴史的背景
ばね定数とは、1mm変形させるのに必要な力の大きさを表す値で、「荷重=変形量×ばね定数」という関係式で求められます。建築の実務では、この概念を「剛性」と呼び、材料の伸びやすさや固さを数値化する指標として活用されています。
参考)ばね力学用語(1)−ばね定数とは|ばねの総合メーカー|フセハ…
コイルばねの場合、ばね定数は「(横弾性係数×線径⁴)÷(8×有効巻数×コイル中心径³)」という計算式で算出されます。この式から分かるように、ばね定数を決定する要素は①線径、②コイル中心径、③有効巻数の3つです。
参考)ばね力学用語(2)−弾性係数とは|ばねの総合メーカー|フセハ…
一般的な傾向として、線径が大きいほどばね定数は大きくなり硬いばねになります。逆にコイル中心径が大きいほど、または有効巻数が多いほど、ばね定数は小さくなり柔らかいばねになります。建築業では鉄骨接合部の耐震設計や免震装置の性能計算において、これらのパラメータを調整してばね定数を最適化します。
フックの法則は、応力度とひずみ度の関係式 σ=Eε としても表現されます。ここでσ(シグマ)は応力度(単位:N/mm²)、ε(イプシロン)はひずみ度(無次元)、Eはヤング率(縦弾性係数、単位:N/mm²)を表します。
参考)フックの法則とは?1分でわかる意味、公式、単位、応力、ヤング…
ヤング率は材料固有の定数で、鉄鋼材料の場合は約205,000N/mm²という値が広く使用されています。この値は材料の種類によって変わらず、引張強さや降伏点が異なる鋼材でも同じヤング率を持つという特徴があります。
参考)鋼材のヤング係数|ヤング係数とは何かと合わせてわかりやすく解…
横弾性係数(せん断弾性係数)はねじり方向の変形に関する係数で、コイルばねの設計では縦弾性係数よりも重要な役割を果たします。鋼材の横弾性係数は約79,000N/mm²で、ばね定数の計算式に直接組み込まれています。建築構造計算では、部材の曲げ剛性やねじり剛性を算出する際に、これらの弾性係数を使い分ける必要があります。
参考)建築構造におけるヤング係数(弾性係数)について分かりやすく解…
弾性域と塑性域の違い、降伏点とヤング係数の関係を図解で解説
建築構造設計において、フックの法則は部材断面の応力度とひずみ度の関係を把握するために不可欠です。鉄骨造や鉄筋コンクリート造の設計では、部材に作用する荷重から応力度を算出し、それに対応するひずみ度をヤング率で除することで変形量を予測します。
参考)フックの法則とヤング係数について解説 - 土木系情報サイト
鉄筋コンクリート構造の設計では、ヤング係数比n=15という簡便な値が昭和時代から使用されてきました。これはコンクリートのヤング係数が約21,000N/mm²、鉄筋のヤング係数が約200,000N/mm²であることから、200,000÷21,000≒15という関係に基づいています。この比率を用いて中立軸の位置を算定し、断面の曲げモーメントに対する耐力を計算します。
参考)ヤング係数とコンクリートの関係。計算方法を紹介 - コラム|…
応力度 σ は「荷重÷断面積」で、ひずみ度 ε は「伸び量÷元の長さ」で求められます。例えば、断面積100mm²の鉄筋に10,000Nの引張力が作用する場合、応力度は10,000÷100=100N/mm²となり、ヤング率200,000N/mm²を用いると、ひずみ度は100÷200,000=0.0005となります。
参考)材料力学 応力とひずみについて フックの法則 高校生で習った…
材料 | ヤング率(N/mm²) | 建築での用途 |
---|---|---|
鋼材(SS400、SM490等) | 205,000 | 鉄骨構造、鉄筋 |
コンクリート(Fc=21) | 21,000 | RC造、SRC造 |
木材(スギ) | 7,000~10,000 | 木造構造 |
フックの法則が成立する範囲は「弾性域」と呼ばれ、その上限が弾性限度です。材料に荷重を加えて変形させ、荷重を取り除くと元に戻る性質を弾性変形といい、この範囲内では応力とひずみが比例関係を維持します。
参考)応力とひずみの関係(フックの法則とヤング率)~プラスチック製…
弾性限度を超えると降伏点に達し、そこから先は塑性域に入ります。塑性域では荷重を除去しても元の形状に戻らず、永久変形が残るため、フックの法則は適用できません。建築構造設計では、通常使用時の荷重が弾性域内に収まるよう安全率を設定し、降伏点を超えないことを確認します。
参考)構造【ひずみ度/フックの法則】|ArchiNator
降伏点を超えてさらに荷重を加えると、材料は下降伏点、引張強度を経て、最終的には破断に至ります。この一連の挙動を表した「応力-ひずみ線図」は、材料の機械的特性を理解する上で重要な図表です。建築の許容応力度設計法では、降伏点や引張強度に対して安全率(通常1.5~2.5程度)を見込んで、許容応力度を設定しています。
意外なことに、ロバート・フックは「フックの法則」以外にも、顕微鏡でコルクを観察して「細胞(cell)」という概念を命名した最初の人物でもあります。また、ばねを利用した懐中時計を発明し、それまで大型の振り子時計しかなかった時代に携帯可能な時計を実現しました。
参考)フックの法則|ばねの総合メーカー|フセハツ工業株式会社
弾性限度、降伏点、引張強度の違いと構造設計での扱い方の詳細
建築現場では、免震装置や制振ダンパーの設計において、ばね定数の概念が直接的に活用されています。免震建築物では、建物と基礎の間に設置された積層ゴムや鋼材ダンパーのばね定数を調整することで、地震時の建物の固有周期を長くし、地震エネルギーの吸収性能を高めます。
鉄骨接合部のボルト接合においても、ボルトのばね定数を考慮した設計が行われます。高力ボルトを用いた摩擦接合では、ボルトの締め付けによって生じる引張力とその伸び量の関係がフックの法則に従い、適切な軸力管理が接合部の耐力を左右します。
さらに、鉄筋コンクリート造の梁や柱の曲げ変形計算でも、部材全体をばねとみなしてたわみ量を算出します。「たわみ=荷重÷ばね定数」という関係式から、部材の剛性(ばね定数)が小さいほど大きくたわむことが分かります。建築基準法では、たわみ量の許容値が定められており、使用性の観点から部材断面を決定する際の重要な判断基準となっています。
直列・並列ばねの合成ばね定数の計算も、複雑な構造物の解析では重要です。複数のばねを並列に配置した場合、全体のばね定数は各ばね定数の和となり、直列に配置した場合は逆数の和の逆数となります。これは、複数の柱で支持された構造物の水平剛性を評価する際に応用されます。
参考)コイルばね:計算式
建築業における構造計算では、フックの法則とばね定数の理解が、安全で経済的な設計を実現するための基礎となります。弾性係数や応力度の概念を正しく把握し、実務に活かすことで、より精度の高い構造設計が可能になります。
参考)フックの法則とは?公式と考え方、応力・ひずみとの関係等をわか…