
建築現場での掘削作業において、土砂崩れによる事故は最も深刻な災害の一つです 。京都市のホテル建設現場では、深さ4.5メートルの基礎工事で土砂崩落が発生し、作業員2人が負傷しました 。この事故では、垂直に掘削された穴の北側壁面が崩れ、穴底で作業していた4人のうち2人が土砂に巻き込まれました 。
参考)深さ4・5メートルの穴が…京都のホテル建設現場で壁崩落、作業…
土砂崩れが発生する主な原因は、掘削深度に対して適切な土留め支保工が設置されていなかったことです 。深さが2メートルを超える掘削作業では、地山の掘削及び土止め支保工作業主任者の選任が法的に義務付けられています 。しかし、多くの現場では短時間の作業だからという理由で、必要な安全対策が軽視される傾向があります 。
土質の特性も重要な要因となります 。粘土質の地山と水を含んだ緩い地山では、必要な土留め支保工の設計が大きく異なります 。特に都市部の建設現場では、限られたスペースで垂直に深く掘削することが多く、より厳格な土砂崩れ対策が求められます 。
参考)土止め支保工を安全に行うための措置
酸素欠乏症は、密閉された穴内作業で発生する重大な災害です 。工場新築工事のトイレ用配管ピットでは、作業者が型枠解体のためピット内に立ち入ったところ、酸素欠乏により意識を失う事故が発生しました 。事故後の調査では、ピット内の酸素濃度が16%程度まで低下していることが判明しました 。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000844
酸素欠乏が発生する主な原因は、密閉空間での有機物の腐敗や菌類の発生による酸素消費です 。特に夏季の高温多湿環境では、雨水に含まれる有機物が腐敗し、酸素を消費して危険な状態を作り出します 。コンクリート打設後、約4ヶ月間ほぼ密閉状態が続いたピットでは、湿度が非常に高くカビ臭が発生し、型枠の腐食や菌類の発生が確認されました 。
労働安全衛生法では、酸素濃度18%未満の場所での作業を酸素欠乏危険作業として規定しており、事業者には換気設備の設置や空気呼吸器の使用などの対策が義務付けられています 。しかし、ケーブル配管用のピットやマンホール内部は、見た目では危険性が判断しにくく、安全対策が疎かになりがちです 。
参考)e-Gov 法令検索
穴内作業では、酸素欠乏症だけでなく有毒ガスによる中毒事故も発生します 。道路工事現場では、ドラグ・ショベルでプロパンガス管を破損し、応急処置のため穴に入った作業員がガスを吸い込んで意識を失う事故が起きました 。この事故では、作業員がガス管の破損に気付いて安全措置を取ろうとした直後に、別の作業員が独断で穴に入ったことが原因でした 。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000737
地下に埋設されたガス管や化学配管の損傷は、想定外の有毒ガス漏れを引き起こします 。特にプロパンガスは空気より重く、掘削した穴の底部に滞留しやすい特性があります 。また、下水道工事や古い建物の解体現場では、硫化水素や一酸化炭素などの有害ガスが発生する可能性があります。
工業地帯や化学工場周辺の建設現場では、過去の土壌汚染による有機溶剤の蒸発も危険要因となります 。鋳物工場では、湿った鋳型に高温の溶湯を注いだ際に発生した水蒸気が原因で、溶湯が吹き出して作業員4人が火傷を負う事故も報告されています 。これらの事故は、現場の作業員に対する安全衛生教育の不足と、異常事態への適切な対処法が確立されていないことが共通の問題点となっています 。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=101160
穴内作業における事故防止には、適切な作業主任者の選任と継続的な安全教育が不可欠です 。深さ2メートル以上の掘削作業では、地山の掘削及び土止め支保工作業主任者の選任が法的に義務付けられており、この作業主任者は安全な作業方法の決定と直接指揮を行う責任があります 。
作業主任者の職務には、材料の欠点検査、器具・工具の点検、不良品の除去、保護具の使用状況監視などが含まれます 。特に土止め支保工の組立図作成では、地質調査結果に基づいて矢板や腹起し、切ばりなどの配置、寸法、材質、取付時期を詳細に設計する必要があります 。また、完成後は7日を超えない期間ごと、地震後、大雨後の定期点検も義務付けられています 。
安全教育については、酸素欠乏危険作業主任者技能講習や有機溶剤作業主任者技能講習など、作業内容に応じた専門的な資格取得が必要です 。建災防(建設業労働災害防止協会)では、都道府県支部で各種技能講習を開催しており、現場の危険性に対応した実践的な教育プログラムを提供しています 。特に足場作業主任者に対しては、5年程度経過後の能力向上教育も実施されており、継続的なスキルアップが図られています 。
参考)石綿作業主任者・玉掛け・有機溶剤作業主任者技能講習のお問い合…
最新の建設技術では、BIM(Building Information Modeling)とIoT技術を活用した深基礎ピット工事の安全管理システムが開発されています 。このシステムは、自動早期警報機能を備えており、地下建設現場での危険の特定と評価を支援します 。センサーネットワークにより、酸素濃度、有害ガス濃度、地盤の変位などをリアルタイムで監視し、危険な状況を事前に検知することが可能です 。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/2021/5539796
トンネル建設では、構造方程式モデルを用いたリスク要因分析が実施されています 。この研究によると、トンネル工事事故に影響する6つの潜在変数(人的要因、材料要因、地質探査設計、技術管理、安全管理、自然条件)の中で、自然条件が最も大きな影響を与え、次に人的要因と安全管理が重要であることが明らかになりました 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9871213/
革新的な一時的縁端保護システム(TEPS)も開発されており、従来の保護システムと比較して優れた機械的抵抗力を示しています 。このシステムは、溝掘削工事における人間工学、健康、安全性の改善を目的として設計され、EU基準に適合した静的荷重に対する機械的抵抗力を持っています 。
参考)301 Moved Permanently
独自の安全管理手法として、事故ツリー解析(FTA)と階層分析プロセス(AHP)を組み合わせた崩落事故のリスク評価手法が注目されています 。この手法では、崩落事故の危険要因を定性的・定量的に評価し、主要なリスク要因を特定することで、効果的な予防策の策定が可能となります 。特に自建住宅の崩壊事故分析では、無謀な増築、不合理な構造、地質条件の悪化、建築脆弱性、管轄当局の怠慢、セキュリティ意識の欠如が主要な原因として特定されています 。
参考)301 Moved Permanently