
あんどん部屋とは、窓がなく自然光が入らない暗い部屋を指します。この名称は、江戸時代に使用された行燈(あんどん)という照明器具を保管していた暗い部屋に由来しています。
建築基準法における重要なポイントは以下の通りです。
建築基準法施行令第19条では、居室の採光に必要な窓その他の開口部の面積は、その居室の床面積の7分の1以上と規定されています。あんどん部屋はこの基準を満たさないため、設計段階から照明計画が極めて重要になります。
近年の住宅設計では、限られた敷地面積を有効活用するため、あえてあんどん部屋を設けるケースが増加しています。特に都市部の狭小住宅や団地のリノベーションプロジェクトでは、適切な照明設計によってあんどん部屋を有効活用する技術が求められています。
あんどん部屋の照明設計では、自然光が期待できないため人工照明による適切な照度確保が最重要課題となります。JIS Z 9110(照明基準総則)に基づく推奨照度は用途により異なりますが、基本的な指針は以下の通りです。
用途別推奨照度基準
照明設計における基本原則として、1畳あたり15~20Wの照明容量が推奨されています。しかし、あんどん部屋では反射率の低い表面が多いため、通常より20~30%多めの照明容量を確保することが実務上重要です。
配光設計のポイント
特に注意すべきは、あんどん部屋特有の閉塞感を軽減するための照明計画です。単一の高照度照明よりも、複数の照明器具を組み合わせた「多灯照明」により、空間に奥行きと広がりを感じさせる効果が期待できます。
また、調光機能付きLED照明の採用により、用途に応じた明るさ調整が可能になり、エネルギー効率も向上します。特に昼夜で使用パターンが変わる多目的室では、調光機能は必須の機能といえるでしょう。
間接照明は、光源から直接光を当てるのではなく、壁や天井に光を反射させて間接的に空間を照らす手法です。あんどん部屋では、この技術が空間の印象を劇的に改善する効果を発揮します。
コーブ照明による天井面活用
天井に光を反射させるコーブ照明は、空間に高さを感じさせる効果があります。設計時のポイントは以下の通りです。
コーニス照明による壁面演出
壁面を照らすコーニス照明は、空間に奥行きを与える効果があります。
日本の伝統技術の応用
日本古来の照明技術である行燈の原理を現代に応用することで、独特の落ち着いた空間演出が可能です。障子や和紙を通した拡散光は、50%の減光効果がありながら、壁面での反射により奥行きのある明るさを実現します。
現代の住宅設計では、和紙の代替材料としてワーロン紙やアクリル板を使用し、LED光源と組み合わせることで、伝統的な行燈の雰囲気を再現しながら実用性を高めた照明設計が注目されています。
間接照明の設計では、照明器具そのものが見えないよう建築化照明として組み込むことが重要です。天井や壁の構造体に照明器具を埋め込み、光だけが見える設計により、あんどん部屋の制約を感じさせない上質な空間を実現できます。
LED照明技術の進歩により、あんどん部屋の照明設計における選択肢が大幅に拡大しています。特に省エネ性能と調光・調色機能の両立により、従来の蛍光灯や白熱電球では実現困難だった高効率な照明環境が構築可能になりました。
LED照明の性能特性
あんどん部屋特有のLED設計ポイント
窓のないあんどん部屋では、時間の経過や季節感を失いやすいため、サーカディアンリズム(概日リズム)を考慮した照明制御が重要です。
センサー技術との連携
人感センサーや照度センサーとLED照明を連携させることで、使用状況に応じた自動制御が可能になります。
熱対策の重要性
あんどん部屋は密閉性が高いため、照明器具の発熱対策が重要です。LED照明は発熱量が少ないものの、放熱設計を怠ると寿命低下や光束維持率の悪化を招きます。
特に、あんどん部屋を書斎やワークスペースとして活用する場合、長時間の照明使用が想定されるため、発熱対策は設計段階から十分に検討する必要があります。
あんどん部屋の照明設計では、従来の居室とは異なる独自のアプローチが必要です。建築業界では一般的に認知されていない、あんどん部屋特有の配光計画手法をご紹介します。
ゾーン別照明密度設計法
あんどん部屋を機能別にゾーニングし、各エリアの使用頻度と作業内容に応じて照明密度を最適化する手法です。
この手法により、必要な場所に必要な分だけの照明を配置し、エネルギー効率と使い勝手の両立を実現できます。
反射率計算に基づく照明配置最適化
あんどん部屋では自然光がないため、人工照明の反射光を最大限活用する必要があります。室内各面の反射率を正確に算出し、照明配置を決定する手法です。
立体配光による奥行き感創出技術
平面的な照明配置では得られない、立体的な光の演出によりあんどん部屋の閉塞感を軽減する技術です。
この3段階の立体配光により、空間に奥行きと広がりを感じさせる効果が得られます。
動線照明による心理的圧迫感軽減
あんどん部屋特有の閉塞感を軽減するため、人の動線に沿った照明配置により心理的な開放感を演出する手法です。
これらの手法は、従来の照明設計マニュアルには記載されていない、あんどん部屋特有の課題に対応した実務的なソリューションです。設計者は、これらの技術を組み合わせることで、制約の多いあんどん部屋を快適で機能的な空間として活用することが可能になります。
実際の設計では、建築主の用途要求と予算制約を考慮しながら、最適な照明計画を立案することが重要です。また、竣工後の使用状況をモニタリングし、必要に応じて照明制御の微調整を行うことで、長期的に快適な照明環境を維持できます。