

建築の実務で「アセトン系洗浄溶剤」が登場する場面は、塗装・接着・シーリング・防水・床材など、樹脂系材料を扱う工程の“道具・治具・付着物”の洗浄が中心です。アセトンは水と混和し、揮発も速いので、仕上げ面に水分を残したくない場面や、短時間で乾燥させたい場面で選ばれやすい溶剤です(ただし素材への影響は別問題)。また、推奨用途として「工業用の溶剤、洗浄剤」といった位置づけがSDS類でも一般的に示されています。
一方で、現場の“便利さ”がそのまま事故要因になります。乾きが早い=蒸気が短時間に発生する、ということなので、狭い区画やピット、階段室、機械室のような空気が動きにくい場所では、においが薄く感じても濃度が上がっていることがあります。特に、ウエスに含ませて拭く作業は「塗る」よりも表面積が増え、蒸発が加速しやすいので、作業者の周囲に蒸気の“雲”ができるイメージで管理すると事故を減らせます。
洗浄対象ごとの注意点も押さえておくと、やり直し工事を防げます。
「溶剤で拭けば綺麗になる」は半分だけ正解です。実際には、汚れの種類(油・未硬化樹脂・粉じん)と、拭き方(溶かす→回収→乾拭き)をセットで決めないと、汚れを面で引き延ばすだけになり、仕上げのムラや密着不良につながります。例えば、未硬化のシーリング材を拭く時にウエスを回転させず同じ面で拭き続けると、溶けた成分を薄く再付着させてしまい、後日ベタつきや汚れ吸着の原因になります。
アセトンはGHS分類で引火性液体「区分2」とされ、引火性の高い液体・蒸気であることが明示されています。さらに、注意書きとして「防爆型の電気機器/換気装置/照明機器を使用」「静電気放電に対する予防措置」などが示され、現場では“火気厳禁”だけでは不十分であることが読み取れます。要するに、溶剤そのものよりも、蒸気と着火源の組み合わせが事故の主因になります。
建築現場で見落としやすい着火源は次の3つです。
実務的な「防爆」対策は、いきなり高価な設備を入れる話だけではありません。最低限、次を徹底すると事故確率が下がります。
参考:GHS分類・引火性・防爆・静電気対策・換気・応急措置(眼洗浄など)の根拠に使える(SDS相当の公的情報)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/67-64-1.html
換気の狙いは「においを消す」ではなく「蒸気濃度を上げない」ことです。公的なSDS情報では、屋外または換気の良い場所でのみ使用すること、局所排気・全体換気、さらに防爆型の換気設備の使用などが示されています。ここを現場仕様に落とすと、換気計画は“風量”だけでなく“流れ”と“溜まり”の管理になります。
重要なのは、蒸気が低いところに溜まりやすい点です。業界の安全性要約でも、蒸気が空気より重く、くぼ地・溝・排水溝等に滞留し得ること、床に沿って換気することが注意事項として示されています。つまり、天井付近の換気だけ回して安心、という運用は危険です。床・立上り・ピット・PS周りなど、低所の“逃げ道”を作らないと、作業者の呼吸域(かがむ・しゃがむ)に濃い層が来ます。
局所排気が難しい現場も多いので、現実的には「短時間・少量・分散」と「区画管理」が効きます。
換気の“ありがちな失敗”も挙げます。
これらは設備の良し悪しというより、現場の作業姿勢と風の向きのミスマッチが原因です。紙片やスモークで気流を可視化し、蒸気が溜まりそうな場所を先に潰すだけでも改善します(安全に配慮して実施)。
参考:蒸気の滞留(くぼ地等)・床に沿った換気・防爆換気・保護具など、現場の換気説明に根拠を付けられる
https://www.jcia-bigdr.jp/jcia-bigdr/doc/gps_jips_paper/sumitomo_chemical_67-64-1.pdf
アセトン系洗浄溶剤の安全は、注意喚起のポスターより「SDSを作業標準に翻訳できるか」で決まります。SDS相当情報では、保護手袋・保護眼鏡/保護面、換気、防爆、静電気対策、吸入回避、取扱後の手洗い、飲食・喫煙の禁止などが具体的に列挙されています。現場で“守れる形”に落とすと、次の3点が軸になります。
応急措置は、知っているだけでは足りません。SDS相当情報には、洗眼器・安全シャワーの設置など設備対策も書かれています。建築現場では常設が難しいため、少なくとも「水が確実に出る」「すぐ使える」「凍結しない」洗眼手段を工程前に確認し、連絡・搬送ルート(誰が、どこへ)を決めておくと、ヒヤリが事故に変わるのを止められます。
また、少し意外ですが、アセトンは生殖毒性(疑い)なども含めた分類が示されています。日常の清掃感覚で漫然と扱わず、リスクアセスメントと作業手順(教育・表示・保管・廃棄)に落とし込む姿勢が、結果として品質と工程の安定にも効きます。
検索上位の解説では「引火性」「換気」「有機溶剤中毒」までは出やすい一方で、現場運用で盲点になりやすいのが“保管中の変質・反応性”です。公的なSDS相当情報では、アセトンは日光や空気にさらされると過酸化物質を生成し爆発性となり得る、さらに容器内で特定の温度域で爆発性混合気を生成する可能性が示されています。これは「使っている最中」だけでなく、「余った溶剤を保管している時間」もリスクがある、という意味です。
建築現場で起こりがちな“変質系トラブル”を、実務の形にするとこうなります。
対策はシンプルで、道具立てより“ルール”が効きます。
さらに品質面の落とし穴として、アセトンは水と混和するため、現場の湿度・結露・濡れたウエスの影響を受けやすい点も見逃せません。たとえば、冬期の冷えた金属部材を拭くと結露水を拾い、拭いたつもりが「水+溶剤+溶けた汚れ」の膜を作ることがあります。これが塗装や接着の密着不良の“原因不明”として残り、後から追跡できなくなります。対策としては、拭き取り手順を「溶剤拭き→別ウエスで乾拭き→乾燥待ち」の3段にし、拭き取り面の温度(結露しない)も工程条件に入れると安定します。
以上のように、アセトン系洗浄溶剤は「洗浄力」だけでなく「引火性・蒸気・静電気・保管中の変質・工程品質」まで一体で設計するのが、建築従事者にとっての実務解です。現場で“便利な一本”にしてしまうほど事故が起きやすいので、SDSの文言をチェックリスト化し、換気と防爆と保護具を工程に埋め込む運用に切り替えてください。

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