
防火戸とは、建築物の火災安全対策として設置される防火性能を持つ建具のことです。建築基準法第2条九号の二ロに定義されており、「遮炎性能を有する建具」として位置づけられています。
遮炎性能とは、通常の火災時における火炎を有効に遮るために必要とされる性能のことで、具体的には「通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一定時間、加熱面以外の面に火炎を出さないもの」と定義されています。
2000年(平成12年)の建築基準法改正により、従来の「甲種防火戸」は「特定防火設備」に、「乙種防火戸」は「防火設備」に名称が変更されました。現在でも「防火扉」や「防火ドア」と呼ばれることもありますが、法律上の正式名称は「防火戸」です。
防火戸は単なる扉ではなく、建築物の安全を確保するための重要な防火設備の一つとして、厳格な基準に基づいて設計・製造されています。
防火戸は遮炎性能の違いによって主に以下の2種類に分類されます。
また、防火戸は遮炎性能が両面か片面かによっても分類されます。
種類 | 耐えられる時間 | 両面or片面 | 認定番号 |
---|---|---|---|
特定防火設備 | 60分 | 両面 | EA-○○○○ |
防火設備(両面) | 20分 | 両面 | EB-○○○○ |
防火設備(片面) | 20分 | 片面 | EC-○○○○ |
10分防火設備 | 10分 | 両面 | - |
両面と片面の違いは、「屋内と屋外の両方の火災」に耐えられるか、「屋内の片面の火災」にのみ耐えられるかという点にあります。多くの規制では両面の防火設備が要求されますが、一部の規制では片面の防火設備でも認められています。
防火戸の構造は、その用途や設置場所によって異なります。主な形状としては「シャッタータイプ」「扉タイプ」「シャッター+くぐり戸タイプ」などがあります。
特定防火設備の場合、防火戸の閉鎖方式は以下の2種類に限定されています。
また、開閉方式としては「開き戸」「引き戸」「折りたたみ戸」などがあり、さらに「くぐり戸付き」と「くぐり戸なし」のバリエーションがあります。
防火戸の構造は国土交通省の告示により定められており、告示で定められた構造方法を用いるもの、または国土交通大臣の認定を受けたものでなければなりません。
防火戸は主に「延焼のおそれのある部分」に設置が義務付けられています。延焼のおそれのある部分とは、以下の範囲を指します。
ただし、公園や広場のような空き地、川や海のような水面、耐火構造の壁に面する部分などは除外されます。
防火戸の設置が必要となる主なケースは以下の通りです。
防火地域や準防火地域に建物を建てる場合、どの程度の耐火対策が必要かは、建物の床面積や階数によっても変わってきます。一般的な木造住宅では防火設備(旧乙種防火戸)が使用されますが、防火地域など耐火建築が必要な地域では特定防火設備(旧甲種防火戸)が要求される場合もあります。
防火戸は火災時に確実に機能することが求められるため、適切なメンテナンスが重要です。防火性能自体は20年、30年と使用していても大きく劣化することはありませんが、機械部分や外観は定期的な点検が必要です。
主な点検ポイントは以下の通りです。
防火戸は普通の扉より重いため、蝶番やドアクローザの負担が大きくなります。特に随時閉鎖式の防火戸は、火災時に確実に閉まることが重要なので、定期的な動作確認が欠かせません。
特殊建築物(学校、病院、ホテル、マンションなど)では、建築基準法第12条に基づく定期調査・検査の一環として、防火戸の点検が義務付けられています。この点検は、資格を持った調査員によって実施され、不具合があれば是正が求められます。
かつての防火戸は機能性重視で、デザイン性に乏しいものが多くありましたが、近年は住宅の美観を損なわないよう、デザイン性に優れた防火戸も増えています。
最新の防火戸のトレンドとしては以下のようなものがあります。
防火戸を選ぶ際は、法令で定められた性能を満たしていることを前提に、住宅全体のデザインとの調和や使い勝手を考慮することが大切です。国土交通省の認定を受けた製品(認定番号:EA-○○○○、EB-○○○○など)から選ぶことで、安全性と法令適合性を確保できます。
また、リフォームの際にも、防火地域や準防火地域では防火戸の設置が必要となる場合があるため、事前に確認することをおすすめします。
防火戸は単なる法令対応のための設備ではなく、住まいの安全を守る重要な要素です。機能性とデザイン性を両立させた防火戸を選ぶことで、安全で美しい住空間を実現することができます。
建築物の防火対策は、居住者の生命と財産を守るために欠かせません。防火戸の正しい知識を持ち、適切な選択と維持管理を行うことが、安全な住環境づくりの第一歩となるでしょう。