
竪穴区画の防火設備において最も重要な要件が遮煙性能です。建築基準法施行令第112条第19項第2号により、竪穴区画に用いる防火設備は「避難上及び防火上支障のない遮煙性能を有し、かつ、火災により煙が発生した場合に自動的に閉鎖又は作動をするもの」でなければなりません。
遮煙性能が必要な理由
自動閉鎖機能の要件
竪穴区画の防火設備は以下の閉鎖方式のいずれかを採用する必要があります。
重要なのは、竪穴区画では熱感知器やヒューズ付きの防火戸は使用できない点です。これは煙が熱よりも早く拡散するため、煙の段階で確実に閉鎖する必要があるからです。
遮煙性能の確認方法
施工時には以下の点を確認する必要があります。
竪穴区画の構造は、対象となる建築物の種類によって3つのパターンに分類されます。
①基本的な竪穴区画(準耐火構造等で3階または地階に居室のある建築物)
構造部位 | 要求性能 | 備考 |
---|---|---|
床 | 準耐火構造(または耐火構造) | 建築物の主要構造部に準じる |
壁 | 準耐火構造(または耐火構造) | 建築物の主要構造部に準じる |
開口部 | 遮煙性能付きの防火設備(または特定防火設備) | 煙感知器連動必須 |
②小規模な竪穴区画(病院・診療所・児童福祉施設等)
階数3階建てかつ延べ面積200㎡未満の建築物で、3階部分が病院、診療所、児童福祉施設等の用途の場合。
③小規模な竪穴区画(共同住宅・ホテル等)
階数3階建てかつ延べ面積200㎡未満の建築物で、3階部分がホテル、旅館、共同住宅等の用途の場合。
準耐火構造の具体的要件
準耐火構造として認められるためには。
施工時の注意点として、準耐火構造の壁は下地材から仕上げ材まですべて認定仕様に適合させる必要があります。また、貫通部の処理や取り合い部の納まりも認定内容に従って施工することが重要です。
竪穴区画で使用できる防火設備には、防火設備と特定防火設備の2種類があります。この違いを理解することは、適切な設備選定と施工のために重要です。
防火設備の特徴
特定防火設備の特徴
選定時の判断基準
竪穴区画では防火設備で十分な場合が多いですが、以下の場合は特定防火設備の検討が必要です。
製品選定時の確認事項
実際の製品選定では以下を確認します。
特に注意すべきは、一般的な防火扉に後付けで遮煙性能を付加することは基本的にできない点です。竪穴区画用の防火設備は、製品選定段階から遮煙性能付きの認定品を選択する必要があります。
両開き扉や親子扉の取り扱い
複数枚の扉で構成される開口部では、すべての扉に自動閉鎖装置を設置することが原則です。片側のみに自動閉鎖装置を設置し、もう片側をフランス落としで固定する方法は認められません。この場合、閉鎖順序を調整する順位調整機能付きの自動閉鎖装置を使用する必要があります。
竪穴区画には、建築物の用途や規模に応じて適用される緩和規定があります。これらの緩和規定を適切に活用することで、コストを抑えながら法令に適合した施工が可能になります。
竪穴区画が不要となる緩和
以下の条件を満たす場合、竪穴区画は設置不要です。
①避難階からの直上階・直下階の吹き抜け
②小規模住宅の緩和
一の竪穴区画とみなされる緩和
完全に区画を省略するのではなく、複数の竪穴部分を一つの区画として扱える緩和もあります。
①隣接する竪穴部分の統合
②用途上区画できない部分
緩和適用時の注意点
緩和規定を適用する場合も以下の基本的な安全対策は必要です。
緩和規定の適用可否については、確認申請時に所管行政庁との事前協議を行うことが重要です。地域によって解釈や運用に違いがある場合があるためです。
竪穴区画の防火設備を施工する際には、法令遵守だけでなく、実際の建築現場での実務的な配慮が必要です。ここでは、施工業者が実際に直面する課題と対策を詳しく解説します。
スパンドレルの施工実務
竪穴区画が外壁と接する部分には、スパンドレルの設置が必要です。このスパンドレルは、区画内部から外壁を経由した炎の回り込みを防ぐ重要な役割を果たします。
スパンドレルの設置基準
以下のいずれかを設置する必要があります。
施工時の実務的課題と対策
現場での品質管理ポイント
①防火設備の設置精度
②煙感知器との連動確認
連動機能の確認は以下の手順で実施します。
③メンテナンス性の確保
将来的なメンテナンスを考慮した施工が重要です。
完了検査での確認事項
建築基準法に基づく完了検査では以下の項目が重点的に確認されます。
施工業者としての品質保証
これらの実務ポイントを押さえることで、法令に適合し、かつ長期にわたって安全性を維持できる竪穴区画の防火設備を施工することができます。特に、完工後のメンテナンス性まで考慮した施工は、建築主からの信頼獲得と将来的なトラブル防止につながる重要な要素です。