竪穴区画の防火設備における遮煙性能と構造基準の完全ガイド

竪穴区画の防火設備における遮煙性能と構造基準の完全ガイド

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竪穴区画の防火設備の基準と構造

竪穴区画の防火設備の概要
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防火区画の目的

火災時の炎や煙の拡散を防ぎ、避難時間を確保する重要な防火対策

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適用対象

階段、エレベーター、吹き抜けなどの竪穴部分とその他の部分を区画

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法的根拠

建築基準法施行令第112条に基づく防火区画の一種として規定

竪穴区画の防火設備に必要な遮煙性能の詳細

竪穴区画の防火設備において最も重要な要件が遮煙性能です。建築基準法施行令第112条第19項第2号により、竪穴区画に用いる防火設備は「避難上及び防火上支障のない遮煙性能を有し、かつ、火災により煙が発生した場合に自動的に閉鎖又は作動をするもの」でなければなりません。

 

遮煙性能が必要な理由

  • 火災時に発生する煙は炎よりも早く拡散し、避難を困難にする
  • 竪穴部分は煙突効果により煙が急速に上昇する経路となる
  • 煙による視界不良や有毒ガスによる人命危険を防ぐため

自動閉鎖機能の要件
竪穴区画の防火設備は以下の閉鎖方式のいずれかを採用する必要があります。

  • 常時閉鎖式:通常時から扉が閉じられている状態
  • 煙感知器連動式:煙感知器が煙を検知した際に自動的に閉鎖

重要なのは、竪穴区画では熱感知器やヒューズ付きの防火戸は使用できない点です。これは煙が熱よりも早く拡散するため、煙の段階で確実に閉鎖する必要があるからです。

 

遮煙性能の確認方法
施工時には以下の点を確認する必要があります。

  • 防火設備の認定番号と仕様書の確認
  • 煙感知器との連動機能の動作テスト
  • 扉の気密性能と床面との納まり確認

竪穴区画の防火設備における構造要件と準耐火基準

竪穴区画の構造は、対象となる建築物の種類によって3つのパターンに分類されます。

 

①基本的な竪穴区画(準耐火構造等で3階または地階に居室のある建築物)

構造部位 要求性能 備考
耐火構造(または耐火構造) 建築物の主要構造部に準じる
準耐火構造(または耐火構造) 建築物の主要構造部に準じる
開口部 遮煙性能付きの防火設備(または特定防火設備) 煙感知器連動必須

②小規模な竪穴区画(病院・診療所・児童福祉施設等)
階数3階建てかつ延べ面積200㎡未満の建築物で、3階部分が病院、診療所、児童福祉施設等の用途の場合。

  • 壁:間仕切壁
  • 開口部:20分間防火設備(スプリンクラーなしの場合)または10分間防火設備(スプリンクラーありの場合)

③小規模な竪穴区画(共同住宅・ホテル等)
階数3階建てかつ延べ面積200㎡未満の建築物で、3階部分がホテル、旅館、共同住宅等の用途の場合。

  • 壁:間仕切壁
  • 開口部:戸(ふすまや障子は不可、遮煙性能付き)

準耐火構造の具体的要件
準耐火構造として認められるためには。

  • 45分間の耐火性能(床・壁)
  • 20分間の遮熱性能(防火設備)
  • 国土交通大臣認定品または告示仕様への適合

施工時の注意点として、準耐火構造の壁は下地材から仕上げ材まですべて認定仕様に適合させる必要があります。また、貫通部の処理や取り合い部の納まりも認定内容に従って施工することが重要です。

 

竪穴区画の防火設備の種類と特定防火設備との違い

竪穴区画で使用できる防火設備には、防火設備と特定防火設備の2種類があります。この違いを理解することは、適切な設備選定と施工のために重要です。

 

防火設備の特徴

  • 20分間の遮熱性能
  • 遮煙性能必須
  • 比較的コストが低い
  • 一般的な竪穴区画で使用可能

特定防火設備の特徴

選定時の判断基準
竪穴区画では防火設備で十分な場合が多いですが、以下の場合は特定防火設備の検討が必要です。

  • 他の防火区画と重複する部分
  • 建築物の用途上、より高い安全性が求められる場合
  • 建築主や設計者が高い防火性能を要求する場合

製品選定時の確認事項
実際の製品選定では以下を確認します。

  • 国土交通大臣認定番号
  • 遮煙性能の有無
  • 自動閉鎖装置の種類(煙感知器連動対応)
  • 設置可能な開口寸法
  • メンテナンス要件

特に注意すべきは、一般的な防火扉に後付けで遮煙性能を付加することは基本的にできない点です。竪穴区画用の防火設備は、製品選定段階から遮煙性能付きの認定品を選択する必要があります。

 

両開き扉や親子扉の取り扱い
複数枚の扉で構成される開口部では、すべての扉に自動閉鎖装置を設置することが原則です。片側のみに自動閉鎖装置を設置し、もう片側をフランス落としで固定する方法は認められません。この場合、閉鎖順序を調整する順位調整機能付きの自動閉鎖装置を使用する必要があります。

 

竪穴区画の防火設備設置時の緩和規定と適用条件

竪穴区画には、建築物の用途や規模に応じて適用される緩和規定があります。これらの緩和規定を適切に活用することで、コストを抑えながら法令に適合した施工が可能になります。

 

竪穴区画が不要となる緩和
以下の条件を満たす場合、竪穴区画は設置不要です。
①避難階からの直上階・直下階の吹き抜け

  • 避難階からその直上階または直下階にのみ通じる吹き抜け部分
  • 仕上げを不燃材料とし、下地を不燃材料で造った場合に限る
  • 典型例:1階から2階への階段、地下1階から1階への階段

②小規模住宅の緩和

  • 階数が3階以下かつ延べ面積200㎡以内の一戸建て住宅
  • 階数が3階以下かつ床面積の合計が200㎡以内の長屋・共同住宅の住戸部分

一の竪穴区画とみなされる緩和
完全に区画を省略するのではなく、複数の竪穴部分を一つの区画として扱える緩和もあります。
①隣接する竪穴部分の統合

  • 竪穴部分と他の竪穴部分が隣接している場合
  • 仕上げを準不燃材料とし、下地を準不燃材料で造った場合に限る
  • 例:階段と隣接するエレベーターシャフトを一体として区画

②用途上区画できない部分

  • 劇場、映画館、集会場などで建築物の用途上区画することができない部分
  • この場合、用途上一体となる部分全体を一つの竪穴区画として扱う

緩和適用時の注意点
緩和規定を適用する場合も以下の基本的な安全対策は必要です。

  • 不燃材料または準不燃材料による仕上げ
  • 適切な避難経路の確保
  • 消防設備との整合性確認

緩和規定の適用可否については、確認申請時に所管行政庁との事前協議を行うことが重要です。地域によって解釈や運用に違いがある場合があるためです。

 

竪穴区画の防火設備における施工時の実務ポイント

竪穴区画の防火設備を施工する際には、法令遵守だけでなく、実際の建築現場での実務的な配慮が必要です。ここでは、施工業者が実際に直面する課題と対策を詳しく解説します。

 

スパンドレルの施工実務
竪穴区画が外壁と接する部分には、スパンドレルの設置が必要です。このスパンドレルは、区画内部から外壁を経由した炎の回り込みを防ぐ重要な役割を果たします。

 

スパンドレルの設置基準
以下のいずれかを設置する必要があります。

  • 幅90cm以上の外壁(準耐火構造または耐火構造)
  • 外壁から50cm以上突出したひさし、バルコニー
  • 外壁から50cm以上突出した袖壁

施工時の実務的課題と対策

  • 意匠との調整:スパンドレルは外観に大きく影響するため、設計段階での十分な検討が必要
  • 構造との取り合い:袖壁やバルコニーの構造検討は構造設計者との密な連携が必要
  • 防水処理:突出部分の防水処理は雨漏りリスクを考慮した確実な施工が必要

現場での品質管理ポイント
①防火設備の設置精度

  • 枠の水平・垂直精度:±3mm以内
  • 扉の開閉動作:スムーズな動作と確実な閉鎖
  • 気密性:扉周囲の隙間処理(特に床面との納まり)

②煙感知器との連動確認
連動機能の確認は以下の手順で実施します。

  1. 煙感知器への模擬信号入力
  2. 防火扉の自動閉鎖動作確認
  3. 閉鎖後の気密性確認
  4. 手動復旧操作の確認

③メンテナンス性の確保
将来的なメンテナンスを考慮した施工が重要です。

  • 自動閉鎖装置の調整用アクセス確保
  • 煙感知器の清掃・交換作業スペース確保
  • 操作説明書の設置と使用者への説明

完了検査での確認事項
建築基準法に基づく完了検査では以下の項目が重点的に確認されます。

  • 認定品の使用確認(認定番号との照合)
  • 遮煙性能の確認(目視および機能テスト)
  • 自動閉鎖機能の動作確認
  • スパンドレルの寸法確認

施工業者としての品質保証

  • 施工完了時の機能確認書の作成
  • 建築主への操作方法説明と資料提供
  • 定期点検の重要性説明
  • メンテナンス業者との引き継ぎ

これらの実務ポイントを押さえることで、法令に適合し、かつ長期にわたって安全性を維持できる竪穴区画の防火設備を施工することができます。特に、完工後のメンテナンス性まで考慮した施工は、建築主からの信頼獲得と将来的なトラブル防止につながる重要な要素です。