
異種用途区画の防火設備は、建築基準法施行令第112条第18項に基づき、厳格な構造基準が定められています。施工業者として最も重要なのは、1時間準耐火基準に適合する準耐火構造の理解です。
壁・床の構造要件として、以下の基準を満たす必要があります。
特に注意すべきは、耐火建築物を計画する場合です。この場合、異種用途区画となる床・壁も耐火構造とする必要があり、準耐火構造では不適合となります。
施工時の重要ポイントとして、区画を貫通する管やダクトがある場合の処理があります。貫通部分の周囲を不燃材料で埋め、貫通部分の前後1mは不燃材料の管等を使用しなければなりません。この施工不良は査察で指摘されることが多く、特に注意が必要です。
また、準耐火構造の施工では、下地材料から仕上げ材まで、告示に規定された材料と厚さを正確に守ることが重要です。材料の代替や厚さの変更は、性能低下につながる可能性があります。
開口部に設ける防火設備の選定は、施工業者にとって重要な判断ポイントです。異種用途区画では、特定防火設備(遮煙性能付き)が必要となり、告示仕様または大臣認定仕様のいずれかを選択します。
告示仕様の選定基準。
大臣認定仕様の特徴。
施工業者が注意すべき重要な点は、防火設備の閉鎖方式です。以下のいずれかに適合する必要があります。
特に随時閉鎖式の場合、煙感知器の設置位置や配線工事が重要になります。感知器の設置基準や配線の防火区画貫通部処理も含めて、総合的な施工計画が必要です。
また、防火シャッターや防火扉の施工では、枠の固定方法や隙間処理が性能に大きく影響します。製品メーカーの施工要領書を厳密に守り、特に遮煙性能に関わる隙間処理は入念に行う必要があります。
開口部の施工は、異種用途区画の防火設備において最も技術的な注意を要する部分です。施工不良が多発する箇所でもあり、確実な施工技術が求められます。
開口部枠の施工要点。
防火設備の設置では、遮煙性能の確保が重要なポイントです。扉周囲の隙間処理には以下の材料が使用されます。
施工時によくある問題として、配管・配線の貫通部処理があります。電気配線や給排水管が防火区画を貫通する場合、以下の処理が必要です。
また、意外に見落とされやすいのが、防火設備の動作確認です。施工完了後は必ず手動操作と自動閉鎖動作の両方を確認し、正常に機能することを検証する必要があります。
特に大型の防火シャッターでは、降下時の安全装置の動作確認も重要です。障害物検知装置や停止装置が正常に機能するか、入念にチェックしましょう。
異種用途区画には、一定の条件を満たすことで緩和や免除が認められる規定があります。施工業者として、これらの条件を理解することで、適切な設計変更提案や工事計画の立案が可能になります。
管理者同一による緩和条件。
これらの条件を満たす場合、異種用途区画の設置が免除される可能性があります。ただし、「利用時間が同一」という基準は設計図面では判断できないため、確認申請時に確認検査機関との事前協議が必要です。
告示250号による緩和規定。
令和2年の法改正により、以下の用途で自動火災報知設備を設けた場合、一部異種用途区画を免除できるようになりました。
この緩和を適用する場合、自動火災報知設備の設置基準も同時に満たす必要があります。施工業者としては、防火設備工事と併せて、火災報知設備工事の計画も重要になります。
緩和条件の適用判断は複雑で、建築主事や確認検査機関の判断に委ねられる部分もあります。施工前の設計段階で、適用可能性を十分に検討し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
施工業者として見落とされがちですが、防火設備は施工完了後の維持管理が極めて重要です。特に特定建築物では、定期報告制度により防火設備の定期検査が義務付けられています。
維持管理の法的要件。
施工業者が施工時に考慮すべき維持管理ポイントは以下の通りです。
実際の現場では、防火シャッターのガイドレール部分への異物混入や、防火扉のヒンジ部分の摩耗が多く発生します。施工時にこれらの予防策を講じることで、長期的な維持管理コストを削減できます。
施工業者が提供すべき維持管理情報。
また、最近の傾向として、IoT技術を活用した遠隔監視システムを導入する建物が増えています。防火設備の状態を常時監視し、異常を早期発見するシステムです。施工時にこれらの拡張性を考慮した配線計画を立てることで、将来のシステム導入がスムーズになります。
維持管理を見据えた施工は、建築主からの信頼向上にもつながり、長期的な営業効果も期待できる重要な差別化要素となります。