液状化と建築の対策工法で地盤改良する方法

液状化と建築の対策工法で地盤改良する方法

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液状化と建築の対策工法

液状化現象の基本知識
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液状化のメカニズム

地下水位が高く締め固められていない砂質地盤が地震の振動で液体状になる現象

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建物への影響

建物の沈下・傾斜・崩壊のリスクが高まり、ライフラインにも被害が及ぶ

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対策の重要性

適切な地盤調査と対策工法の選定が建物の安全性確保に不可欠

液状化のメカニズムと発生条件

液状化現象は、地下水位が浅く(高く)、十分に締め固められていない砂質地盤で発生する現象です。通常、地盤は固体として建物を支えていますが、地震による強い振動を受けると、砂粒子間のかみ合わせが外れ、間隙水圧(砂粒子の隙間にある水の圧力)が上昇します。

 

この状態になると、地盤が液体のように振る舞うようになり、「液状化」と呼ばれる現象が発生します。液状化が起こるためには、主に以下の3つの条件が揃う必要があります。

  1. 緩い砂質土層の存在
  2. 高い地下水位
  3. 強い地震動

特に、埋立地や河川の氾濫原、旧河道などの地域は液状化リスクが高いとされています。東日本大震災では東京湾岸の埋立地で、2023年の能登半島地震でも沿岸部の埋立地などで液状化による甚大な被害が発生しました。

 

液状化が発生すると、砂と水の混合物が地表に噴出する「噴砂」や「噴水」現象が見られることがあります。これは液状化の明確な証拠となります。

 

液状化による建築物への被害パターン

液状化現象が発生すると、建築物にはさまざまな被害が生じます。主な被害パターンは以下のとおりです。

  1. 建物の沈下・傾斜:地盤の支持力が失われることで、建物全体または部分的に沈下・傾斜します。特に重量のある建物ほど沈下量が大きくなる傾向があります。
  2. 基礎の破壊:液状化による不均等な地盤沈下により、建物の基礎に亀裂や破断が生じることがあります。
  3. 軽量構造物の浮上:マンホールや地下タンクなどの中空で軽量な構造物が、浮力によって地表面に浮き上がる現象が発生します。
  4. 地盤の水平移動:液状化した地盤が側方に流動することで、建物基礎や敷地境界の移動が起こります。
  5. ライフラインの損傷:建物と地盤の相対的な動きにより、ガス管・水道管・下水道管などのライフラインが損傷し、日常生活に大きな支障をきたします。

特に注意すべき点として、建物自体に液状化対策が施されていても、周辺のライフラインに被害が及ぶと居住継続が困難になるケースがあります。そのため、建物単体だけでなく地域全体での液状化対策が重要となります。

 

また、建物の一部が地下室になっている場合は、地下室部分が浮き上がろうとし、地下がない部分は沈下するため、建物が大きく傾くといった複合的な被害が生じることもあります。

 

液状化の判定方法と危険度評価

液状化の危険度を評価するためには、適切な地盤調査と判定方法が必要です。主な判定方法には以下のようなものがあります。
1. FL値による判定法
FL値(液状化に対する安全率)を算出し、FL≦1.0の場合に液状化の可能性があると判定します。FL値は地震時に発生する繰返しせん断応力比と、土の液状化強度比の比率で表されます。

 

2. H1-H2法(石原・浅田の方法)
非液状化層厚(H1)と液状化層厚(H2)の関係から液状化の危険度を評価する方法です。小規模建築物基礎設計指針では、この方法が推奨されています。

 

H1:非液状化層厚

H2:液状化層厚
H1とH2の境界曲線によって液状化の危険度を判定

3. PL値による判定法
地表面から20m程度までの深さについて、各深さでのFL値を積分して求めるPL値(液状化指数)によって、液状化の程度を総合的に評価する方法です。

 

PL値 液状化危険度
0 なし
0<PL≦5 低い
5<PL≦15 やや高い
15<PL 高い

液状化判定を行う際の対象層は、一般的に以下のように規定されています。

  • 地表面から20m程度以浅の土層
  • 沖積層、埋立て地盤、盛土地盤
  • 細粒分含有率が35%以下の土層
  • 細粒分含有率が35%以上でも低塑性シルトや液性限界に近い含水比を持ったシルトの場合

建築基準法では、建物の安全性は震度5強(地表面加速度約200gal)までを想定していますが、液状化判定では150gal以上の地表面最大加速度で行うことが一般的です。高層建築物(45mを超える)では200galでの判定が必要とされています。

 

液状化対策の主要工法と特徴

液状化対策工法は大きく分けて「地盤に対する対策」と「建物基礎構造による対策」の2種類があります。それぞれの主な工法と特徴を解説します。

 

地盤に対する液状化対策工法

  1. 密度増大工法
    • サンドコンパクションパイル(SCP)工法:地盤に砂を圧入して砂杭を造成し、地盤を締め固める
    • バイブロフローテーション工法:砂地盤を噴射水で飽和させて振動を与えながら砕石等を挿入
    • 静的圧入締固め工法:流動性の低いモルタルや泥状の砂を圧入(住宅地での施工実績が多い)
  2. 固結工法
    • 深層混合処理工法:セメント系固化材と砂地盤を撹拌、混合して地盤を固結
    • 中層混合処理工法:上記の浅層版
    • 注入固化工法:浸透性の高い薬液を注入して間隙水と置き換え、砂粒子を固結
    • 高圧噴射撹拌工法:固化材を混合した高圧水を地盤内に噴射して地盤を切削・固結
  3. 地下水位低下工法
    • 地下水位を低下させ、地盤を不飽和状態にすることで液状化を防止
    • ただし、広域的な地盤沈下を引き起こす可能性があり、個別建築物への適用には注意が必要
  4. 間隙水圧消散工法
    • 透水性の良い砕石による柱(杭)を一定間隔で造成
    • 地震時に発生する過剰間隙水圧を消散させ、液状化の拡大を抑制(グラベルドレーン工法)

建物基礎構造による対策工法

  1. 杭基礎工法
    • 液状化層より深い支持層まで杭を打ち込み、建物を支える
    • 小口径杭工法:鋼管杭を回転貫入または圧入によって設置
  2. べた基礎工法
    • 鉄筋コンクリート造のべた基礎とする
    • 建物の荷重を広く分散させ、不同沈下を抑制
  3. 布基礎の強化
    • 立ち上がり部分の丈を高くし、底版幅を広くした鉄筋コンクリート造とする
    • 外周部を連続閉鎖型とし、内部の布基礎も外周部まで延ばす
    • 隅角部や床下換気孔の位置は、水平ハンチや補強筋で補強

既存建物への対策工法

  1. 硬質ウレタン注入工法
    • 建物の基礎下にウレタン樹脂を圧入する工法
  2. アンダーピニング工法
    • 地盤に杭を打ち込んで建物の基礎からジャッキアップする工法

これらの対策工法は、建物の規模や用途、地盤条件、周辺環境などを考慮して適切に選定する必要があります。特に戸建て住宅などの小規模建築物では、コストと効果のバランスを考慮した対策が求められます。

 

液状化と長周期地震動の複合リスク対策

液状化対策を考える際に見落とされがちなのが、長周期地震動との複合リスクです。長周期地震動は、数秒から数十秒の周期を持つ低周波数の振動であり、特に高層建築物に大きな影響を与えます。

 

液状化と長周期地震動が同時に発生した場合、以下のような複合的なリスクが考えられます。

  1. 基礎の損傷と建物の共振
    • 液状化により地盤支持力が低下した状態で長周期振動が加わると、建物の揺れが増幅される
    • 高層建築物は固有周期が長いため、長周期地震動と共振しやすく、液状化と組み合わさると被害が拡大
  2. 地盤の増幅効果
    • 液状化した地盤は、長周期成分を増幅させる特性がある
    • 特に、厚い堆積層がある平野部では、この効果が顕著に現れる
  3. ライフラインへの複合的影響
    • 液状化による地盤変状と長周期振動による建物の大きな変形が組み合わさると、建物引き込み部のライフライン損傷リスクが高まる

このような複合リスクに対応するためには、以下のような対策が考えられます。

  • 総合的な地盤・建物評価:液状化リスクと建物の振動特性を総合的に評価
  • 複合対策の実施:地盤改良と制震装置の併用など
  • ライフラインの柔軟な接続:建物の動きに追従できる柔軟な接続部の採用
  • BCP(事業継続計画)の策定:複合災害を想定した避難・復旧計画の策定

特に、区分所有マンションなどでは、対策工事の合意形成が難しい場合があります。国の支援制度を活用しながら、液状化と長周期地震動の両方に対応した対策を検討することが重要です。

 

長周期地震動と建築物の関係についての詳細情報

液状化対策における設計者・施工者の責任と役割

建築に携わる専門家として、液状化対策における設計者・施工者の責任と役割は非常に重要です。特に近年の大規模地震による液状化被害の教訓から、その重要性はますます高まっています。

 

設計者の責任と役割

  1. 適切な地盤調査の実施
    • ボーリング調査や標準貫入試験などによる地盤状況の正確な把握
    • 液状化判定のための適切なデータ収集
  2. リスク評価と説明責任
    • 液状化の可能性と予想される被害の程度を評価
    • 施主に対して液状化リスクと対策の必要性を明確に説明
  3. 最適な対策工法の選定
    • 建物の規模・用途、地盤条件、予算などを考慮した最適な対策工法の提案
    • コストと効果のバランスを考慮した合理的な設計
  4. 総合的な安全設計
    • 液状化だけでなく、他の地震リスクも考慮した総合的な安全設計
    • ライフラインの引き込み部など弱点となる部分への配慮

施工者の責任と役割

  1. 確実な対策工事の実施
    • 設計通りの確実な施工
    • 施工品質の確保と記録の保存
  2. 施工中の変更への適切な対応
    • 施工中に想定外の地盤状況が発見された場合の適切な対応
    • 設計者との連携による最適な解決策の実施
  3. 施主への情報提供
    • 施工内容と期待される効果の説明
    • メンテナンスや将来的な点検の必要性の説明
  4. 技術の研鑽
    • 最新の液状化対策技術に関する知識の習得
    • 施工技術の向上と品質管理の徹底

特に重要なのは、設計者と施工者の連携です。地盤調査結果の共有や施工中の状況変化への対応など、情報共有と協力体制の構築が不可欠です。また、施主に対しては、液状化対策の重要性と限界を正確に伝え、過剰な期待や誤解を生まないようにすることも重要な責任といえます。

 

液状化対策は「見えない部分」の工事であるため、その重要性が過小評価されがちですが、建物の安全性を確保するための基本中の基本です。設計者・施工者は、その専門知識と経験を活かし、建物と居住者の安全を守るという使命を果たす必要があります。

 

2025年4月現在、能登半島地震の復興過程においても液状化対策の重要性が再認識されています。過去の教訓を活かし、より安全な建築物の実現に向けて、設計者・施工者の責任ある取り組みが求められています。