
液状化現象は、地下水位が浅く(高く)、十分に締め固められていない砂質地盤で発生する現象です。通常、地盤は固体として建物を支えていますが、地震による強い振動を受けると、砂粒子間のかみ合わせが外れ、間隙水圧(砂粒子の隙間にある水の圧力)が上昇します。
この状態になると、地盤が液体のように振る舞うようになり、「液状化」と呼ばれる現象が発生します。液状化が起こるためには、主に以下の3つの条件が揃う必要があります。
特に、埋立地や河川の氾濫原、旧河道などの地域は液状化リスクが高いとされています。東日本大震災では東京湾岸の埋立地で、2023年の能登半島地震でも沿岸部の埋立地などで液状化による甚大な被害が発生しました。
液状化が発生すると、砂と水の混合物が地表に噴出する「噴砂」や「噴水」現象が見られることがあります。これは液状化の明確な証拠となります。
液状化現象が発生すると、建築物にはさまざまな被害が生じます。主な被害パターンは以下のとおりです。
特に注意すべき点として、建物自体に液状化対策が施されていても、周辺のライフラインに被害が及ぶと居住継続が困難になるケースがあります。そのため、建物単体だけでなく地域全体での液状化対策が重要となります。
また、建物の一部が地下室になっている場合は、地下室部分が浮き上がろうとし、地下がない部分は沈下するため、建物が大きく傾くといった複合的な被害が生じることもあります。
液状化の危険度を評価するためには、適切な地盤調査と判定方法が必要です。主な判定方法には以下のようなものがあります。
1. FL値による判定法
FL値(液状化に対する安全率)を算出し、FL≦1.0の場合に液状化の可能性があると判定します。FL値は地震時に発生する繰返しせん断応力比と、土の液状化強度比の比率で表されます。
2. H1-H2法(石原・浅田の方法)
非液状化層厚(H1)と液状化層厚(H2)の関係から液状化の危険度を評価する方法です。小規模建築物基礎設計指針では、この方法が推奨されています。
H1:非液状化層厚
H2:液状化層厚
H1とH2の境界曲線によって液状化の危険度を判定
3. PL値による判定法
地表面から20m程度までの深さについて、各深さでのFL値を積分して求めるPL値(液状化指数)によって、液状化の程度を総合的に評価する方法です。
PL値 | 液状化危険度 |
---|---|
0 | なし |
0<PL≦5 | 低い |
5<PL≦15 | やや高い |
15<PL | 高い |
液状化判定を行う際の対象層は、一般的に以下のように規定されています。
建築基準法では、建物の安全性は震度5強(地表面加速度約200gal)までを想定していますが、液状化判定では150gal以上の地表面最大加速度で行うことが一般的です。高層建築物(45mを超える)では200galでの判定が必要とされています。
液状化対策工法は大きく分けて「地盤に対する対策」と「建物基礎構造による対策」の2種類があります。それぞれの主な工法と特徴を解説します。
地盤に対する液状化対策工法
建物基礎構造による対策工法
既存建物への対策工法
これらの対策工法は、建物の規模や用途、地盤条件、周辺環境などを考慮して適切に選定する必要があります。特に戸建て住宅などの小規模建築物では、コストと効果のバランスを考慮した対策が求められます。
液状化対策を考える際に見落とされがちなのが、長周期地震動との複合リスクです。長周期地震動は、数秒から数十秒の周期を持つ低周波数の振動であり、特に高層建築物に大きな影響を与えます。
液状化と長周期地震動が同時に発生した場合、以下のような複合的なリスクが考えられます。
このような複合リスクに対応するためには、以下のような対策が考えられます。
特に、区分所有マンションなどでは、対策工事の合意形成が難しい場合があります。国の支援制度を活用しながら、液状化と長周期地震動の両方に対応した対策を検討することが重要です。
建築に携わる専門家として、液状化対策における設計者・施工者の責任と役割は非常に重要です。特に近年の大規模地震による液状化被害の教訓から、その重要性はますます高まっています。
設計者の責任と役割
施工者の責任と役割
特に重要なのは、設計者と施工者の連携です。地盤調査結果の共有や施工中の状況変化への対応など、情報共有と協力体制の構築が不可欠です。また、施主に対しては、液状化対策の重要性と限界を正確に伝え、過剰な期待や誤解を生まないようにすることも重要な責任といえます。
液状化対策は「見えない部分」の工事であるため、その重要性が過小評価されがちですが、建物の安全性を確保するための基本中の基本です。設計者・施工者は、その専門知識と経験を活かし、建物と居住者の安全を守るという使命を果たす必要があります。
2025年4月現在、能登半島地震の復興過程においても液状化対策の重要性が再認識されています。過去の教訓を活かし、より安全な建築物の実現に向けて、設計者・施工者の責任ある取り組みが求められています。