
弾性率が高いとは、材料に力を加えたときに変形しにくい性質を持つことを意味します。弾性率は応力とひずみの比率で表され、ヤング率(Young's modulus)とも呼ばれる物理量です。フックの法則により、弾性率E、応力σ、ひずみεの関係は「σ=Eε」という式で表されます。
参考)用語解説:材料物性における「弾性率」と「強度」とは
同じ応力をかけた場合、弾性率が大きい材料ほどひずみは小さくなり、あまり変形しないことを示します。これは材料の剛性が高いことを意味し、建築構造や機械部品などで重要な特性となります。逆に弾性率が小さい材料は柔軟性に優れ、同じ力で大きく変形する特性を持ちます。
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弾性率は材料固有の定数であり、鋼材では約205GPa、アルミ合金では約70GPa、樹脂では約1GPa程度と材料によって大きく異なります。建築分野では、この数値を用いて構造物の変形挙動を予測し、安全性を確保します。
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高い弾性率を持つ材料は、外部の力に対して強く反発し変形しにくい特性を持ちます。建築で使用される主要材料の弾性率を比較すると、鋼材が205,000N/mm²(205GPa)と最も高く、次いでアルミニウムが71,000N/mm²(71GPa)、木材が7,000~12,000N/mm²程度となります。
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コンクリートの弾性率は強度によって変動し、「Ec=3.35×10⁴×(γ/24)²×(Fc/60)^(1/3)」という式で求められます。ここでγはコンクリートの単位体積重量、Fcは設計基準強度を表します。一般的なコンクリートの弾性率は約30GPa前後となり、鋼材の約15%程度の値です。
参考)弾性係数
高弾性率材料は建築構造や機械部品など、耐久性や剛性が求められる用途に適しています。材料が壊れにくく安定しているため、高負荷がかかる部分への使用が最適です。ただし、同じ硬さのブランクを作る場合、高弾性率材料は薄肉で済む一方、曲げ荷重により高い応力が発生しやすくなる点に注意が必要です。
参考)https://ameblo.jp/magnamcraft/entry-12057934985.html
弾性率と強度は似ているようで異なる概念であり、設計者が適切に区別することが重要です。弾性率は材料の硬さ・剛性を数値化した指標であり、同じ力を加えたときの変形のしにくさを示します。一方、強度は材料が破壊されるまでに耐えられる最大の応力を表す値です。
参考)弾性率とヤング率の違いは?単位、換算、求め方、一覧は?
鋼材やアルミでは強度の高さに関係なく弾性率は一定ですが、コンクリートでは強度が高くなるにつれて弾性率も高くなる特性があります。これは材料選定において重要な判断基準となります。弾性率が高い材料は変形に対する抵抗力が増し、耐久性や安定性が向上する一方、低い弾性率は柔軟性や加工性に優れる特性を持ちます。
参考)超低弾性率かつ高密着樹脂の選定と応用方法
建築構造設計では、弾性率を用いて構造物の変形挙動を予測し、安全性・信頼性・コスト効率に優れた製品開発を行います。応力–ひずみ線図における比例限界内の直線部分の傾きとして定義される弾性率は、フックの法則が成立する弾性域での材料特性を表す重要な指標です。
参考)応力とは?ひずみとは?関係式・単位・測定器について解説
高弾性率材料の最大の利点は、同じ荷重下での変形が小さく、構造物の剛性を確保できる点です。建築構造においては、高い弾性率を持つ材料を使用することで部材の断面を小さくでき、建物の軽量化やコスト削減につながります。航空宇宙工学では極度の圧力に耐える部品に高弾性率材料が好まれ、建築でも構造の安定性と長寿命を確保するために適切な材料選択が重要です。
参考)ヤング率について知っておきたい知識5選
鋼材は205GPaという高い弾性率により、高層ビルや大スパン構造の主要構造材として広く活用されています。コンクリートは鋼材より弾性率は低いものの、圧縮に強く経済性に優れるため、柱や梁、床スラブなど多様な用途に使用されます。これらの材料特性を理解し、適材適所で使い分けることが構造設計の基本となります。
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実際の設計では、弾性率の大小だけでなく、強度、靭性、耐久性、施工性、コストなど総合的な判断が求められます。高弾性率材料は変形しにくい反面、衝撃荷重に弱い傾向があるため、使用環境や荷重条件を十分に考慮した材料選定が必要です。
低弾性率材料は外部からの力に対して容易に変形する特性を持ち、振動を吸収したり衝撃を緩和する能力に優れています。損失係数(tanδ)が高く反発弾性率が低い材料は、振動吸収や衝撃緩和に優れた性質を発揮します。ラバーライク樹脂はtanδが0.9と非常に高く、反発弾性率が4.5%ときわめて低いため、振動絶縁材や衝撃吸収材として適した可能性があります。
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建築分野では、免震・制振装置に低弾性率のゴム材料が使用され、地震時の振動エネルギーを効果的に吸収します。ブチルゴム(IIR)やポリノルボルネンゴムのように反発弾性が低く振動減衰の大きい材料は制振材料として活用されています。これらの材料は高弾性率材料と組み合わせることで、構造全体の性能を最適化できます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/souonseigyo1977/15/1/15_1_27/_pdf
低弾性率材料の選定では、弾性率だけでなく耐熱性や耐久性も考慮する必要があります。超低弾性率かつ高密着の樹脂は、異形状部品同士の位置保持機能や、精密機器を保護する包装材などに使用されます。用途に応じて材料特性を見極め、高弾性率材料との適切な組み合わせが重要です。
弾性率測定には静的試験法と動的試験法の2種類があり、用途に応じて使い分けられます。静的弾性率試験では試験片に静的な荷重を加え、それによって生じる弾性変形を測定し、得られた応力とひずみの関係から等温弾性係数を求めます。動的弾性率試験では試験片に強制振動を与え、共振周波数の測定または超音波パルスの伝播速度から断熱弾性係数を算出します。
参考)JISR1602:1995 ファインセラミックスの弾性率試験…
一般的な弾性率測定方法には引っ張り試験、圧縮試験、三点曲げ試験、剪断試験などがあり、それぞれ異なる弾性率を評価できます。引っ張り試験では試験片を引っ張って伸ばすことでヤング率を測定し、圧縮試験では試験片を圧縮して圧縮弾性率を求めます。三点曲げ試験は試験片を三点支持で曲げて曲げ弾性率を、剪断試験は試験片を剪断して剪断弾性率を測定します。
参考)弾性率測定
建設業界では、試験機の荷重指示精度が真の荷重の±1%まで測定可能な機械式または油圧式の材料試験機が使用されます。圧電共振式測定法では原子間の振動を測定することで弾性定数を高精度に評価できます。これらの試験方法により、材料の弾性率を正確に把握し、構造設計に必要なデータを取得できます。
参考)CCIシリーズ - 株式会社神戸工業試験場
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