

表面に何の異常も見えないのに、内部の鉄筋が腐食確率90%以上で進行している場合があります。
電位差測定の原理を理解するには、まず「なぜ鉄筋が腐食すると電位が変化するのか」というメカニズムから入るのが近道です。コンクリート内の鉄筋は通常、強アルカリ性のコンクリート環境によって不動態皮膜が形成され、錆から守られています。ところが、塩害や中性化によってこの保護膜が破壊されると、鉄筋表面で電気化学反応が始まります。
腐食が始まった鉄筋の表面には、「腐食電池」と呼ばれる構造が形成されます。腐食が進行している箇所がアノード域(陽極)、その周囲の健全な箇所がカソード域(陰極)として機能します。アノード域では以下の酸化反応が起こります。
つまり、アノード域では電子が放出されて負の電荷が蓄積するため、電位がマイナス側(卑側)に変化します。これが「腐食部の電位は低くなる」という電位差測定の原理の核心です。
実際の測定では、コンクリート表面に照合電極を置き、電位差計のプラス端子を鉄筋に、マイナス端子を照合電極に接続します。コンクリート中の電解液(水酸化カルシウムなどを含む強アルカリ水)が電気的な橋渡しを担い、照合電極と鉄筋の間の電位差が数値として読み取れます。健全な鉄筋ならばマイナス200mV(CSE基準)より貴な値を示し、腐食が進行しているとマイナス350mV以下まで卑側に落ちていきます。この仕組みが理解できると、現場での数値の読み方が大きく変わります。
北日本非破壊検査|自然電位測定の原理・判定基準について詳しく解説(コンクリート中のアノード域・カソード域の解説に有用)
電位差測定の精度は、使用する照合電極の種類によって大きく変わります。照合電極とは、測定の「基準点」となる電極で、標高測定における「水準基点」に相当するものです。電位はあくまでも「差」として測定されるため、基準が変われば当然、数値も変わります。これは重要な原則です。
建築・土木現場で一般的に使用される照合電極は主に4種類あります。
見落としがちな落とし穴があります。異なる電極で測定した値は、そのまま比較することができません。例えば、飽和塩化銀電極で得た -180mV という数値は、CSE換算すると -180 - 120 = -300mV となり、判定区分が「不確定」から「腐食あり(90%以上)」へ変わることがあります。現場での電極選定ミスや換算忘れが、腐食の見落としや過大評価に直結するわけです。
CSE基準が条件です。測定報告書を受け取った際は、必ず「どの照合電極で測定されたか」を確認し、換算が済んでいるかチェックするようにしましょう。
ちゃんさとブログ|自然電位法の原理・測定方法・照合電極の換算表が整理されており実務の参考に最適
電位差測定の原理を理解したうえで、実際の現場でどのように数値を読み解くかが重要です。判定基準として最も広く使われているのは、米国の ASTM C 876 と、日本のコンクリートメンテナンス協会(CMA)が示す基準です。
ASTM C 876(CSE基準)では以下のように腐食確率を判定します。
| 自然電位 E(V vs CSE) | 鉄筋腐食の可能性 |
|---|---|
| -0.20 より大きい(貴側) | 90%以上の確率で腐食なし ✅ |
| -0.35 より大きく -0.20 以下 | 不確定(要追加調査)⚠️ |
| -0.35 以下(卑側) | 90%以上の確率で腐食あり ❌ |
数値で言うと、-350mV という値は「10本の鉄筋のうち9本以上が腐食している可能性がある」という意味です。これはA4用紙1枚ほどの面積内に複数の測定点をとり、その分布を「等電位線マップ」として可視化することで、どの範囲で腐食が進んでいるかを面的に把握できます。
もう少し細かな評価が必要なケースでは、コンクリートメンテナンス協会の基準も参照されます。
| 自然電位 E(mV vs CSE) | 腐食状態の推定 |
|---|---|
| E > −150 | 腐食を認めず |
| −150 ≧ E > −250 | 点錆程度の表面的な腐食 |
| −250 ≧ E > −350 | 全体的に表面的な腐食 |
| −350 ≧ E > −450 | 浅い孔食など断面欠損の軽微な腐食 |
| −450 ≧ E | 断面欠損が明らかな著しい腐食 |
測定は100〜300mmの格子間隔で複数点おこない、1mV単位で記録するのが原則です。測定の30分前にはコンクリート表面を散水して湿潤状態にしておく必要があり、また原則1時間以内に完了させることが求められています。1時間という制限は、コンクリートが再乾燥して電気的絶縁状態になるのを防ぐためです。時間管理が条件です。
ぼんさん土木ブログ|自然電位法と分極抵抗法の原理・診断手順・注意点を詳しく解説(実務者向けの解説として有用)
電位差測定の原理は理論的に明確ですが、現場では「原理通りに機能しない条件」が想定以上に多く存在します。この点を知らないまま測定を実施すると、「腐食なし」という誤判定を出してしまい、適切な補修時期を逃すことになります。
測定が無効になる主な条件は以下の通りです。
特に注意が必要なのは、「常時水没」のケースです。これは意外ですね。水に浸かっていれば導通は確保されているので測定できそうに思えますが、水没状態では溶存酸素が不足してカソード反応が起きにくくなります。その結果、腐食が進行していても電位の変化が現れにくく、過小評価を引き起こします。
塗装や防水層がある構造物を調査する際は、一部塗膜を除去してコンクリート素地を露出させてから測定するか、他の非破壊検査手法(超音波法・電磁波レーダー法など)と組み合わせることで診断精度を補完することができます。組み合わせが原則です。
また、「かぶりコンクリートの含水率が高い場合は電位が卑化しやすい」「炭酸化(中性化)が進んでいると電位が貴化する傾向がある」という点も見落としやすい特性です。測定値だけで判断するのではなく、中性化深さ試験や塩分含有量測定との総合評価が求められます。
一般的な解説では「測定して判定する」までが語られることが多いですが、実は補修後のコンクリートにこそ、電位差測定の原理が深く関わる重大なリスクがあります。それが「マクロセル腐食」と呼ばれる現象です。
断面修復工などの補修を実施した後、修復したモルタル部分のアルカリ性は高まります。そのため、修復箇所に近い鉄筋は不動態化して電位が「貴化」します。ところが、修復されていない隣接部の鉄筋は依然として腐食環境にあり、電位が「卑」なままです。この電位差がマクロセル(大きな腐食電池)を形成し、卑な側の鉄筋に腐食電流が集中的に流れ込みます。修復した結果として、修復していない箇所の腐食が促進されるという逆説的な現象が起きるわけです。
これは大きなリスクです。補修範囲の見極めを誤ると、修復工事後に数年で再劣化が生じ、補修コストが倍以上に膨らむケースも報告されています。
このようなリスクを把握するために、補修前と補修後の双方で電位差測定を実施し、等電位線マップを比較することが有効です。補修後に電位分布が均一化されているかを確認することで、マクロセル腐食のリスクが高い箇所を事前に特定できます。測定後の「分布確認」まで行うことが現場技術者の強みになります。
ConCom(コンクリートComニュース)|断面修復後のマクロセル腐食リスクについて、電気化学的原理を交えて解説(補修後の再劣化防止に有用)
また、電位差測定と組み合わせて活用したい技術として「分極抵抗法」があります。自然電位法が「腐食の可能性」を診断するのに対し、分極抵抗法は「腐食の速度(腐食電流密度)」を定量的に把握できます。両手法の違いを整理すると次の通りです。
| 比較項目 | 自然電位法(電位差測定) | 分極抵抗法 |
|---|---|---|
| 測定対象 | 腐食の可能性(定性) | 腐食速度(定量) |
| 外部電流 | 不要 | 必要 |
| 規格化 | ASTM C 876 / JSCE-E601 | 規格化なし(各機関の基準による) |
| 主な用途 | 腐食範囲のマッピング | 腐食速度の把握・補修優先度決定 |
| 測定のしやすさ | 比較的容易 | 専用機器が必要 |
補修計画の精度を上げたい現場では、まず電位差測定(自然電位法)で腐食範囲を面的に把握し、疑いのある箇所で分極抵抗法を用いて腐食速度を確認するという流れが、費用対効果の高いアプローチといえます。これは使えそうです。
国土交通省 土木研究所|自然電位法による鉄筋腐食診断技術に関する共同研究報告書(判定基準の根拠や照合電極の詳細が記載されており、技術的信頼性が高い)

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