水酸化物イオンとアルカリ性の基本と建築における重要性

水酸化物イオンとアルカリ性の基本と建築における重要性

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水酸化物イオンとアルカリ性の関係

この記事で分かること
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水酸化物イオンの基礎

アルカリ性を示す化学的な仕組みとpHとの関係性

🏗️
建築での役割

コンクリート強度や鉄筋保護における重要な機能

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劣化対策

中性化や塩害から構造物を守る具体的な方法

水酸化物イオンがアルカリ性を示す化学的メカニズム

水酸化物イオン(OH⁻)は、水素原子(H)と酸素原子(O)が共有結合でつながり、全体としてマイナスの電荷を持つ陰イオンです。この水酸化物イオンの濃度が高い水溶液はアルカリ性を示し、pH値は7を超えて14に近づきます。具体的には、水溶液中の水酸化物イオン(OH⁻)が水素イオン(H⁺)よりも多く存在する状態をアルカリ性と定義します。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-2097/sections-2127/lessons-2137/

pHは水素イオン濃度を表す指標ですが、実際には水素イオンと水酸化物イオンの濃度比によって決まります。温度が一定の条件下では、水素イオン濃度[H⁺]と水酸化物イオン濃度[OH⁻]の積は常に一定値(水のイオン積Kw=10⁻¹⁴、25℃の場合)を示します。したがって、水酸化物イオンが増加すると相対的に水素イオンが減少し、pH値が上昇してアルカリ性が強くなるのです。
参考)https://concrete-mc.jp/ph-neutralization-of-concrete/

水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)などの強アルカリ物質は、水に溶けると完全に電離して多量の水酸化物イオンを放出します。たとえば、水酸化ナトリウムは「NaOH → Na⁺ + OH⁻」という反応式で示されるように、ナトリウムイオンと水酸化物イオンに分かれます。この電離度が高いほど水溶液中の水酸化物イオン濃度が上がり、強いアルカリ性を示すことになります。
参考)https://zigzagsci.com/ammonia-ph/

水酸化物イオン濃度の測定とpH計測の実務

建築現場におけるコンクリートの品質管理では、水酸化物イオン濃度の正確な測定が不可欠です。従来のpH計測はガラス電極を用いた方法が主流ですが、高アルカリ環境下では「アルカリ誤差」と呼ばれる測定誤差が生じる問題があります。このため、pH12を超えるようなコンクリート内部の測定では、特別な注意が必要となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8356897/

コンクリート中の水酸化物イオン濃度を測定する方法としては、細孔溶液を高圧で抽出し、塩酸で滴定する化学分析法が標準的です。また、最近では分光放射計を用いた非破壊測定技術や、ファイバセンサを活用したコンクリート内部のpH分布測定などの先進技術も開発されています。これらの技術により、構造物を大きく損傷させることなく、内部のアルカリ性状態を継続的にモニタリングすることが可能になってきました。
参考)https://www.mdpi.com/1424-8220/22/14/5356/pdf?version=1658140488

実務的には、フェノールフタレイン溶液を用いた簡易試験も広く活用されています。この方法では、コンクリート断面にフェノールフタレイン液を噴霧し、鮮明な赤紫色に変色した部分がpH9以上のアルカリ性を保っていることを示します。変色しない部分は中性化が進行していると判断でき、現場での迅速な診断に有効です。
参考)https://www.kagakukan.sendai-c.ed.jp/wp/video/print/kagaku3-3.pdf

水酸化物イオンがコンクリート強度と耐久性に与える影響

コンクリートが高い強度と耐久性を維持できる理由の一つは、内部が水酸化物イオンによって強アルカリ性(pH12~13)に保たれていることです。セメントの主成分であるケイ酸カルシウムが水と反応(水和反応)すると、水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)が生成されます。この水酸化カルシウムがコンクリート中の水に溶けると、カルシウムイオン(Ca²⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)に電離し、コンクリート内部を強アルカリ性に保ちます。
参考)https://www.sai-finish.net/gallery/gallery_list-1504.html?category=6762amp;page=1

水酸化物イオンは、コンクリート内部の鉄筋表面に不動態皮膜という緻密な酸化被膜を形成する役割も担っています。この不動態皮膜は鉄筋を腐食から保護する重要なバリアとして機能し、pH11以上の高アルカリ環境下で安定的に維持されます。したがって、水酸化物イオン濃度が低下してpHが9程度まで下がると、不動態皮膜が破壊されて鉄筋腐食が始まり、構造物の耐久性が著しく損なわれる危険性があります。
参考)https://www.jci-net.or.jp/j/concrete/technology/202408_article_1.html

さらに、高炉スラグフライアッシュなどの混合材を用いたコンクリートでは、水酸化物イオンが潜在水硬性やポゾラン反応を促進する触媒として働きます。pH12を超える高アルカリ環境下では、これらの材料中のケイ素酸化物の結合が分解され、溶出した成分が水中のカルシウムイオンや水酸化物イオンと反応して新たな水和物(C-S-HやC-A-H)を生成します。この反応は数十年にわたって継続するため、コンクリートは長期間にわたって強度を増し続けるのです。​

水酸化物イオン減少による中性化現象と対策方法

コンクリートの中性化は、大気中の二酸化炭素(CO₂)がコンクリート内部に侵入し、水酸化カルシウムなどのアルカリ性物質と炭酸化反応を起こすことで、水酸化物イオンが消費される現象です。具体的には「CO₂ + H₂O ⇄ H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻」という反応で二酸化炭素が水中で水素イオンを供給し、この水素イオンが水酸化物イオンと中和反応(OH⁻ + H⁺ ⇄ H₂O)を起こすことでアルカリ性が失われます。
参考)https://www.j-cma.jp/?cn=102637

中性化の進行は表面から内部へと徐々に広がり、鉄筋位置まで到達すると不動態皮膜が破壊されて腐食が始まります。この劣化メカニズムを防ぐには、二酸化炭素の侵入を遮断することが最も効果的です。表面を塗膜防水材で被覆したり、ひび割れを補修して侵入経路を塞ぐ「劣化因子の遮断」工法が、予防保全として広く採用されています。
参考)https://www.constec.co.jp/technology/6301

すでに中性化が進行している場合は、再アルカリ化工法が有効です。この技術では、アルカリ溶液を浸透させながら直流電流を流し込むことで、中性化したコンクリートを再び高アルカリ状態に戻します。作業期間は約2週間程度で、コンクリートを大きく破壊せずに修繕できるため、ダレス空港や大阪城などの歴史的構造物でも採用実績があります。また、アルカリ性付与材を塗布・含浸させて鋼材の不動態皮膜を再生させる表面含浸工法も、劣化速度の抑制手段として効果的です。
参考)https://towa-seisakusho.com/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%8C%E4%B8%AD%E6%80%A7%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%AA%E3%82%8B%EF%BC%9F%E8%A6%9A%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%8A/

水酸化物イオン濃度と塩害・アルカリ骨材反応の関係

塩害は、塩化物イオン(Cl⁻)がコンクリート内部に侵入して鉄筋の不動態皮膜を破壊する現象ですが、水酸化物イオン濃度が高いほど塩化物イオンの影響を抑制できます。実験結果によれば、不動態皮膜が破壊される臨界塩化物イオン濃度は、水酸化物イオン濃度との比率で整理されます。つまり、コンクリートの水酸化物イオン濃度が高く保たれていれば、より多くの塩化物イオンに曝露されても鉄筋腐食を防げるのです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/65/11/65_833/_article/-char/ja/

高炉スラグ微粉末を混和材として使用したコンクリートは、塩化物イオンを固定化する能力が高いことが知られています。これは、高炉スラグに含まれる酸化カルシウム(CaO)や酸化アルミニウム(Al₂O₃)が水和する際に、塩化物イオンを固定する水和物(フリーデル氏塩)が生成しやすくなるためです。また、C-S-Hなどのカルシウムシリケート系水和物も塩化物イオンを固定する効果があり、これらの反応には十分な水酸化物イオン濃度が必要となります。
参考)https://www.jci-net.or.jp/j/concrete/technology/202203_article_1.html

一方、アルカリ骨材反応は、コンクリート内部の水酸化物イオン濃度が過度に高い場合に発生する劣化現象です。骨材中に含まれるシリカ鉱物が、高濃度の水酸化物イオン(OH⁻)によってケイ素-酸素結合(Si-O-Si)を切断され、反応生成物が膨張してひび割れやポップアウトを引き起こします。この反応は、コンクリート内部の湿度が80~85%以上で、かつ水酸化物イオン濃度が高い条件下で進行するため、アルカリ量の少ないセメントの使用や、反応性の低い骨材の選定が対策として重要です。
参考)https://plant.ten-navi.com/dictionary/cat07/5394/

建築業における水酸化物イオン管理の実践的アプローチ

建築現場でのコンクリート品質管理において、水酸化物イオン濃度の適切な維持は構造物の長寿命化に直結します。新設構造物では、配合設計の段階で水セメント比を適切に管理し、十分な水酸化カルシウムが生成されるよう計画することが基本です。また、密実なコンクリートを打設することで二酸化炭素の侵入を抑制し、水酸化物イオンの消費速度を遅らせることができます。​
既存構造物の維持管理では、定期的なpH測定とモニタリングが重要です。フェノールフタレイン試験による簡易診断を定期的に実施し、中性化の進行状況を把握します。中性化深さが鉄筋かぶり厚さの半分に達した時点で補修を検討するのが一般的な判断基準です。また、塩害環境下では、電量滴定式塩分計などを用いて塩化物イオン濃度も同時に測定し、水酸化物イオンとのバランスを評価することが望ましいです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10881844/

近年では、表面保護材の技術も進歩しています。コンクリート内部の水酸化カルシウムと結合して水密性気密性を向上させる含浸材や、ナノ疎水性混和材を用いて水分や塩化物イオンの侵入を物理的に遮断する技術が実用化されています。これらの技術を組み合わせることで、水酸化物イオン濃度を高く維持し、構造物の耐久性を大幅に向上させることが可能になっています。
参考)https://www.mdpi.com/1996-1944/15/19/6842/pdf?version=1665296350

また、意外と知られていない対策として、土壌のアルカリ化対策があります。建設現場でコンクリート塊が土壌と接触すると、水酸化物イオンが土壌に溶出してpHが上昇し、植生に悪影響を与える場合があります。生態系ポーラスコンクリートなど植物との共生を目指す場合は、アルカリ低減剤や珪藻土などを用いて水酸化物イオン濃度を調整する技術も開発されています。このように、水酸化物イオンの管理は構造物の保護だけでなく、環境との調和という観点からも重要性が増しています。
参考)https://greeninfrastructure.jp/support/knowledge/alkali-guide/vol3/

コンクリートのpHと中性化に関する詳しい解説 - 水酸化物イオンの役割とメカニズム
日本コンクリート工学会 - 脱塩工法とアルカリ性回復技術の最新情報
不動態皮膜の形成メカニズム - 水酸化物イオンによる鉄筋保護の詳細