
孔食(こうしょく)は、金属表面で起こる局部腐食の一種で、文字通り孔があいたように間口の大きさのわりに深い腐食を指します。針でついた程度の小さな穴ができ、その周囲で腐食が進行する現象で、建築現場では給水や給湯用に配管されている銅管に多く見られます。ステンレス鋼やアルミニウム合金などの不動態皮膜で覆われた金属に発生しやすく、孔食以外の部分は光沢のある光った状態のまま残るという特徴があります。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/surface_treatment_technology/st01/c1888.html
孔食は表面が局部的に点、または孔状に深く侵食される現象です。開口部の直径に対して深さがより大きい場合を孔食と呼び、まばらに発生することもあれば無数に発生することもあります。腐食が進むと錆が盛り上がり錆のこぶができ、それを剥がすとクレーターのように穴が開いた状態になっています。
参考)腐食(メカニズム)|2限目 今さら聞けない…|熱交ドリル|株…
腐食には大きく分けて全面腐食と局部腐食の2つのタイプがあります。全面腐食は金属表面に不動態皮膜が形成されずに活性にあるような環境で、腐食が全面にわたって均一に進行する腐食現象です。具体的には塩酸、硫酸、りん酸、有機酸等の酸化力の弱い酸の環境で起こり、屋外の空気中で起こる腐食の大半がこれに該当します。
参考)金属の腐食:原因、種類、解決策
一方、局部腐食には孔食の他にすき間腐食、粒界腐食、応力腐食割れなどがあります。すき間腐食はフランジの接合部、パッキンの合わせ目、ガスケットの隙間など液が停滞しているところで腐食が孔食状に進行する現象です。孔食とすき間腐食の大きな違いは、孔食が自由表面で起こる点状腐食であるのに対し、すき間腐食はすき間部で発生し、幅が広くて比較的浅いくぼみが増大し続けることです。
参考)ステンレスの耐食性と腐食現象について - JSSA
主な腐食の種類と特徴
腐食の種類 | 発生場所 | 進行形態 | 主な原因 |
---|---|---|---|
全面腐食 | 金属表面全体 | 均一に進行 | 酸化力の弱い酸環境 |
孔食 | 自由表面 | 点状に深く侵食 | 塩化物イオン |
すき間腐食 | すき間部 | 幅広く浅い | 酸素濃度差 |
粒界腐食 | 結晶粒界 | 粒界に沿って進行 | クロム欠乏 |
孔食の発生メカニズムは、ステンレス鋼表面の不動態皮膜が塩化物イオンによって局所的に破壊されることから始まります。溶液中の塩化物イオンの影響で、ステンレス鋼の表面に付着した異物などを起点として、局所的に不動態皮膜が破壊され、その部分がアノード反応、他の部分がカソード反応となって局部電池を形成します。
参考)金属腐食解説|株式会社ユニケミー|ユニラボ
具体的な進行プロセスは以下の通りです。まず不動態皮膜が塩化物イオンによって破壊されピット(小さな孔)が生じます。ピットの周囲がカソード、ピットの中がアノードとなり、孔食が進展していきます。ピット内はステンレス鋼の溶解による金属イオンと、金属イオンとの反応により水が分解され生成した水素イオン等の陽イオンの濃度が増し、周囲の塩化物イオン(陰イオン)を引き寄せます。
引き寄せられた塩化物イオンがステンレス鋼から溶け出した鉄イオンと結びつき塩化鉄を形成し、この塩化鉄が加水分解され塩化水素を生成してピット内が酸性化します。塩化物イオンの濃化により不動態皮膜を修復できないまま、ピット内の酸性化が促され、腐食が進行し孔が深くなっていきます。この自己促進的なメカニズムにより、一度発生した孔食は急速に深部へ進行する特徴があります。
参考)ステンレス鋼の孔食とすき間腐食の違いhref="https://www.swagelok.com/ja/blog/pitting-corrosion-crevice-corrosion-identifying-the-differences" target="_blank">https://www.swagelok.com/ja/blog/pitting-corrosion-crevice-corrosion-identifying-the-differenceslt;p/href="https://www.swagelok.com/ja/blog/pitting-corrosion-crevice-corrosion-identifying-the-differences" target="_blank">https://www.swagelok.com/ja/blog/pitting-corrosion-crevice-corrosion-identifying-the-differencesgt;孔食とすき間腐食…
孔食と全面腐食では、発生する環境条件が大きく異なります。孔食は主に塩化物イオン等のハロゲン系イオンを含む環境で発生し、海水や潮風などに含まれる塩素イオンが不動態皮膜を破壊する作用があります。特に海水が蒸発して塩分が付着するなどして塩化物イオン濃度が高くなった環境では、温度が高いと孔食が生じやすくなります。
参考)ステンレスをサビから守る「不動態皮膜」とは?不動態化処理につ…
全面腐食は不動態皮膜ができにくい環境で発生し、塩酸、硫酸、リン酸、有機酸等の酸化力の弱い酸の環境で起こります。また、孔食電位という概念があり、孔食が生じる最低の腐食電位を指します。塩化物イオンや硫酸イオンが多くなればこの電位が下がり、pHの低下でも低くなるため、孔食が発生しやすくなります。
参考)https://www.token.co.jp/estate/useful/archipedia/word.php?jid=00016amp;wid=29237amp;wdid=01
建築現場における特徴的な発生環境として、配管内では錆こぶができるとその下の鋼材に酸素の供給が少なくなり、「通気差腐食」と呼ばれるマクロ腐食電池が形成されます。錆こぶの下がマイナス極、周りの部分がプラス極となり、マイナス極の部分の面積はプラス極の面積よりかなり小さいため、より腐食が進行します。
参考)錆のこぶと孔食(こうしょく)との違いは - 防錆屋 エヌシー…
孔食とすき間腐食はどちらもステンレス鋼の表面を保護している不動態膜が破壊されることで生じますが、発生場所と形状に明確な違いがあります。孔食は目視検査をくまなく行えば発見できる表面のくぼみですが、表面下の材料の欠損は深いところにまで及んでいる場合があります。
すき間腐食は目に付く場所ではなく、チューブとチューブ・サポートの間、チューブとクランプの間、隣接するチューブ配管の間、表面にたまったほこりや付着物の下などのすき間で発生します。すき間腐食は、チューブからチューブ・クランプを取り外してみないと目視で確認することができません。
孔食とすき間腐食の比較
項目 | 孔食 | すき間腐食 |
---|---|---|
発生場所 | 自由表面(目視可能) | すき間部(目視困難) |
形状 | 開口部より深い孔状 | 幅広く比較的浅い |
発生温度 | 比較的高温 | 孔食より低温で発生 |
進行速度 | 全面に急速に進行 |
孔食は赤褐色の酸化鉄の付着物や、くぼみになりそうな個所が金属表面にないかチェックすることで発見できます。特に塩化物イオンを含む水(海水など)が溜まって蒸発するおそれがある上向きの表面には注意が必要です。すき間腐食は、すき間なくチューブを取り付けることが現実的には不可能であり、すき間を狭めすぎるとステンレス鋼にダメージを与える最大の要因となります。
孔食予防の最も重要なポイントは、適切な材料選定です。316Lグレードのステンレス鋼(UNS S31603)は、大半の設備に適していますが、クリーンかつあまり高温にならないケースに限られます。温暖な気候の場合、特に塩分が付着しやすい場所では、316Lステンレス鋼は添加されたモリブデンの効果により、304L(UNS S30403)ステンレス鋼よりも優れたパフォーマンスを発揮します。
より高い耐食性が必要な場合は、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼(6Moもしくは6HN)またはスーパー2相ステンレス鋼(2507)のチューブが非常に優れた耐食性を発揮します。耐食性材料の使用として、チタン、窒素、クロム、モリブデンを含む合金は孔食によく耐えます。臨界孔食温度(CPT)および臨界すき間腐食温度(CCT)の試験データは、腐食性環境で使用する材料を比較するための貴重なツールとなります。
参考)https://www.dreiym.com/ja/2022/02/28/%E5%AD%94%E9%A3%9F%E3%81%AE%E8%AD%98%E5%88%A5%E3%81%A8%E9%99%A4%E5%8E%BB%E6%96%B9%E6%B3%95/
配管の防食措置として、土中埋設等の腐食環境で使用される配管には一律に腐食防止措置を講ずる必要があります。塗覆装等による外面保護措置や防食テープの使用が効果的です。防食テープは屋内や地中に埋設された配管の錆を防ぐもので、配管にテープを巻き付けて使用し、配管の種類によって使用する防食テープも変わります。
参考)【巻くだけOK】どんな配管も“錆”から守る!「防食テープ」と…
環境要因のコントロールとして、湿度、温度、塩化物、pH酸、塩分レベルをできる限り管理することが重要です。保護コーティングの使用と維持、液体やほこりへの暴露の制御も効果的な予防方法です。無薬注型防食システムでは、アニオン交換樹脂を用いて水道水中の腐食性イオン(塩化物イオン・硫酸イオン)を腐食抑制イオン(炭酸水素イオン)に交換し、「金属を腐食させにくい水」を作ることができます。
参考)無薬注型防食システム Corro-Guard®︎
孔食に耐える配管材料としては、塩化ビニル管や架橋ポリエチレン管などの合成樹脂管、塩ビライニング鋼管などの内面被覆した鋼管、ステンレス管などが推奨されます。陰極防食も効果的な予防法で、金属表面を電気化学セルにすることで腐食を防ぎ、より反応性の高い金属で被覆することで、この腐食性金属が陽極となり元の金属の代わりに腐食します。