
袋ナットは六角ナットの片側がドームのような袋状に閉じられた特殊なナットで、JIS B 1183:2010規格によって詳細に規定されています。この規格は建築現場での安全性と装飾性を重視した設計となっており、特に人通りの多い橋梁や鉄道関係の施工で重宝されています。
袋ナットの形状分類は以下の3つに分けられます。
1形:一体型基本形状
2形:逃げ溝付き一体型
3形:溶接組み立て型
各形状の選択は、使用環境の荷重条件と締結強度要件によって決定されます。特に建築現場では、構造部材の重要度に応じて適切な形状を選定することが安全性確保の要点となります。
JIS B 1183:2010規格に基づく袋ナットの主要寸法データを以下に示します。この寸法表は建築現場での部材選定において基準となる重要なデータです。
標準袋ナット寸法表(3形)
ねじの呼び | S(対辺距離) | m2(全高) | m3(ネジ入深さ) | A'(キャップ径) |
---|---|---|---|---|
M4 | 7mm | 6.2mm | 3.2mm | 5.6mm |
M5 | 8mm | 7.5mm | 4.0mm | 6.6mm |
M6 | 10mm | 9.5mm | 5.0mm | 8.5mm |
M8 | 13mm | 12.5mm | 6.5mm | 11.5mm |
M10 | 17mm | 15.5mm | 8.0mm | 14.5mm |
M12 | 19mm | 18.5mm | 10.0mm | 16.5mm |
M16 | 24mm | 24.0mm | 13.0mm | 21.5mm |
M20 | 30mm | 29.0mm | 16.0mm | 26.5mm |
小形袋ナット寸法表(3形)
小形袋ナットは、省スペース設計が求められる箇所で使用される特殊仕様です。
ねじの呼び | S(対辺距離) | m2(全高) | m3(ネジ入深さ) |
---|---|---|---|
M8 | 12mm | 12.0mm | 6.5mm |
M10 | 14mm | 14.5mm | 8.0mm |
M12 | 17mm | 17.5mm | 10.0mm |
M16 | 22mm | 23.0mm | 13.0mm |
これらの寸法データは製造メーカーによって若干の差異がある場合があるため、重要な構造部材への使用時は、必ず使用予定製品の実寸法を確認することが推奨されます。
建築現場での袋ナット選定において、材質と表面処理の選択は使用環境の腐食条件に直結する重要な要素です。適切な選択により、建物の長期耐久性が大きく左右されます。
主要材質の特性
鉄系材質(SWCH10R)
ステンレス材質(SUS304)
表面処理の選択指針
ユニクロメッキ
三価クロメート処理
ドブメッキ(溶融亜鉛メッキ)
建築現場では、使用環境の塩害レベル、湿度条件、メンテナンス計画を総合的に検討して最適な材質・表面処理を選定することが、建物の長寿命化につながります。
袋ナットの施工において最も重要な要素の一つが、ネジ入深さの保証寸法です。この数値は締結強度に直接影響するため、建築現場での安全性確保には正確な理解が不可欠です。
ネジ入深さ実寸法と保証寸法対照表(3形)
ねじの呼び | 全高寸法 | ネジ入深さ実寸法 | 保証寸法 |
---|---|---|---|
M3 | 5.0±0.25mm | 4.13〜4.32mm | 3.2mm |
M4 | 6.2mm | 5.06〜5.16mm | 4.1mm |
M5 | 7.5mm | 6.28〜6.51mm | 5.4mm |
M6 | 9.5mm | 8.11〜8.27mm | 7.2mm |
M8 | 12.5±0.3mm | 11.01〜11.16mm | 10.1mm |
M10 | 15.5mm | 13.89〜14.17mm | 13.0mm |
M12 | 18.5mm | 16.28〜16.50mm | 15.4mm |
M16 | 24.0±0.4mm | 20.92〜21.14mm | 20.0mm |
M20 | 29.0mm | 24.85〜25.24mm | 23.0mm |
保証寸法の実務的意義
保証寸法は、ボルトの有効ネジ部が確実に噛み合う最小限の深さを示しています。この値を下回る製品は、設計上の締結強度を発揮できない可能性があるため、品質管理上の重要な指標となります。
建築現場では、特に以下の点に注意が必要です。
また、ネジ入深さが深いほど締結強度は向上しますが、過度に深いボルトを使用すると袋ナット底部への接触リスクが生じるため、適切なボルト長の選定が重要です。
建築現場における袋ナットの選定は、単純にカタログ仕様だけでは決められない複合的な判断が求められます。現場の経験知と技術基準を組み合わせた独自の選定基準を確立することが、施工品質の向上につながります。
環境条件別選定マトリックス
海岸地域(重塩害環境)
都市部(軽腐食環境)
屋内使用(非腐食環境)
現場での品質管理ポイント
受入検査項目
施工時の注意事項
意外な現場知識
建築現場では、袋ナットを通常の六角ナットと組み合わせてダブルナットとして使用するケースがあります。これは振動の多い環境でのゆるみ止め効果を狙った施工法で、特に機械基礎や免震装置周辺で効果を発揮します。
また、袋ナットの「袋」部分は単なる装飾ではなく、ネジ山の保護という重要な機能を持っています。切断されたボルトの尖った先端を覆うことで、作業者の安全確保と周辺設備の損傷防止に寄与しており、労働安全の観点からも重要な部材として認識されています。
現場での長期使用実績から、袋ナットの耐久性は使用環境よりもむしろ施工時の取り扱いに大きく左右されることが判明しています。適切な工具の使用と丁寧な施工が、設計寿命を大幅に延長する鍵となっているのです。