

凝結遅延剤コンクリート混和剤は、セメントの初期水和反応を抑えて凝結時間を意図的に遅らせるための化学混和剤で、作業時間の確保やスランプ保持に活用されます。
代表的にはリグニンスルホン酸系、有機酸塩系、糖類系などがあり、セメント粒子や水和物表面に吸着して水和反応を一時的にブロックすることで、数時間から数日単位で凝結をコントロールできます。
セメントの水和は、接水直後の急速な反応と、それに続くゲル生成・硬化段階に分けられますが、凝結遅延剤はとくに接水後極初期の水和をターゲットにして反応速度を落とします。
参考)https://www.taisei.co.jp/tact/tr/2022/paper/A055_021.pdf
その結果、同じスランプを長時間維持でき、打設時間が延びてもワーカビリティを確保しやすくなり、大量打設や長距離運搬の現場では重要な選択肢になります。pref.yamaguchi+1
また、スランプ保持型の高性能AE減水剤などと組み合わせることで、単位水量を増やさずに長時間の流動性を実現する設計も可能ですが、相互作用によって凝結が予想以上に遅れることがあるため、事前の試し練りが必須です。flowric+1
近年は、3日程度の範囲で任意に凝結時間を調整できる高機能な凝結遅延型混和剤も市販されており、プレキャストや補修材にも用途が広がっています。chupol+1
凝結遅延剤コンクリート混和剤の代表的な用途は、暑中コンクリートの打設時間確保とコールドジョイント防止、長時間・長距離運搬時のスランプ保持、大量・マスコン打設での施工性確保などです。
とくに夏期の高温下では、コンクリート温度の上昇により凝結・硬化が著しく早くなり、締固めが追いつかず打ち重ね時間も短くなるため、遅延剤で凝結時間を引き延ばすことが有効な対策になります。
コールドジョイントのリスクが高いダムや橋脚、長大基礎などでは、先に打ち込むコンクリート側に凝結遅延剤を使用することで、打ち重ね許容時間を大幅に延長し、構造的な弱点となる打継ぎ面の発生を抑制できます。
参考)コールドジョイントの発生原因と防止対策とは
超凝結遅延剤を用いれば、数日レベルで硬化開始を遅らせることも可能とされ、段階打設や大容量の連続打設において計画の自由度が広がりますが、その分、施工計画と養生計画の整合性が求められます。flowric+1
また、暑中期におけるスランプロス低減のための専用混和剤の中には、スランプ保持機能と凝結時間調整機能を併せ持つものがあり、単位水量を増やさずに打設終盤まで一貫したコンシステンシーを維持できるのが特徴です。pref.yamaguchi+1
ただし、遅延剤に過度に依存すると工程が「遅延前提」になり現場管理が弛緩する恐れもあるため、打設順序・打設速度・締固め体制の見直しとセットで活用する姿勢が重要です。cabr-concrete+1
凝結遅延剤コンクリート混和剤を使用する際にまず注意すべき点は、使用量と他混和剤との重複機能で、同一配合内にすでに遅延成分を含む混和剤が入っている場合、想定以上の凝結遅延が発生するリスクがあります。
そのため、レディーミクストコンクリート工場との事前協議で、基準配合の混和剤組成と遅延性の有無を把握し、追加遅延剤の種類と添加率を明確にしておくことが求められます。
施工面では、凝結が遅れることで型枠への側圧が長時間作用し続けるため、通常より側圧が大きくなる可能性があり、型枠の設計強度や支保工計画の検証が欠かせません。i-const+1
同時に、ブリーディング水が増加しやすく、打込み上面での仕上げ時期が読みにくくなるため、仕上げのタイミング管理と排水・再締固めの手順を事前に共有しておく必要があります。
さらに、遅延剤は練混ぜ水に十分溶解させてから投入することが推奨されており、練混ぜ途中での追加投入では期待通りの遅延効果が得られないケースも報告されています。
参考)https://www.soc-tec.com/rfl/pdf/lion-grlc-j.pdf?ver=1.0.1
とくにプレミックスの断面修復材や超速硬材料に遅延剤を併用する場合、規定された溶解手順や混練手順を守らないと、表面だけ硬化が遅れるなど不均一な硬化を招くおそれがあります。
あまり知られていませんが、凝結遅延剤コンクリート混和剤は、条件によってはコンクリートの中性化進行を抑制する効果を示すという研究報告があります。
セメントモルタルに遅延剤を添加した実験では、遅延剤の作用により表層部の微細構造が変化し、中性化速度係数が約30%低下したケースも報告されており、単なる作業時間調整剤を超えた影響を与える可能性が示されています。
同じ遅延剤でも、練混ぜ時に添加した場合と、表面に浸漬・塗布した場合で中性化への影響が異なり、練混ぜ時添加の方が中性化抑制効果が高かったとする結果もあります。
これは、内部全体に遅延剤が分布することで、水酸化カルシウムの減少や炭酸カルシウム生成量の変化が均一に現れ、結果として中性化前線の進行が抑えられたためと考えられています。
一方で、凝結遅延が極端に大きい場合や、過剰なブリーディングによって表層の密実性が損なわれると、中性化や凍害抵抗性に悪影響が出る可能性も否定できません。pref.yamaguchi+1
したがって、耐久性能への影響をポジティブに活かすには、所要性能に応じた適量使用と、試験体による中性化試験・促進試験などの事前検証が重要になります。pref.yamaguchi+1
現場レベルでは、凝結遅延剤コンクリート混和剤を「時間を買う道具」としてだけでなく、打設手順や人員配置の最適化と組み合わせて、夜間打設や二交代制施工の柔軟な運用に役立てる事例が増えています。
たとえば、日中の高温時間帯に打設量を抑え、夕方から夜間にかけて遅延剤入りのコンクリートを主体に打設することで、温度上昇のピークを避けつつ、作業負荷を平準化する工夫などが挙げられます。
また、スランプ保持型高性能AE減水剤との併用により、「初期スランプはやや小さめ、しかし数時間後も施工可能な流動性を維持する」という逆転発想の配合を組むことで、輸送中の過度なスランプ低下と打設時の過流動化を同時に抑える試みも行われています。jstage.jst+1
このような使いこなしには、配合設計者・生コン工場・施工者の三者がデータを共有し、試し練り結果をフィードバックし合う体制が不可欠であり、単に「遅延剤を足す」だけの現場判断では対応しきれません。nfca+1
今後は、AIやIoTを活用した打設管理システムと連動し、温度・湿度・打設進捗に応じて最適な凝結時間を予測しながら、遅延剤の選定や添加量を事前にシミュレーションする運用も期待されています。
参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/167121.pdf
凝結遅延剤コンクリート混和剤を、単なるトラブル回避策から「工程設計と品質設計をつなぐキー材料」として位置付けることで、建築現場の生産性と出来栄えの両立に、より大きく貢献できるでしょう。cabr-concrete+2
化学混和剤の基礎と種類、スランプ保持型混和剤の解説に関する参考資料です(混和剤全般の基礎理解の参考)。
いまさら聞けない 混和剤の役割(近未来コンクリート研究会)
凝結遅延剤の中性化への影響を扱った論文で、遅延剤添加による中性化速度係数の変化を把握する際の参考になります。
凝結遅延剤の使用がコンクリートの中性化の進行に及ぼす影響(大成建設技術センター報)
暑中コンクリートおよび混和剤活用による品質向上事例をまとめた資料で、凝結時間やスランプ変化の試験方法を確認する際に有用です。
化学混和剤の活用による品質向上を伴ったコンクリート構造物の施工(山口県)