

建築・設備の現場で「ヒ化ガリウム」と聞く機会は多くありませんが、半導体関連設備の解体・撤去、研究設備の更新、電子部品の回収など“周辺工事”で遭遇する可能性があります。特に厄介なのは、見た目がただの固体チップや粉末でも、SDS上は重い健康有害性が並ぶ点です。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)について、発がん性・生殖毒性・標的臓器毒性(単回/反復)などが示され、ラベルの危険有害性情報として「発がんのおそれ」「生殖能又は胎児への悪影響のおそれ」「血液系、免疫系の障害」「反復ばく露による呼吸器・血液系・男性生殖器の障害」が明記されています。これは、単に“危ない物質”という抽象論ではなく、工事手順に落とすべき具体のリスク(どこが壊れるのか、どんな経路で入るのか)を示す情報です。
また、メーカー側の安全性要約書でも、ヒ化ガリウムを含むチップ製品について、IARCの分類に触れつつ、発がん性が指摘されていること、粉砕・破砕で粉塵を吸い込む危険があることが明確に書かれています。つまり「完成品としては閉じている」状況から、「撤去や破砕で開く」状況に移る瞬間が最も危険になります。工事としては、解体・撤去・切断・研磨・清掃など“粉が出る工程”を含むかどうかで、管理レベルを一段上げる判断が必要です。
実務では、次のように読み替えると判断が早くなります。
・発がん性:ばく露をゼロに近づける発想(隔離・局排・湿式・密閉・呼吸用保護具の格上げ)
・生殖毒性:若年作業者、妊娠可能性がある作業者の配置配慮、作業割当の明確化(現場で曖昧にしない)
・標的臓器毒性:短時間作業でも油断せず、清掃や袋詰めなど“後工程”まで保護具を外さない
このように、SDSの分類は「現場の段取り(工程分割、隔離、換気、保護具、廃棄)」の設計図の一部として扱うべきです。
参考:ヒ化ガリウムのGHS分類・注意喚起語・危険有害性情報(発がん性/生殖毒性/標的臓器毒性)がまとまっています。
職場のあんぜんサイト(厚生労働省) ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)GHS分類・ラベル/SDS情報
建築従事者の文脈で最重要なのは、「ヒ化ガリウムは固体だから大丈夫」という誤解を潰すことです。メーカーの安全性要約書でも、粉砕・破砕で粉塵を吸い込む危険性が強調され、適切な保護具の着用と吸入防止が必要とされています。つまり、危険の中心は“状態変化”で、設備撤去時にハンマーで割る、グラインダーで切る、サンダーで削る、集塵が弱い掃除機で吸う、こうした行為が粉塵ばく露を作ります。
現場で起こりがちな失敗は、次の3つです。
✅「解体は重機で早く終わるから短時間」→短時間でも濃い粉塵が出れば意味がない
✅「水を撒けば安心」→湿式化ができない装置内部や、乾燥後の清掃で再飛散する
✅「最後に掃除する人が一番安全」→逆で、清掃・回収・袋詰めが最も吸い込みやすい
また、粉塵ばく露は“症状が分かりにくい”のが怖い点です。ヒ化ガリウムについては、職場のあんぜんサイトの分類情報上、血液系・免疫系、呼吸器、生殖器(男性)などが標的として示され、反復ばく露で障害が起こりうるとされています。体感として咳や喉の刺激が出ないケースでも、ばく露管理が甘いと慢性的な影響に寄っていく可能性があるため、「刺激がない=安全」にはしません。
建設工事での管理のコツは、“粉が出る工程の見える化”です。たとえば次のように工程表に落とします。
・撤去対象にヒ化ガリウム含有の可能性がある(部品表・ラベル・SDSで確認)
・粉塵が出る工程(破砕、切断、研磨、清掃、梱包)を赤字でマーキング
・赤字工程は、局所排気の可否、隔離区画、養生、負圧、湿式化、廃棄容器、呼吸用保護具の種類を事前に決める
こうすると、現場の「誰が、いつ、何を着けるか」が曖昧になりにくく、事故・ヒヤリハットが減ります。
ヒ化ガリウムは、扱いを誤ると健康影響だけでなく、法令違反・廃棄不適正にも直結します。メーカーの安全性要約書には、労働安全衛生法の「名称等を表示すべき」「名称等を通知すべき」、さらに特定化学物質障害予防規則(特化則)での位置づけに関する記載があり、砒素及びその化合物として扱われる前提が読み取れます。つまり、“化学物質を直接製造していない建設会社”でも、工事で取り扱う瞬間に管理責任が発生しうる、ということです。
SDSの実務的な読み方としては、次を最初に確認します。
・GHSの注意喚起語(危険/警告)と危険有害性情報(Hコード相当の内容)
・許容濃度や管理濃度の考え方(「ヒ素として」の表記が出やすい)
・推奨保護具(呼吸用保護具、手袋、保護眼鏡、保護衣)
・漏えい時の除去方法(掃除機・塵取り等、粉塵を舞わせない回収)
メーカーの安全性要約書では、粉塵から作業者を防護するため局所排気装置を使用した強制全体換気のある室内での取扱い、保護具(例として捕集率95%以上の防塵マスク等)など、かなり具体的な方向性が示されています。工事で“室内”が現場環境に当たる場合(装置室、クリーンルーム跡、ピット、機械室など)は、この思想をそのまま持ち込み、隔離・排気・集塵を組み合わせるのが安全側です。
なお、現場の落とし穴として「元請と下請でSDSの共有が不十分」があります。SDSは購買部門・設備担当が持っていて、現場班に降りていないことがあるため、着工前KYや作業手順書にSDS要点(粉塵、分解ガス、保護具、回収)だけでも転記して“現場言語化”するのが効果的です。
参考:チップ製品を例に、発がん性・生殖毒性・リスク管理措置(局排、保護具、許容濃度の考え方)が整理されています。
GPS/JIPS 安全性要約書(レゾナック光半導体) ヒ化ガリウム含有製品の健康影響と管理策
対策は「吸わない」「触らない」「散らかさない」の3本柱で組みます。メーカーの安全性要約書では、粉塵から防護するための局所排気装置の使用、強制全体換気、適切な保護具の使用、取扱い後の手洗いが推奨されています。建築現場に合わせて言い換えると、局排=発生源の近くで吸う、全体換気=室内の滞留を防ぐ、保護具=最後の砦、手洗い=二次ばく露防止、です。
ここから実務の“セット”を作ります(入れ子にしない箇条書きで整理します)。
・工程対策:破砕・研磨を避け、外せるならユニットごと回収し、どうしても切断するなら粉塵を閉じ込める養生を先に作る
・換気対策:可能なら局所排気(フード、簡易ダクト、集塵機)、難しければ少なくとも強制換気+粉塵が他エリアへ流れない動線分離
・清掃対策:乾拭き・エアブロー禁止、粉塵を舞わせない回収(適切な掃除機や湿式ワイプ)
・保護具:防塵マスク、保護眼鏡、耐薬品手袋、保護衣を“清掃・袋詰めまで”継続
・管理対策:作業手順書に「保護具を外してよいタイミング」を明記(休憩所で外す等の曖昧運用を防ぐ)
“意外に効く工夫”として、廃棄容器・袋詰め手順を先に決めるのがポイントです。理由は簡単で、粉塵は撤去作業中よりも、回収物を移動させる時・袋詰めする時に舞いやすいからです。現場でよくあるのは「とりあえずブルーシートに置く」→「あとでまとめる」→「その“あとで”が危険」という流れなので、最初から“置き場を作らない”設計が安全です。
また、教育も重要です。メーカーの安全性要約書には、作業責任者が保護具の選択・正しい使用方法・現場の管理方法を教育する必要がある旨が書かれています。建設では、化学物質に慣れていない班も混在するため、朝礼で「粉を出すな」「掃除が危険」「外した手袋で顔を触るな」など短いフレーズで統一すると伝達ミスが減ります。
検索上位の記事では「粉塵」「発がん性」「SDS」が中心になりがちですが、建設の現場目線で見落としやすいのが“化学反応の入口”です。ヒ化ガリウムは、固体として安定に見える一方で、酸や水蒸気との反応、加熱分解などの条件で有毒な生成物が問題になり得る、とSDS類で注意喚起されることがあります。特に設備撤去では、配管の残液、洗浄剤、結露、湿ったウエス、酸性雰囲気(薬品庫跡)など、意図せず「反応条件」を踏むことがあります。
ここでの実務ポイントは、“化学物質を動かす前に、周辺の湿り気と薬品を片付ける”ことです。つまり、撤去対象そのものに触る前に、周辺環境(床面の水、結露、洗浄剤、残液)を是正して、反応の可能性を下げます。これは粉塵対策と矛盾しないどころか、清掃の順番を誤ると逆に危険になる、という意味で重要です。
具体的な段取り例を示します(現場向けの手順イメージ)。
1) 事前確認:対象物の材質・ラベル・SDSの回収(ヒ化ガリウム含有可能性の有無)
2) 周辺除去:酸性洗浄剤、薬品、残液、濡れた資材を先に撤去し、乾湿を管理する
3) 区画・換気:隔離、局排/強制換気、動線分離を先に完成させる
4) 撤去:破砕・研磨を避け、どうしても必要なら粉塵封じ込めを最優先
5) 回収・梱包:粉塵を舞わせない回収を徹底し、廃棄ルートを固定
この順番にすることで、「湿っているから粉塵が立たない」→「でも反応条件は整っていた」という、嫌な裏目を避けやすくなります。
最後に廃棄の話です。メーカーの安全性要約書では、ヒ化ガリウムを含有する半導体の廃棄は国・地域の規制に準拠すること、破砕等による粉塵吸入リスクがあることが述べられています。建設現場の実務としては、産廃業者に丸投げする前に、元請側で「破砕禁止」「粉塵が出る処理は不可」「密閉状態で引き渡し」など、引き渡し条件を紙で残すのがトラブル回避になります。これは安全面だけでなく、コンプライアンス面でも効きます。