準不燃材料と建築基準法の内装制限における防火対策

準不燃材料と建築基準法の内装制限における防火対策

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準不燃材料と建築基準法の防火規定

準不燃材料の基本情報
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防火性能

加熱開始後10分間、燃焼せず有害な変形や有毒ガスを発生しない

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認定制度

国土交通大臣認定「QM」「QE」の認定番号が付与される

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主な用途

特殊建築物の内装制限区域における壁・天井の仕上げ材として使用

建築物の防火対策において、準不燃材料は非常に重要な役割を果たしています。準不燃材料とは、建築基準法における防火材料の一種で、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10分間、一定の防火性能を保持できる材料を指します。

 

準不燃材料は、不燃材料(20分間)と難燃材料(5分間)の中間に位置する防火性能を持ち、建築物の内装や外装の仕上げ材として広く使用されています。建築基準法施行令第108条の2では、準不燃材料が満たすべき要件として、「燃焼しないこと」「防火上有害な変形、溶融、き裂などの損傷を生じないこと」「避難上有害な煙やガスを発生しないこと」の3点を定めています。

 

準不燃材料として認定されるためには、国土交通大臣の認定を受ける必要があり、認定された材料には「QM-○○○○」(内装用)または「QE-○○○○」(外装用)の認定番号が付与されます。建築設計や施工において、この認定番号を確認することが非常に重要です。

 

準不燃材料の種類と特性について

準不燃材料には、建築基準法に基づく告示で定められた材料と、個別に国土交通大臣の認定を受けた材料があります。告示で定められている主な準不燃材料には以下のようなものがあります。

  • せっこうボード(厚さ9mm以上、ボード用原紙の厚さ0.6mm以下)
  • 木毛セメント板(厚さ15mm以上)
  • 硬質木片セメント板(厚さ9mm以上、かさ比重0.9以上)
  • 木片セメント板(厚さ30mm以上、かさ比重0.5以上)
  • パルプセメント板(厚さ6mm以上)

これらの材料は、それぞれ特有の特性を持っています。例えば、せっこうボードは比較的安価で施工性に優れていますが、水に弱いという特徴があります。一方、セメント系の板材は耐水性に優れていますが、重量が大きくなる傾向があります。

 

また、近年では技術革新により、木材に難燃処理を施した準不燃木材や、デザイン性の高い化粧板なども準不燃材料として認定されています。2025年1月には、スギCLT(直交集成板)に透明度・耐久性に優れた難燃化塗料を塗布した内装向けの準不燃材料が開発され、国土交通大臣認定を取得したというニュースもあります。これにより、木材の温かみを活かしながら防火性能を確保することが可能になりました。

 

準不燃材料を選択する際は、防火性能だけでなく、耐久性、施工性、意匠性、コストなど、様々な要素を総合的に考慮することが重要です。

 

準不燃材料が必要となる建築物と内装制限

建築基準法では、建物の用途や規模、立地条件によって内装制限が設けられており、特定の条件に該当する場合には準不燃材料などの防火材料の使用が義務付けられています。主に以下のような建築物が内装制限の対象となります。

  1. 特殊建築物
    • 劇場、映画館、公会堂、集会場
    • 病院、ホテル、旅館、寄宿舎
    • 百貨店、カフェ、飲食店、公衆浴場 など
  2. 一定規模以上の建築物
    • 3階建て以上で延べ面積が500m²以上
    • 2階建てで延べ面積が1,000m²以上
    • 1階建てで延べ面積が3,000m²以上
  3. 無窓居室
    • 排煙上あるいは採光上の基準を満たす窓がない天井高6m以下の居室
  4. 火気使用室
    • 住宅以外の建築物で火を使う設備を設けた室
    • 2階以上の住宅で最上階以外の階に火を使う設備を設けた室

内装制限が適用される部分では、壁や天井の仕上げ材に準不燃材料以上の防火性能を持つ材料を使用する必要があります。特に、避難経路となる廊下や階段では、より厳しい制限が設けられており、不燃材料の使用が求められる場合もあります。

 

また、建物が防火地域や準防火地域に立地する場合は、外装材についても防火材料の使用が義務付けられることがあります。建築計画の初期段階から、建物の用途や規模、立地条件を考慮して、適切な防火材料を選定することが重要です。

 

国土交通省:建築基準法における防火・避難規定の解説

準不燃材料と不燃材料・難燃材料の違いと選択基準

建築基準法における防火材料は、防火性能によって「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」の3つに分類されます。それぞれの違いを理解し、適切な材料を選択することが重要です。

 

防火性能の比較

分類 防火性能 認定番号 主な材料例
不燃材料 加熱開始後20分間要件を満たす NM-○○○○、NE-○○○○ コンクリート、瓦、金属板、ガラス、せっこうボード(12mm以上)
準不燃材料 加熱開始後10分間要件を満たす QM-○○○○、QE-○○○○ せっこうボード(9mm以上)、木毛セメント板(15mm以上)
難燃材料 加熱開始後5分間要件を満たす RM-○○○○、RE-○○○○ 難燃合板(5.5mm以上)、せっこうボード(7mm以上)

防火性能は「不燃>準不燃>難燃材料」の順で高くなります。そのため、難燃材料を使用しなければならない部位には、準不燃材料や不燃材料を代替として使用することが可能です。同様に、準不燃材料が必要な場所には不燃材料を使用することができます。

 

材料選択の基準
材料を選択する際には、以下の点を考慮することが重要です。

  1. 法的要件:建物の用途、規模、立地条件に応じた内装制限の要件を満たすこと
  2. コスト:一般的に防火性能が高いほど材料コストも高くなる傾向がある
  3. 施工性:材料の重量、加工のしやすさ、取り付け方法などを考慮
  4. 意匠性:デザイン要件に合致した仕上がりが得られるか
  5. 耐久性:使用環境に応じた耐久性(耐水性、耐候性など)を持つか
  6. 環境性能:環境負荷の低減、室内環境への影響などを考慮

例えば、高い防火性能が求められる避難経路では不燃材料を、一般的な居室では準不燃材料を、比較的リスクの低い区画では難燃材料を選択するなど、建物の各部位に応じた適切な材料選定が求められます。

 

また、近年は環境配慮やデザイン性の観点から、木材を活用した準不燃材料の開発も進んでおり、防火性能と意匠性を両立させた選択肢が増えています。

 

準不燃材料の施工方法と注意点

準不燃材料を効果的に施工するためには、適切な施工方法と注意点を理解することが重要です。ここでは、代表的な準不燃材料の施工方法と施工時の注意点について解説します。

 

せっこうボードの施工
せっこうボードは最も一般的な準不燃材料の一つです。施工手順は以下の通りです。

  1. 下地の確認:下地の間隔や強度を確認し、必要に応じて補強
  2. ボードの裁断:専用のカッターでボードを必要なサイズに裁断
  3. 取り付け:ビスやステープルを使用して下地に固定
  4. 目地処理:ジョイントテープとパテで目地を処理
  5. 仕上げ:必要に応じて塗装や壁紙を施工

施工時の注意点

  1. 認定条件の遵守

    準不燃材料は、特定の厚さや構成で認定を受けています。例えば、せっこうボードは厚さ9mm以上、ボード用原紙の厚さが0.6mm以下という条件で準不燃材料として認定されています。これらの条件を変更すると、準不燃材料としての性能が保証されなくなります。

     

  2. 目地処理と開口部の処理

    目地や開口部は防火性能が低下しやすい部分です。適切なジョイント処理や開口部の補強が必要です。特に、コンセントボックスやダクト貫通部などの開口部周辺は、防火性能を確保するための特別な処理が必要な場合があります。

     

  3. 下地との取り合い

    準不燃材料と下地との取り合い部分も防火性能に影響します。特に木造建築の場合、下地材が可燃物であるため、適切な施工方法を選択する必要があります。

     

  4. 複合材料の取り扱い

    表面に化粧シートや塗装を施した複合材料の場合、それらの仕上げ材も含めて準不燃認定を受けている必要があります。認定を受けていない仕上げ材を現場で施すと、準不燃材料としての性能が失われる可能性があります。

     

  5. 水濡れへの対応

    せっこうボードなど一部の準不燃材料は水に弱いため、水濡れの可能性がある場所では耐水性のある材料を選択するか、適切な防水処理を施す必要があります。

     

  6. 施工後の確認

    施工完了後は、認定材料が適切に使用されているか、施工に不備がないかを確認することが重要です。特に、内装制限が適用される建物では、完了検査時に防火材料の使用状況が確認されます。

     

適切な施工を行うためには、材料メーカーの施工マニュアルを参照し、必要に応じて専門家の指導を受けることをお勧めします。また、新しい施工技術や材料が開発されていますので、最新の情報を常に収集することも重要です。

 

千代田鋼鉄工業:防火材料の施工方法と注意点

準不燃材料の最新技術と2025年建築基準法改正の影響

建築材料の技術革新は日々進んでおり、準不燃材料の分野でも新しい製品や技術が次々と登場しています。また、2025年に予定されている建築基準法の改正は、準不燃材料の使用範囲にも大きな影響を与えることが予想されます。

 

最新の準不燃材料技術

  1. 木質系準不燃材料の進化

    2025年1月に竹中工務店らが発表したスギCLT(直交集成板)に透明度・耐久性に優れた難燃化塗料を塗布した準不燃材料は、木材の美しい木目を活かしながら防火性能を確保する画期的な技術です。従来の難燃化塗料に含まれる無機系難燃剤は透明性を低下させる傾向がありましたが、新開発の水ガラス系塗料は透明度が高く、木材の質感を損なわないという特徴があります。

     

  2. 環境配慮型準不燃材料

    環境負荷の低減を目指した準不燃材料の開発も進んでいます。例えば、再生材料を使用した準不燃ボードや、VOC(揮発性有機化合物)の放散量を抑えた健康配慮型の準不燃材料などが登場しています。

     

  3. 高意匠性準不燃材料

    デザイン性を重視した準不燃材料も増えています。天然石や木材の質感を再現した化粧板や、様々な色や模様を表現できるプリント技術を活用した準不燃パネルなど、意匠性と防火性能を両立させた製品が開発されています。

     

  4. 施工性を向上させた準不燃材料

    軽量化や加工のしやすさを追求した準不燃材料も登場しています。例えば、従来のせっこうボードより軽量で、かつ準不燃性能を持つ新世代のボード材などが開発されています。

     

2025年建築基準法改正の影響
2025年に予定されている建築基準法の改正では、防火規定が整備され、木材を使用できる範囲がより拡充される見込みです。これにより、以下のような変化が予想されます。

  1. 木造建築の可能性拡大

    規模の大きな建築物にも木材を使える範囲が拡充されることで、中高層木造建築の普及が進む可能性があります。これに伴い、木質系準不燃材料の需要も増加すると予想されます。

     

  2. 準不燃材料の要求性能の見直し

    防火規定の整備に伴い、準不燃材料に求められる性能や試験方法が見直される可能性があります。これにより、新たな準不燃材料の開発や既存材料の再評価が必要になるかもしれません。

     

  3. CLTなど新しい木質材料の普及

    CLT(直交集成板)などの新しい木質構造材料の使用範囲が拡大することで、これらの材料に対応した準不燃処理技術や準不燃仕上げ材の需要が高まると予想されます。

     

  4. 環境配慮と防火性能の両立

    カーボンニュートラルの実現に向けて木材利用が推進される中、環境配慮と防火性能を両立させた準不燃材料の重要性が一層高まるでしょう。

     

これらの技術革新と法改正により、準不燃材料の選択肢はさらに広がり、より安全で環境に配慮した建築物の実現が期待されます。建築・外壁塗装に携わる専門家は、これらの最新動向を把握し、適切な材料選定と施工技術の習得に努めることが重要です。

 

国土交通省:2025年建築基準法改正の概要