
準耐火建築物は、火災時に建築物の延焼を抑制し、一定時間倒壊しない性能を持つ構造として定義されています。建築基準法において、準耐火建築物は主要構造部(柱、壁、床、はり、屋根の軒裏)に準耐火性能を持たせることが求められています。
準耐火性能は、「非損傷性」「遮熱性」「遮炎性」の3つの要素から成り立っています。非損傷性は変形や破壊を受けないこと、遮熱性は材料が燃焼する温度以上に上昇しないこと、遮炎性はひび割れなどの損傷を受けないことを意味します。
これらの性能を基に、「炎にさらされた主要構造部が何時間耐えられるか」という耐火時間に応じて準耐火構造の仕様が決まります。一般的な準耐火構造は「45分準耐火」と呼ばれ、主要構造部が45分間倒壊しない仕様であることを示しています。また、建築物の用途や規模によっては「60分準耐火」が必要となる場合もあります。
準耐火建築物は大きく分けて2種類あります。「イ準耐火建築物」(建築基準法2条九の三号イ)と「ロ準耐火建築物」(建築基準法2条九の三号ロ)です。
イ準耐火建築物は、主要構造部が「準耐火構造」であるのに対し、ロ準耐火建築物は、主要構造部が「準耐火構造と同等の準耐火性能」を持つものとされています。この違いは重要で、木造で準耐火建築物を設計する場合は、一般的にイ準耐火建築物とするのが一般的です。
耐火構造、準耐火構造、防火構造の関係性を理解することも重要です。これらは主要構造部の耐火性能を示す3つの種別であり、準耐火構造は防火構造よりも性能が高く、耐火構造よりも性能が低くなります。
例えば、防火区画を計画する際に、建築基準法によって準耐火構造が要求される壁を耐火構造で造ることは問題ありませんが、防火構造とした場合は不適合となります。
準耐火建築物の設計において、防火区画の設定は非常に重要な要素です。通常の準耐火建築物では、原則として1,500㎡ごとに防火区画を設けることが求められています(スプリンクラー設置で最大3,000㎡ごと)。
しかし、主要構造部を準耐火構造とした建築物については、過去の実大火災実験を踏まえ、特に以下の2点について、より力点を置いた設計方法が求められています。
例えば、火災時倒壊防止建築物(R元国交告第193号)では、原則100㎡ごとに防火区画を設け、スプリンクラー設置、室内準不燃仕上げ、常閉防火設備により最大600㎡ごとに区画することが可能です。
また、上階延焼防止措置として、庇やバルコニーと防火設備等の設置、外壁仕上げの不燃化、周辺通路等の設置が求められています。これらの対策は、準耐火構造の性能が耐火構造より低いことを補うために強化されています。
木造建築物で準耐火建築物を実現する方法として「燃えしろ設計」が重要です。これは、木材が火災時にゆっくりと燃える特性を活かし、構造部材の断面を必要以上に大きくすることで、火災時に表面が燃えても内部の構造耐力を保持できるようにする設計手法です。
燃えしろ設計を用いることで、「あらわしによる木造」を実現することが可能になります。これは、木材の美しさを内装に活かしながら、必要な防火性能を確保できる方法です。
通常の大断面の集成材等を使用することで、特殊な工法や部材を必要とする耐火木造(認定部材・燃え止まり層を設けた木造)と比較して、より自由度の高い設計が可能になります。
ただし、燃えしろ設計を採用する場合でも、建築物の用途・規模・立地に応じて、防火区画や外壁開口部の防火設備などの性能を強化することで、建築物全体としての防耐火性能を担保する必要があります。
防火地域では、建築物の燃えにくさを確保するために様々な建築制限が設けられています。防火地域で建物が次のいずれかに該当する場合、耐火建築物にする必要があります。
これらに該当しない建物でも、防火地域にある場合は準耐火建築物にする必要があります。「階数3以上」という条件は、3階建てだけでなく、地階のある2階建ても当てはまるため注意が必要です。
防火地域の建築制限は以下のようにまとめられます。
条件 | 延べ面積100㎡以下 | 延べ面積100㎡超 |
---|---|---|
地階を含む階数3以上 | 耐火建築物 | 耐火建築物 |
地階を含む階数1、2 | 準耐火建築物 | 耐火建築物 |
外壁塗装を行う際には、これらの建築制限を理解し、適切な材料選択が重要です。特に、準耐火建築物では延焼のおそれのある部分の外壁開口部に防火設備を設ける必要があり、外壁の塗装材料も防火性能に影響を与える可能性があります。
外壁塗装従事者として、準耐火建築物の防火性能を維持・向上させるためのポイントを理解することは非常に重要です。準耐火建築物の外壁塗装を行う際には、以下の点に注意する必要があります。
まず、外壁の防火性能を損なわないよう、適切な塗料を選択することが重要です。不燃材料や準不燃材料として認定された塗料を使用することで、建築物の防火性能を維持することができます。特に、防火地域や準防火地域に建つ建物では、外壁の防火性能が厳しく規制されているため、塗料選択には十分な注意が必要です。
また、外壁の遮熱性を高める塗料を選択することも効果的です。遮熱塗料を使用することで、火災時の熱伝導を抑制し、建物内部への熱の侵入を遅らせることができます。これにより、準耐火性能の一つである「遮熱性」を向上させることが可能になります。
さらに、塗装の施工方法も重要です。塗膜の厚さや均一性が防火性能に影響を与えるため、適切な施工技術が求められます。特に、継ぎ目や角部などの弱点となりやすい部分には、入念な施工が必要です。
定期的なメンテナンスも忘れてはなりません。塗膜の劣化は防火性能の低下につながるため、定期的な点検と再塗装が重要です。特に、紫外線や風雨にさらされる外壁は劣化が進みやすいため、適切なタイミングでのメンテナンスが求められます。
準耐火建築物の防火性能は、建物全体の安全性に直結する重要な要素です。外壁塗装従事者として、これらのポイントを理解し、適切な塗装工事を行うことで、建築物の防火性能向上に貢献することができます。
日本建築センターによる不燃材料・準不燃材料の情報
準耐火建築物の設計において、主要構造部の防耐火性能は建築物全体の安全性を確保するための基本となります。しかし、準耐火構造だけでは十分な防火性能を確保できないため、防火区画や外壁開口部の防火設備などの対策を組み合わせることが重要です。
特に、木造で準耐火建築物を設計する場合は、燃えしろ設計を活用することで、木材の美しさを活かしながら必要な防火性能を確保することが可能です。ただし、建築物の用途・規模・立地に応じて、適切な防火対策を講じる必要があります。
防火地域や準防火地域では、建築制限が厳しくなるため、建築物の規模や階数に応じて、耐火建築物や準耐火建築物とする必要があります。外壁塗装を行う際には、これらの建築制限を理解し、適切な材料選択と施工方法を選ぶことが重要です。
準耐火建築物の防火設計は、建築基準法や関連法令に基づいて行われますが、最新の技術や知見を取り入れることで、より安全で機能的な建築物を実現することができます。外壁塗装従事者として、これらの知識を活かし、建築物の防火性能向上に貢献することが求められています。
準耐火建築物の防火設計において、外壁塗装は見た目の美しさだけでなく、防火性能を確保するための重要な要素です。適切な塗料選択と施工方法、定期的なメンテナンスを通じて、建築物の安全性向上に貢献しましょう。
建築基準法における準耐火建築物の定義や要件は、法改正によって変更される可能性があります。最新の法令や基準を常に確認し、適切な設計・施工を行うことが重要です。特に、2025年に向けた建築基準法の改正動向には注意が必要です。
準耐火建築物の防火設計は、専門的な知識と経験が求められる分野です。設計者や施工者、外壁塗装従事者など、建築に関わる全ての関係者が連携し、安全で機能的な建築物を実現することが大切です。
最後に、準耐火建築物の防火性能は、建物の寿命全体を通じて維持されるべきものです。定期的な点検とメンテナンス、適切な改修工事を通じて、建築物の防火性能を長期にわたって確保することが重要です。外壁塗装従事者として、この点を常に意識し、建築物の安全性向上に貢献していきましょう。