
建築物のカーボンフットプリントを理解するには、まずCO2排出量の内訳を把握することが重要です。九州大学の研究によると、平均的な木造住宅1軒分(延べ床面積:119m²)のカーボンフットプリントは約38 t-CO₂にもなります。
この排出量の内訳は以下のようになっています。
建築物のライフサイクルを段階別に見ると、CO2排出量は次のように分布しています。
これらの数値は建築物の規模や構造によって異なりますが、一般的に資材製造段階での排出量が最も多いことがわかります。特に鉄鋼材料の製造過程は、CO2排出量が多い工程として知られています。
建築物のカーボンフットプリントを算定するには、一般的に以下のステップが必要です。
日本では、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営する「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」が代表的な認証制度です。この制度を通じて、建築物のカーボンフットプリントを「見える化」し、環境ラベルとして表示することができます。
安藤ハザマは、建築物(躯体および仕上材)を対象に、国内の建設会社で初めて「カーボンフットプリント宣言認定」を取得しました。これにより、建築物の環境性能を客観的に評価し、環境配慮型の建築物を推進する動きが加速しています。
建築業界では、サプライチェーン全体でのカーボンフットプリント削減に向けた様々な取り組みが進められています。以下に代表的な事例を紹介します。
1. 安藤ハザマの取り組み
安藤ハザマは、自社の研修施設「TTCつくば」において、建築物のカーボンフットプリント評価を実施し、CO2排出量の「見える化」を行いました。この施設では、カーボンオフセットと組み合わせることで、建物における「実質CO2排出量ゼロ」を実現しています。
2. 木造住宅メーカーの取り組み
木造住宅のサプライチェーンに焦点を当て、CO2排出に寄与している部門を特定し、効果的な削減策を講じる取り組みが進められています。九州大学の研究グループは、木造住宅の建築に関わる部門のグループ分けを行い、CO2排出量の多い部門群を特定しました。
3. 建材メーカーの取り組み
建材メーカーは、自社製品のカーボンフットプリントを算定・表示することで、環境配慮型の製品開発を推進しています。CFPマーク表示認定を受けている建築材料も増えており、施主側もそれらを選ぶことで環境問題解決への貢献度が「見える化」できるようになっています。
4. 国産材活用の推進
製造・加工にかかるCO2排出量の少ない木材、特に国産材の利用は、カーボンニュートラル実現に効果的とされています。国産材を使った建築材料の採用を推進することで、建物のライフサイクルCO2量を最小限に抑える取り組みが広がっています。
これらの取り組みは、建築業界全体でのカーボンフットプリント削減に貢献しており、今後さらに拡大していくことが期待されています。
建築物のカーボンフットプリントを削減するためには、ライフサイクル全体を通じた効果的な対策が必要です。以下に、各段階での具体的な削減対策を紹介します。
1. 設計・計画段階での対策
2. 資材調達・製造段階での対策
3. 施工段階での対策
4. 運用・メンテナンス段階での対策
5. 廃棄・リサイクル段階での対策
これらの対策を総合的に実施することで、建築物のライフサイクル全体を通じたCO2排出量の大幅な削減が可能になります。特に、設計・計画段階での対策は、その後のライフサイクル全体に影響を与えるため、非常に重要です。
建築業界におけるカーボンフットプリントへの取り組みは、今後さらに進化していくことが予想されます。ここでは、建築業界の未来と期待される技術革新について考察します。
1. デジタル技術の活用
BIM(Building Information Modeling)やAI技術の発展により、設計段階からカーボンフットプリントを予測し、最適な設計・材料選択が可能になります。これにより、建築物の計画段階からCO2排出量を最小化する取り組みが加速するでしょう。
2. 新素材の開発と普及
CO2排出量の少ない新素材や、CO2を吸収・固定化する建材の開発が進んでいます。例えば、CO2を吸収するコンクリートや、木材と他の素材を組み合わせたハイブリッド建材などが注目されています。これらの新素材の普及により、建築物のカーボンフットプリントは大幅に削減される可能性があります。
3. サーキュラーエコノミーの実現
建築業界では、資源の循環利用を前提としたサーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方が広がっています。建物を解体する際に発生する廃材を新たな建材として再利用するシステムの構築や、建物自体をリユース可能なモジュール構造にするなど、資源の無駄をなくす取り組みが進んでいます。
4. カーボンニュートラル建築の標準化
現在は先進的な取り組みとして注目されているカーボンニュートラル建築が、将来的には標準となる可能性があります。建築基準や認証制度にカーボンフットプリントの基準が組み込まれ、低炭素建築が当たり前となる社会が実現するでしょう。
5. 国際的な連携の強化
カーボンフットプリントの算定方法や評価基準の国際的な統一が進み、グローバルなサプライチェーンにおけるCO2排出量の管理が容易になります。これにより、国境を越えた建築材料の調達や建設プロジェクトにおいても、カーボンフットプリントの削減が促進されるでしょう。
建築業界は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて大きな役割を担っています。技術革新と意識改革により、建築物のカーボンフットプリントを大幅に削減し、持続可能な社会の構築に貢献することが期待されています。
建築プロジェクトでカーボンフットプリントを実際に削減するための実践的なアプローチを紹介します。これらの方法は、すぐに実践できるものから長期的な取り組みまで様々です。
1. カーボンフットプリント評価の導入
まずは自社の建築プロジェクトのカーボンフットプリントを評価することから始めましょう。現状を把握することで、効果的な削減策を検討することができます。
2. サプライヤーとの協働
建材サプライヤーと協力して、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に取り組みましょう。
3. 設計・施工プロセスの最適化
設計・施工プロセスを見直し、CO2排出量の削減を図りましょう。
4. 施主・利用者への情報提供
施主や建物利用者に対して、カーボンフットプリントに関する情報を提供し、理解と協力を得ることが重要です。
5. 継続的な改善とフィードバック
プロジェクト完了後も継続的に改善を図り、次のプロジェクトに活かしましょう。
これらの実践的なアプローチを組み合わせることで、建築プロジェクトのカーボンフットプリント削減を効果的に進めることができます。重要なのは、一度に全てを実施しようとするのではなく、できることから段階的に取り組むことです。
安藤ハザマのCFP(カーボンフットプリント)への取り組み事例
建築業界におけるカーボンフットプリントへの取り組みは、地球温暖化対策の重要な一環として今後ますます注目されるでしょう。建築に携わる全ての関係者が協力して、低炭素社会の実現に向けた取り組みを推進していくことが求められています。