
既製杭とは、工場であらかじめ製造された杭を工事現場まで運搬して打設する工法の総称です。既製杭は杭本体部の材料によって主に2つに分類され、材料に鉄筋コンクリートを使用する「既製コンクリート杭」と、材料に鋼管を使う「鋼管杭」に大別されます。
参考)基礎TOPICS Vol.51
既製コンクリート杭の代表格は、鉄筋コンクリートにプレストレスをかけて強度を増した高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)であり、現在の主流となっています。PHC杭は有効プレストレス量によってA種(4N/m²)、B種(8N/m²)、C種(10N/m²)に区分され、高強度コンクリートであるため高軸方向耐力を有することが特長です。
参考)https://www.oki-phk.com/pdf/pile.pdf
一方、鋼管杭は既製杭の一種でありながら、材質が鋼材である点で既製コンクリート杭と明確に区別されます。工場で予め製造された鋼管・H形鋼材などを現場に運び打設する方法であり、既製の杭を使用するため施工の際に杭の品質のばらつきが少なく、一定の品質を確保できるのが大きな特徴です。
参考)鋼管杭工法とは?特徴や種類、メリット・デメリットを解説
既製杭の施工方法には打込み杭工法と埋込み杭工法があり、昔は杭を上から大型ハンマーのような機器で打ち込む打込み方法が用いられていましたが、最近は近隣の騒音や振動に配慮した埋込み工法が採用されることが多くなっています。
参考)杭工事とは?地中に支えになる杭を打ち込む工事
鋼管杭は既製杭の中でも特有の特徴を持つ杭工法であり、鋼製の杭を地中に打ち込むことでオフィスビルやマンションなどの重量構造物を支えます。曲げモーメントに対する抵抗力が非常に大きく、十分な水平抵抗力を期待できることが最大の特徴です。
参考)鋼管杭とは
鋼管杭は幅厚比(板厚と杭径の比)が小さいため貫入抵抗が小さく、打込み杭工法では材料強度が大きく頭部が破壊する恐れも少ないため、硬い地盤でも打ち抜くことができる貫入性能の高さを誇ります。溶接により継ぎ足し(継杭)することが容易で、接合部の品質・強度が安定しているため、長尺杭でも不安なく施工できるという利点もあります。
鋼管杭の詳細な特徴と施工条件について
鋼管杭には標準管径の他に小口径鋼管杭というタイプも存在します。小口径鋼管杭とは削孔径(φ)が300mm以下の場所打ち杭や埋込み杭のことで、軟弱地盤が8mを超える際に用いられ、都市部や狭小地での施工に適しています。大型の機械を使わずに打設が可能なため都市部の狭小地や既存の建物の隣での施工に非常に適しており、騒音や振動が少ないため住宅地など騒音に敏感な場所での使用が推奨されます。
鋼管杭の板厚については、JIS A 5525と道路橋示方書により取扱い性や運搬性を考慮してt/Dが1%以上かつ9mm以上とされていますが、支持層が硬い場合や中間層を打ち抜く場合、支持層が深い場合など打撃回数が増える状況では板厚の検討が必要です。
既製コンクリート杭と鋼管杭の最も大きな違いは使用材料であり、前者は鉄筋コンクリートやプレストレストコンクリートを使用するのに対し、後者は鋼材を使用します。この材料の違いが施工機械、納期、適用範囲、コスト構造などあらゆる面での差異を生み出しています。
納期の面では、鋼管杭は既製コンクリート杭に比べて比較的短納期で杭材料を現場にお届けすることが可能です。鋼管杭の本体部に使う鋼管と先端羽根部に使う板材について、標準的な仕様は一定量の在庫を常に確保しており、発注後に鋼管と羽根を加工・溶接することでスピーディーに現場に出荷できるためです。一般的に工事に最低3カ月要するコンクリート杭に比べて、鋼管杭の場合は1~2ヵ月と短期間で工事に取り掛かることができます。
参考)「鋼管杭」とは? 特徴や用途、施工の工法などを解説
施工機械の面でも大きな違いがあります。鋼管杭はセメントミルクを一切使用しないためプラント設備が不要であり、コンパクトな施工機械を数多くラインナップしているため、既製コンクリート杭の施工機械では施工が難しい狭い現場においても施工が可能です。比較的大規模な建築物でかつ現場が広い場合には既製コンクリート杭(PHC杭)が採用されるケースが多い一方、鋼管杭は比較的現場の狭い小規模建築物や施工条件の厳しい土木構造物などを中心に採用されてきました。
既製杭と鋼管杭の工法選定ガイド
適用建物の規模についても違いがあり、従来は既製コンクリート杭が大規模建築向けとされてきましたが、近年では鋼管径・羽根径の拡大によって鋼管杭も規模の大きい構造物に採用されるケースが増えてきています。
撤去の容易さも重要な違いの一つです。鋼管杭は杭を逆回転することで容易に引抜き撤去が可能であり、借地に工作物を建設する場合や仮設構造物への杭施工など将来的に杭の引抜き撤去が予定されている場合に適しています。一方、既製コンクリート杭は一度施工してしまうともとに戻すことが難しく、原状回復の面で不利です。
既製杭の施工方法は大きく分けて打込み杭工法、埋込み杭工法、回転杭工法の3つに分類されます。それぞれの工法で使用できる杭の種類や施工条件が異なり、現場の状況に応じて適切な工法を選定する必要があります。
参考)既製杭工法の基礎知識
打込み杭工法には打撃工法、バイブロハンマ工法、プレボーリング併用打撃工法があります。プレボーリング併用打撃工法は、アースオーガーで一定深度まで掘削し杭を建て込んで打撃により支持層まで打込む工法で、孔径は杭径より約50mm小さめに掘削し、杭と地盤が締め固められて地盤が安定します。打込み工法は騒音・振動が発生するため使用頻度が減少してきています。
参考)杭工事-東京テクノ株式会社
埋込み杭工法にはプレボーリング工法、中堀り工法、鋼管ソイルセメント杭工法があり、現在は埋込み工法が主流になってきています。プレボーリング工法は地盤をオーガー等であらかじめ所定の深さまで掘削し既製杭を挿入する工法で、プレボーリング根固め工法とプレボーリング拡大根固め工法があります。プレボーリング根固め工法によるセメントミルク工法は、スパイラルオーガと先端ビットにより掘削液を注入しながら地盤を掘削し、所定の深度に達したら根固め液に切り替えて支持層の土砂を掘削・攪拌した後、スパイラルオーガを引き上げながら杭周固定液を注入し既製杭を挿入する工法です。
既製杭工法の詳細な施工手順と工法選定
回転杭工法は主に鋼管杭で採用され、杭先端の羽根を利用して杭を回転させ掘り進めるため排土が無いのがメリットです。専用機械により鋼管杭を所定の位置に固定し鉛直性を確認しながら回転圧入方で貫入させ、地盤の位置や深さを正確に測定しながら状況に応じて鋼管杭2本~3本を溶接継ぎ手(機械式継ぎ手)を使って繰り返し所定深度まで回転貫入させていきます。
参考)鋼管杭工法とは? 種類や回転杭工法の手順を解説
既製杭の施工では、杭の品質はあらかじめ工場で製作されているため良好であり、施工速度が速く施工管理が比較的容易である点、小規模工事でも割高にならない点がメリットとして挙げられます。
参考)https://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/kouzou/pdf/19_11kuikiso.pdf
既製杭工法を採用する際には、支持層の確認と適用条件の確認が極めて重要です。鋼管杭工法を用いる条件として、地盤の支持層が2.0m以上続いていること、先端の支持基盤が15以上のN値を示すことが必要とされています。
N値とは地盤の強度を示す基準で、高いほど強固な地盤であることを示します。一般的な戸建て住宅の場合N値5以上であれば建設が可能といわれており、鋼管杭工法を用いるのに必要なN値が15という数値の高さが求められる理由は、深い位置の支持層まで確実に杭を到達させる必要があるためです。
杭先端平均N値(設計用N値)の算出方法については、杭先端N値を求める際に下方1D上方4Dの平均N値とする根拠があり、設計用N値を計算するときに用いる個々のN値には最大値の制限があります。支持層判断を誤った場合の対応事例も既製コンクリート杭において報告されており、適切な地盤調査と支持層の確認が不可欠です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/86e3d84a715cd4c4a06fe1751ad75c0e3a86210c
礫層の施工の可否については、近隣の施工状況(現場付近での杭施工法の確認)や地盤条件(礫径、砂礫層の層厚、砂礫層の位置)等から総合的に判断する必要があります。礫層が存在する地盤では、施工機械の選定と施工方法の工夫が必要となり、場合によっては他の工法への変更も検討しなければなりません。
試験杭の位置は橋脚・橋台の基礎ごとに杭の配置、地盤構成の状況等を考慮し、支持層の状態が分かるような位置を選定し、試験杭の施工結果と地盤調査資料とを照合して支持層の確認を行います。既製杭の長さは支持力・施工性・継手箇所の信頼性等を考慮して設計し、PHC杭については近年3本継、4本継が施工され実績も多く問題も少なくなっていますが、選定にあたっては施工方法・継手構造等を十分検討する必要があります。
参考)https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1014302/160114kuimanyuaru.pdf
既製杭工法の選定においてコストは重要な判断要因の一つであり、杭工法の選定要因のうち施工費が占める重要性は非常に高いとされています。杭工事の見積りに影響する要因は大きく分けて4つあり、敷地条件の設定(土地の広さ、搬入ルート)、杭配置の設定(杭本数)、ボーリング図の設定(日数、人工)、杭の工法・仕様の設定が挙げられます。
参考)https://committees.jsce.or.jp/sekou05/system/files/11-2%20%E6%9D%AD%E5%B7%A5%E6%B3%95.pdf
鋼管杭工法の施工に関する費用は、住宅用の小口径鋼管杭では1坪あたり5〜7万円が目安とされていますが、使用する鋼の種類や杭の長さ、打設する本数などによって異なります。鋼の価格が高騰している昨今では初期投資額は他の工法と比べて高めとなりがちですが、その耐久性や長い耐用年数を考慮すると長期的な視点でのコストパフォーマンスは高いといえます。
鋼管杭工法の費用詳細とコスト構造
既製コンクリート杭と鋼管杭の費用比較では、構造計算上PC杭という現場で造る杭になるか、鋼管杭という既製の杭で対応できるかによっても大きく違います。場所打ち杭は現場で穴を掘り鉄筋を組んでコンクリートを流し込む工法で大規模な建物に向いており現場対応性が高い一方で施工手間や品質管理が必要なため比較的コストが高めになり、これに対し既製杭(コンクリートや鋼管などを工場で製造し現場で打設するもの)は品質が安定しており工期も短縮しやすいことから条件が合えば費用を抑えることが可能です。
参考)4.5 建築費を左右する杭のコスト構造|マンデベ大家
支持層までの距離、地盤の固さだけでなく、狭小の土地や道路付が悪いと更に工事コストが嵩みます。取引が少ないゼネコンは交渉力がないため取引が多いゼネコンに比べコストが高くつき、過去に見積りした例で30坪弱の土地を2社違うゼネコンに依頼して1000万ほど違ったこともあり、杭工事の専門工事業者によって変わります。
杭工事の見積査定では、見積徴集専門工事業者にヒアリングを行い、提示した見積条件に合致しているか、見積徴集各社で条件にバラツキが無いか確認することが重要です。工法に適した専門工事業者か確認し、専門工事業者の実績・能力を確認した上で、現地の制約条件及び諸条件を統一・説明し、既製杭・鋼管杭の場合は納期の確認も必要となります。
参考)https://www.nikkenren.com/sougou/10thaniv/pdf/07-07-08.pdf
鋼管杭工法は使用する長さによって費用が変動し、建設現場の状況によって支持層が深い地盤を改良する場合には費用が高くなってしまう可能性があり、地盤内に鋼管杭を埋入するため将来土地を売却する際には地中の鉄鋼杭を撤去する必要が発生し、その場合は撤去する費用や手間がかかってしまう点に注意が必要です。
参考)地盤改良に用いる鋼管杭のメリット・デメリットとは?