

共用廊下は消防法により避難経路として位置づけられており、原則として私物を置くことが禁止されています。消防法第8条の2の4では「避難上必要な施設等の管理」として避難障害になる物品の除去が規定されており、各自治体の火災予防条例でも「避難施設に、火災の予防又は避難に支障となる施設を設け、又は物件を置くこと」を禁止しています。
参考)https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/ms_shinchiku/ms_knowhow/mansion_roukahaba/
しかし、エアコンの室外機については居住者の快適な生活を確保するために設けられた例外的措置として認められています。これは室外機が現代の生活必需品であることを考慮した特例であり、建築基準法や消防法の枠組みの中で一定の条件を満たせば設置可能とされているのです。
参考)https://ameblo.jp/room-kanri/entry-12810404950.html
建築業従事者として重要なのは、この例外措置には明確な条件が付されているという点です。単に「室外機なら置ける」という単純な理解ではなく、避難経路の有効幅員を確保した上での設置であることを施主や管理組合に説明する必要があります。
参考)https://haveagoodday.info/600.html
建築基準法施行令第119条では、共同住宅の共用廊下について片側に居室がある場合は120cm以上、両側に居室がある場合は160cm以上の幅員を確保することが義務付けられています。この基準は建築確認申請の段階で厳しく審査される項目であり、設計段階から遵守が求められます。
参考)https://k-s-s.org/evacuation-route/
一方、消防法では室外機を設置した状態で常に通路幅65cm以上を確保するよう定めています。この65cmという数値は避難時に人が通行できる最低限の幅として設定されており、室外機の一般的な奥行きが約50cmであることを考慮すると、片側居室の廊下(120cm)であれば理論上は設置可能という計算になります。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10247207515
実務上の注意点として、建築基準法は建物の設計・建築段階での規制、消防法は建物使用開始後の運用段階での規制という役割分担がなされています。つまり設計上十分な幅があっても、運用段階で物が置かれて避難経路が確保できなければ消防法違反となるため、竣工後の管理体制も含めた計画が必要です。
| 法令 | 規制内容 | 適用段階 |
|---|---|---|
| 建築基準法 | 片側居室:120cm以上 両側居室:160cm以上 |
設計・建築段階 |
| 消防法 | 室外機設置後65cm以上確保 | 使用開始後の運用段階 |
| 火災予防条例 | 避難に支障となる物件の禁止 | 日常管理 |
分譲マンションでは消防法や建築基準法の要件を満たしていても、管理規約や使用細則で共用部分への室外機設置を制限している場合があります。区分所有法では廊下は共用部分とされており、管理規約に定められた使い方しかできないため、法令上問題なくても規約で禁止されていれば設置できません。
参考)https://question.realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/13243438088/
実務フローとしては、まず物件の管理規約を確認し、室外機設置に関する規定を把握することが最優先です。最近のマンションでは設計段階で室外機置き場スペースが確保されており、その場合は規約でも設置が許可されていることが多いですが、古いマンションでは専用スペースがない場合もあります。
参考)https://plus-service.net/news/installation-location-of-outdoor-unit
専用スペースがない場合でも設置を希望する際は、以下の手順を踏む必要があります。
特に消防署への確認は「念のため」ではなく必須手順と考えるべきです。消防同意が得られない状態で設置すると、後日消防査察で指摘を受け撤去を命じられる可能性があり、施工業者の責任問題にも発展しかねません。
参考)https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=202640amp;id=74522984
共用廊下側に室外機を設置する場合、住戸と共用廊下を隔てる壁は耐火区画となるため、配管が壁を貫通する部分には法令で定められた耐火処理が必要です。建築基準法では防火区画を貫通する設備配管について、耐火性能を低下させないような措置(防火区画貫通処理)を義務付けています。
参考)http://www.inaba-denko.com/ja/inaba_note/detail/20
具体的な処理方法としては、まず配管まわりのすき間を不燃材料で埋めることが基本となります。不燃材以外の配管(塩ビ管など)を使用する場合は、以下のいずれかの方法が認められています。
参考)https://kakunin-shinsei.com/penetration-processing/
実務上よく見落とされるのが、エアコン配管用の穴が既に開いている物件でも、耐火区画貫通部処理が適切に施されているか確認する必要がある点です。特に築年数の古い物件では当時の基準で施工されているため、現行法令に適合しない場合があります。
参考)https://question.realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/14253890249/
また、共用廊下側に室外機を設置する際は室外機からの排水処理にも配慮が必要です。排水が廊下に流れ出ると滑りやすくなり避難時の危険要因となるため、適切なドレン配管計画が求められます。
参考)https://www.pref.kyoto.jp/jutaku/news/documents/besshi3_shisetsusekkeiyoryo.pdf
共用廊下への直置きが困難な場合、建築業従事者として複数の代替案を提示できることが重要です。天吊り設置は床面積を有効活用でき、避難経路の通行幅を確保しやすい方法として注目されています。
参考)https://4-u.co.jp/column/1324/
天吊り設置を行うには、ベランダや廊下の天井部分に専用の吊り金具やボルトが取り付けられている必要があります。バルコニー幅が狭い住棟では設計段階から天井に室外機の架台を吊るす取り付け金具が設置されているケースもあります。ただし天吊り用の構造がない建物では追加工事が必要となり、共用部分への加工となるため管理組合の承認が不可欠です。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12247474007
壁掛け設置は外壁に専用の架台を取り付けて室外機を固定する方法で、ベランダがない部屋や設置スペースが極めて限られている場合に有効です。しかしマンションの外壁は共用部分にあたるため、管理規約で住民が勝手に加工することは固く禁じられているのが一般的であり、この場合も管理組合の許可が前提となります。
参考)https://flie.jp/magazine/estate/apartment-room-withnoairconditioning/
建築業者として差別化できるのは、法令遵守はもちろんのこと、管理規約との整合性、近隣住民への配慮、美観の維持といった多角的な視点から最適な提案を行える点です。単に「法律上は可能」という説明だけでなく、管理組合との調整プロセスや必要書類の準備まで含めたトータルサポートが求められています。
参考)https://meetsmore.com/services/air-conditioner-installation/media/129328
特に賃貸物件では、大家の許可を得ても消防法上の制約で設置できない場合があることを事前に説明し、代替案を用意しておくことがトラブル回避につながります。入居者の快適性と建物の安全性・法令遵守を両立させる専門家としての役割が、建築業従事者には期待されているのです。
参考)https://www.s-okura.com/topics.php?id=24
参考:消防法における避難経路と室外機設置の詳細な基準については、各自治体の火災予防条例も確認が必要です。
共用廊下に室外機を置くのはNG??消防法違反になりうる!?
参考:建築基準法における廊下幅員の規定と防火区画貫通処理の技術的詳細について。
建築設計における『廊下幅』とは【建築基準法をわかりやすく解説】
参考:室外機設置における管理規約と消防署への確認手順の実務的ガイド。