
モルタル外壁は、日本の住宅建築において窯業系サイディングに次いで2番目に普及している外壁材です。セメントと砂(細骨材)を水で練り混ぜ、木材やラス網などの下地に塗り付けて仕上げる湿式工法の外壁材です。
モルタル外壁の構造は主に以下の層から成り立っています。
モルタル外壁は「湿式外壁」に分類されます。これは工場で製造された板を現場で組み合わせる「乾式外壁」(サイディングなど)と対照的に、現場で材料を水と混ぜて施工する方式です。この特性により、一体感のある仕上がりが実現できます。
モルタルは素材としての汎用性が高く、以下のような用途で広く使われています。
コンクリートとモルタルは見た目が似ていることから混同されがちですが、大きな違いがあります。コンクリートには砂利が含まれるのに対し、モルタルには含まれません。また、モルタルの方がより滑らかな質感に仕上がる特徴があります。
モルタル外壁の施工は、熟練した職人の技術が重要となる工程です。基本的な施工手順は以下の通りです。
モルタル外壁の仕上げ方法には、様々な種類があり、それぞれ異なる特徴と印象を持っています。
リシン仕上げ
細かい粒によるザラザラとした質感が特徴で、モルタル外壁の中では最も一般的な仕上げ方法です。塗料に細かい砂や石(骨材)を混ぜ、勢いよく吹き付けることで完成します。マットで落ち着いた印象を与えますが、経年劣化で骨材が剥がれやすく、細かい凹凸に汚れが付きやすい点が欠点です。
スタッコ仕上げ
リシンよりも大きめで厚めの凹凸が特徴的な仕上げ方法です。高級感や重厚感があり、塗料に大きめの砂や石を混ぜて吹き付けます。凹凸に厚みがあるため、汚れが入り込みやすく、メンテナンスに手間がかかる傾向があります。
吹き付けタイル
陶磁器のようなツルツルとした質感が特徴の仕上げ方法です。専用の吹き付けガンで凹凸を表現し、リシンやスタッコよりも滑らかな印象を与えます。弾性の高い塗料を使用することで、モルタルの弱点であるひび割れを防ぎやすくなります。トップコートを塗ることで耐久性を高めることも可能です。
左官仕上げ
コテやローラーを使って手作業で模様を描く仕上げ方法で、高い意匠性と個性を表現できます。波型や横縞模様、扇形など様々な模様を施すことができ、職人と相談しながら好みのデザインを選べます。ただし、表現できる模様や品質は職人の技術に大きく左右されるため、経験豊富な専門家に依頼することが重要です。
モルタル外壁には、他の外壁材と比較して多くの優れた特徴があります。外壁塗装業者として施主にアドバイスする際に、以下のメリットを伝えることで、モルタル外壁の価値を理解してもらえるでしょう。
1. 高いデザイン性と自由度
モルタルは塗り方によって様々な模様や質感に仕上げることができ、デザイン性を重視する施主に最適です。和風・洋風を問わず、建物のイメージに合わせた仕上げが可能で、カーブや丸みを持たせることもできます。サイディングと異なりつなぎ目がないため、シームレスな美しい外観を実現できます。
2. 優れた耐火性能
モルタルには燃えにくい性質があり、火災時の延焼を防ぎやすくなります。国土交通省が建築基準法に基づいて定めた防火構造の方法でも、一定の厚さにモルタルを塗れば基準を満たすとされています。木造住宅が多い日本では、この耐火性の高さは大きな利点となります。
3. コーキング補修が不要
モルタル外壁は一体成形のため、サイディングのようなつなぎ目が発生せず、コーキング(シーリング)が不要です。サイディングの場合、約10年でコーキングの寿命を迎え、定期的な補修が必要になりますが、モルタル外壁ではこの手間とコストを省くことができます。
4. 伝統的な風合いと経年変化の美しさ
モルタル外壁は時間の経過とともに独特の風合いが生まれ、経年変化を楽しめる素材です。特に和風建築との相性が良く、日本の気候風土に適した伝統的な外観を実現できます。適切にメンテナンスを行うことで、長年にわたって味わいのある外観を維持できます。
5. 断熱性と遮音性
モルタルは適切な厚みで施工することで、ある程度の断熱性と遮音性を発揮します。特に夏場の熱を遮断する効果があり、住宅の快適性向上に貢献します。最近では断熱材と組み合わせた施工方法も増えており、断熱性能をさらに高めることも可能です。
モルタル外壁には多くのメリットがある一方で、いくつかの注意すべきデメリットも存在します。施工業者として、施主に対して正確な情報を提供し、適切なメンテナンス計画を立てることが重要です。
1. ひび割れ(クラック)の発生
モルタル外壁の最大の弱点は、経年劣化によるひび割れです。モルタルは時間の経過とともに徐々に乾燥し、自然にひび割れを起こしやすい性質があります。ひび割れは大きく分けて以下の2種類があります。
ヘアークラックは内部への影響がほぼないため緊急の対応は不要ですが、構造クラックはひびから雨水が侵入し、内部を腐食させる恐れがあるため、早急なコーキング施工などの対策が必要です。
2. 汚れやすさと清掃の難しさ
モルタル外壁は表面に多数の小さな凹凸があるため、汚れがたまりやすい特徴があります。また、ひび割れ部分に汚れが入り込むこともあり、一度付着した汚れを完全に除去するのは困難です。特に北側や日陰になる部分は、苔や藻、カビが発生しやすくなります。
3. 職人の技術に依存する品質
モルタル外壁は手作業による施工のため、職人の技術力によって仕上がりの品質が大きく左右されます。経験の浅い職人による施工では、均一な厚みや平滑さを確保できない場合があります。また、手作業になる分、人件費が高くなり、施工日数も長くなる傾向があります。
4. 定期的なメンテナンスの必要性
モルタル外壁の耐用年数は約30年ですが、防水性を維持するためには5~15年ごとに塗装などのメンテナンスが必要です。メンテナンスを怠ると、ひび割れから雨水が侵入し、下地の腐食やシロアリ被害などの深刻な問題につながる可能性があります。
5. 重量による構造への負担
モルタルは比較的重い材料であるため、建物の構造に負担をかけることがあります。特に木造住宅の場合、経年による沈下や歪みが生じると、モルタル外壁にさらなるひび割れが発生するリスクが高まります。
モルタル外壁の耐用年数は適切なメンテナンスを行った場合、約30年とされています。しかし、外壁の状態を良好に保ち、建物を保護するためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。一般的に5~15年ごとのメンテナンスが推奨されています。
モルタル外壁の劣化症状
モルタル外壁に以下の症状が見られた場合、メンテナンスのサインと考えるべきです。
効果的なメンテナンス方法
モルタル外壁を長持ちさせるためのメンテナンス方法は以下の通りです。
メンテナンス費用の目安
30坪程度の一戸建て住宅(外壁面積約120~130m²)の場合のメンテナンス費用相場は以下の通りです。
工程 | 費用相場 |
---|---|
足場の設置 | 700円/m² |
コーキング | 900~1,260円/m |
高圧洗浄 | 300円/m² |
養生 | 300円/m² |
塗装費用 | 3,000円/m² |
塗料代 | 20~60万円/工事 |
立地条件や外壁の状態、選択する塗料の種類、施工業者によって費用は大きく変動するため、複数の業者から見積もりを取ることをお勧めします。
モルタル外壁は伝統的な外壁材ですが、近年の技術革新により、従来のデメリットを克服する新しい製品や工法が登場しています。外壁塗装業者として、これらの最新トレンドを把握しておくことで、施主により良い提案ができるようになります。
1. 高機能モルタル材の登場
従来のモルタルの弱点であるひび割れや防水性の問題を解決するため、様々な高機能モルタル材が開発されています。