
ねずみ鋳鉄とダクタイル鋳鉄の最も大きな違いは、組織に含まれる黒鉛の形状です。ねずみ鋳鉄(FC材)は片状の黒鉛を含有しているのに対して、ダクタイル鋳鉄(FCD材)は球状の黒鉛を含有しています。この黒鉛形状の違いが、両者の機械的性質や用途に大きな影響を与える要因となっています。
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ねずみ鋳鉄は、その破断面が灰色またはねずみ色に見えることからこの名称が付けられました。片状黒鉛鋳鉄とも呼ばれ、黒鉛が花片の集まったような形状をしています。一方、ダクタイル鋳鉄は球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれ、鋳造直前にマグネシウムやセリウムを添加することで黒鉛を球状化させます。
参考)鋳鉄 FC材とFCD材
両者の破断面の見た目にも違いがあります。ねずみ鋳鉄の破断面は濃い灰色で粗く、ダクタイル鋳鉄の破断面は銀灰色で滑らかな特徴を持っています。この黒鉛形状の違いにより、応力集中のしやすさが変わり、材料の延性や靭性に大きな差が生まれるのです。
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ねずみ鋳鉄は、炭素含有量が2.1〜6.7%の鉄-炭素合金で、鉄(Fe)が90%以上、その他主要5元素(C、Si、P、S、Mn)が10%以下という組成を持っています。炭素量が多いため、加工時に使用する機械や工具が真っ黒になるのが特徴です。
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主要な添加元素としては、ケイ素(Si)が鋳造性と耐熱性を向上させ、マンガン(Mn)が強度と耐摩耗性を向上させます。リン(P)は流動性と加工性を向上させますが、硫黄(S)は流動性を高める一方で強度を低下させ、脆性を向上させる効果があります。
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ねずみ鋳鉄の規格としては、FC150、FC200、FC250、FC300などがあり、数値は引張強度(N/mm²)を示しています。例えばFC200の場合、炭素当量(CE値)は4.05〜4.20、炭素含有量は3.45〜3.55%、ケイ素は1.80〜2.00%が標準とされています。製造時は冷却速度が遅いと炭素が黒鉛の形で多く結晶化する特性があります。
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ダクタイル鋳鉄の製造における最大の特徴は、マグネシウム処理による黒鉛の球状化です。鋳造直前に取鍋でサンドイッチ法によるマグネシウム添加を行い、マグネシウム反応後15分以内で鋳込みを終える必要があります。この処理により、ねずみ鋳鉄の弱点である脆さを改善し、延性と靭性を大幅に向上させることができます。
参考)Instagram
マグネシウム含有率によって、チル化(白銑化)の防止効果が異なります。特に薄肉ダクタイル鋳物では、低マグネシウム含有率のFe-Si-Mg系球状化剤がチル化を抑制する効果があることが確認されています。処理後の残留マグネシウム量は、溶湯温度や添加量により調整され、通常0.013〜0.019%程度に管理されます。
参考)https://orist.jp/technicalsheet/99042.PDF
ダクタイル鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と比べて鋳造時の凝固収縮が大きくなる傾向がありますが、鋳造性自体は良好です。稀土類元素(RE)やカルシウムを含む球状化剤を使用することで、より安定した球状黒鉛の生成が可能になります。金型遠心鋳造法を採用した場合、均一な肉厚、緻密な組織、滑らかな表面が得られ、鋳造欠陥が少ない高品質な製品が製造できます。
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ねずみ鋳鉄とダクタイル鋳鉄では、引張強度と圧縮強度に顕著な違いがあります。ねずみ鋳鉄は引張強度が低い一方で圧縮強度は高く、片状黒鉛により応力が集中しやすいため、引っ張る力に対しては弱い特性を持ちます。対してダクタイル鋳鉄は、引張強度と圧縮強度の両方が高く、球状黒鉛により応力分散が良好なため、引っ張り力にも十分耐えられます。
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延性において両者の差はさらに顕著です。ねずみ鋳鉄は延性が低く、衝撃に対して脆いという弱点があります。伸びがなく脆い性質のため、急激な荷重がかかると破断しやすくなります。一方、ダクタイル鋳鉄は2〜18%の伸びを示し、衝撃靭性も大きく向上しています。球状黒鉛鋳鉄として強度を保ちながらも靭性に優れる材料特性を持ちます。
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破断時の挙動にも違いがあり、ねずみ鋳鉄は脆性破壊を起こしやすく、ダクタイル鋳鉄は延性破壊の特性を示します。この違いにより、ダクタイル鋳鉄は衝撃を受けてもすぐには折れない利点があり、耐衝撃性が求められる用途に適しています。実際の数値として、ダクタイル鋳鉄の引張強さと延性は、ねずみ鋳鉄と比較して格段に優れた性能を発揮します。
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耐摩耗性に関しては、両材料とも優れた性能を示しますが、組織による違いがあります。ねずみ鋳鉄は高い耐摩耗性を持ち、切削工具やエンジン部品などの摩擦が多い環境で広く使用されています。ダクタイル鋳鉄はねずみ鋳鉄以上の耐摩耗性を持ち、特にパーライト組織の場合、その性能は非常に優秀です。ただし、フェライト基地になると耐摩耗性は劣る傾向があります。
参考)https://www.jdpa.gr.jp/guidebook/chapter2.pdf
耐熱性においては、ダクタイル鋳鉄がねずみ鋳鉄よりも優れています。特に耐成長性(高温での寸法変化への耐性)が良好であることが多くの報告で認められており、ケイ素の影響が大きいとされています。球状黒鉛の形状が外部からの酸化性ガスの侵入を妨げるため、耐熱性と耐成長性を高める効果があります。
ねずみ鋳鉄も400〜500℃までの高温に耐えられる耐熱性を持ち、ターボチャージャーの部品のように約800℃の排気ガスに曝される環境でも使用されています。減衰性(振動吸収性)においては、ねずみ鋳鉄が非常に優れており、振動をよく吸収する特性があります。ダクタイル鋳鉄も耐振動性に優れていますが、この点ではねずみ鋳鉄に劣ります。この特性により、ねずみ鋳鉄は工作機械用ベッドやテーブルなどの振動吸収が必要な用途に適しています。
参考)株式会社高岡製作所
加工性において、ねずみ鋳鉄は非常に優れた特性を持っています。鋳造しやすく複雑な形状の部品も加工しやすいため、被削性(切削加工のしやすさ)が高いのが大きなメリットです。片状黒鉛が存在する箇所から剥がれやすく、切削加工を施すと細かな切り屑が生じます。この特性により、切削や研削などの機械加工が容易で、生産効率が高くなります。
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ダクタイル鋳鉄も加工性は高いものの、強度が高いため切削加工時にはより大きな力を必要とします。高い引張強度と伸びるという特性により、ねずみ鋳鉄に比べると切削加工がしにくい傾向があります。鋳造性については、ダクタイル鋳鉄もねずみ鋳鉄ほどではないものの良好な性質を持っています。
コスト面では、ねずみ鋳鉄が圧倒的に有利です。製造コストが低く、材料費も安価なため、大量生産に適しています。ダクタイル鋳鉄も安価な部類に入りますが、近年の物価高や原材料価格の上昇、エネルギーコストの増加により、製造コストが上昇しつつあります。鋳鉄は一般的に鋳鋼よりも安価で、材料費が低くエネルギー消費も少ないため、コスト効率を重視する場合に適しています。複雑な形状でも製造が比較的容易で、量産によるコスト削減効果が高いのも鋳鉄の特徴です。
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建築配管における選択では、強度要件によって使い分けが重要です。ダクタイル鋳鉄管は高い引張強度と延性を持つため、上下水道管やガス管など、圧力がかかる配管システムに適しています。震度9度の地震にも耐えられる耐震性を備え、15度以内の揺動でも漏洩しない優れた密閉性があります。パイプラインの大きな軸方向伸縮変位や横たわり変形に対応できる柔軟性も特徴です。
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ねずみ鋳鉄管は、下水道管や雨水排水管として使用されてきました。地中に埋めるため脆さが大きな問題になりにくく、高い耐摩耗性と耐圧性により、砂や土、汚水などが流れてもすり減りにくい特性があります。工場配管では、耐摩耗性や耐薬品性が求められる箇所にねずみ鋳鉄が採用されています。
建築部品の選定では、マンホール蓋の使い分けが典型例です。車道用マンホール蓋には高い強度が必要なため球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)が使用され、歩道用マンホール蓋にはねずみ鋳鉄が採用されます。自動車部品では、エンジンのシリンダーブロックやクランクケースにねずみ鋳鉄が、車両部品や鉄道車輪などの高強度が求められる部位にダクタイル鋳鉄が使われます。工作機械の本体や構造部品には、振動吸収性に優れるねずみ鋳鉄が選ばれることが多く、圧縮強度を活かして柱のような構造物の部品としても利用されています。
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耐食性については、両材料とも良好な性質を持っていますが、使用環境により適性が異なります。ねずみ鋳鉄は優れた耐食性を持ち、化学薬品や腐食性物質に対して耐久性があります。この特性により、工場配管や薬品を扱う設備に適しています。
ダクタイル鋳鉄管では、表面処理が重要な役割を果たします。金型遠心鋳造法により製造された鋳鉄管は、均一な肉厚と緻密な組織、滑らかな表面を特徴とし、ふくれやスラグの混入といった鋳造欠陥がありません。内面には粉体塗装、外面にはダクタイト(合成樹脂)による黒色塗装が施され、腐食から保護されています。
参考)https://www.stk-valve.co.jp/wp/wp-content/uploads/pricelist_2024_0307.pdf
表面品質の違いも選定ポイントになります。ねずみ鋳鉄は砂穴などの表面欠陥が多い傾向がありますが、ダクタイル鋳鉄はよりコンパクトで洗練された表面仕上げとなっています。ゴム製のインターフェースを使用することで騒音を抑制でき、静音性が求められる居住環境での配管に適しています。また、ダクタイル鋳鉄の機械製鋳鉄管は耐用年数が建物の想定寿命を超える長寿命を持ち、高層ビルの耐震補強にも使用可能です。フランジグランドとゴムリング、またはライニングゴムリングとステンレスクランプの組み合わせにより、柔軟な接続と優れた密閉性を実現しています。