

新潟県中越地震は、2004年(平成16年)10月23日17時56分に新潟県中越地方を震源として発生したマグニチュード6.8、震源の深さ13キロの直下型地震です。新潟県北魚沼郡川口町(現・長岡市)で観測史上2回目となる最大震度7を記録し、1995年の阪神・淡路大震災以来9年ぶりの震度7となりました。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%BD%9F%E7%9C%8C%E4%B8%AD%E8%B6%8A%E5%9C%B0%E9%9C%87
気象庁はこの地震を「平成16年(2004年)新潟県中越地震」と命名し、新潟県は震災の呼称を「新潟県中越大震災」としています。 本震発生後も、マグニチュード6.0(18時11分)、マグニチュード6.5(18時34分)と、マグニチュード6を超える大きな余震が立て続けに発生し、群発地震的な様相を呈したことが大きな特徴です。
この地震では、死者68人、負傷者4,805人、全壊家屋3,175棟の被害が発生し、避難者数はピーク時に10万人に達しました。 被災地域では土曜日の夕方という時間帯に発生したため、在宅率が高く、特に山間部の高齢者が多く被災する結果となりました。
参考)https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/r06/111/special_01.html
新潟県中越地震による住宅被害は極めて深刻で、全壊2,827棟、大規模半壊1,969棟、半壊10,778棟、一部損壊101,938棟にも及び、住家が約12万棟、非住家が約4万棟の計16万棟が被害を受けました。 被害総額は約3兆円を超える大規模災害となり、中越地域の社会経済に甚大な影響をもたらしました。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kikitaisaku/1201626029355.html
住宅被害の特徴として、築年数の古い木造住宅の倒壊が多く見られました。犠牲者51名のうち約6割が65歳以上の高齢者で、死因の多くは地震発生直後の建物倒壊によるものでした。 直下型地震の激しい揺れと、浅い震源深度(約13km)が被害を拡大させた要因となっています。
参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/saigai/H161023/chuetsu-jishin/1/1-2-1.html
建物被害の調査では、体育館の耐震ブレースの座屈・破断が多数観察され、被災度区分判定で大破と判定された建物が散見されました。 また、度重なる余震によって、天井材や照明などが新たに落下する二次被害も発生しています。 耐震設計が十分な建物は無被害もしくは被害軽微であったことから、耐震計画の重要性が改めて認識されることとなりました。
参考)http://stahl.arch.t.u-tokyo.ac.jp/REPORT/2004Niigata.htm
新潟県中越地震は、北北東-南南西方向の断層面を持つ北西側隆起の逆断層型地震として発生しました。 本震の発震機構解は、北西-南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型であり、この地域特有の地質構造が地震発生に大きく関与しています。
参考)https://www.hrr.mlit.go.jp/saigai/H161023/chuetsu-jishin/1/1-1-1.html
この地域では、約300万年前から北西-南東方向に地殻が圧縮され始め、新潟堆積盆地の中に逆断層と褶曲構造が形成されました。 その圧縮変形は現在も活発に進行しており、地震のメカニズムは圧縮応力の主軸が西北西-東南東方向の逆断層型で、断層の走向はこの地域の褶曲構造の走向と平行しています。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/27620.pdf
地震の発生には伏在逆断層(地表に現れない断層)が関与しており、震源は概ね背斜軸の直下に位置していました。 約200万年前には東西圧縮応力が強くなり、かつての正断層が逆断層として再活動することで、現在の丘陵が隆起してきたと考えられています。 このような地質学的背景により、中越地域は今後も同様の地震が発生する可能性を持つエリアとして、継続的な監視と防災対策が必要とされています。
参考)http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00061/2005/32-03-0181.pdf
新潟県中越地震後の復興支援では、被災者の住宅再建を支援するため、様々な制度が整備されました。被災者住宅応急修理支援制度では、半壊の被害を受けた方々のうち、応急的な修理を行えば自宅に戻って居住できる世帯に対して支援が行われました。 また、民間賃貸住宅入居支援として、高齢者(65歳以上)または障害者を対象に3万円/月(5年間)の補助が新潟県中越地震復興基金事業によって実施されました。
参考)https://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/saikenshien/pdf/siryo2_3.pdf
仮設住宅については、避難所の環境改善が重要課題となり、長期避難者向けの仮設住宅の環境整備が進められました。 新潟県中越沖地震における応急仮設住宅の経験から、仮設住宅から一般住宅への自立支援の重要性が認識され、住宅相談や情報提供の利用状況の把握が行われました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/japaninteriorsociety/21/0/21_21/_pdf/-char/en
住宅金融支援機構では、生活福祉資金貸付金(福祉資金(住宅))と災害援護資金の利子補給事業を平成19年11月から開始し、被災者の住宅再建を金融面からサポートしました。 さらに、親族等の住宅への入居支援など、多様な住居確保の選択肢が用意され、被災者の状況に応じたきめ細かな支援が展開されました。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/59172.pdf
新潟県中越地震の復興において最も特徴的だったのは、「新潟モデル」と呼ばれる地域コミュニティを中心とした復興支援の考え方です。中越大震災復興基金では、コミュニティ(集落)の再生・復興を促す各種の事業が展開され、地域復興を体現する取り組みが行われました。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/93658.pdf
コミュニティ施設の再建支援事業は、復興初期に各地で申請された人気メニューとなり、鎮守や神社などの補修や再建に取り組むことで、集落やコミュニティの再生を強く意識し、山に戻ることを促す効果がありました。 また、地域復興デザイン策定支援では、集落や地域の将来を考えることで、元に戻るだけではない新しい地域づくりへの取組を喚起する効果が見られました。
地域復興支援員制度は、中越地震で被災した旧山古志村等で創設され、集落毎に復興計画を策定して集落コミュニティの再生を図る重要な役割を果たしました。 この制度により、地域復興支援員が被災地域に配置され、地域住民に寄り添いながら復興活動をサポートする体制が構築されました。
参考)https://www.reconstruction.go.jp/files/user/topics/main-cat1/sub-cat1-4/20131113_2-1inagaki.pdf
被災したコミュニティ施設の再建に対しては、集落または自治会等を対象とした地域コミュニティ施設等再建支援が行われ、集会所等の再建が促進されました。 中山間地域の復興に欠かせない互助の力とその基盤であるコミュニティの力を引き出すことで、持続可能な地域づくりが目指されました。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/bosaikikaku/hisaisyaseikatusienntaisaku.html
新潟県中越地震は、不動産業界にとって重要な教訓を残しました。まず耐震対策の強化については、建物の耐震基準が見直され、耐震改修が進められるとともに、木造住宅の耐震補強が重視されるようになりました。 新潟県では、安心して暮らすために自宅が地震に対して耐えられるかどうかを調べる耐震診断と、地震に弱い場合は家屋の状況に応じた耐震補強・改修の促進に取り組んでいます。
参考)https://peacesigns.jp/category_mimamoriservice/article_101
宅地被害の分析からは、今後の宅地防災対策のあり方について重要な知見が得られました。被災宅地危険度判定士による判定結果から、宅地被害の教訓が整理され、液状化対策と耐震補強の重要性が浮き彫りになりました。 同様の地盤性リスクを抱える地域では、液状化マッピング、地盤改良、耐震補強が行政・企業双方で急務とされています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejseee/65/1/65_1_837/_pdf/-char/en
BCP(事業継続計画)の強化も重要な教訓です。製造業やインフラ事業者は、被災時でも操業継続を図る体制整備が不可欠であり、自社の被災が全国に影響するという事実がBCP策定・訓練の必要性を浮き彫りにしました。 企業が考える大地震への備えとして、新潟県中越地震から20年が経過した現在でも、この教訓は生き続けています。
参考)https://sakigakejp.com/202507143406/
不動産業界としては、土砂災害対策の強化も見逃せません。山間部では、ハザードマップを確認し、土砂災害警戒区域を把握することが重要です。 斜面に近い住宅については、擁壁や排水設備の強化が必要であり、緊急時に避難できる経路を日頃から確認しておくことが推奨されます。
地域防災の強化として、地域ごとのリスク分析を進め、防災計画を細かく見直す動きが強まりました。 住民の防災意識向上のための訓練が増加し、北条地区では発災後1時間以内の対応が可能になるなど、住民主体の連携体制が功を奏した事例も報告されています。
長岡市では「長岡市防災体制強化の指針」を作成し、ライフラインの強靭化と情報共有をハード・ソフト両面から強化しました。 不動産業界においても、物件の耐震性能や防災設備の充実、ハザードマップ情報の提供など、顧客への適切な情報提供と防災意識の啓発が求められています。
新潟県中越地震から20年の被害と復興の詳細(内閣府防災情報)
新潟県中越地震の地質学的背景(新潟県公式資料PDF)
中越大震災復興基金の概要解説(新潟県公式資料PDF)