

ピニオンギアのモジュール(m)は、歯車の大きさを表す最も基本的な規格です。モジュールは基準円直径を歯数で割った値として定義され、単位はミリメートルで表されます。JIS規格では0.75~12mmの範囲でモジュールが標準化されており、ピニオンカッタによる加工に対応しています。
参考)https://www.monotaro.com/note/readingseries/kikaikiso/0103/
基準円直径dはモジュールmと歯数zを用いて「d=m×z」という式で計算できます。例えば、モジュール2で歯数15枚のピニオンギアの基準円直径は30mmとなります。この計算式は歯車設計の基礎となり、ギア比の算出や中心距離の決定に不可欠です。
参考)https://rt-net.jp/mobility/archives/13111?lang=ja
モジュールには複数の規格体系が存在します。日本やヨーロッパではメートル法に基づくモジュール規格が使われる一方、アメリカではインチ単位のダイヤメトラルピッチ(DP)が採用されています。RCカーなどのホビー用途では48ピッチ、64ピッチ、0.4モジュール、0.6モジュールが混在しており、互換性に注意が必要です。
参考)https://shiny-rc.hatenablog.com/entry/2022/09/24/003029
| 規格体系 | 主な使用地域 | 代表的な値 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| モジュール(m) | 日本・欧州 | 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 | メートル法、JIS規格準拠 |
| ダイヤメトラルピッチ(DP) | 米国 | 48P, 64P | インチ単位、1インチ当たりの歯数 |
| ピッチ | RC用途 | 48, 64 | 直径1インチ当たりの歯数 |
実務では、既存の歯車と噛み合わせるためにモジュールを正確に一致させる必要があります。異なるモジュールの歯車を組み合わせると、歯の噛み合いが不良となり、騒音や早期摩耗の原因となります。
参考)https://www.monotaro.com/note/readingseries/kikaikiso/0104/
圧力角は歯車が力を伝達する際の角度を示す重要な規格パラメータです。現在のJIS規格およびISO国際規格では20°が標準圧力角として採用されており、強度、効率、静粛性、製造の容易さのバランスが最適化されています。
参考)https://www.ichima2engineer.com/gear/
歯車の圧力角には複数の選択肢があり、用途に応じて使い分けられています。14.5°はかつて広く使われていた古い規格で、20°よりも静粛性に優れますが、歯の強度が低くアンダーカットが発生しやすいという欠点があります。一方、25°以上の圧力角は重工業向けの特殊用途で採用され、より高い強度や負荷容量を実現しますが、騒音や振動、軸受への負荷が増加する可能性があります。
圧力角は作用線と呼ばれる力の伝達線の角度を決定します。作用線は噛み合う歯車の基礎円に接する直線であり、インボリュート歯車ではこの圧力角が噛み合い中に一定に保たれるため、スムーズな動力伝達が可能です。
ピニオンギアの歯形には並歯(標準歯)が最も一般的ですが、用途によってはヘリカルギア(はすば歯車)も選択されます。ヘリカルギアは歯が角度を持って配置されているため、並歯よりもスムーズで静かな動作が可能です。建設機械向けの大型ピニオンギアではモジュール14、圧力角20°のSCM420材が使用される事例もあります。
参考)https://ja.nc-net.or.jp/company/24979/product/detail/49628/
圧力角の選定では、歯数が少ない小歯車(ピニオン)において特に注意が必要です。圧力角が低い場合や歯数が少ない場合、アンダーカット(歯元が細くなり曲線状にえぐれた状態)が発生しやすく、歯の強度が低下します。
参考)https://shindensha.co.jp/des/592/
歯車の基礎知識とモジュール、ピッチの詳細解説はこちら
ピニオンギアの材質選定は使用環境、負荷条件、コストを総合的に考慮して決定されます。最も一般的な材質は機械構造用炭素鋼のS45Cで、高い強度と耐摩耗性を持ち、一般的な産業用途に広く採用されています。
参考)https://saitoukouki.com/special-shape
金属材料の中では、鋼や鋳鉄が高負荷環境で主に使用され、耐摩耗性や強度が求められる用途に適しています。合金鋼のSCM420やSCM440は高い強度が必要な建設機械や重工業向けのピニオンギアに選ばれます。ステンレス鋼(SUS304など)は耐腐食性が高く、食品機械、化学機械、医療機器の分野で使用され、衛生面が重要視される環境で長期間の性能維持が可能です。
参考)https://piniontec.co.jp/column/1456ba0d-f898-44a2-815d-ad5d4ac0e608
非鉄金属としては、アルミニウム合金が軽量で加工が容易なため、小型機器や軽負荷の分野での使用が効果的です。耐腐食性に優れているため、湿気の多い環境や化学薬品が扱われる場面でも活躍します。真鍮(C3604)は腐食に強いため、海洋や食品加工に適しています。
参考)https://www.richconn-cnc.com/ja/what-is-a-pinion-gear.html
樹脂材料のピニオンギアも近年増加しています。ポリアセタール(POM)は自給油性があり、軽量で寸法安定性に優れており、軽負荷の歯車に適しています。プラスチック素材は耐摩耗性が高く、静音性を求められる用途に向いており、家庭用機器や精密機器の歯車として適しています。プラスチック製ギアは軽量であるため組み立てや取り扱いが容易で、電子機器、玩具、軽負荷機械によく使用されています。
| 材質分類 | 代表材質 | 主な特性 | 適用用途 |
|---|---|---|---|
| 炭素鋼 | S45C | 高強度・耐摩耗性 | 一般産業機械 |
| 合金鋼 | SCM420/440 | 高強度・高負荷対応 | 建設機械・重工業 |
| ステンレス鋼 | SUS304 | 耐腐食性 | 食品・医療・化学機械 |
| アルミ合金 | A5056 | 軽量・耐腐食性 | 小型機器・軽負荷 |
| 樹脂 | POM/PP/PC | 軽量・静音・自己潤滑 | 家電・精密機器・玩具 |
材質選定では機械的性質と特長によって決定することが重要です。例えば、樹脂歯車とステンレス歯車の噛み合いパターンでは、樹脂の自給油性を活用することで潤滑性能を向上させることができます。意外な選択肢として、紙などの特殊材料も特定用途で使用されることがあります。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td03/a0082.html
ピニオン歯車の材質選定と購入前のチェックポイント解説
ピニオンギアの精度は用途における性能と耐久性を左右する重要な規格要素です。現在のJIS規格ではJIS B 1702-1:1998に基づく精度等級が定められており、市販されている標準ピニオンギアの多くはJIS N8級相当の精度で製造されています。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E3%83%94%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%A4/
JIS精度等級は旧規格からの移行により、従来のJIS 4級(JIS B 1702:1976)が現在のJIS N8級に相当します。この精度等級は歯車の歯形誤差、ピッチ誤差、歯筋誤差などの幾何学的精度を規定しており、等級番号が小さいほど高精度を意味します。
参考)https://www.kggear.co.jp/wp-content/uploads/2022/11/KG4001WEB-10.pdf
ピニオンギアの品質基準には歯面硬度も含まれます。標準的なS45C材のピニオンギアでは歯面硬度194HB以下と規定されており、これは切削加工による歯面仕上げに適した硬度範囲です。高負荷用途では高周波焼入れなどの熱処理を施すことで歯面硬度を高め、耐摩耗性と負荷容量を向上させることができます。
参考)https://www.monotaro.com/s/attr_f957-5/q-%E3%83%94%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%82%A2/
精度の高い製品を選ぶことで、機械全体の動作がスムーズになり、トラブルを未然に防ぐことができます。特に高精度な加工が求められる場合は、信頼できるメーカーから購入することが推奨されます。歯研仕上げによる高精度仕様のピニオンギアも提供されており、産業用ロボットや精密機械での使用に適しています。
参考)https://piniontec.co.jp/column/3adde689-0114-45ea-b2b2-d0f7fbf2f188
表面処理も品質基準の一部として重要です。黒染処理が標準的に施されており、これにより軽度の防錆効果と外観の向上が得られます。使用環境によっては、より高度な表面処理や特殊コーティングが選択されることもあります。
参考)https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/221000015270/
KHKなどの主要歯車メーカーでは、規格品のピニオンギアについて精度等級、材質、表面処理、歯面硬度などの詳細な仕様を公開しており、用途に応じた適切な製品選定が可能です。新JIS約9~10級相当の製品も市場に存在し、用途に応じた精度レベルの選択肢が提供されています。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E3%83%94%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%82%A2%20%E3%83%A2%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB0%252E5/
ピニオンギアの歯数は動力伝達のギア比を決定する基本要素です。ギア比は大歯車の歯数を小歯車(ピニオン)の歯数で割った値として算出され、回転速度とトルクの変換比を表します。例えば、スパーギア45歯とピニオンギア12歯の組み合わせでは、ギア比は3.75となります。
参考)https://rt-net.jp/mobility/archives/24609?lang=ja
歯数の選定では、アンダーカット(切下げ)の発生を考慮する必要があります。標準的な圧力角20°の平歯車では、歯数が17歯未満になるとアンダーカットが発生しやすくなり、歯元が細くなることで強度が低下します。圧力角14.5°の場合はさらに制約が厳しく、より多くの歯数が必要です。
参考)https://www.kohwa-shoji.co.jp/pdf/SFI50.pdf
この問題を解決する方法が転位係数の利用です。正転位を施すことで、歯数が少ないピニオンでもアンダーカットを防止し、歯厚を厚くして負荷方向への強度を増すことができます。転位係数は工具の基準ピッチ線を歯車の基準円からずらす量を示し、モジュールで割った無次元量として表されます。
参考)https://www.amtecinc.co.jp/sigma-sh.pdf
具体的な転位係数の決定には複数の方法があります。歯数が少ない小歯車には0.5程度の正転位が施されることが一般的です。転位係数の設定方式としては、直接入力、またぎ歯厚からの計算、オーバーピン寸法からの計算、転位量からの計算などが使用されます。
参考)http://www5c.biglobe.ne.jp/take300/mitchell-facegear2J.htm
転位歯車の設計では、すべり率とかみあい率の関係を基準として最適な転位係数を決定することが重要です。アンダーカットが発生している歯形ではすべり率の値が大きくなり、かみあい圧力角が大きくなります。
参考)https://www.amtecinc.co.jp/catalogue/3_catalogue2012-1-8spur.pdf
噛み合う大小歯車のペアでは、小歯車(ピニオン)に正転位、大歯車に負転位を分け合うように設計することで、速比を維持しながら中心距離を調整できます。元々設定されている中心距離で歯車同士を噛み合わせる場合、やむを得ず切下げで設計することもありますが、歯車強度が確保できていれば問題なく使用可能です。
転位係数には限界値が存在し、正転位を大きくしすぎると歯先が尖ってしまい有効な歯車形状を逸脱します。限界値の範囲内で最適な転位係数を設定する必要があり、材料選定や熱処理も併用してベストな強度向上提案を行うことが推奨されます。
ピニオンギアの性能維持には適切な潤滑が不可欠です。歯車の潤滑には二つの主要な目的があります。第一に、歯面間の滑りを良くして動摩擦係数の値を少なくすること、第二に、転がり摩擦および滑り摩擦損失による温度上昇を抑えて歯車を冷却することです。
参考)https://kikaikumitate.com/post-11929/
ラック&ピニオンなどのオープンギア(密閉されていない歯車機構)では、金属と金属が接触し摩擦している状況であり、フリクションを低減させて摩耗を抑えるために潤滑が必要です。潤滑を怠ると、騒音の増加、効率の低下、早期摩耗、最悪の場合は歯の破損につながります。
潤滑方法としては、グリースの塗布が最も一般的で効果的です。オープンギア用のグリースには極圧添加剤が配合されており、高荷重下での潤滑性能に優れています。極圧添加剤として二硫化モリブデンを高濃度で配合した製品は、高荷重ギアに最適な潤滑を提供します。
参考)https://jp.c.misumi-ec.com/book/KHK1_01/pdf/0560.pdf
潤滑を施さない場合でも、フッ素スプレーを使用すると初期馴染みが良くなるため推奨されます。ラック&ピニオン潤滑システムとしては、ポンプから押し出した微量のグリースが潤滑歯車を介して自動的に供給される自動給脂システムも利用可能です。
参考)https://www.monotaro.com/s/c-29097/q-%E6%BD%A4%E6%BB%91%E5%89%A4/
メンテナンス管理では定期的な点検と交換が重要です。ピニオンギアの交換目安は使用頻度にもよりますが、一般的には半年から1年とされています。自然に消耗していった場合、走行時間や使らせ方にもよりますが、月に2回程度の使用でも半年に1度は交換が推奨されます。
参考)https://ameblo.jp/t-kwt/entry-12389794312.html
交換のタイミングは慎重に判断する必要があります。消耗してきたからといって安易に交換すると、走行フィーリングが変わってしまう可能性があります。最悪の交換タイミングは大事な作業直前であり、微妙にフィーリングが変わって通常の性能が出せなくなる恐れがあります。
ピニオンとスパー(または大歯車)はなるべくセットで交換することが推奨されます。消耗して尖り気味になったスパーのまま新品ピニオンを使うと、ピニオンの消耗が激しくなってしまいます。通常の運転条件下では、ラック&ピニオンの寿命は一般に7~10年、つまり約100000~150000マイル(約160000~240000キロメートル)です。
参考)https://ja.powersteeringrack.net/news/what-is-the-life-expectancy-of-a-rack-and-pinion
新しい歯車や損傷したギア歯面の修復後、ピニオンやガースギアが交換された時には、管理された適正潤滑(MPL)が深刻なミスを回避するための最も信頼できる方法です。潤滑管理と定期メンテナンスを適切に行うことで、ピニオンギアの性能を長期間維持し、機械全体の信頼性を高めることができます。
参考)https://www.fuchs.com/fileadmin/jp/Broschure/FLT_Broschuere_Open_gear_JP_Web.pdf
ラック&ピニオンの潤滑方法とグリース選定の詳細ガイド